第2話ネタバレ解説『ミズ・マーベル』“分離”の意味は? ムスリムコミュニティの多様さ 考察・あらすじ・音楽 | VG+ (バゴプラ)

第2話ネタバレ解説『ミズ・マーベル』“分離”の意味は? ムスリムコミュニティの多様さ 考察・あらすじ・音楽

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『ミズ・マーベル』第2話はどうなった?

『ミズ・マーベル』は2022年6月8日(水)から配信を開始したMCUドラマ最新作。5月までに全6話が配信された『ムーンナイト』と同じく、新ヒーローを主人公に据えた作品だ。『ミズ・マーベル』の特徴は、スパイダーマンことピーター・パーカー以来となる高校生の主人公カマラ・カーンの視点を取り入れたポップな作風。第1話では現実とアニメーションが入り混じり、様々な音楽が使用される独特の雰囲気の演出で好評を集めた。

いよいよ走り出したMCUのニューヒーローの物語。次はどんな展開が待っていたのだろうか。今回は、『ミズ・マーベル』第2話の各シーンを解説していく。なお、以下の内容は『ミズ・マーベル』第2話のネタバレを含むため、必ずDisney+で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、ドラマ『ミズ・マーベル』第2話の内容に関するネタバレを含みます。

『ミズ・マーベル』第2話「恋の始まり」ネタバレ解説

登校シーンで流れている曲は?

第1話で家を抜け出し、親友のブルーノとアベンジャー・コンに出かけたカマラは、祖母のバングルから力を得て同級生のゾーイを助ける(自分が招いた危機なのだが)。その動画をチェックしていたのは『スパイダーマン/ノー・ウェイ・ホーム』(2021) に登場したダメージ・コントロール局のクレイアリー捜査官だった。

ザ・ウィークエンドの「Blinding Lights」(2019) から始まった第1話とは打って変わって、第2話ではおなじみのテーマソングと共にMCUのタイトルロゴがスタート。続いて、カマラの登校シーンでメイス「Feel So Good」(1997) が流れる。あまり内容のないご機嫌でスワッグな歌詞が並んでいる。

第1話の登校シーンでは「(この状況に)対処しろ」「お前達の“いいね”はいらない」と歌うリズ・アーメッド「Deal With It」(2020) が流れていたことを考えれば、カマラにとっての世界が180度変わったことが分かる。ちなみに、この「Feel So Good」のサンプリング元はクール&ザ・ギャングの「Hollywood Swinging」(1974)。こちらはスターに憧れる立場だったのが一転してスターになり、全てを手に入れた人物の目線の歌詞が歌われている。

カマラはバングルから力を手に入れたことで、その振る舞いも良い方向に変化していた。第1話でナメた態度を取っていた教師や生徒全員にリベンジを果たすが、レズビアンのカップルに「応援してる」と伝えることも忘れない。そして、転校生のカムランが登場するシーンで曲はフックを迎え、「イカした、イカした、イカしたボーイ」と歌われ、カムランに憧れるカマラの心情が表現されている。

「ヒーローの問題が多いのに」

第1話でゾーイを助けたカマラだったが、人気になるのは匿名のヒーローではなく助けられた方。フォロワーが4倍になったという。世界に正体が知られて大変なことになったピーター・パーカーとは対照的に、カマラは少し悔しさそう。それでも、自分が出した光に包まれたことで「安心できた」と語るゾーイの言葉にカマラは嬉しそうな表情を見せている。

このシーンでは、字幕では省略されているが、ナキアは「またスーパーヒーローの災難が起きたのに (There’s another superhero catastrophe)」と言っており、吹き替えでも「最近スーパーヒーローの問題が多いのに」と言っている。映画『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019) におけるスパイダーマンの殺人疑惑や、ドラマ『ワンダヴィジョン』(2021) におけるワンダ事変、ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(2021) におけるジョン・ウォーカーの暴走が思い出される。

とりわけカマラ達が住んでいるのはニューヨーク州と接するニュージャージー州ジャージーシティだ。ワンダ事変の舞台になったのはニュージャージ州に位置するウエストビューだったし、ニューヨークのヒーローであるスパイダーマンの件も身近な話題なのだろう。今回のアベンジャー・コンにおける一件も、カマラ自身が招いた事故である。

