ネタバレ解説『シン・仮面ライダー』未発表キャスト&全オーグ/ 怪人紹介 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説『シン・仮面ライダー』未発表キャスト&全オーグ/ 怪人紹介

©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

大ヒット上映中の『シン・仮面ライダー』

2023年3月17日18:00に最速公開されて以降、全国ゲストビジットや視聴回数別の特典などで、興行成績を順調に伸ばしている『シン・仮面ライダー』(2023)。『シン・ゴジラ』(2016)以降、7年ぶりの庵野秀明監督の実写監督作品であり、その豪華なキャストにも注目が集まっている。

本郷猛/仮面ライダー役に劇団四季『ライオン・キング』のヤング・シンバ役でデビューし、トム・クルーズ主演『ラスト・サムライ』(2003)でサターン賞若手俳優賞にノミネートされた池松壮亮氏、緑川ルリ子役に東宝シンデレラオーディションのニュージェネレーション出身の浜辺美波氏、一文字隼人/仮面ライダー第2号役には連続テレビ小説『朝が来た』(2018)などでの活躍を認めらて第40回画ランドール新人賞を受賞した名優の柄本佑氏が起用されている。

主要人物3人だけでも名優揃いだが、それ以外のキャストにも錚々たる俳優たちが揃っている。更には予告映像には登場しなかった合成オーグメント(改造人間、怪人)たちが登場するなど、本編にはサプライズ的な演出も満載だ。本記事では、2023年3月23日(木)に解禁となった『シン・仮面ライダー』の未発表キャストたち俳優陣及びその俳優は演じる合成オーグメント(改造人間、怪人)たちと彼らのリメイク元を紹介していこう。

なお、本記事は『シン・仮面ライダー』と漫画脚本:山田胡瓜氏、作画:藤村緋二氏『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』のネタバレを含むため、本編視聴後及び本編読了後に読んでいただけると幸福である

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『シン・仮面ライダー』および漫画『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』の内容に関するネタバレを含みます。

アンチショッカー同盟

竹野内豊氏演じる立花と斎藤工氏演じる滝が所属するアンチショッカー同盟は、テレビ版『仮面ライダー』(1971-1973)の第92話~第94話に登場したショッカーに対抗する第三勢力である。『シン・仮面ライダー』には緑川弘博士を演じた塚本晋也監督が舞台挨拶で語ったように、仮面ライダーへの愛が込められている。

そのため、例えば仮面ライダーたちを追うトラックに「三栄土木」というテレビ版の撮影地の名前が書かれている、緑川ルリ子に這いよる際に本郷猛/仮面ライダーが足を複雑骨折しているがテレビ版『仮面ライダー』で藤岡弘、が足の骨折で一時降板したのをオマージュしているなど、そのこだわりは細部にまで至っている。その細かさは漫画版のラストシーンを再現しつつ、それを庵野秀明監督出生の地の山口県の角島大橋で撮影するなど自分の監督人生の原点と人間「庵野秀明」の原点を織り交ぜて描いている。

さらに『シン・仮面ライダー』で登場するアンチショッカー同盟は、庵野秀明監督の原点の一つの『仮面ライダー』へのオマージュだけではなく、「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」を繋ぐ役割も持っていると言える存在だ。

政府の男/立花 竹野内豊

竹野内豊氏は池松壮亮氏演じる本郷猛/仮面ライダーと浜辺美波氏演じる緑川ルリ子に接触し、アンチショッカー同盟の結成を持ちかける政府の男/立花を演じる。竹野内豊氏は『シン・ゴジラ』(2016)で狡猾に立ち回る官僚で、主人公の一人である赤坂秀樹を演じた。さらに『シン・ウルトラマン』(2022)では山本耕史氏演じるメフィラスとの交渉の場に現れ、斎藤工氏演じるウルトラマンとも交渉する赤坂秀樹と同一人物らしき政府の男を演じた。

