ネタバレ解説 ドクター・ストレンジはどう変わったか 『ドクター・ストレンジ MoM』『スパイダーマン NWH』を通して | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説 ドクター・ストレンジはどう変わったか 『ドクター・ストレンジ MoM』『スパイダーマン NWH』を通して

© 2022 Marvel

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』公開

MCU映画第28作品目『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』が2022年5月4日(水・祝)より日本で公開された。本作は映画『ドクター・ストレンジ』(2016) の続編でありながら、MCUフェーズ3までの「インフィニティ・サーガ」の流れとドラマ『ワンダヴィジョン』(2021) の背景を引き継いだ重要な作品だ。

アメリカ・チャベスという新たなティーネイジャーヒーローの登場や、かつてアベンジャーズとして戦ったワンダのその後など、見所は多いが、ドクター・ストレンジ自身の変化にも焦点を当ててみたい。今から6年前、天才外科医としてMCUに登場したスティーヴン・ストレンジは、新たな出会いの中でどう変わっていったのだろうか。

なお、以下の内容は『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』本編のネタバレを含むので、必ず劇場で映画を鑑賞してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』の内容に関するネタバレを含みます。

これまでのドクター・ストレンジ

第一作目の『ドクター・ストレンジ』では、ストレンジは世界有数の神経外科医で、自分にしか治せない患者しか扱わない、助かる見込みのない患者はキャリアに傷が付くから診ないという嫌味な医者だった。事故で両腕がうまく使えなくなると、他の名医には自分がやってきたように手術を断られ、藁をもすがる思いでカマー・タージを訪ねたのだった。

ドクター・ストレンジは、自分の手でより多くの命を救いたいと思い医者になったが、こちらのネタバレなしの振り返り記事でも書いた通り、それはいつしかより多くの人を助けるためなら小さな犠牲もいとわないという思考になっていたように思える。

『ドクター・ストレンジ』では、その“傲慢さ/エゴの強さ”という問題に対してエンシェント・ワンが「人のためにあれ」と説き、ドクター・ストレンジはヒーローとして生きていく道を選んだ。

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018) では、“大きな善”のためにタイム・ストーンを使って1,400万605通りの未来を見て、アベンジャーズにその道を実行させる。それは、自らタイム・ストーンをサノスに渡し、一度指パッチンをさせてから5年後に人類を復活させるやり方だった。トニー・スタークだけでなくヴィジョンやナターシャ・ロマノフが犠牲になることも分かっていたのだろう。

ドクター・ストレンジが抱える問題

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』では、冒頭の結婚式の場面で元同僚のドクター・ウェストことニコデマス・ウェストが登場。指パッチンで5年間消えていたこと、その間に飼っていた猫と兄弟を失ったことを明かした。大きな正義の前の小さな犠牲、その当事者がストレンジの目の前に現れた。

その上で、ドクター・ウェストは本当に指パッチンを許すことしか道はなかったのかとドクター・ストレンジに尋ねる。「それしか道はなかった」と断言するストレンジに対し、ウェストは「そうだね、君は最高の医者で最高の魔術師だ」と、返さざるを得なかった。

その後、結婚したクリスティーンからは「自分でメスを握らないと気が済まない」性格を指摘される。この冒頭のシーンだけで、ドクター・ストレンジが抱えていた大きな問題、「それしか道はないと考えること」「自分の手でコントロールしようとする」という二つの問題が示されているのだ。

本作では、この二つの問題がメインのテーマになっていた。大きな善のために小さな犠牲は認めるべきかという哲学的な問いについては、アメリカ・チャベスを犠牲にしないという決断はあったものの、どちらかというとドクター・ストレンジ自身が抱える個人的な問題がメインのテーマだったように思える。

映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021) では、ドクター・ストレンジはピーター・パーカーの頼みを聞いて、世界中の人々の記憶からピーターがスパイダーマンであるという記憶を消す魔術をかけようとする。ストレンジなりの罪滅ぼしのつもりだったのかもしれない。

