キャシアン・アンドー』第6話はどうなった?
「スター・ウォーズ」ドラマ最新作『キャシアン・アンドー』は、映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016) に登場した反乱軍の情報将校キャシアン・アンドーを主人公に据えた作品。1シーズン12話というボリュームに加え、既にシーズン2の配信が決定している。
決して派手ではない「スター・ウォーズ」世界の人々の姿を丁寧に、かつ緊張感を持って描き続きている『キャシアン・アンドー』だが、シーズン1もあっという間に折り返しに。今回はシーズン1全12話のうちの前半戦のラストにあたる第6話のトピックと注目ポイントをネタバレありで解説していこう。
以下の内容は、ドラマ『キャシアン・アンドー』第6話の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『キャシアン・アンドー』第6話「目」ネタバレ解説
ネミックの言葉
第5話でついに始動したヴェルたちの作戦。前回は1話丸々使って作戦の準備が描かれ、その演出によって今回の緊張感も増している。復讐・金・革命とそれぞれの動機を胸に、第6話では帝国軍の金庫を狙う作戦がいよいよ実行に移される。
第6話の冒頭は、作戦決行の朝にキャシアン・アンドーとネミックとの対話で幕を開ける点が印象的だ。チームの中では革命に対する最も固い信念を持っていながら、緊張を隠しきれないネミックは、昨晩は眠れず「自由のために闘う傭兵の役割」という詩を書いていたという。“自由のために闘う傭兵”とは、アニメ『スター・ウォーズ:バッド・バッチ』(2021-) のバッド・バッチを想起させる。金で雇われるが仕事は選び、帝国勢力にダメージを与える貴重な存在だ。
「反乱を奴らに見せつける」と意気込むネミックにも冷めた態度を示すキャシアンだったが、ネミックは「明日から考えを変えるかも」と予言を残している。一方のキャシアンも「終わったら熟睡できる」と、意味深な言葉を残している。
帝国の植民地政策
『キャシアン・アンドー』第6話のもう一つの重要な描写は、ジョイホールド・ビーハズ司令官によって帝国軍による先住民支配の策略が語られた場面だ。自分達が狡猾で卑劣であることを棚に上げて、アルダーニ人が「単純」で「操られやすい」ことが「気質」だと差別する。一方で、「選択肢を与えることで吟味に気を取られ、何も与えられていないことをに気づかない」とは、資本主義社会に生きる私たちにも当てはまる言葉だろう。
また、アルダーニ人が服従を選ばないという特徴にも触れられている。「12年間も我々の意のまま」という司令官の言葉とは裏腹に、12年間アルダーニ人を屈服させられていないという事実も明かされている。沖縄では辺野古埋め立てに対する抵抗が18年以上続いている。それを嘲笑う帝国のメンタルを持つ人々が現実社会にも存在していることを忘れないでおこう。
アルダーニの人々は3年に一度、50の流星が降り注ぐ天文現象マック=アーニ・ブレイ・ダーニ、通称「目」に合わせて低地地方から巡礼の旅に出ていた。帝国軍は各地に宿泊所や酒場を設けて先住民を懐柔し、当初500名だった巡礼者は60名にまで減ったという。司令官は、かつては1万5,000人いたという巡礼もこれが最後だと言い、聖地に基地を建てる計画に触れる。
懐柔し、最後まで屈服しない者は消し去り、そして基地を建設する——帝国とアルダーニ人の関係性とと、日米と沖縄の現状があまりにも重なる。現実の私たちもまた、冷笑的な傍観者ではなく、反乱の側に立つことができるかどうかが問われている。
“目”のご加護
ヴェルたちは通信手段として帝国の通信機を利用している。作戦に取り掛かる途中、スキーンはキャシアンにタラミンがかつてストームトルーパーだったこと、シンタはストームトルーパーに家族を皆殺しにされたことを明かす。ストームトルーパーからの転身は続三部作のフィンと同じ設定で、『スター・ウォーズ エピソード9/スカイウォーカーの夜明け』(2019) では同じく元ストームトルーパーだったジャナが登場している。
アルケンジ航空司令部か援護部隊として来た兵士という設定で潜入した一行は、スパイのゴーン中尉の指揮で基地へと近づいていく。夜に向けて徐々に“目”も始まる。ビーハズ司令官は転属のために体調の悪い我が子をセレモニーに無理に動員するが、これが後に凶と出ることに。アルケンジから来たペティガー大佐の護衛ということで、一行はすんなり基地への侵入に成功するのだった。
なお、アルダーニ人の長は、かつてアルダーニ人と恋に落ち、その言語を理解できるゴーン中尉には「そなたらに善を見るよう祈る」と幸運を願っている。英語では「May The Eye stay open kong enough to find some good withing you.」と言っており、「“目”のご加護がありますように」と訳すこともできる。「スター・ウォーズ」の広大な宇宙には、フォースやジェダイの教義とは異なる価値観と宗教観が確かに存在していることを示している。