自分を助けた人物の正体を聞かれたゾーイは、とっさに「ナイトライト (Night Light)」と命名するが、カマラは不服そう。『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』でネッドがスパイダーマンに対してとっさに命名した「ナイトモンキー」を思い出させるネーミングだ。

ゾーイが転校生のカムランをパーティに誘う場面では、ゾーイはカムランを「新しい4年生 (new senior)」と言っており、カムランが3年生 (Junior) のカマラの一歳上ということが明らかになっている。『スパイダーマン:ホームカミング』(2017) では、2年生 (Sophmore) のピーターが二年上で4年生のリズにアプローチするストーリーが描かれた。『ミズ・マーベル』は明らかに「スパイダーマン」シリーズで描かれたティーネイジャーの物語と韻を踏んでいる。

ちなみにゾーイはカムランに「DMする (I’ll DM you)」と言っており、これまで一般的だった「テキストする (I’ll text you)」という表現もティーネイジャーのそれに合わせて変更されていることが分かる。

ソーとブラック・ウィドウ

放課後、光の力を試すカマラとブルーノは、スーパーパワーが ①肉体強化ではないこと②バングルの力を得たではなくバングルがカマラ自身の力を目覚めさせたことを発見する。力を操るためにも、カマラは自分自身を鍛え始める。ブルーノのテクノロジーがすごい。

このトレーニングシーンで流れている曲はKrewella & Nervoの「Goddess」(2020)。タイトル通り女神のように振る舞う歌詞が並ぶ。一番歌詞が目立つシーンでは、先に比喩の説明を並べてから固有名詞をドロップする”スーパードゥーパー”という技法を使い、「二番手じゃない、ジョー・バイデン」「綺麗に後始末、ダイソン」とラップしている。ブルーノのセリフが始まる直前には「すべての女性が世界を動かしている」という歌詞も聞こえる。

自分自身に力が宿っていると聞いたカマラは、「私はアスガルド出身? ソーの親戚?」と、最新作が7月8日(金) より劇場公開される「マイティ・ソー」シリーズのソーの名前を挙げている。第1話ではカマラが作った動画の次回予告で「ソーはゲーマーかも?」を配信すると言っていたので、元々親近感があったのだろう。

カマラは、自身が出す光の塊を“ハード・ライト”と命名。原作コミックではカマラ自身の身体が伸縮するため、ハード・ライトはMCUオリジナルの設定ということになる。ハード・ライトの足場から落ちたカマラとその手を掴んだブルーノのやり取りは、もちろん『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019) におけるクリント・バートンとナターシャ・ロマノフの会話のパロディ。「Let me go.」というセリフをそのまま使っている。

ブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフについては、『ミズ・マーベル』第1話でもアイアンマンと共にファンから追悼されるブラック・ウィドウの姿が描かれた。第2話でのパロディはファンサービスだと思われるが、ドラマ『ホークアイ』(2021) では、エレーナ・ベロワがクリントとナターシャの間で起きたことを知っていたため、一部の人間は惑星ヴォーミアで何があったのかを知っているようだ。

ムスリムコミュニティの描き方に注目

それなりに力を使いこなせるようになったカマラ。第2話では家庭とも学校とも違うムスリムコミュニティでの姿も描かれる。カマラとナキアが急いでモスクに向かうシーンで流れている曲はMIA「Come Around」(2007)。「落ち着いて落ち着いて、駆け下りて駆け下りて、走って走って」と、礼拝に遅刻しているカマラとナキアの状況を表す歌詞が歌われている。

礼拝の前にカマラとナキアが口や足を洗っているのは、“ウドゥ”と呼ばれる行為で、手から始まり足で終わるまで決められた体の部位を3回ずつ洗って清めていく。また、セリフでも触れられる通り、礼拝堂における“男女”の分離も教義で決められている。モスクでは別の女性ティーネイジャーが自撮りをしてSNSに写真をアップして年配の方から「スナップチャットは禁止」と叱られ、「インスタです」と反論している。スナップチャットは、米国では2015年から2017年にかけてティーンの間で一世を風靡したが、今ではTikTokとInstagramが優勢だ。

