『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』ロケットに注目
MCU映画第32弾の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』が2023年5月3日(水・祝) に劇場で公開。今回はジェームズ・ガン監督が「隠れた主人公」と語るロケットのオリジンが描かれることになり、大いに注目が集まっている。
映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』では、今まで語られることのなかったロケットのオリジンに迫る。今回は、そのロケットと「GotG」シリーズの特徴でもある“音楽”の関係について深掘りしてみたい。過去作と最新作を合わせて観てみると、意外な事実が浮かび上がってくる。
なお、以下の内容は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』の内容に関する重大なネタバレを含むので、必ず劇場で本編を鑑賞してから読むようにしていただきたい。
以下の内容は、映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』の内容に関するネタバレを含みます。
ロケットの過去
音楽の原体験
映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』では、ロケットに医療パッドを使用したことで、その体内に組み込まれていた“キル・スイッチ”が起動。ロケットを改造したハイ・エボリューショナリーが技術の流出を防ぐために仕掛けたこの装置によって、ロケットは意識不明の重体に陥ってしまう。
ガーディアンズメンバーはロケットを救うべく奮闘するのだが、その間にロケットの回想と思われるシーンで彼のオリジンが次々と明かされていく。幼いアライグマだったロケットは、ハイ・エボリューショナリーに高度な知能を与えられ、強制的に“進化”させられていた。ロケットは、他の生物やハイ・エボリューショナリーにすらない“ひらめき”を持った特殊な存在で、ハイ・エボリューショナリーは次第にロケットのことを妬ましく思うようになる。
注目したいのは、ロケットがその“ひらめき”を発揮する直前のシーンだ。ハイ・エボリューショナリーの膝に乗り、ボードに計算式を書き出していく場面で、ロケットは初めてカウンター・アースの青い空とロケットを目にする。この時、ロケットは部屋に流れる音楽を「何の音?」と怖がる。おそらくこれが初めて音楽を聴いた瞬間だったのだろう。
「ありのままの自分であるな」
ハイ・エボリューショナリーが「音楽だ」と答えると、ロケットは「僕たち(音楽を)好き?」と尋ねる。知能は高いが、好き嫌いの判断もハイ・エボリューショナリーに委ねるほどロケットは幼く、また精神的にもハイ・エボリューショナリーに支配されている状況でもあった。
ハイ・エボリューショナリーはこの音楽について「5,000年前の曲」とした上で、その内容を「Be not as you are, but as you should be.(ありのままの自分であるな、あるべきものであれ)」だと説明する。続けてロケットのような不完全な存在を完璧なものに変えることが自身の目的だと話しており、ロケットの“音楽”の原体験はハイ・エボリューショナリーの思想と接続されてしまっている。
この音楽は、ロケットのひらめきによって進化させた動物の凶暴さを取り除くことに成功した場面でも流れている。この時にロケットは「僕たち、新世界に行ける?」と聞くが、ハイ・エボリューショナリーからは「不完全な存在」だと切り捨てられ、仲間と共に焼却処分すると告げられている。この音楽がロケットにとってトラウマになったということは想像に難くない。
踊らないロケット
実は、ロケットと音楽の関係については、米マーベル公式でも触れられている。ジェームズ・ガン監督がロケットについて述べたインタビュー記事の中で、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』が間近に迫った今、他のガーディアンズと同じくロケットも音楽に向き合う時が来た」と紹介されている。
ピーター・クイルをはじめとするガーディアンズメンバーが音楽を楽しむ中、実は、これまでのロケットは音楽を楽しむ姿を見せてこなかった。例えば、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018) でソーと遭遇する場面では、クイルとガモーラはBGMのスピナーズ「Rubberband Man」(1976) を歌っているが、ロケットは欠伸をしている。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017) の冒頭では、ロケットはアビリスク戦で音楽をかけようとしているが、本人はあくまでもクイルのために音楽を流そうとしている。
