『マダム・ウェブ』日本上陸
映画『マダム・ウェブ』が2024年2月23日(金・祝) より日本の劇場で公開された。『マダム・ウェブ』は、映画『モービウス』(2022) に続くSSU(ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース)作品の最新作で、マダム・ウェブことキャシー・ウェブの物語描かれる。
加えて、『マダム・ウェブ』には物語をさらに興味深い方向へと拡張する三人の少女の存在がある。それはジュリア、マティ、アーニャの3人で、キャシーとの出会いによって3人は命を救われることになる。今回は、『マダム・ウェブ』で注目を集めるアーニャについて深掘りしてみよう。
『#マダム・ウェブ』
🔻𝑪𝒂𝒔𝒕 𝑷𝒓𝒐𝒇𝒊𝒍𝒆🔻
━━━━━━━━━🕸️アーニャ・コラソン 役
/ #イザベラ・メルセド『トランスフォーマー/最後の騎士王』(17)に少女イザベラ役で出演し注目される。10歳のときに「エビータ」でブロードウェイデビューするなどマルチな才能を発揮している。… pic.twitter.com/FJLomXbP4P
— 映画『マダム・ウェブ』公式 (@MadameWebJP) February 11, 2024
以下の内容は、映画『マダム・ウェブ』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『マダム・ウェブ』 アーニャとは誰か
不法移民としてのバックグラウンド
まず、『マダム・ウェブ』に登場するアーニャというキャラクターの背景を整理しておこう。アーニャは冒頭、主人公キャシーが自分のアパートに帰宅する際に登場する。家主と思われる人物から家賃を支払うよう求められるが、アーニャは明日が父の給料日だと説明してこの日は見逃してもらっている。
大家と同じように、観ている方も「明日が給料日なら大丈夫だろう」と思ってしまうが、ストーリーが進展していくと、想像以上の困難がアーニャの背景には存在していたことが明らかになる。アーニャがジリアやマティと出会った後、二人は両親についての身の上話を共有するが、アーニャはなかなか自分の話をしない。
モーテルでキャシーから改めて3人を親のもとに送り届ける、警察に行くと言われ、ようやくアーニャは自分の家族について語り始める。アーニャの父は不法移民だったが、6ヶ月前に自分が学校に行っている間に強制送還になったのだという。以来、アーニャはニューヨークで独りで生活しており、アパートで大家に家賃の支払いを求められていたシーンも、アーニャの貧窮状態を示すものだったことが分かる。
アメリカで起きていること
アーニャは18歳になるまでは警察に行けないと話しているが、これは保護者のいない未成年の不法移民が警察に行くと保護されてしまい、18歳になると同時に強制送還されるという当時の法律を前提にしているものと考えられる。通常、成人の不法移民の取り締まりは連邦警察と移民局の仕事であるため、州警察には不法移民を逮捕できないという背景を踏まえての発言だろう(結論を出すには、当時のニューヨーク州法を精査する必要はあるが)。
米国では「ドリーマー」と呼ばれる若年不法移民の増加が問題視されてきた歴史があり、オバマ政権下では2012年に若年不法移民への救済措置制度を設けた。16歳までに米国に入国している、30歳以下、犯罪歴がない等の条件で強制退去を免除し、就労などを条件にして段階的に永住権を得られるようにするというものだ。その対象になった若年移民の多くはアーニャのようなラテン系の若者だったという。
米国のドナルド・トランプ前大統領は若年移民の救済や国籍付与に反対してきた人物で、大統領に就任した年にこのDACAと呼ばれる救済制度を撤廃した。しかし、米連邦最高裁は廃止の決定を違法であると認定し、DACAは継続されることになっている。
『マダム・ウェブ』の舞台は2003年だが、今でも若年移民に牙を剥こうとする人々はいる。権利というのは一度確立して終わりではなく、さらに多くの人が救えるように拡張したり、逆に権利を奪われないように維持したりするために戦わなくてはならないものだ。アーニャの抱える困難が改めて示されたことは、あの時代に戻ってはいけないという戒めと、まだまだ改革が必要だという制作者側からのメッセージと受け取ることができる。
劇中のアーニャの、18歳になるまでは「存在できない (I can’t exist)」という言葉は重い。「不法移民」という文字列や統計だけを見ていては分からない世界がそこにはあり、物語はマジョリティの理解を促進することに一役買うことができる。
イザベラ・メルセドの思い
アーニャを演じたイザベラ・メルセドは、アーニャが置かれている環境について、米Hollywood Reporterでこう語っている。
彼女を取り巻く事実はとても悲しいもので、孤独を感じていることは分かりますよね。しかし、それを突き詰めていくと、移民の人々の気持ちに行き着くんです。彼女はスマートですが、それはそうなる必要があったからです。自立していますが、そうでなければならなかった。彼女がそうなりたかったわけではないんです。彼女のソフトな側面を知って、“生意気で苛立ってるティーン”以上のものにできて良かったです。
また、米Refinery29のインタビューでは、イザベラ・メルセドはこうも語っている。
彼女は強く生きざるをえない人々を代表しています。自分自身の力で生き、他の人の2倍努力しなければならない人々のことです。非常に知的で教養のある人々ですが、そうなりたかったわけではなく、そうならざるを得なかったのです。選択肢がないんです。常にベストを尽くすことで、どんな状況も乗り越えている人々なのです。
