第三回かぐやSFコンテスト結果発表 「未来のスポーツ」をテーマにしたSF短編小説、受賞作は | VG+ (バゴプラ)

第三回かぐやSFコンテスト結果発表 「未来のスポーツ」をテーマにしたSF短編小説、受賞作は

第三回かぐやSFコンテスト 結果発表

「未来のスポーツ」をテーマに4,000字以内のSF短編小説を募集した第三回かぐやSFコンテストの結果を発表します。また、四名の審査員による各作品への選評を公開します。

まず、各作品の筆者を発表します。第三回かぐやSFコンテストでは、全ての応募者に筆者匿名で応募して頂きました。更に最終候補の10名は、誰がどの作品を書いたのかを伏せた状態で読者投票および審査員による最終審査を行いました。

そして本日、最終候補10編の筆者を以下の通り発表します。

あの星が見えているか/藤崎ほつま
勝ち負けのあるところ/由嬉平乃
月面ジャンプ/花園メアリー
叫び/糸川乃衣
城南小学校運動会午後の部「マルチバース借り物競走」/牧野大寧
月はさまよう銀の小石/関元 聡
プシュケーの海/貞久 萬
ベントラ、ボール、ベントラ/鈴木 林
マジック・ボール/暴力と破滅の運び手
歴史的な日/鈴木無音
(作品名五十音順)

そして、第三回かぐやSFコンテストでは、審査員が選ぶ大賞と審査員特別賞、ウェブ上で実施された読者投票で最多票を獲得した読者賞の三賞が選出されました。

第三回かぐやSFコンテストの最終結果を以下の通り発表します。

大賞
暴力と破滅の運び手「マジック・ボール」
読者賞
牧野大寧「城南小学校運動会午後の部『マルチバース借り物競走』」
審査員特別賞
糸川乃衣「叫び」
  • 大賞に選ばれた暴力と破滅の運び手さんの「マジック・ボール」は英語と中国語に翻訳されます。
  • 読者賞に選ばれた「城南小学校運動会午後の部『マルチバース借り物競走』」の牧野大寧さんにはKaguyaからのお仕事の依頼をさせていただきます。詳細は筆者と相談の上、後日発表いたします。
  • 審査員特別賞に選ばれた「叫び」の糸川乃衣さんへの賞品は後日発表いたします。

受賞者の皆様、おめでとうございます!
今回は受賞に至らなかった皆様も含め、本コンテストの運営趣旨にご理解とご協力をいただき、誠にありがとうございました。

審査員による最終候補作品の選評

各審査員による選評は以下の通りです。

審査員 磯上竜也による選評

大賞 「マジック・ボール」

「あんたは肩がいいから」といって友に誘われ、野球をすることになったエリザベス。徐々に楽しくなってきたころに、ときおり投げた球が消えてしまうという奇妙な現象が起こり……。“消える魔球”というワンアイディアを活かしながら語られる、さわやかなフェミニズムの物語でした。言葉がのせられたボールが、誰かに打ちのめされることなく想う場所へ届くこと。それによって希望を手渡していける仕掛けがうまく効いていて、過去から照射された未来であると同時に、そうして希うことによって生まれくる未来が私たちにはあるのだと感じさせてくれる。「未来のスポーツ」というテーマをうまく取り込むだけでなく、過去―現在―未来をうまく結ぶことができた小説だと感じました。ダーシーが死をあっさり回避したりと、悲劇の引力をすり抜けるような展開も好もしく、読後の余韻も心地よい物語で、たくさんの人に届いてほしいと思える作品でした。

読者賞「城南小学校運動会午後の部『マルチバース借り物競争』」

ほかのバースの歴史を改変し、本来なかったものを発生させ借りてくる。というアイディアだけでわくわくするのに、実況形式をとった勢いのある書きぶりや随所に散りばめられたユーモアが楽しい。かぐや姫の五人の貴公子の話が元になっている(この賞に対する)遊び心をはじめ、借り物の(可能性の)絶妙さや、社会の野村先生の解説によって差し込まれるいやに詳細な蘊蓄も小気味よく展開され、オチとなる情景のおかしみまで一気に読まされる作品でした。かなりの情報量がリーダビリティを保ちながら展開されていく手際は、形式によったものではなく、言葉の選択など細やかな気遣いに支えられていて、終始ニコニコしながら読める小説だと思います。「未来のスポーツ」というテーマのなかで、存分に遊び、活き活きとした物語を書ききっていて、読者賞を受賞するのも納得の作品でした。