ドクター・ストレンジを6年にわたって演じてきたベネディクト・カンバーバッチは、プレミアの会場で米マーベル公式からインタビューを受け、『ノー・ウェイ・ホーム』でのドクター・ストレンジの行動についてこう話している。

彼は大人になろうとして、保護者になろうとして、とても間違ったことをしたんです。あの映画では、“間違ったしつけ”が行われたんです。

呪文は失敗し、別のユニバースからヴィランを呼び込む結果を招いた。ヴィラン達を死が待つ元のユニバースに送り返そうとするドクター・ストレンジに対し、ピーターは「他に道があるはず (There has to be another way.)」と言うが、ストレンジは「これしか道はない (There isn’t.)」「彼らの存在がこのユニバースを危うくする (They’re a danger to our universe.)」と断言する。

しかし、『マルチバース・オブ・マッドネス』では、他のユニバースではドクター・ストレンジがユニバースを危険に晒す存在であり、アース838のストレンジは一つのユニバースを消滅させてしまっていたことが明かされた。『ノー・ウェイ・ホーム』で「手伝うんだ」と迫るストレンジに、「あなたがやったこと」と反論したMJは正しかったのだ。

アース616(MCUのメインユニバース)のドクター・ストレンジは、サノスとの戦いにおいて禁断の書ダーク・ホールドに手を出し、別ユニバースの自分の身体を乗っ取るドリーム・ウォークを使ってサノスの倒し方を探った。アース838のドクター・ストレンジはタイム・ストーンを用いてサノスの倒し方を見つけているが、共通していたのは、自分だけの判断でそれを実行したことだった。

ドクター・ストレンジを変えた出会い

ドクター・ストレンジは、「これしか道がない」と考えたことを「自分でやる」ということに囚われてきた。ピーターとの出会いは、「他にも道がある」ということをストレンジに教えてくれたのかもしれないが、ピーター=スパイダーマンという記憶が消えた今、ストレンジがピーターとの交流をどれほど覚えているのかは不確かだ。

故に『マルチバース・オブ・マッドネス』では、新たなティーネイジャー・ヒーローであるアメリカ・チャベスの存在が重要になった。『ノー・ウェイ・ホーム』では、ドクター・ストレンジはピーターを「子ども」と呼んで、その力を信じることができなかった。

かつて両親を別にユニバースに飛ばしてしまったアメリカ・チャベスは、自分の力を信じることができない。また、映画冒頭に登場したディフェンダー・ストレンジに裏切られたことから、ドクター・ストレンジのこともなかなか信じることができないでいる。

一方のドクター・ストレンジは、アース838の自分がやったことや、闇に堕ちたシニスター・ストレンジの存在を知り、自分の姿を見つめ直すことになる。自分は必ずしも正しい道を歩めるわけではない。そう知った時に、ドクター・ストレンジはドリーム・ウォークに手を出す際に、予めクリスティーンに助けを求めることができた。

ベネディクト・カンバーバッチは、『マルチバース・オブ・マッドネス』という作品について、以下のように話している。

彼(ドクター・ストレンジ)の欠点、失敗、人間性、そして強さを検証し、彼に対する私たちの理解を改めると共に、その理解を深める作品です。リーダーになるということについては、彼の潜在能力について検証するというより、サム(・ライミ監督)が言ったように、マルチバースに別の自分が存在するという優れた物語の構造を通して、鏡の中の自分を見ることで、彼のリーダーとしてのポテンシャルを検証することになるでしょう。

彼は一匹狼で、アウトサイダーです。目立ってはいますが、現時点ですぐにリーダー候補にはあがらない人物です。それが彼を実に興味深い存在にしていますし、そこにヒーローとしての葛藤があるのだと思います。

