『マダム・ウェブ』続編はある?
映画『マダム・ウェブ』が2024年2月23日(金・祝) より全国の劇場で公開された。S・J・クラークソン監督が指揮し、ダコタ・ジョンソンが主演を務める本作は、SSU(ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース)の第4作目にあたる。2003年のニューヨークを舞台に、予知能力に目覚めたキャシー・ウェブの物語が描かれる。
異色のスーパーヒーロー映画として注目を集めている『マダム・ウェブ』だが、SSU作品としては早くも8月30日(金) に第5作目の『クレイヴン・ザ・ハンター』が米国で公開される。11月8日(金) にはSSU第6作目『ヴェノム3(仮題)』の全米公開も控えており、2024年はSSUの年とも言われてきた。
一方で気になるのは、『マダム・ウェブ』自体に続編があるのかどうかという点だ。「ヴェノム」のようにシリーズ化していく可能性はあるのだろうか。プロデューサーの発言と合わせて見ていこう。なお、以下の記事は『マダム・ウェブ』の結末に関するネタバレを含むため、必ず劇場で本編を観てから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『マダム・ウェブ』の結末に関するネタバレを含みます。
『マダム・ウェブ』続編はどうなる?
ラストは続編に続く?
映画『マダム・ウェブ』のラストは、続編にも繋げられるような開かれたエンディングだった。主人公のキャシー・ウェブは視力を失い車椅子生活になるが、地震の予知能力については、3人の少女たちの近い未来も言い当てられるようになっており、力を増しているように思える。
また、ジュリア、マティ、アーニャの3人は、それぞれスパイダーウーマンのようなヒーローとして活躍する姿がキャシーのビジョンとして描かれており、3人それぞれの単独作品も作れそうな終わり方を迎えている。特にアーニャについては、こちらの記事で考察したように演じるイザベラ・メルセードがペルー系であることから、ペルーへ赴いて力をキャシーのように得るという展開も考えられるだろう。
だが、3人がヒーローになるにはまだ少し時間がかかるはずで、マダム・ウェブとなったキャシーにもまだまだ活躍の余地があるはずだ。その能力についても原作コミックと比べれば、まだ一端したか見せていないと言える。では、製作陣は『マダム・ウェブ』の続編やスピンオフについてどのように考えているのだろうか。
プロデューサーが語る
米DiscussingFilmでは、『マダム・ウェブ』の公開後にプロデューサーであるロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラが続編の可能性について言及している。ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラは「マトリックス」や「ハリー・ポッター」といった映画シリーズの実現に貢献した人物で、「G.I.ジョー」や「トランスフォーマー」シリーズのプロデューサーとしても知られる。数々のSF・ファンタジー映画をヒットに導いてきたが、コミック原作のスーパーヒーロー映画を手がけるのは今回が初めてになる。
同インタビューでは、ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラは近年スーパーヒーロー映画の興行成績が落ちている理由について、①キャラクター中心のエモーショナルな作品が減ったこと、②全ての作品を追う作業が宿題のようになっていること、この二点を挙げている。2008年公開の『アイアンマン』や『ダークナイト』の頃はそのようなことがなかったというのだ。
故に『マダム・ウェブ』は他の作品をチェックしていなくても楽しめる独立した作品にしたと話している。その一方で、『マダム・ウェブ』から始まる今後の物語については積極的な姿勢を見せている。まず、3人のスパイダーウーマンのスピンオフ制作の可能性については、こう話している。
彼女たちのキャラクターが素晴らしい点は、可笑しなことだけれど、スパイダー・ウーマンについて書かれたコミック作品がマダム・ウェブよりもたくさんあるということです。それぞれが主人公の本がありますからね。ですから、『マダム・ウェブ』を起点として、観客の皆さんが次のストーリーを楽しめるようになることを願っています。
やはり3人のスパイダーウーマンはスピンオフ展開を前提として配置されたキャラクターたちだったようだ。それぞれに人種や境遇も異なる3人は、シドニー・スウィーニー、セレステ・オコナー、イザベラ・メルセドという期待の若手俳優によって演じられている。今後それぞれの物語がスピンオフで拡張されていく展開は、十分に期待できる。
続編の内容は…
そして、マダム・ウェブ自身の続編については、ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラはこう語っている。
マダム・ウェブはまだ全ての技をマスターしたわけではありません。もし続編を作ることができたら、マダム・ウェブが新しい力をマスターしようとして失敗する過程を描くことに興味があります。つまり、あの能力の弊害を知ることになるんです。自分がやっていることをまだまだ学んでいるという人物を描くというのは、ドラマチックな題材になると思います。