審査員特別賞「叫び」

人に使役され、利用されてきた馬たちの怒りと抵抗。力強い詩情をもった語りに導かれながら見えてくる情景。それらが馬たちの声と折り重なって、奥行きを増していく物語世界に圧倒されました。「であれば根本からほどくまで。」と、声をあげていることに向き合うことも、気づくこともできずにいる人間たちとの対話を諦め、役割や歴史から解放されていく馬たちがたどり着く世界は、読む人に深い余韻を残す。これまでスポーツとして積み重ねてきたものを手放して、あらためて向き直る可能性を描いたものとしても読みました。「未来のスポーツ」という枠を意識させつつ、それを飛び越えてしまうような筆致が素晴らしかったです。大賞とするには、テーマから遠くへと離れすぎているようにも感じ推しきれなかったのですが、イメージが駆けめぐり、たくさんの思索を呼び込む魅力的な作品だったので、特別賞に推しました。

「月面ジャンプ」

唯一のオリンピック競技となった「月面ジャンプ」をめぐる不思議で愛らしい物語で、見せてくれる情景の大きさ、物語のバランス感覚において優れていると感じたので、最終選考会議で大賞に推しました。まず題から想起される競技と書かれる競技のズレが面白く、兄妹のたわいないような会話からはじまり、少しずつ明かされていく世界のありようによってひろがる景色は、荒廃しているけれど魅力があって、書かれゆく物語にどんどんとひきこまれました。最後のパートが説明的ではないかという意見も出ましたが、そこで世界の重みをだすことによって、一度しっかり屈んだあとのように最後のジャンプの飛距離がでていると思います。変わりゆくものとしてのスポーツ(オリンピック)への郷愁にも似た感情を膂力にしながら、絶望と希望がないまぜになったまま飛び出していくラストは、想像を超えた「未来のスポーツ」の姿があって、候補作のなかでいちばん遠くへと飛んでいける物語だと感じました。

「月はさまよう銀の小石

ネアンデルタール人が生き残っていた世界。その一人である父と、サピエンスの母をもつ息子の関係を描いた物語は、差別にさらされることによって上手く向き合うことが出来ずに、引き裂かれてしまった父子の関係がしっかり書かれています。痛みを内包しながらも、ふたりが重なりあうように描かれた祈りのような最後は、大きく心を揺さぶられるカタルシスがあり、候補作のなかでも特に印象深いシーンでした。ただ、その前にあったネアンデルタール人たちが第一次火星植民団となる所など、被差別側の救いのなさは、そのコントラストがあるからこそ情景が映えることは理解しつつ、物語のための展開のようにも感じられ、その点で評価できませんでした。また、今回のテーマにおいて、“未来”であり、“スポーツ”であると感じるものはあるけれど、「未来のスポーツ」という視点では物足りなさを感じたところがありました。

「歴史的な日」

気候変動の影響で自粛されていた屋外体育復活のために、トラック用テントが導入されようとする未来。工事の下請け会社に勤める「俺」の視点から、今私たちが生きる日本と地続きであると感じる「未来のスポーツ」を書いており、確かな技術によって組み上げられたリアリティのある情景に、安心して読み進めることができました。また、限られた文字数のなかで、それぞれの経験によって見え方が変わることを見事に掬いとっている。「俺」もまた、見えていないことがあるのだと気づく最後の展開も効いていて、“スポーツ”の中心だけでなく、周辺にいるさまざまな人たちのあり様がしっかり感じられる物語でした。候補作のなかで一番完成度の高い小説だと思いましたが、その裏返しとして作品の地味さがどうしてもあり、大賞作品としては推すことができませんでした。

 

磯上竜也 プロフィール
大阪にある本屋toibooksの店主。toibooksでは、磯上さんが「これは」と思った書籍を100冊仕入れる《100冊仕入れ》などユニークな取り組みや、TwitterやInstagramで充実した書籍紹介を行っている。国内外の文芸作品を多数読んでおり、雑誌やウェブメディアに複数の書評を寄稿。本屋プラグの嶋田詔太さん、文筆家で農家の鎌田裕樹さんと一緒にSANBON RADIOという番組を月に一回程度開催しており、テーマに合わせて書籍を紹介したり、読書会を開催したりしている。