カマラとナキアは、ムスリムコミュニティの中で女性の問題が放置されていることに業を煮やし、ナキアは理事に立候補することを考え始める。このあたりの描写が秀逸なのは、コミュニティ内の人々は比較的善人であり、理事も選挙で民主的に決められているなど、ムスリム=悪という描き方にはなっていない点だ。そうすることで、ムスリムではない人々も、自分の属するコミュニティに似たようなことはないか、自分の周りの人は女性が直面する問題に真剣に取り組んでくれているか、再確認することができる。特に日本の人々は、「ムスリムならではの問題だな」と他人事のように言うことはできないだろう。

カマラとカムランの映画トーク

こっそりアベンジャーコンに行ったことを母に謝罪したカマラは、ゾーイのパーティに行く許可をもらい、ゾーイの豪邸へ。ウォッカ入りのジュースを飲まされるが、16歳という年齢に加えて、飲酒についてもムスリムには戒律がある。特にカマラのルーツであるパキスタンではムスリムの飲酒は禁止されている。文化や宗教の違いに対する認識が甘すぎる相手に対し、ヘラヘラするのではなくしっかり怒ってくれるナキアとブルーノは良い友達だ。

そんな状況のパーティで注目を集めたのは転校生のカムラン。見事なダイブを見せたカムランの周りには、カマラの視点では「100」と炎の絵文字が踊る。この時流れている曲はジェイソン・デルーロ&テッシャーのヒット曲「Jalebi Baby」(2021)。「ベイビー、見せて ただ食べちゃいたいだけ 君が好きなものは知ってる」と歌われている。

カムランの伯父の車で帰ることになった一同。カムランはやたらとカマラと気が合う様子。話題にのぼるスウェットショップ・ボーイズは、第1話で楽曲「Deal With It」が流れたイギリス-パキスタン系のリズ・アーメッドとインド系アメリカ人のヒームスによるヒップホップデュオ。二人が好きだという映画『バージガル』(1993) はシャー・ルク・カーンとカジョールが初めて共演したボリウッド映画だ。

二人が一致して傑作だと答えた「DDLJ」は、『シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦』(1995) の邦題で日本で1999年に公開された。こちらもシャー・ルク・カーンとカジョールが共演した映画で、インドでは1,009週の超ロングラン記録を持っている。

ルーツやカルチャーを共有するカマラとカムランの話が盛り上がる中、気がきでない様子を見せるブルーノ。そんなブルーノに追い討ちをかけるかのように、車から流れるスウェットショップ・ボーイズ「Anthem」(2017) の曲では、リズ・アーメッドが「私はパッキー・チェン、パッキ・ロビンソンでパック・ニコルソン」「パック・ダニエルズでありパッキー・オナシス」と、あらゆる「ジャック/ジャッキー (Jack/Jackie)」を「パキスタン」を省略した「パキ/パック (Paki/Pak)」で“ジャック”する歌詞を歌っている。

カムランと連絡先も交換したカマラは、ザ・ロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」(1963) で小躍りどころではないダンスを見せる。この曲では「私が幸せにしてあげるから、私のベイビーになって」と歌われている。

月曜日にカムランと運転の練習をすることになったカマラは有頂天になり、前回までのスーパーヒーローに対する妄想とは違う、恋愛の妄想に取り憑かれている。学校では「ローマは6週間なのに古代ペルシャは6分」と、歴史の授業でイスラム圏が軽視されていると抗議するナキアをよそに、カマラは鼻が勝手に光り出すのを止められない。まだ自分の内側から溢れ出す力を制御できないようだ。

生理はタブーじゃない

トイレに駆け込んだカマラに、ナキアは生理が来たと思い生理用品を手渡そうとする。ナキアは「ナプキンもあるよ、タンポンはママが反対でしょ」と言っているが、これはムスリムの中で体外で使用するナプキンと違い、体内に入れるタンポンを忌避する考えを持つ人もいることを指している。

女子トイレで交わされるこの会話は、イスラム圏の一部の保守的な地域ではいまだに生理がタブー視されている状況へのアンサーだと考えられる。2019年には、パキスタンで生理用ナプキンを使用している女性は全体の5分の1以下という調査結果も報告されている。何気ないワンシーンだが、世界中の人が目にするDisney+のシリーズで、“生理はタブーではない”ということを示す意義のあるシーンだと言える。

更に、ナキアは「白人にも有色人種にもなれない」と、白人と非白人のハーフであることによって味わっている苦悩を吐露する。英語では「ある人々にとっては白過ぎて、ある人々にとってはエスニック過ぎる (too white for some people, and too ethnic for others.)」と言っている。ヒジャブを着けたのも自分の選択だったが、「認めてもらう必要なんてない」と気づいたというナキア。『キャプテン・マーベル』(2019) で「あなたに証明することは何もない」と言い放ったキャロル・ダンヴァースを想起させるセリフだ。

キンゴの父とは?

