映画『マダム・ウェブ』公開
SSU(ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース)最新作となる映画『マダム・ウェブ』が2024年2月23日(金・祝) より、日本の劇場でも公開された。『マダム・ウェブ』では、ダコタ・ジョンソン演じるキャシー・ウェブがマダム・ウェブになるまでのオリジンが描かれる。
マダム・ウェブは、原作コミックで未来予知やテレパシーといった能力を持っており、映画『マダム・ウェブ』ではキャシーが能力に目覚めていく過程が描かれる。今回は、映画で描かれたマダム・ウェブのパワーと、その能力が今後の作品に与え得る影響について解説&考察していこう。なお、以下の内容は本編の重要なネタバレを含むので、必ず劇場で本作を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『マダム・ウェブ』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
マダム・ウェブの能力は? ネタバレ解説
マダム・ウェブの能力の源は
キャシーの母コンスタンスは、疾患を持って生まれてくるとされていたお腹の中の娘のために、アマゾンに特殊な力を持つ蜘蛛を捕まえに行っていた。コンスタンスは見つけた蜘蛛をエゼキエルに奪われるが、死ぬ前に蜘蛛から噛まれたことにより、キャシーは特別な力を持って生まれてくることになった。
『マダム・ウェブ』では、34歳のときにキャシーが救急救命活動中に川に落ちたことでその力が目覚める様子が描かれている。その後、自身が生まれたペルーのアマゾンで蜘蛛の力を宿す“スパイダー・ピープル/ラス・アラニャス”から教えを受け、自分の力を覚醒させることになる。
未来視
マダム・ウェブの最も顕著な能力は未来視の力だ。これから起きることがビジョンで視えるため、未来で起きる不幸を未然に防ぐことができる。当初はそれが現実なのかビジョンなのかを判断することが難しく、キャシー自身はループに陥っているような感覚を抱いている。
キャシーがその能力に気付いたのは、部屋の窓に鳩がぶつかる場面を繰り返すことになったシーン。先ほどポップコーンが出来上がって音が鳴ったはずの電子レンジから再び音が鳴ったため、キャシーは初めて状況が繰り返されている=先ほど見たのは未来のビジョンであることに気付いた。疑いながらも、窓を開けておくとやはり鳩が飛来してきたが、窓が開いていたため今度は窓にぶつかることはなく、未来は変えることができると知ったのだった。
しかし、能力が目覚めた直後の脈拍を図るシーンやベビーシャワーで風船が割れるシーンを除き、終盤までキャシーに視えるビジョンの多くは“死”が関わる場面だった。ジュリア、マティ、アーニャの3人を助けることになったのも、エゼキエルに殺される3人の姿をビジョンで視たからにほかならない。鳩や救急隊員の事故死に関するビジョンについても同様で、未来視は誰かの死を予期することに限定されている。
パワーを自覚してからはキャシーはその力と上手く付き合うようになり、『マダム・ウェブ』の終盤では、アーニャがくしゃみをすることも予知することができている。また、ジュリア、マティ、アーニャの3人がスパイダーウーマンとして活躍する姿もビジョンとして視ることができているため、最後には死が関わらない未来についても視えるようになったものと思われる。
幽体離脱(アストラル体)
マダム・ウェブの特徴的なもう一つの能力が幽体離脱である。これは原作コミックでも登場している能力で、アストラル体を操って様々な場所に行くことができる。アストラル (Astral) は「霊体」を意味する英語で、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)にも登場する概念だ。
アストラル体が初めてMCUに登場したのは『ドクター・ストレンジ』(2016) でのこと。スティーブン・ストレンジに教えを与えるためにエンシェント・ワンがストレンジをアストラル体にしており、ストレンジは幽体離脱のように身体と霊体が分離する経験をしている。『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019) では、過去の世界のエンシェント・ワンに会いに行ったハルクもアストラル体にさせられている。
キャシーはアマゾンで蜘蛛の力を宿すラス・アラニャスのサンティアゴにアストラル体にされ、過去の母に会いに行った。能力が目覚めれば複数の場所に同時に存在することができると教えられたキャシーは、エゼキエルとの戦いの中で、ピンチに陥ったジュリア、マティ、アーニャの3人をアストラル体で助けることに成功する。
注目すべきは、キャシーがアストラル体で相手に物理的に接触することができている点だ。例えば前述のハルクもアストラル体にされた理由は、エンシェント・ワンが物理的な接触を避けて対話をするためだった。霊体になることで接触ができなくなるというのがアストラル体の強みでもあり弱みでもあるのだが、マダム・ウェブの能力はそのリミットを超越する特殊なものだと言える。