審査員 井上彼方による選評

大賞「マジック・ボール」

「未来のスポーツ」に希望を見出すことの難しさを感じた今回のコンテストの中で、過去を生きた登場人物たちにとっての「未来」のスポーツを提示することで、希望に満ちた爽やかな後味のシスターフッド小説に仕上げている点が見事でした。ダーシーの語る夢は今を生きる私たちには少し素朴に過ぎるような気もしますが、一方で、やや類型的ではあるけれども魅力的なダーシーの人物像、瀕死のダーシーがあっさりと息を吹き返すやや剛腕なストーリー展開、おばあちゃんになっても消える魔球を投げられるハッピーなラスト、テンポの良さやニヤっとしてしまう細部のおかしみなどが一つの作品として組み合わさると全体のバランスも良く、とてもキラキラと輝いていました。広く世界の人に読まれてほしいという点において自信を持って推せる作品だと思い、最終選考会議では大賞に推しました。ただ、タイトルにもなっている「マジック・ボール」の扱いについては、もっと活かせる補助線の引き方があったようにも思います。

読者賞「城南小学校運動会午後の部『マルチバース借り物競争』」

タイトルを一読してこのバース(宇宙)にないものを他のバースから借りてくる借り物競争の話なのかなと思っていたら、どのバースにも存在しないものを歴史改変によって生み出して借りてくるのか、というひねりに冒頭から大笑いでした。その後も、いやいや流石に歴史改変の扱いが軽すぎでしょという引っ掛かりがラストに綺麗に回収されるなど、全体の展開のうまさと勢いのある文章力が一級の作品でした。最大4,000字のコンテストにしては登場人物の数がかなり多いのにもかかわらず可読性が落ちず、借り物のお題の設定にもセンスが光り、歴史改変の展開にも味わいがあり、校庭に佇むお父さんたちの姿には哀愁が漂い、社会科の野村先生博識すぎやろとか、マルチバースゴーグル便利すぎやろとか程よいツッコミどころも残しつつ、読者の方を楽しませようとするホスピタリティに満ちた作品で、たくさんの人に愛される読者賞にぴったりの作品でした。

審査員特別賞「叫び」

人間たちのパートと馬たちのパートが絡み合うように続いていく展開と迫力の素晴らしさについては、私が何かを言わなくてもご納得いただけるのではないかと思います。「私たち」と「我ら」という複数形の主語の使い方が巧みでした。(英語だとどちらもWeになってしまうのは少し残念ですね) 人間以外の生き物の集合意識のようなものを複数形で表すという手法は他でも見かけることがあるように思うのですが、この小説では人間たちも「私たち」という一つの存在として名指され、そして最後にたった一人の「私」として夢から覚める。そういった言葉の使い方がとても巧みで考え抜かれていると思いました。
競馬という「スポーツ」に象徴されてしまう馬と人との関係性とその未来を描いているとか、作中で馬たちが人間に見切りをつけたのが2023年頃であることを考えると、馬がいない未来におけるスポーツをどう考えるのかと読者に問いかけているとか、テーマに対して複数の読みが可能だと思いますし、それだけ開かれた作品だとも言えるでしょう。

「勝ち負けのあるところ」

気だるそうでどこか飄々とした主人公の語りと、「勝ち負けのあるところ」というタイトルがとても良い作品でした。勝敗といういわば試合の“結論”のようなものが決まっている中で、その過程を見せることにプライドを持っている主人公らに対して、世間は主人公らの属性をまるで“結論”かのように扱い、その中でしか評価を下そうとしません。試合の結果という意味の勝ち負けに留まらず、社会全体のあちこちにある「勝ち負け」のくだらなさを際立たせるタイトルでした。わかりあうことにも勝ち負けにも固執しない主人公の最後の決断が清々しく、それでいて押し付けがましくなく、爽やかな読後感でした。
タイトルと、出てくる競技がプロレスであることによって、宇宙人が何を要求しているのかという展開が予測可能かと思います。その分、その過程をどう見せるかというプロレス技がもう一つ欲しかったなと思いました。

「月面ジャンプ」

兄妹の何気ない会話という日常から始まり、徐々に明らかになっていく登場人物(人物ではないが)の生態や宇宙へと広がっていく展開が、想像力を飛ばしていくSFショートショートの王道のような楽しさを堪能させてくれる作品でした。「未来のスポーツ」というお題をジャンプをするというシンプルな動きに集約させつつ、兄と妹の可愛らしいやり取りと人間社会をなぞるようにして発展しているクマムシ社会のあり方、そして随所に垣間見える人間への批判的な眼差しとクマムシとしての誇りなどのバランスも良く描かれていました。クマムシの生態については作中でも説明がありますが、クマムシと言われてピンとくるあの感動を海外の読者も共有できるほど、クマムシ人気は世界的なものなのか?という疑問が若干ありました。