この姿勢は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー ホリデー・スペシャル』(2021) でも垣間見られる。同作でケヴィン・ベーコンがクイルのために歌を唄うことになった場面では、ガーディアンズのメンバーは身体を揺らしているのだが、ロケットは腕組みをして仁王立ちしている。あのネビュラですら踊っているのに。
そして、ロケットはクイルがこの曲を聴いて喜んでいるかを確認するように、クイルの顔を見やる。ケヴィン・ベーコンが歌い終わった後には、皆が拍手をして喜ぶ中でなおも腕を組んで立っている。
つまり、ロケットにとって音楽は“クイルや仲間が好きなもの”であり、“自分のもの”ではなかった。仲間思いのロケットは音楽を許容してはいたが、幼い頃の原体験から音楽と距離を置いていたのではないだろうか。
『GotG3』で訪れた変化
歌い出したロケット
変化が訪れるのは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3』の冒頭だ。ロケットは酔い潰れているクイルのズーン(音楽プレーヤー)を使ってレディオヘッド「Creep」のアコースティックギターバージョンを流している。ここでロケットは「Creep」の歌詞を口ずさむのだ。
どちらかといえば明るい70’sから80’sの曲をチョイスすることが多かったクイルに対し、ロケットは90’sの「Creep」、それもしんみりとしたアコースティックバージョンを選んでいる。その歌詞は、「君は美しい」「僕も特別な存在だったら」と歌われ、サビでは「僕は気持ち悪くて変なんだ。一体ここで何をしてるんだろう。ここにいるべきじゃない」と歌われている。
クイルを通して音楽に触れるようになったロケットはようやく歌うようにはなったが、それは前向きな歌ではなく、内省的で感傷的な曲だった。ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーという仲間/家族を手に入れてもなお、ロケットがこの曲の歌詞に共感した理由は、やはり自分の過去と向き合うことを避けてきたからだろう。
ロケットが踊り出す
ライラとの対話を経て、逃げることをやめ、自分がガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのロケット・ラクーンだと心から言えるようになり、そして、ハイ・エボリューショナリーに「お前はありのままを否定しただけ」と言い放った後、ロケットはようやく音楽を自分のものとして捉えられるようになる。ロケットは、ラストシーンで遂に踊り出すのだ。
クイルからズーンをもらったロケットが流した曲はフローレンス・アンド・ザ・マシーン「Dog Days Are Over」(2008)。クイルが特に好んでいなかった00年代の曲で、ロケットらしさが垣間見える選曲だ。「失意の日々が終わる」と、ハイ・エボリューショナリーを倒して過去に決着をつけたロケットの心情を的確に言い表している。
同様にこれまで踊らなかったドラックスと共に踊るロケットの姿は、どこかぎこちないが、歓喜のダンスに形は関係ない。楽しい曲を聴いて育ち、音楽好きに育ったグルートと共に踊る姿は涙もの。これ以上にないハッピーなラストなのに、筆者は涙が止まらなかった。
ミッドクレジットシーンでは、ロケットは新生ガーディアンズのメンバーに好きな音楽を尋ねる。誰の意見も否定することなく、一通り話を聞いた後、ロケットは自分のお気に入りを聞かれると、ここでクイルのお気に入りだったRedbone「Come And Get Your Love」(1973) をチョイスする。
この音楽を通した交流は、たった一曲の歌詞の内容をロケットに押し付けようとしたハイ・エボリューショナリーとは真逆の態度で行われる。互いの「好き」を聞き合って、押し付けることはしない。ありのままを肯定する“ロケットのガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの在り方”だ。
クイルの母とヨンドゥからクイルへ、クイルからロケットへと渡った音楽は、9年をかけた三部作を経て私たちにも届いたはずだ。
映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』は2023年5月3日(水・祝) より劇場公開。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』のオリジナル・サウンドトラックは発売中&配信中。
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