視力を失い、車椅子での生活をおくることになったマダム・ウェブだが、アストラル体を使えば、原作コミックと同じく様々な場所に登場することができる。映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(2022) では、ワンダやドクター・ストレンジは“ドリーム・ウォーク”と呼ばれる能力を披露、ユニバースを越えて自分の身体を操る力を見せた。
マダム・ウェブがアストラル体としてマルチバースを横断できるのであれば、ヒーローたちにとってはかなり強力なサポートキャラになるはずだ。
マダム・ウェブのアストラル体に見る可能性
スパイダーマンとの共通点
さらに、今回『マダム・ウェブ』で紹介された、アストラル体になり自分の分身を操れるという能力は、MCUで描かれたトム・ホランド版スパイダーマンの謎に迫る鍵になる可能性もある。
映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021) では、ドクター・ストレンジがスパイダーマンの身体とピーター・パーカーのアストラル体を分離させるシーンがあった。これは、ストレンジがピーターからヴィランたちを元のユニバースへ送り返すための装置を奪うためだったが、アストラル体になったピーターは、スパイダーセンスを働かせると、なんとアストラル体のままで肉体を操ることに成功している。
ドクター・ストレンジにもハルクにもできなかったこの芸当が、なぜスパイダーマンにできたのかは語られることはなかった。しかし、『マダム・ウェブ』では、同じく蜘蛛の力を宿したキャシーがアストラル体を分身として操り、物理制限を乗り越えるという技を見せた。これまでのMCU・SSUで例外的なアストラル体の動きを見せたのはこの二人だけである。
共通点もある。キャシーはアストラル体に分身した後、自らの意思で元の自分の身体に戻って来ている。ピーターもまた、宙を泳ぐようにアストラル体から自分の身体に復帰している。ストレンジとハルクは自分の意思では自分の身体に復帰することはできず、エンシェント・ワンに支配権を握られていたため、“クモ”の力を持つ二人が例外的な力を持っていることが分かる。
スパイダーマンの謎を解くヒント?
『ノー・ウェイ・ホーム』公開時のこちらの考察記事では、MCUのトム・ホランド版スパイダーマンだけは噛まれたクモが登場していないことを指摘した。また、ピーター・パーカーがスパイダーセンスを発動し、ドクター・ストレンジの魔法を超越してアストラル体から身体を操作できたのは、スパイダーマンの力の源であるそのクモに理由があるのではないかと考察している。
今回、『マダム・ウェブ』ではアマゾンに棲息する特殊な力を持つ蜘蛛が紹介された。これまでのソニーの「スパイダーマン」シリーズでは、科学実験によって力を得た蜘蛛がスパイダーマンに力を与えてきたが、SSUでは自然界に棲息する蜘蛛がエゼキエルやキャシーに力を与えている。
MCU版ピーター・パーカーについても魔法の力を超越できていることから、今までのような科学的な力を得た蜘蛛ではなく、魔法の力を持った蜘蛛に噛まれたという可能性も考察できていた。だが、今回『マダム・ウェブ』で紹介されたように特殊な力を持つ自然界の蜘蛛がピーター・パーカーに力を与えた可能性も出てきた。MCUに蜘蛛が登場していないこと、ピーターが魔法を超越してアストラル体から身体を操作できたこと、自然界の蜘蛛の力を得たマダム・ウェブがアストラル体を操れることには、何らかの繋がりがあるのではないだろうか。
SSUでは、「ヴェノム」シリーズや『モービウス』(2022)、そして今回の『マダム・ウェブ』のように、科学力による力ではなく、人間社会の外からもたらされる力にこだわりを持っているように思える。スパイダーマンの映像化の権利を持っているのはソニーであり、MCUスパイダーマンの設定にもソニーのそうした意向が組み込まれている可能性もあるだろう。
『マダム・ウェブ』では2003年にピーター・パーカーが生まれる場面が描かれた。MCUのピーターは2001年生まれなので、この赤ん坊はトム・ホランド版ピーター・パーカーではないことは明らかだ。しかし、この数年後にマダム・ウェブはマルチバースを横断してMCU世界に干渉する可能性はある。
与えられる能力も異なるし、あの蜘蛛がピーターを噛んだということはないだろう。だが、マダム・ウェブがマルチバースを超えていくことができれば、ピーターにアストラル体の操り方を指導することもできるかもしれない。「スパイダーマン」関連キャラとしてSSUに様々な要素を提示したマダム・ウェブ。その力はフランチャイズの未来をどう変えるのか、引き続き注視していこう。
映画『マダム・ウェブ』は2024年2月23日(金・祝) より劇場公開。
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