「ベントラ、ボール、ベントラ」

日常を異化するという意味でのSF的な楽しさとセンス・オブ・ワンダーという観点では最終候補作の中でずば抜けていて、本当に大好きな作品でした。冒頭では何が起きているのか全くわからないのに、「犬、とりあえずお預け計画」といった魅力的なフレーズで引き込まれます。そこからの情報開示の仕方もバランスが取れていて、不穏さもありつつどこか楽しそうな登場人物たちの姿に巻き込まれました。また、記録の更新や体を動かす喜びといったスポーツの要素とは全く異なる、いわば解体されたドッジボールという競技と、それが街にもたらす作用をとても魅力的に描けています。ただ選考会では、この巻き込まれる読書体験を楽しめるかどうかは人によって好みが分かれるという指摘もありました。また、細部に出てくる日本のローカルなものについては、翻訳する際に工夫が必要かもしれません。タイトルと、読後にこのタイトルを見て思い浮かべる風景もとても素敵でした。

「歴史的な日」

茹だるような今年の夏の暑さの中でしみじみと読んだ人も多かったのではないでしょうか。気候変動、多重下請け構造、社会を覆っている雰囲気など、日本の近未来の姿を見事に描き出した作品で、丁寧に描かれた細部によって醸成されている生々しさに唸りました。一人の労働者の視点から描いた、立場や世代による見えている景色の差異、国際大会の誘致という新しいレイヤーの大きな物語の存在を提示だけするラスト、そしてそれが、「きれいなお姉さんアナウンサー」によってもたらされるという事実、タイトルの回収、全てがディストピア小説として決まっていました。精緻さと裏返しの地味さや暗いトーンは好みが分かれるとは思いますが、読者の好みを超えて評価されるべき燻し銀のような作品でした。

 

井上彼方 プロフィール
SF企業VGプラス合同会社。オンラインSF誌 Kaguya Planetコーディネーター。編書に『社会・からだ私・私についてフェミニズムと考える本』(社会評論社)、『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』『京都SFアンソロジー:ここに浮かぶ景色』(Kaguya Books/社会評論社)、『結晶するプリズム 翻訳クィアSFアンソロジー』(共編)など。
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審査員 岸谷薄荷による選評

大賞「マジック・ボール」

ストレートで普遍的な希望の物語でした。
フェミニズムとの出会いと覚醒が描かれているのですが、その「覚醒」がふわっとしていて「このくらいの気づきから始まるよね」という納得があります。世界観を構築する小道具や言葉遣いにも気が配られていました。「未来のスポーツ」というテーマを「(過去における)未来のスポーツ」として設定したところにもひねりがあり、ダーシーが悲劇のヒロインにされない、しぶといところもいい。
選考会では「SFっぽさが薄い」という意見も出ましたが、歴史のどこかであったかもしれないと思わせてくれる物語に組み込むにはちょうどいい塩梅だと私は感じています。
主人公が『高慢と偏見』の登場人物・ダーシー卿と比較して友人のダーシーを評する「あなたは美しい庭園を見れば何かを壊さずにはいられなかった」という言葉が深く響きました。体型維持のための「運動」と、スカートを改造し、思い切り走って投げて打つベースボール。私も、誰かに見られて評価されるために整えられた秩序ある花園をぶち壊す者でありたい。

読者賞「城南小学校運動会午後の部『マルチバース借り物競争』」

おもしろ満載、リーダビリティ満載のエンタメ作品でした。実況者がなぜかやたらうまいこと、課せられる借り物に、確かにうまいこと歴史改変をしたら手に入りそうだけれどさあ……という説得力があること、「自己顕示欲が強いアインシュタイン」「運命は手強いですね」など随所にキラーワードがあることで、タイトルでひと笑いした勢いと期待を最後まで殺さずに読めるのがとても心地よかったです。オチもスマートで(借り物競走でどんだけ歴史をぐちゃぐちゃにしたんだよ)、校庭にぽつんと残される改変先バースでの借り物と5人のおじさんというラストの画がまた笑える。ギャグを最後までやり切る小説の力がすごいです。
「スポーツ」と言われるとどうしても専門競技者のいるなんらかの競技を思い浮かべてしまいがちですが、運動会を舞台に据え、しかも保護者参加でかなり運試し型の借り物競走に目をつけたところも、大真面目なのにどこかすっとぼけたストーリーに合っていると思いました。