アーニャは『マダム・ウェブ』の劇中で本を読んだりノートをとったりしている場面が多い。勉強し、常にベストを尽くすことで、自分が置かれた境遇をなんとか生き延びようとしているのだ。
アーニャ役のイザベラ・メルセドは2001年生まれ。『マダム・ウェブ』公開時点で22歳になっている。『トランスフォーマー/最後の騎士王』(2017) のイザベラ役、『劇場版 ドーラといっしょに大冒険』(2019) のドーラ役などで知られ、今後もドラマ『THE LAST OF US』(2023-) のシーズン2でキーキャラクターのディーナ役、『スーパーマン:レガシー(原題)』でホークガール役、「エイリアン」シリーズの新作スピンオフ『エイリアン:ロムルス(原題)』への出演も決まっているなど、将来有望な俳優だ。
イザベラ・メルセド自身も母がペルー生まれであり、第一言語がスペイン語であったため小学生の時には英語の習得に苦労したのだという。過去にはアメリカ人よりもペルー人としてのアイデンティティが強いとも話しており、ラテン系の新ヒーローを演じるにはぴったりの俳優だと言える。
それに、不法移民や貧困層をレペゼンするヒーローはまだまだ少ない。そうした立場に置かれている人々を理解できる俳優として、イザベラ・メルセドは今後の業界をリードしていく存在にもなり得る。
『マダム・ウェブ』ワールドプレミア🇺🇸
🔻コメント到着🔻◆ #イザベラ・メルセド
🗣️「ダコタはまるで姉のように私達を鼓舞し、導いてくれました。ダコタはすごいドライバーなので、彼女と車に乗るシーンはいつも安心でした❗️」📽️2月23日(祝・金)IMAX®ほか全国の映画館で公開 pic.twitter.com/7LtMHk9XYM
— 映画『マダム・ウェブ』公式 (@MadameWebJP) February 15, 2024
アーニャはどうなる? ヒーロー名は「アラナ」?
原作での設定は
では、『マダム・ウェブ』とイザベラ・メルセドと共に歩み出したアーニャ・コラソンは、今後どんなキャラクターになっていくのだろうか。まずは原作コミックでの展開を見てみよう。
アーニャが原作コミックにと登場したのは2004年刊行の『Amazing Fantasy #1』でのこと。比較的新しいキャラクターで、プエルトリコ系の父とメキシコ系の母を持つラテン系の女子高校生として紹介されている。正義感の強いアーニャは人助けをしたことでスパイダー・ソサエティの魔術師に見込まれてパワーを授けられる。
スパイダー・ソサエティの表向きの組織であるウェブ・コープスに加わったアーニャは、メキシコの砂漠での訓練でその力を覚醒させ、青い外骨格を身に纏うヒーローに変身する。映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023) には、この青い外骨格の姿で登場している。
力を覚醒させたアーニャはコードネームをスペイン語で「蜘蛛」を意味する「アラナ」として、初めてヒーロー名を名乗ることになる。なお、アラナ(Araña)はアーニャの死んだ母の旧姓でもある。『マダム・ウェブ』の劇中でも、母は5歳の時に死んだと話しているため、この設定は実写版でも引き継がれる可能性がある。
その後アーニャはスパイダーガールを名乗るようになり、スパイダーマンと同じような力を得る展開も。映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』にも登場したスパイダーウーマンのジェシカ・ドリューに弟子入りしており、将来的にはスパイダーウーマンになる可能性もあるが、今のところは「アラナ」もしくは「スパイダーガール」になるキャラクターである。
ペルーの蜘蛛がキーになるか
『マダム・ウェブ』では、ペルーで蜘蛛の力を得た人々は「蜘蛛たち」を意味する「ラス・アラナス」という名で呼ばれており、これはアーニャのヒーロー名「アラナ」の複数形でもある。演じるイザベラ・メルセドがペルー系であることから、原作のスパイダー・ソサエティをラス・アラナスの人々に置き換え、アーニャがペルーで蜘蛛の力を得るという展開は十分にあり得る。
キャシーやエゼキエルが見る未来の世界では、アーニャは原作コミックと同じく蜘蛛の糸がついた投擲型の武器を使って戦っている。背中から蜘蛛の足を伸ばすマティや、オレンジ色の光で相手を拘束するジュリアと比べると地味な戦い方ではあるが、それも地に足のついたヒーローとしてのアラナ/スパイダーガールの姿を示している。
また、母が死んでいて両親がいないというアーニャの境遇は、マダム・ウェブことキャシーと同じものだ。二人とも生まれがペルーだとすれば、二人は特に強い絆を持つことになるかもしれない。DCUでのホークガール役や『THE LAST OF US』『エイリアン:ロムルス』への出演など、演じるイザベラ・メルセドはしばらくSF作品で引っ張りだこの存在になりそう。次にアーニャの活躍を見られる時を期待して待とう。
『マダム・ウェブ』は2024年2月23日(金・祝)より劇場公開。
アラナが活躍する英語版の『Spider-Man & Araña Special: The Hunter』はKindleで配信中。
Source
Hollywood Reporter / Refinery29
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