政府の男は作中ではほとんど名乗らず、『シン・仮面ライダー』終盤で柄本佑氏演じる一文字隼人/仮面ライダー第2号に対して本名が立花であることを明かした。昭和「仮面ライダー」シリーズにおいて欠かすことのできないキャラクターである、小林昭二氏が演じた「おやっさん」こと立花藤兵衛と同じ名前だ。

竹野内豊氏が演じる立花や政府の男は「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」において、MCUにおけるニック・フューリーのようなユニバースを取りまとめる役回りを演じることになった。そのため、今後の「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」の展開の中で竹野内豊氏がどのような配役で登場するのか注目していきたい。

情報機関の男/滝 斎藤工

斎藤工氏は竹野内豊氏演じる政府の男/立花と共に本郷猛/仮面ライダーと緑川ルリ子二接触し、アンチショッカー同盟の結成を持ちかける情報機関の男/滝を演じる。斎藤工氏は「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」の第1作目の『シン・ゴジラ』では陸上自衛隊で10式戦車を操縦する自衛官役を、第3三作目の『シン・仮面ライダー』の前作にあたる第2作目第二作目『シン・ウルトラマン』で主人公の神永新二/ウルトラマンを演じた。

『シン・ウルトラマン』において神永新二は禍特対に出向する前は警察庁公安部に所属しており、情報機関出身のキャラクターだ。そのため『シン・仮面ライダー』において、情報機関の男/滝も序盤では神永新二と同一人物かと錯覚するような演出になっている。

また、滝という名前の情報機関の男といえばテレビ版『仮面ライダー』において、仮面ライダーとバディを組み戦った矢吹次郎氏が演じたFBI捜査官の滝和也がモデルになっていることは明らかだ。「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」ではMCUなどのように同じ俳優が同じキャラクターを演じるのではなく、同じ俳優が別のキャラクターを演じるスターシステムを採用していると思われる。

スターシステムと言えば、漫画界において神様と呼ばれる手塚治虫氏が作品内で積極的に採用していたことで知られており、庵野秀明監督のこだわりが垣間見える。「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」には特撮の実写作品だけではなく、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021)というアニメーション作品も属しているため、今後の展開でアニメーション作品などが製作されるのか期待したい。

SHOCKER

正式名称を「Sustainable Happiness Organization with Computational Knowledge Embedded Remodeling(持続可能な幸福を目指す愛の秘密結社)」とし、その略称が『シン・仮面ライダー』におけるショッカーである。その内部は一枚岩とは言い難く、スピンオフ漫画『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』では世界に絶望してショッカー創設の理念に心酔する絶望派、ショッカーの技術を利用して軍事産業や人身売買で利益を得ている旧体制派が登場していた。

『シン・仮面ライダー』本編ではKKオーグ(カマキリ・カメレオンオーグ)の口から死神派という更なる派閥の存在が明らかになった。そのため『シン・仮面ライダー』以降も仮面ライダーたちアンチショッカー同盟の戦いは続いていくことが考察できる。

ショッカーの構成員は死亡した際に機密保持のために泡となることが明らかになっており、テレビ版『仮面ライダー』で死亡した怪人や人物が泡になる演出を庵野秀明監督が巧く解釈したと考えられる。

クモオーグ 大森南朋

大森南朋氏は人外合成型オーグメント第1号であり、『仮面ライダー』最初の怪人の蜘蛛男をリメイクしたクモとの合成オーグメントであるSHOCKER上級構成員クモオーグを演じる。大森南朋氏は父に舞踏家兼演出家である麿赤兒氏、兄に大森立嗣監督を持つ俳優一家生まれの俳優だ。近年では『アウトレイジ 最終章』(2017)で韓国・済州島側の張グループに所属する用心棒の市川を演じて高い評価を得ている。『シン・仮面ライダー』ではクモオーグの声で出演した。

クモオーグはスピンオフ漫画『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』で、かつて愛する人物・浩介がアウティング(当事者である本人の了解なく公表していない個人情報、特にセクシャリティなどを第三者に暴露されてしまうこと)されてしまい自ら命を絶ったことを救えず、自分もゲイであることが悟られたくないためにアウティングによる差別に加担してしまったことで自罰的な精神を持っていることが語られている。その象徴として自らの顔を自分の手で溶かしており、それゆえに『シン・仮面ライダー』では声だけの出演となった。