審査員特別賞「叫び」

語りの力がとても強かったです。
説明や固有名詞は最低限に抑えられ、何が起こっているのか読者も一緒に追っていくなかで、しかしこの作品が書かれた背景にある問題意識ははっきりとわかります。長いこと使役されてきた馬が声を上げる理由を深く鑑みようともせず「馬の形をしたものをまとめて恐れ遠ざけ」る人間の振る舞い、群れとしての馬たちの端的な言葉と、言葉を聞こうとした数少ない人間たちもまとめて見捨てて世界から出ててゆく苛烈な怒り。速く走るためだけに生み出され、足が折れれば殺されてしまう競走馬から始まり、あらゆる馬がひとつになって、どうやってもひとつにはなれない人間たちを追い越してゆく、それこそ濁流のような最後のパートは圧巻でした。示唆やメタファーに溢れ、着地のさせ方も見事です。「未来のスポーツ」をテーマにしたSF小説、として出てくる王道の作品ではないかもしれませんが、テーマを押し広げて魅力的な物語を紡ぐ手腕に感嘆しました。

「あの星が見えているか」

走る、跳ぶ、投げる、持ち上げるなどがすでに競技化され、香道があったり「利き○○」として味覚が試されたりもしているのだから、「見る」が競技化されてもおかしくない、という気づきをもたらしてくれた作品でした。まったく新しい競技のルールとその競技が置かれている立場、世情などがよく練られており、4000字という短さながら無理のないまとまりを持って仕上げられています。
登場人物の、とくにジェンダーに関する決定的な描写やそれによる傾斜がほとんどないので、読者はその点で大きな違和感や引っ掛かりを覚えることなく、自由に人物のすがたを想像して読むことができます。また、主人公の人生を方向づける先生の造形が魅力的でした。
いっぽうで、競視について「国内世論は双眼鏡で事足る競技に関心を払わない」ながら「競視部のような小洒落た部活」とも書かれているなど、じゃっかん作品内での評価がずれていたり(後者が皮肉だったとしても少々取りにくいかもしれません)、もう少し調べたり洗練したりできる表現があったかもしれないとも思っています。

「勝ち負けのあるところ」

肩の力の抜けた書きぶりと、ゆるシスターフッドにとても好感を持ちました。
この世界にほとほと呆れはてている二人だから、宇宙人を強大な侵略者と扱わずになんとなく分かり合えたのではないか、と思えます。その「分かり合え」かたも「なんとなく分かったっぽい」くらいのゆるさ。それでいて、人を属性で決めつけてわかったような口をきくなよ、という著者の反骨精神が気持ちいいです。宇宙人を「真面目っぽい」と評したの、恐らく世界初ではないでしょうか。
勝ち負けのないところからきた宇宙人が勝ち負けのある地球で勝ち負けつけて満足し、また勝ち負けのないところへ帰っていったらしい、というストーリーに「勝ち負けのあるところ」という宇宙人目線のタイトルをつけたのもクレバーだと思いました。
最後の畳み方がちょっと早急だったのと、ラストが比喩なのか実際に「勝敗のないところ」へ去ったのかを掴みきれず、醒めたトーンで語られる物語ならここをはっきりさせておいた方が締まったかもしれない、とも感じました。

「プシュケーの海」

意識統合の機構をきっちり説明しながらも映像的な作品で、とても面白かったです。4:3アスペクトのアニメの画面で想像しながら読みました。
「メイビス、わたしと一緒におよいでくれるか」「ツグミ、メイビス。偶然とは面白い」など少しだけキザな主人公の語りが都会的でエモーショナルな雰囲気を醸し出していて、作品に合っていると感じました。同じ苦しみを味わった人間とイルカが意識を重ねて「プシュケーの海」を泳いでいるイメージにもかなしい希望があります。
ただ、脚を失って全身麻痺になったトップスイマーが希死念慮を抱いているであろうことも、現実世界から逃げ出して意識の中で永遠に泳いでいられるならそちらを選ぶだろうことも容易に想像できたのではないかと考えると、ラストで後悔する主人公に、ツグミとメイビスを(どちらとも心を通わせる描写があるにも関わらず)「観察対象」としてしか見ていないがゆえの鈍さがあるように感じられ、少し気になりました。