一方、ブルーノはウィルソン先生から呼び出され、前話でウェブサイトで見ていたカリフォルニア工科大学の英才教育プログラムに合格したことを知る。来学期(おそらく高校4年生の秋セメスター)をカリフォルニア工科大学で過ごせるという。なお、アメリカではブルーノが通ったような授業料のみならず寮費や食費も支給される奨学金は難関だが珍しくはなく、現実的な話である。

カマラのスーパーパワーが目覚めた直後の展開に悩むブルーノへ、ウィルソン先生は二つの映画を挙げて説得を試みる。「お前はきっとジェダイになる」の元ネタは、もちろん「スター・ウォーズ」シリーズ。「悪魔みたいな雑誌編集社のアシスタントになれ」は『プラダを着た悪魔』(2006) だ。ウィルソン先生は「君が主役、私がメリル・ストリープ」と言っているが、メリル・ストリープは『プラダを着た悪魔』で編集長ミランダを演じている。

まさかの展開に、カマラとトレーニングをしつつ相談しようと思っていたブルーノだったが、ナキアからもらった衣装とイヤリングを身に付けたカマラは、カムランとの約束があるとしてこれを断る。なお、お洒落をしたカマラだが、上着の左胸にはキャプテン・マーベルの刺繍が光っている。カマラが母がブルーノを誘いたがっていると話した「イード」は、ラマダン(断食)の終わりを祝うお祭り。日程はヒジュラ暦で数えられるため、毎年開催月は異なる。『ミズ・マーベル』の舞台が2025年だとすれば、イードは3月開催と見られる。

カマラはカムランの車で運転を練習。前回の解説でも紹介した通り、アメリカでは自動車教習所に通う習慣がほとんどなく、飛び込みの筆記試験だけで仮免許をもらえる。仮免許が取れたら、免許を持っている人が助手席に同乗して公道で練習し、実技試験を受けるのが免許取得の流れになっている。

この一連のシーンで流れている曲は、インドのシンガーソングライター Ritvizの「Sage」(2019)。『ミズ・マーベル 』第2話と第3話を担当したのはインド生まれのミーラ・メノン監督だ。

飲食店に入った二人は、先日の車内トークに続き、ボリウッドスターのシャー・ルク・カーンの話で盛り上がっている。と、ここでMCUの他作品のネタが登場。カムランは「キンゴも好きだったりする?」と、『エターナルズ』(2021) の一員で世を忍ぶ仮の姿としてボリウッドスターを選んだキンゴを話題に出す。

母をアラビア語で「アミ」と言ってしまい、訂正するカマラだったが、カムランは「アミで分かるよ」と、カマラにありのままでいいのだと思わせてくれる返事をする。アメリカ社会の中で、家庭の内と外で言葉を使い分けざるを得なかったカマラのなんとも言えない表情が切ない。

キンゴについては、カムランは母が「キンゴのお父さん(Kingo Senior)のファン」と言うと、カマラは「オェ〜 (eew)」と反応し、カムランは「考えものだよね (concerning)」と同意している。『エターナルズ』で語られた通り、キンゴは100年以上にわたり、曾々祖父、曾祖父、祖父、父、息子として、ボリウッド界の名家を演じてきた。つまり二人が話している「キンゴの父」も実はキンゴと同一人物であり、その事実を知らずに「世代の違いだね」と笑うコミカルなシーンになっている。

兄アーミルとパートナーのタイシャに見つかりそうになり、急速に距離を縮めるカマラとカムラン。見つかった後の「従兄弟だ」という言い訳の中で、カマラは「知らない間に大きくなって、ヒマワリみたい」と言っているが、このラインは映画『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018) の主題歌にもなったポスト・マローンの「サンフラワー」の歌詞を想起させる。この曲では好きな人を想って「君はヒマワリ」と歌われており、この場面でもカマラの内なる声が漏れてしまったようでもある。