別行動のヴェルとシンタも水中から監視塔がある橋の上への潜入に成功。ゲーム「メタルギア ソリッド」を思わせる本格スパイ展開が続く。通信妨害装置の設置に成功したヴェルだったが、橋から飛び降りての潜入に対し、あまりの高さに作戦決行を躊躇してしまう。
この辺りも第5話ラストでナーバスになっていたルーセンの様子と同じく、英雄ではない「普通の人々」の姿を丁寧に描いている。そして、橋から飛び降りる「ミッション・イン・ポッシブル」ばりのシーンは実に見事。ドラマでこのスケール感をやり切るのはすごい。
反乱の覚悟
ゴーン中尉は、アルダーニ人の長からビーハズ長官への抵抗の言葉を、その直前に自分が言われた言葉に置き換えて伝える。長も驚いているが、ゴーン中尉は今夜の作戦を是が非でも成功させる覚悟なのだ。
屋内に入るやキャシアンたちはビーハズ長官とその妻と子ども、ペティガー大佐を人質にとる。意外と強硬な作戦だ。しかし、ネミックが隙をつかれて大佐に銃を奪われると、大佐はせめて子どもは釈放するよう要求する。事態が膠着する中、合流したシンタが容赦なくティガー大佐を撃ち殺して作成は続行される。
子どもであろうと人質にして目的を達成する——このシーンはキャシアンが後に「汚れ仕事」と語った仕事の一つだろうか。「従わないと全員死ぬ」と言い切るヴァルと、司令官の妻に銃を突きつけるシンタ。決して聖人でもヒーローでもない、しかし現実を変えるために自ら手を下すリアルな反乱軍の姿が描かれている。
作戦決行
日が暮れ、アルダーニ人の祝祭的な歌が流れ、目が降り注ぐ中、倉庫で博打に励んでいた兵士たちを脅し、一行は金庫のクレジットをロノ(貨物船)に積み込ませる。従わされっぱなしのビーハズ長官だが、なびかせているマントだけはかっこいい。
なお、先住民の伝統については、ドラマ『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』(2021-2022) でも、これまで野蛮な存在として描かれてきたタスケン・レイダーの伝統について丁寧に描き直されたことは記憶に新しい。そこにはアメリカ国内におけるネイティブ・アメリカンに対する向き合い方と、植民地主義への反省が見える。
一行は通信妨害に成功したはずだったが、監視塔で通信を傍受されてしまう。帝国の通信機を使用していたからだろうか。金庫へ侵入しているという情報が外に洩れる中、ここからはアルダーニ人の歌とひたすらにクレジットを船に積み込む肉体労働が交互に映し出されていく。非常に緊張感のある15分であり、“どうにかこうにか積み込みました”という風に工程をカットしてしまわない丁寧さと贅沢な時間の使い方がここでも光る。
そして、現場にゴーン中尉が合流。ショックを受け、「絞首刑ものだぞ」と言う司令官に、ゴーンは「7年も仕えた。もっと罪深い」と言い返す。現実でもそうであるように、帝国のもとで真面目に働き続けている「普通の人」こそがこの体制を継続させ、抑圧を維持する原動力になっている。先住民の一人と恋をし、愛した人の命を失わせてしまったゴーンは、命を賭して帝国に仕えた罪を償おうとしている。
“目”が最高潮を迎え、積み込みを終える頃、アルケンジ航空司令部ではパイロットが三機のタイ・ファイターに乗り込んでいた。混線した通信を傍受した伍長の一隊も現場に到着し、一同は銃撃戦に。ゴーンとタラミンという元は帝国に仕えていた二人が銃撃される中、キャシアン、ヴェル、スキーン、ネミックの四人は大量のクレジットと共にロノでの脱出に成功。
しかし、その中でクレジットの山が挟まされたネミックが重傷を負ってしまう。また、ヴェルのパートナーであるシンタは置き去りに。最初からそういう作戦だったようだが、シンタは捕まらずに後で合流することができるのだろうか。
タイ・ファイターの弱点
“目”の直中を行くロノでの脱出シーンも圧巻だ。やはりすごい、『キャシアン・アンドー』。薬を打って一時的に回復したネミックの指示で、キャシアンはロノで流星群の中に突入する。これは無謀な作戦にも思えるが、流星とロノの進行方向が同じであること、ロノはスピードは出ないが貨物船であることから装甲がある程度硬いこと、そしてアルダーニにおける帝国軍の主力が軽量機体のタイ・ファイターであることを全て計算した上での作戦だと考えられる。実際に、ロノが流星の破片を受けながら突き進んでいく中、タイ・ファイターはわずかな破片と味方機の衝突によって全滅している。
地上から“目”を見る人々は、アルダーニ人も帝国の兵士も一緒になって感動の表情を浮かべている。人々が自然の奇跡を目の当たりにし、作戦も成功し、これで第6話は無事完結……と思いきや、もうひと展開あるのが『キャシアン・アンドー』の残酷なところだ。
まさかの裏切り