クモオーグは釣り竿のリールのような装置と蜘蛛の八本の脚を模したドレッドヘア風のパーツが付きのガスマスク風の仮面を被っている。また、仮面/マスクにはテレビ版『仮面ライダー』の目を模した蜘蛛の巣をイメージした塗装がなされている。赤と黒のタズル模様のレザースーツには多数のジッパーがついているが、これは『シン・仮面ライダー』本編で異形の姿となる際に複数の腕を出すためのものであることが明らかになった。

クモオーグはHIPHOPな容姿に対して、口調などから紳士的な性格であることが読み取れる。『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』では温厚な性格で緑川イチローから慕われており、肉体を捨てて嘘偽りのない魂だけの世界へ行くことに賛同したのはセクシュアリティを偽らないといけない世界からの脱却が目的もあったと思われる。その反面、『シン・仮面ライダー』では緑川ルリ子氏を捕縛する際に両目を潰そうとするなど残虐な一面を垣間見せている。

最後は本郷猛/仮面ライダーのライダーきりもみシュートで壁に叩きつけられ、ライダーキックを受けて死亡するなど「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」の根幹にある「ノスタルジーと最新技術の融合」を体現する合成オーグメント(改造人間、怪人)となった。また、「これが私の仕事です」など『シン・ウルトラマン』におけるメフィラス構文のようにクモオーグ構文めいた口調で話すのも特徴だ。

クモオーグについてのネタバレ解説&考察はこちらから。

コウモリオーグ 手塚とおる

手塚とおる氏は仮面/マスクをつけず、異形の姿を露わにした状態でヴィールス(ウイルス)の研究をしているコウモリとの合成オーグメントであるSHOCKER上級構成員コウモリオーグを演じる。手塚とおる氏は『シン・仮面ライダー』最速公開舞台挨拶でも語った通り、『ラブ&ポップ』(1998)や『キューティーハニー』(2004)、『シン・ゴジラ』など庵野秀明監督の常連俳優であり、「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」のスターシステムの一部とも言える名優だ。

塚本晋也監督演じる緑川弘博士は昆虫など節足動物との合成オーグメント(改造人間、怪人)こそ最高傑作だと語っており、そのためコウモリオーグなど脊椎動物との合成オーグメント(改造人間、怪人)を生み出した緑川弘博士とは違う派閥を示唆する存在でもある。

研究内容も絶望派の森山未來氏演じる緑川イチローの計画である「暴力を生み出す肉体を捨ててハビタット世界に全ての魂を送る」というものとは異なり、「ヴィールス(ウイルス)で人類を隷属させて傷つかない幸福な世界を生み出す」という異なる計画を企てていた。大量の緑川ルリ子に似た人間を集める場面は「エヴァンゲリオン」シリーズの綾波レイのクローンを想起させ、「ヴィールスが社会の不正を表面化させる」という思想はコロナ禍のパニックによる社会格差の表面化を思わせる。

しかし、その計画はプラーナによるヴィールスの無力化というテレビ版『仮面ライダー』と似た末路を迎えた。その一方でサイクロン号の飛行シーンの披露の機会をつくり、科学者という性質を活かして本郷猛/仮面ライダー/第1バッタオーグの跳躍力などを説明する役割を果たした。

コウモリオーグが語ったことについての解説と考察はこちらの記事で。

サソリオーグ 長澤まさみ

未発表キャストの一人として登場したのが、『シン・ウルトラマン』でもう一人の主人公で神永新二とバディを組む浅見弘子を演じた長澤まさみ氏だ。長澤まさみ氏の演じる蠍男のリメイクであるサソリオーグ撮影期間が3日で済むなど、登場シーンこそ短かったもののスピンオフ漫画『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』から共通してマゾヒズムとサディズムを兼ね備えた妖艶な人物として活躍した。