また、伯父がパキスタン出身なのにイギリス英語を話していると指摘されたカムランは「イギリスの料理番組の影響」とごまかしているが、これはドラマ『ムーンナイト』の設定を思い出させる。スティーヴンはイギリス人主人公の映画に影響を受けて、イギリス英語を話すようになっている。

アーミルはカムランを思い出したとして、「ハラムのことをネットで調べてた子だ」と言っているが、ハラムとはイスラム教の教えで禁止されているこを指す。許されていることはハラルという。

インド・パキスタン分離独立の悲劇

タイシャも招いたカーン家の夕食。父ユスフが「ホットスポット」と間違えている「ホットトピック」はアメリカのティーンに人気のカルチャーショップ。日本でいうヴィレッジヴァンガードに近いが、ファッション中心のお店である。「ホットスポット」はWi-Fiが飛んでいる場所のことだ。タイシャはホットトピックで働いていたというアーミルに対し「ゴス好きだったの?」と言っているのは、ホットトピックはゴスファッションが強めだから。

パキスタン最大の都市であるカラチから移民して来たというムニーバとユスフ。ここで話されている「分離」というのは、“インド・パキスタン分離独立”のことで、1947年にイギリスが支配していたインド帝国がインド連邦とパキスタンに分離して独立したことを指す。両国はヒンドゥー教徒とイスラム教徒で分離し、飛び地になっていた東パキスタンは後にバングラデシュとして独立した。

以降、インドとパキスタンの両国は歴史的に対立することになったが、ムニーバが「イギリスは混乱を残して去った」と英国を非難するのは当然のこと。イギリスはインドを植民地支配した後、脱植民地の流れでインドに争いを残して去っていったのだから。インド系アメリカ人のミーラ・メノン監督がパキスタン系の人々を描く『ミズ・マーベル』で、こうした史実を悲劇として言及した意味は大きい。

そしてユスフは、前回から言及されているムニーバの母、サナについての物語を話し始める。分離の際に駅で迷子になった幼いサナは、星を辿って父のもとに追いついたという。星を辿るというのはどこかムーンナイトの話にも通じているような気もするが、やはりカマラの母方の家系は宇宙にルーツがあることが示唆されている。サナの母、つまりカマラの曾祖母は行方不明になったというが、宇宙に帰ったのかもしれない。

するとカマラのバングルが光りだし、カマラはリビングの向こうから光り輝く女性の姿を目にする。これはドラマ『ワンダヴィジョン』においてワンダがスカーレット・ウィッチの姿を見た時の演出に重なる。

気を失ったカマラは、その後祖母とビデオ通話をする。ちなみに、「お年寄りが通話する時にスマホに顔を近づけ過ぎる」というネタは同時期に配信されているAmazonプライムビデオの『ザ・ボーイズ』シーズン3第1話でも使われている。サラはバングルが母のアイシャのものだということは教えるが、「ムニーバに怒られる」と話そうとしない。ミズ・マーベルの力の鍵は曾祖母のアイシャにありそうだ。

翌日、カマラはアイシャについてムニーバに聞くが、「一族の恥」として答えようとしない。アーミルとタイシャの結婚式のダンスは「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」と言っているが、これはムニーバとユスフの馴れ初めに関わるボン・ジョヴィが1986年に発表した曲だ。「プレイヤー」は「prayer=祈る人」のことで、愛し合う二人が手を取り合い、希望を持って生きていく様子が歌われている。

タイシャが「禁じられた愛よりいい」と言っているのは、ボン・ジョヴィが同年に発表した曲のこと。ボン・ジョヴィは『ミズ・マーベル』の舞台であるニュージャージー出身のバンドとしても知られており、4枚目のアルバムのタイトルはズバリ『ニュージャージー』(1988) だ。このシーンでユスフはボン・ジョヴィを「ニュージャージー・プリンス」と呼んでいる。

コミュニティの多様性

そしてイードの祭りに出かけた一家はブルーノと合流。流れている曲はPayAttentionの「Attitude」(2020)。「横柄な態度」という意味のタイトルがつけられたこの曲は、「あなたはクイーン」「一人の女性が神になる」という歌詞が登場し、強い態度の女性を称賛する内容になっている。

選挙活動を始めたナキアは、カマラとブルーノに宣伝を依頼する。このシーンでは、ムスリムのチャラい男子やオタクたち、真面目な教師たちにSNS組、改宗した人々など、ムスリムコミュニティの中でも多様な人々が存在していることが示されている。