サムが言及したように、人々を繋ぎとめるのは人間性であり、非常に創造的で万能であるように見えていたある人物の“反復”を目にすることになります。

このコメントの「ある人物」とは、ドクター・ストレンジ自身を指しているのだろう。ドクター・ウェストの「そうだね、君は最高の医者で最高の魔術師だ」というセリフに代表されるように、世間からは、ストレンジは多くのことを自力で解決してきたようにも見える。しかし、一歩間違えれば壮大な“やらかし”をしてしまう人物だということを、他のユニバースでの自分との出会いを通して学ぶのだ。

自分でメスを握ること

ドクター・ストレンジがアメリカ・チャベスの力を奪えばワンダを倒せるかもしれないという状況になった時には、アメリカ・チャベスの力を信じることを選ぶ。自分でメスを握るのではなく、人の力を借りること、アメリカ・チャベスの力を信じることを選び、それが、ワンダ自身が別の道を選択することに繋がった。

『ノー・ウェイ・ホーム』では、ドクター・ストレンジがピーターのために力を使い、それが失敗した途端に「ヴィランを送り返す」と強硬な姿勢を取るようになっていた。MJから突っ込まれた態度を見ても分かるように、自分の失敗を早く処理しなければという焦りもあったのだろう。

『マルチバース・オブ・マッドネス』でも、ドクター・ストレンジは最初にワンダの力を借りてアメリカ・チャベスの居場所を知らせてしまうという失敗を犯した。それでも、自分のミスを認め、自分の手に余る事態の状況で人に力を借りるという道を選んだことは、何でも自分で解決しようとしてきたストレンジにとって、大きな進歩だったと言える。

(それだけに、ピーター・パーカーのお願いと、アメリカ・チャベスとの出会いが、逆の順番だったら……と考えてしまいもするが……)

ベネディクト・カンバーバッチは、映画『ドクター・ストレンジ』からストレンジがどれほど変化したかという点について、こう語っている。

他者と協力するという点については、かなりマシになったと思います。常に自分でメスを握り、全てをコントロールすることはできないと気付いたからです。それはリーダーに必要な資質でもあります。でも、彼はまだ成長の途中です。

名医も最高の魔術師も間違いうる。大事なのは、間違いうることを認め、他者を頼ること。ロキとシルヴィによってもたらされたカオスは、確かにドクター・ストレンジに成長の機会をもたらした。

あとは本当にワンダの処遇だけ、なんとかしていただきたい。切実に。

映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』は、2022年5月4日(祝・水)より公開。

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』公式サイト

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Source
Marvel.com

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』のラストとミッドクレジット、ポストクレジットの解説はこちらの記事で。

マリア・ランボーやミスター・ファンタスティックを含むアース838におけるイルミナティのメンバーの紹介と解説こちらの記事で。

エリザベス・オルセンが語ったワンダの今後、X-MENへの合流についてはこちらの記事で。

パトリック・スチュワートがプロフェッサーXの再演と今後について語った内容はこちらから。

侵略者カーンが登場しなかった理由について脚本家が語った内容はこちらの記事で。

サム・ライミ監督とベネディクト・カンバーバッチが語ったドクター・ストレンジの過去についてはこちらの記事で。

 

ドクター・ストレンジとワンダのこれまでの道のりについてはこちらの記事で。

エリザベス・オルセンが語った“ワンダの強さ”についてはこちらから。

アメリカ・チャベスが重要なキャラである理由はこちらの記事で。

原作でのイルミナティについての解説はこちらから。

 

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』ラストの徹底解説はこちらの記事で。

『モービウス』のラストのネタバレ解説はこちらから。

『ザ・バットマン』ラストのネタバレ解説はこちらの記事で。

『エターナルズ』ポストクレジットの徹底解説はこちらから。

 

7月8日公開のMCU映画『ソー:ラブ&サンダー』の予告解説はこちらから。

6月8日配信開始のMCUドラマ『ミズ・マーベル』の予告解説はこちらの記事で。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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