「ベントラ、ボール、ベントラ」

個人的にいちばん推していた作品でした。この短さでそれぞれのキャラが完全に立っていて(タムタムが出てきた瞬間「変なやつだ!」と叫びました)どの人物も魅力的です。「ドッジボール」という競技が完全に解体されて名前のみが残り、「内野」になってしまえば謎の争奪戦に否応なく巻き込まれる、という理不尽で不可解なゲームと化しているのですが、なんだかみんなどこか楽しそう。「森文具にある〜」からの畳み掛けるような「ボール当て」百景が秀逸です。
ほんのりディストピアや戦争の影があり不穏なのですが、あくまで匂わせに徹していて、この変な競技の動向についての描写を中心に据えているバランスもよかったです。SFの匂いはそこまで強くないのですが、オカルトや奇妙な物語への愛が端々からわかる書きぶりで、とても嬉しかったです。
この作品も、「未来のスポーツ」でここまでいけるかというぎりぎりに挑戦していて、ナイスファイトな一作でした。

 

岸谷薄荷 プロフィール
1993年生まれ。海外文学と博物館が好きなフェミニスト。ジェーン・エスペンソン「ペイン・ガン ある男のノーベル賞受賞式に向けたメモ」、R・B・レンバーグ「砂漠のガラス細工と雪国の宝石」(いずれもKaguya Planet)、ジェニー・カッツォーラ「パーティ・トーク」(『結晶するプリズム 翻訳クィアSFアンソロジー』収録)の翻訳を手掛けている。創作に「ナイトフォール」(CALL magazine)、「サメと鈴虫」(『クジラ、コオロギ、人間以外』収録)。

 

審査員 佐伯真洋による選評

大賞「マジック・ボール」

物語の時間軸を過去に置くことで「未来」を描く、という発想の作品はいくつかありました。しかしこの作品は過去から現在への視点を描くと同時に、今に至ってもなお本質的には達成されていない未来を描いている、という点で、更なる先見性があります。最初の500字ほどで主人公の置かれた環境・時代・登場人物の個性・野球というモチーフが提示され、かつそれが不自然でなく、ショートショートとして読者を引き込む親切な設計となっていました。技術的な面でもこの冒頭は、同じようなことを試みた全応募作を通し、最も高い水準にあったと思います。最初にこの作品を読んだとき、私は主人公のボールが消えてしまうことに強烈なやるせなさを覚えました。ボールがミットに収まる軌道上に存在することを前提としなければ成立しない競技で、(もしかすると)速すぎたり、別のことを考えたりするために消えてしまうボールは、競技者とはこうあるべき、という社会からの抑圧の表れであるように思えたのです。しかし選考会議で「これは彼女にだけ繰り出せる魔球の側面が強いのではないか」という意見が挙がり、感覚が一変しました。魔球!マジック・ボール!なんて素敵な響きでしょうか。スポーツとは多くの人に開かれるべきものである、という点を読みながらに考えさせられました。とはいえ、消える部分を悲観的に読んだとしても、ダーシーとの交流を通して変わっていく価値観や、おばあちゃんになった彼女が最後にボールを放つシーンの魅力は、決して損なわれないでしょう。このような希望のある作品を世界に向けて送り出せることを、心より嬉しく思います。

読者賞「城南小学校運動会午後の部『マルチバース借り物競争』」

一次選考の段階でざっとタイトルを眺めたとき、もっとも「うまい」と思わされた作品でした。4000字以内という短い文字数のため、タイトルに前提となるスポーツの概要を入れてしまおうという手法は他作品でも見られましたが、語感・取り合わせ・キャッチーさで群を抜いていたと思います。大賞候補からはやや逸れるテイストかもしれませんが、だからこそ、ショートショートとしての面白さを追求する本作が読者賞に輝いたことを大変喜ばしく思います。実況を置くことで読者がなめらかに物語に接続できる工夫、借り物競走の戦略の多彩さ、想像をさらに超えるオチなど、技術面の高さにも舌を巻きました。借り物競走にお父さんしか参加しないのか?という疑問が個人的にはありましたが、「謎の物体を手にしたお父さん五人という絵面の強さがある」などの好意的な意見が他の審査員から挙がり、なるほどたしかに面白い、とまた笑わされました。借り物競走がなくなることで運動会そのものが消えてしまうラストはかなりの飛躍がありますが、それすらもまあ良いかと思わされる、大胆かつ多くの人に愛される作風は、とても貴重なものでしょう。