カマラが「改宗組」を「回帰組」と訂正したのは、人々は生まれながらにして信仰を持っており、教育によって異教徒になったため、ムスリムになることは改宗ではなく回帰であると考える人々もいるため。カマラは多様な考えを尊重しているが、ナキアはこの「改宗組」を取り組むことが「比較的簡単」としてブルーノに任せている。

また、顔の広い女性たちが紹介される場面では、画面左下に「イルミアウンティーズ (The Illuminaunties)」と表示されている。これは秘密結社のイルミナティと伯母を意味するアウントを掛け合わせた言葉。もちろん『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』に登場したリーダーの結社イルミナティを想定したものだろう。

ナキアは対立候補のラシードの親友でカマラの父でもあるユスフを「私たちの未来を奪いませんよね? 女性たちが命がけで戦ってきた夢を奪わないで」と説得。心に訴えかける言葉である。

「ラティネックス」の意味

その頃、ゾーイはクレイアリー捜査官から事情聴取を受けていた。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でもネッドに対して見事な誘導尋問を見せていたクレイアリーは、SNSを足掛かりにゾーイに口を開かせていく。同僚のセイディー・ディーヴァー捜査官の台詞は字幕では「ラティーナ? あ、“ラテンアメリカ系”って言わなきゃね」と言っているが、「ラテンアメリカ系」のところは英語で「Latinx」になっている。

女性名詞と男性名詞が存在するスペイン語では、「ラテン系」という言葉も女性名詞の「Latina」と男性名詞の「Latino」に分けられる。近年は、米国を中心に性別を指定しないジェンダーニュートラルな「Latinx」という代名詞を使うようになっており、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』で登場したクィアのアメリカ・チャベスも米マーベル公式は代名詞に「Latinx」を使用している。

「Latinx」の字幕を「ラテンアメリカ系」としたのは、ディーヴァー捜査官が“配慮した”ことをわずかな情報量の中で伝えるための苦肉の策と思われる。

イルミアウンティーズから曾祖母のアイシャについて聞くカマラは全てに呪いを与える「ヘビ」と呼ばれていたという。様々な噂話が飛び交うアイシャがコミュニティの中で異端の扱いを受けていたことは確かだろう。

最後の人物は誰?

パーティが続く中、塔からセルフィを撮ろうとした少年が落ちそうになり、キャプテン・マーベルコスプレのミズ・マーベルが登場。あのコスプレを持ち歩いていたのだろうか……。カマラはゾーイが呼んだ「ナイトライト」の名で呼ばれている。

カマラは少年に話しかけながら助けに向かうが、好きな食べ物に「アイスクリーム・ピザ」を挙げられて困惑している。『マルチバース・オブ・マッドネス』にはピザ・ボールが登場したが、アメリカには様々な種類のピザがあるものだ。

なんとかハードライトで少年を助ける足場を作り出すことに成功したカマラは、ブラック・ウィドウの着地ポーズをキメる。SNSでは“ナイトライト”に称賛が贈られるが、「ピザとアイスクリーム 胃痛」というミーム画像なども散見される。

しかしカマラは、またもビジョンの中で女性の姿を目にすると、少年を足場から落としてしまう。少年は一命は取り留めたが足を怪我させてしまい、カマラはその場から逃げ出すが、追ってきたのはダメージ・コントロール局のドローンだった。『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019) に登場したミステリオのドローンを転用したものだろうか。なお、ダメージ・コントロール局メンバーのユニフォームには「DODC」の略称が確認できる。

ハードライトを使い逃げようとするカマラを救ったのは、車で助けに来たカムランだった。そして、その後部座席には先ほどのビジョンで見た女性の姿が。「会えるのをずっと待っていた」と話すその人物を、カムランは「母」と紹介するのだった。

『ミズ・マーベル』第2話のエンディング曲はHasan Raheem, Justin Bibis, Talal Qureshi「Peechay Hutt」(2022)。パキスタンの人気アーティストがコラボしたこの曲のライブ映像はパキスタンで人気の音楽プラットフォーム Coke Studio から2022年2月に公開されると、6月16日現在で1,341万回以上再生されている。