サソリオーグはスピンオフ漫画『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』で登場したままの性格であり、長澤まさみ氏の怪演の光るキャラクターだ。サソリオーグ自身は親の裏切りの辛さを語っているが、何故絶望派についたのかはわからないつかみどころのない人物だ。またスピンオフ漫画『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』の頃から異形の要素を持つ人外合成型オーグメントとなっていた。

テレビ版『仮面ライダー』では本郷猛の元ライバルである早瀬五郎が自ら改造に志願して誕生した怪人だったが、『シン・仮面ライダー』では池松壮亮氏演じる本郷猛/仮面ライダーと相まみえることなく政府による攻撃で死亡した。それでも強烈なインパクトを残したキャラクターだったといえる。

ヒロミ/ハチオーグ 西野七瀬

元乃木坂46メンバーの西野七瀬氏が演じるのは、浜辺美波氏演じる緑川ルリ子の最も友人に近い存在のヒロミ/ハチオーグだ。ヒロミは漫画版『仮面ライダー』(1971)でコウモリ男のヴィールス(ウイルス)で吸血鬼化し、老衰死した緑川ルリ子の友人だ。ハチオーグは『シン・仮面ライダー』では和服の片側を脱ぎ日本刀を使って極道映画のように戦う。ハチオーグの支配する町では「仁義なき戦い」シリーズのポスターが貼ってあり、極道要素が強調されている。

『シン・仮面ライダー』でも緑川ルリ子のことを「ルリルリ」と呼ぶなど友人として登場し、それによって機械的だった緑川ルリ子の感情を突き動かすことになる。ハチオーグの基地の破壊はアメリカ空軍の輸送機から飛び降りて風力を溜めた本郷猛/仮面ライダーのライダースクリューキックによって破壊され、プラーナで解毒できないサソリオーグの毒の凶弾で命を落とした。

ハチオーグは緑川ルリ子を泣かせること彼女の感情を動かすことに執着しているなど、ある意味で塚本晋也監督演じる父親の緑川弘博士と同様に緑川ルリ子を人間らしくさせたいと思っていた人物だった。しかし、その方法はプラーナを用いた人格支配や隷属化など過激であり、自由を重んじた緑川弘博士とは異なるコウモリオーグ寄りのものだった。

また、ハチオーグの他者からのプラーナの吸収思考停止して隷属化している方が人間は楽だという思想は『シン・仮面ライダー』の中でも重要なキーワードになっている。ヒロミ/ハチオーグの死によって浜辺美波氏演じる緑川ルリ子が涙を流して人間的な感情を取り戻し始めるなど、ハチオーグはキーキャラクターだったと言える。

ハチオーグの思想についての解説&考察はこちらの記事で。

KKオーグ(カマキリ・カメレオンオーグ) 北郷奏多

北郷奏多氏が演じるKKオーグ(カマキリ・カメレオンオーグ)は単なる未発表キャストというだけではなく、『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』でも告知のなかったシークレット・キャラクターだ。ショッカー初の三種合成オーグメントというのは、テレビ版『仮面ライダー』の後半に登場するショッカーとゲルダム団の合併組織ゲルショッカーの複数の生物を合成した怪人を想起させるデザインになっている。KKオーグはそのサディズムな性格に加え、殺人をゲームと考えているかのような態度や命を軽視する姿勢から、本郷奏多氏の代表作『GANTZ』(2011)の西丈一郎を想起させる。

クモオーグを先輩と慕い、複数のナイフを扱い、クモオーグと同じようにジッパーを開くことでカマキリの刃を出すなど絶望派の怪人に似た要素を持つ合成オーグメント(改造人間、怪人)の絶望派を思わせるオーグメンテーションを施されている。

だが、その体の半分は緑川弘博士が「最高の組み合わせ」と称した節足動物との合成オーグメントではなく、「攻殻機動隊」シリーズに登場するようなレインコートに似た光学迷彩で透明になるカメレオンの性質を持った脊椎動物との合成オーグメントでもある。さらには死神派を自称するなど、続編の要素を匂わせる存在だと言える。