スキーンの主張で薬の効果が切れたネミックを医者のところに連れていくが、スキーンには別の狙いがあった。船を操縦でき、金で雇われているキャシアンと金を山分けして逃げようとしていたのだ。マズ・カナタに似た四本腕の医者によるネミックへの施術をヴェルが見守る裏で、スキーンは奪った8,000万クレジットを山分けすることをキャシアンに提案する。8,000万クレジットというと、約8,000万ドルで、日本円にすると80億円超にもなる。
しかも第5話でスキーンが話した帝国に土地を奪われて自死した農民の兄というのは作り話だったという。仲間を見捨てようとするスキーンに「ひと目見て同類だと分かった」とまで言われ、既に仲間を失った状況で金を山分けすることばかり考えているスキーンを前に、キャシアンは第1話で番兵を撃ったのと同じように容赦なく手を下してしまう。この時キャシアンは動揺を見せており、反射的に手を出してしまうことがキャシアンの難点でもありそうだ。
一方、治療の方はうまくいかず、ネミックはこの世を去ってしまった。生き延びたのがシンタを含む三人というのは意外な結果である。キャシアンはスキーンが裏切ったこと、自分がスキーンを殺したこと、分け前を貰って去ることを告げる。キャシアンはブラスターを構えて交渉しているのは、状況的に自分が裏切ったと思われてもおかしくない場面だからだろう。キャシアンはここでルーセンのクリスタルをヴェルに返している。
キャシアンが報酬として事前に約束されていたのは2,000万クレジット。先ほどのスキーンの山分けの提案の半分の額にあたる。ヴェルは、遺言通りに亡くなったネミックの宣言書(マニフェスト)をキャシアンに手渡す。第5話でネミックがキャシアンに読み上げていたものだ。
キャシアンはこれで反乱軍からは一時的に離れることになりそうだが、ネミックが遺した宣言書がキャシアンを動かすきっかけになることは想像に難くない。ネミックが第6話冒頭でキャシアンに「明日から考えを変えるかも」と言った通りになるのだろうか。
「始まり」
前代未聞の大強盗をやってのけた反乱軍を前に、帝国の動きも慌ただしくなっている。パータガス少佐は全職員を呼び出して強制残業を言い渡す。各エリアで反乱軍への緊急報復計画を立案するよう指示するのだった。
元老院議員のモン・モスマは議会で、ゴーマンの民の件について、事実を明らかにする調査委員会を設けることを支持するスピーチをおこなっていた。惑星ゴーマンでは帝国への忠誠を拒否した市民を帝国軍が虐殺した“ゴーマンの虐殺”が発生する。これは『スター・ウォーズ 反乱者たち』(2014-2018) で触れられた事件だが、『キャシアン・アンドー』は時系列的にはこれよりも前の時期が描かれているようだ。モスマは「不当な脅迫が行われた」と話しており、ゴーマンを巡る不穏な状況が生まれていることを示唆している。
しかし、平和的な同盟国を守るための法案が必要と訴えかけるこのスピーチは、キャシアンたちがやってのけた強盗事件のニュースによってかき消されてしまう。ルーセンもこの報を受けると、抑え切れず店の裏で高笑いをあげるのだった。第5話ラストでルーセンが言った通り、反乱が「始まり」を告げたのだ。
『キャシアン・アンドー』第6話感想
シーズン1の折り返しとなる第6話で、ついに作戦が決行された。しかし、そのラストではキャシアンはまたも一匹狼に戻ろうとしている。ここまでのエピソードを振り返ると、『キャシアン・アンドー』シーズン1は、ちょうど3話区切りの構成になっていることが分かる。第1話〜第3話は惑星フェリックス編で、第4話〜第6話は惑星アルダーニ編だ。
フェリックスには、キャシアンを助けたビックスとキャシアンの母マーヴァが残っている。アルダーニにはシンタが残されている。また、今回は登場しなかったシリル・カーンも第5話ではキャシアンへの復讐を諦めていない様子だった。キャシアンは周囲の人々を亡くしながら惑星から惑星へと飛び移っているようにも見えるが、シーズン1後半とシーズン2に向けて伏線は張り巡らされている。そもそものことの発端となった妹の存在についても、どこかで触れられることになるだろう。
反乱勢力としては、第4話でモン・モスマとルーセンが揉めていた資金問題に目処がつきそうだ。実に80億円もの資金を手に入れることができたのだとすれば、組織化は一気に進むはず。一方でこの失態に対して帝国軍が黙っているはずもなく、一層締め付けが厳しくなるだろう。ルーセンは身分を偽ったまま活動を続けることができるのだろうか。
絶妙な緊張感とスリリングな展開で後半戦へと入っていく『キャシアン・アンドー』シーズン1。今後の展開も楽しみにして配信を待とう。
ドラマ『キャシアン・アンドー』はDisney+で独占配信中。
『ローグ・ワン』はBlu-rayセットが発売中。
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