ドラマ『ミズ・マーベル』第2話考察

物語が動き出した『ミズ・マーベル』第2話。ヒーローになったカマラの恋はやはり一筋縄では行かなさそうだ。第2話の邦題は「恋の始まり」だったが、英語では「Crashed」。「恋をする」という意味があるのと同時に、そのまま「クラッシュする」という意味もあり、カマラの混乱した状況にピッタリの言葉になっている。

ビジョンから語りかけてきたカムランの母は、カマラやカマラの曾祖母のアイシャと同じ能力を持っているのかもしれない。カムランの母を通してカマラのルーツが明らかになるのだろうか。なお、カムランの母の名前はエンドクレジットで「ナジマ」と表記されている。

注目はDODCことダメージ・コントロール局の有能さ。SNSを足がかりにカマラを見つけたのだろう。武装した状態ですぐさま駆けつけると、ミズ・マーベルのハードライトを破壊できる武器でカマラを追い込んだ。

今後のMCUでは、少なくとも米東海岸では正体不明のヒーローのもとにはDODCが駆けつけると考えてよいだろう。スパイダーマンやワンダの件を経て、スーパーヒーローが損害を与えうると判断された今、DODCは被害を未然に防ごうとしているものとみられる。

『エンドゲーム』以降に東海岸で騒動を起こした(?)ファルコンやホークアイはアベンジャーズメンバーであり、未知のヒーローではないため見逃されたのかもしれない。ムーンナイトが騒動を起こしたのはエジプトのカイロで、シャン・チーもSNSで話題になったが遠く離れた西海岸のサンフランシスコでの出来事であり、少なくともクレイアリー捜査官の管轄外と思われる。

スーパーパワーを持つ人々を管理しようとする流れは、MCUにヒーローを国が管理する「超人登録法」を導入する流れにつながる可能性もある。もともと原作コミックの「シビル・ウォー」は「超人登録法」の下で正体を明かして政府公認のヒーローになる派と、自由と自らの正義を重んじる派の衝突だった。MCUではアベンジャーズ を国連の管理下に置くソコヴィア協定に置き換えられていたが、米国内の問題として「超人登録法」が紹介されるかもしれない。

『ミズ・マーベル』の後に配信を予定している『シー・ハルク:ザ・アトーニー』の予告では「超人法専門の部署」というワードが登場した。弁護士ヒーローの参入で法律がクローズアップされる流れもできており、公的機関でありながらヒーローの敵になりそうなDODCの躍進は注目に値する。ドラマ『シー・ハルク』からの法律重視の流れについての考察はこちらの記事で。

ナキアの選挙にブルーノの将来も気になるところ。ピーター、MJ、ネッドの三人とはまた違うところでそれぞれの問題と直面するこの三人組には、どうか幸せになってもらいたい……。

まだまだ始まったばかりの『ミズ・マーベル』。折り返しになる第3話の配信を楽しみに待とう。

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コミック『Ms.マーベル:もしかしてこれって…恋?』にはロキも登場する。

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ドラマ『ミズ・マーベル』は2022年6月8日(水) より、Disney+で独占配信。

『ミズ・マーベル』(Disney+)

第3話のネタバレ解説はこちらから。

第1話のネタバレ解説はこちらから。

『ミズ・マーベル』第1話では、キャプテン・マーベルが東京を訪れていたことが小ネタとして挿入されている。この件についての考察はこちらの記事で。

監督は今後は“ダーク”な展開も待っていることを示唆した。詳しくはこちらから。

撮影中にドラマ『ワンダヴィジョン』を観た主演のイマン・ヴェラーニをケヴィン・ファイギが注意した理由はこちらから。

 

7月公開『ソー・ラブ&サンダー』本予告の解説&考察はこちらから。

8月配信『シー・ハルク』予告編の解説&考察はこちらの記事で。

『梨泰院クラス』のパク・セロイ役で知られるパク・ソジュンの『ザ・マーベルズ』に関するコメントはこちらから。

2代目キャプテン・マーベルになることが予想されるモニカ・ランボー役のテヨナ・パリスが『ザ・マーベルズ』について語った内容はこちらから。

 

ドラマ『ムーンナイト』最終話のネタバレ解説&考察はこちらから。

『ムーンナイト』最終話で残された9つの謎はこちらから。

2023年の配信が発表されたドラマ『エコー』の情報はこちらの記事で。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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