『マダム・ウェブ』の続編があるとすれば、それはマダム・ウェブが新しい力をマスターしようとするものの、それに失敗するという物語が考えられるという。「能力の弊害」という言葉も出ており、本作では未来視で3人の少女を救ったキャシーだが、次回作があればマダム・ウェブの能力が持つ負の側面が描かれるかもしれない。
未来視の負の側面といえば、定番は自分の手に負えない不幸な未来を見てしまい、精神的に参ってしまうというものが考えられる。あるいはMCUアニメ『ホワット・イフ…?』(2021-) で何度やり直しても元恋人のクリスティーンを救えないドクター・ストレンジの姿が描かれたように、キャシーが変えられない未来に直面するという可能性もある。
映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023) では、「ベンおじさんの死」が変えることのできない「カノンイベント」であることが示唆された。『マダム・ウェブ』の続編で、キャシーがどう足掻いても同僚のベンの死を回避できないという展開は、考えただけでも胸に迫るものがある。
未来視の弊害は、キャシーが追い込まれるだけでなく、他の人々に対するものも考えられる。マダム・ウェブがまだ起きていない未来の犯罪を取り締まるようになった時、キャシーは他者の未来の可能性を潰す存在になってしまう。大きな事故が起きる未来を防ぐために、小さな存在を排除するという判断だってあり得るだろう。そうなれば、マダム・ウェブはスパイダーウーマンたちと対立する可能性だってある。
アメリカにはテロリズムの定義を拡大して、“疑いのある個人”を監視できる愛国者法が制定され、人権を無視した運用が行われた歴史がある。マダム・ウェブの能力が強大になるほどに、マダム・ウェブは難しい判断を迫られることになるだろう。
『マダム・ウェブ』続編制作の鍵は興行収入
中国市場がポイントに
では、実際にSSU作品として『マダム・ウェブ』がシリーズ化される可能性はあるのだろうか。『マダム・ウェブ』は制作費約8,000万ドルに対し、日本公開までに興行収入は約5,500万ドルと苦戦を強いられている。
SSUで唯一シリーズ化されている「ヴェノム」は、第1作目が制作費約1億ドルに対して全世界興収が約8億5,600万ドルという大ヒットを記録した。批評家ウケが悪かった前作『モービウス』(2022) も7,500万ドル〜8,300万ドルの制作費に対して、約1億6,700万ドルの興行収入を記録して黒字化は達成している。
現時点で『マダム・ウェブ』の続編制作はかなり厳しい状況にあると言えるが、ポイントになるのが中国での興行成績だ。『ヴェノム』は中国で約2億7,000万ドルという大ヒットを記録しており、中国のオープニング興収だけで制作費とほぼ同額の1億ドルを稼ぎ出している。『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(2021) と『モービウス』は中国で公開されなかったが、『マダム・ウェブ』は3月1日(金) より中国で公開されることが決まっている。
中国ではそもそも「スパイダーマン」人気が非常に高い。中国の人々からすれば、『マダム・ウェブ』は『ヴェノム』以来のSSU作品だ。『ヴェノム』と同じく、『モービウス』よりもスパイダーマンに寄せたコンセプトの作品であることは強みになるはず。『マダム・ウェブ』の続編の可能性については、中国市場の反応も要チェックである。
SSU全体の成績にも注目
また、米The Hollywood Reporterで紹介されている関係者の話も興味深い。曰く、スーパーヒーロー映画は過渡期にあるが、ソニーはリスクを厭わずホームランを狙っている、『クレイヴン・ザ・ハンター』が大ヒットすれば状況は全く違うものになる、とされている。「結果を判断するのはまだ早い」というのだ。
確かに、『マダム・ウェブ』が単体で好成績を収められなかったとしても、フランチャイズ全体が好調であればやり方を変える必要はない。『マダム・ウェブ』は2月公開の映画としては話題性は高く、現在、SSUがスーパーヒーロー映画ファンの話題を独占していることは事実だ。
かつてスタジオジブリは「経営5カ年計画」と称して若手監督による『借りぐらしのアリエッティ』(2010)、『コクリコ坂から』(2011) を公開し、満を持して宮崎駿監督の『風立ちぬ』(2013) を公開して同作は大ヒットを記録した。SSUにとっても、11月公開の『ヴェノム3』も含めてトータルでどれだけの利益を上げられるかが焦点になるだろう。
『マダム・ウェブ』で主人公キャシー・ウェブを演じたダコタ・ジョンソンは、米Total Filmのインタビューで『マダム・ウェブ』の続編制作について聞かれ、「スタジオが望むなら、間違いなく戻ってきます」と発言した。続編への障壁はほとんど興行成績に絞られているように思える。
米国での苦戦が報じられた後にプロデューサーのロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラが続編制作について前向きな発言をしたことで、米国の映画ファンは驚きを見せている。だが、製作陣としては中国での『マダム・ウェブ』の興行成績とSSU全体の収支が分岐点になると考えているのだろう。マダム・ウェブのように未来を見据えて、続報を待とう。
『マダム・ウェブ』は2024年2月23日(金・祝)より劇場公開。
Source
DiscussingFilm / The Hollywood Reporter / Total Film
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