審査員特別賞「叫び」

「未来のスポーツ」というテーマからこの物語が生まれたことに驚き、スポーツとは何かを深く考えさせられました。人間の価値観で優秀な馬同士を交配させ、食事を管理し、調教して走らせ、順位に一喜一憂する。飼育費がかさむため競走馬のほとんどは引退後に殺処分される。多くの人間が目を背けるまでもなく、こうした競争馬の一生を知らずに過ごしているでしょう。おとなしくて賢く従順な生き物だと絵本などからも刷り込まれる馬は、思い返せばたしかに人間の歴史と文化に深くまで関わっています。そんな馬の叫びによって人々が倒れていく冒頭から、一瞬で恐怖へと引き摺り込まれました。冷戦の最中に、ただ茫然と馬を怖がる作中の人々と同じように物語を読み進め、馬たちが人間を群れに含めていたのだとようやく気が付いたとき、すべてが手遅れだと悟る、そんな読み手の心情を揺さぶる構成が非常によく練られていました。文章に詩的なみずみずしさがありながら過不足なく説明についていける、作品のバランスも素晴らしいです。「未来」の面で強く推し切れませんでしたが、テーマを超えた力強さと開かれた物語の力を感じました。ラストシーンのぬかるみから踏み出す足の重さは、読んだ人の心に深く刻まれることでしょう。

「あの星が見えているか」

私がもっとも強く推した作品でした。「未来のスポーツ」としてシンプルかつ独創性のある競技を生み出した点、物語に描かれていない外の世界の広がりまでをも感じられる点を高く評価しました。視力検査をベースにしながら、矯正身体と生身の身体との差異が鋭く描かれ、スポーツとして疑いなく成立しているのが見事です。宇宙に横たわる星、雄大なエベレスト、東大阪の町工場、千葉のさびれた漁村など、風景の対比が鮮やかで、かつ、福島でなければならない理由や衰退しつつある未来の日本など、それらの景色の選択にも説得力がありました。地の文とセリフとを分けない淡々とした書き方や説明の多い部分は読み手を選ぶかもしれませんが、「修道僧のような人」というこの競技のアスリートたちのイメージとうまく重なっています。また、黙々と標的を追う主人公が競技中に自身の人生と今後を考えている、というのも競技との親和性が高く、文章を追いながらも上下左右を入力する主人公の姿をたしかに背景に感じられました。どんなにささやかな星でも認知された恒星や星雲である、そこから見落とされる星もある。その点を軸に社会的な歪みを描きながらも、「見る」ことの開放感がすべてをさらっていくラストは、スポーツが持つ力強さを感じられてとても良かったです。

「月はさまよう銀の小石」

4000字以内で親子の長い人生を描く、短さを感じさせない奥行きのある作品でした。この物語を支えているSFの要素とスポーツが最後まで密接に結びついていたのも、テーマの扱いとして評価が高かったです。また、野球以外のスポーツでも成立させられそうな作品世界のなか、ラストシーンまで野球をきちんとやり切っている部分も個人的にとても好ましく読みました。細やかなモチーフがたくさん登場して視点が散らかりそうなところを、父の歴史と子の歴史という縦の時間軸を強調させることでうまくまとめる手腕も見事です。一方で、ネアンデルタール人の置かれた状況や投げかけられる言葉がこれまでの人類の差別の歴史の切り貼りとも読めてしまい、被差別者としてネアンデルタール人を配置することで、差別に抗ってきた実際の人々の抵抗の歴史をも置き換えてしまわないか、という懸念が拭えませんでした。歴史の再構築や類型だけではない、この作品でしか描けない差別への踏み込みがもう一歩あったなら、また違った読み味を提示できるでしょう。

「プシュケーの海」

今回、科学技術の進歩によって競技に参加できるようになるアスリート、競技から退くアスリート、別のものと肉体を接続する作品は数多くありました。この作品の個性が光ったのは、スポーツの光と影を知ったオリンピックのメダリストが再び体を動かせるようになることを目指し、最終的には競技ではなく、ただ泳ぐ楽しさを再発見して身体性を手放す、という点です。これはスポーツが人間に与える精神の自由と解放を本質的に捉えており、スポーツを解体した先にあるものを描く、新しい視点でした。物語の最後が主人公や周囲にとって悲観的なものであったとしても、「ものすごく速かった」を経験したツグミが泳ぎの世界に舞い戻ったことは、一種の希望として読むこともできます。一方で物語が動き出すまでにややもたつきがあるために、ツグミとメイビスの泳ぎに焦点が当たりきっていないところは改善の余地があるかもしれません。技術的な説明部分を大胆に削り、途中に差し込まれるメイビスとの交流の描写やツグミの泳ぎのシーンに厚みをもたせるなどの工夫があれば、テーマの切り込みに更なる深みを出せたかもしれません。

 

佐伯真洋 プロフィール1991年生まれ。2020年、卓球SF「青い瞳がきこえるうちは」が第11回創元SF短編賞の最終候補に選出される。同作は、伴名練編『新しい世界を生きるための14のSF』(ハヤカワ文庫JA)に収録。また第一回かぐやSFコンテストで「いつかあの夏へ」が読者賞を受賞。その後、Kaguya PlanetにポストヒューマンSF「月へ帰るまでは」を、『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』(Kaguya Books/社会評論社)に「かいじゅうたちのゆくところ」を寄稿。

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講評座談会、開催!

第三回かぐやSFコンテストでは、選考の基準や応募作品の傾向、気になった作品等について四名の審査員が話す講評座談会を開催します。

座談会は10月9日(月・祝)14時から、オンラインで開催します。参加費は800円で、Kaguya Planetの会員向けに割引クーポンを発行しています。

内容は、どんなスポーツが多かったのかどんなところに注目して選考をしたのかテーマの扱い方でや着眼点が気になった作品は? などなど。応募作の総評と気になった作品について、参加者の皆様にも何か持って帰ってもらえる座談会にしたいと考えておりますので是非ご参加ください。またイベントの後半では、かぐやSFコンテストの運営方法について意見交換会を行います。

最終候補作品を読む

受賞作を含む最終候補作品は特設ページで公開中。こちらから読むことができます。

第三回かぐやSFコンテスト特設ページ

また、各審査員が“最終候補には残せなかったが優れた作品”をまとめた選外佳作リストは、こちらで公開しています。

かぐやSFコンテストの今後について

かぐやSFコンテストは2020年に第一回を開催し、審査員・応募者・読者の皆様に育てていただいたコンテストです。文字数の上限や本文とタイトルのみでの読者投票の開催など、システムやレギュレーションの作り方から始まり、実際にたくさんの素敵な作品をご応募いただき、コンテスト開催中のSNSでの盛り上がりなど、全て皆様の助言や協力なしにはあり得ませんでした。心から御礼申し上げます。気軽に短い作品を投稿して読者の方からフィードバックを得られるような場を作りたいという当初の目的は、お陰様で達成できているのではないかと思っております。

また、日本発のSFを世界へ発信することという観点でも、第一回大賞の勝山海百合「あれは真珠というものかしら」は大森望 編『ベストSF2022』(2021)に収録された他、Toshiya Kameiによるスペイン語訳版が海外3誌に掲載、第二回大賞の吉美駿一郎「アザラシの子どもは生まれてから三日間へその緒をつけたまま泳ぐ」は田田による中訳版が中国のSF誌『科幻世界』2022年3月号に掲載されるなど、多くの成果をあげてきました。選外佳作を含む本コンテストの応募作は計10誌以上の海外誌に掲載されています。

VGプラスとしては、コンテストの盛り上げりとそこで見えてきたものを活かすべく、Kaguya PlanetとKaguya Booksを立ち上げ、昨年2022年には過去二回のかぐやSFコンテストの受賞者と最終候補者を中心とした『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』を刊行しました。また、この夏には正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』と井上彼方編『京都SFアンソロジー:ここに浮かぶ景色』を刊行し、SFレーベルとして新しい局面を迎えることができました。

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今後は、素晴らしい作品を投稿してくださった第三回かぐやSFコンテストの最終候補者の執筆者の皆様と共に、『新月2』の刊行を予定しています。また近日中に発表予定ですが、VGプラスのSF小説事業 “Kaguya” は、今後も新しい展開をしていく予定です。

ここ数年で、ウェブで気軽に短編小説を応募できるコンテストの数も増えてきました。かぐやSFコンテストが果たすべき役割も変わっていくと思います。コンテストに関わる全ての人にとってどんなコンテスト運営がより良いのか、今一度考えてもいい時なのかなと考えています。講評座談会でも、コンテストに関わってくださっている皆様に忌憚ないご意見をお聞きし、今後のコンテスト運営に役立てていく所存です。

今後もかぐやSFコンテストとKaguyaの活動にご注目いただけますと幸いです。

 

VG+編集部

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