死神派はおそらく緑川弘博士をショッカーに勧誘したイワン博士(スピンオフ漫画に登場)の派閥であり、イワン博士のモデルはテレビ版『仮面ライダー』のショッカー後期に登場した大幹部のイワン・タワノビッチ/死神博士/イカデビルだろう。庵野秀明監督は『シン・仮面ライダー』は続編が作れるように制作したと語っており、続編ではイワン博士も登場するかもしれない。

ショッカー創設者 松尾スズキ

劇団「大人計画」を主宰する俳優の松尾スズキ氏が演じるはショッカーの創設者だ。ショッカーの創設者はテレビ版『仮面ライダー』におけるショッカー首領にあたる人物だが、物語開始時点で既に自殺している。ショッカー創設者は人類を幸福にするためにスーパーコンピューターを用いてAIのアイを創り出した。サーバーの筐体には710403と書かれているが、これはテレビ版『仮面ライダー』の放送開始日である。

ショッカー首領にあたる人物が既に死亡しているというのは少しおかしな話のように感じるかもしれない。しかし、ショッカーがもともとナチスの残党組織だったという点を考えればあり得る話である。ドイツ出身のユダヤ系アメリカ人で、自身もナチスによる迫害によって亡命を余儀なくされたハンナ・アーレント氏は全体主義の研究の中で独裁者の構造について一つの見解を出している。

大雑把に要約すると独裁者の支配する全体主義において重要なのは大衆であり、そこでは独裁者さえも歯車の一部に過ぎないということだ。一度、全体主義制度が動きだしたら止めることは容易ではなく、一個人を倒して終わりということもない。そして全体主義制度の最大の問題点は「個人性をまったく殲滅するようなシステムをつくること」にあるということだ。この点はコウモリオーグやハチオーグの計画によく似ている。

つまり、ショッカー創設者がアイに「最大多数の幸福よりも深い絶望に陥った一個人の幸福こそ人類全体の幸福に繋がる」という定義を与えた時点で、ショッカー創設者は歯車としての役割を終えたのだ。そのような重要な役どころを短い場面にもかかわらず松尾スズキ氏は素晴らしい演技をみせた。

外世界観測用自立型人工知能ケイ 松坂桃李

松坂桃李氏は外部からの影響を受けないようにクローズドとなっている人工知能アイが外の世界を知るために作られたジェイと後続機のケイを演じる。ジェイは左右非対称で片側のコンピューターがガラス張りで露出していることから『人造人間キカイダー』(1972-1973)のジロー/キカイダーがモデルであり、ケイは赤いダブルのブレザー姿とデザインから『ロボット刑事』の捜査用ロボットKがモデルであると考察できる。

声での出演となった松坂桃李氏だが、松坂桃李氏は『侍戦隊シンケンジャー』(2009-2010)で志葉丈瑠/シンケンレッドを演じたため、およそ約12年ぶりの特撮復帰となった。また外世界観測用自立型人工知能ケイはスピンオフ漫画『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』でもメインを務め、合成オーグメントが死ぬたびにブレザーの胸ポケットに白薔薇を刺していくなど、狂言回しを担っている。

アイは前述の通りクローズドとなったコンピューターであり、その補助として外世界観測用自立型人工知能たちが作られた。このクローズドという点が浜辺美波氏演じる緑川ルリ子という生体電算機との差を生んだと考えられる。緑川イチローもアイも双方とも外部から隔離された孤独な存在であり、それゆえに外の世界を知った緑川ルリ子のように真の幸福を知ることができなかったと言える。

外世界観測用自立型人工知能ケイは英語の発音が非常に流暢なのだが、これは『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』の中でそうなった経緯が語られている。同様にケイとは異なりサソリオーグが『シン・ゴジラ』で石原さとみ氏が演じたカヨコ・アン・パタースンのような話し方になった理由も語られている。

緑川イチロー/チョウオーグ/仮面ライダー第0号 森山未來

森山未來氏が演じる緑川イチロー人類に肉体を捨てさせ、魂だけをハビタット世界という嘘偽りのない世界に送ろうとする。緑川イチローはチョウオーグというだけあって完全に殻に籠っているのも特徴的だ。プラーナを用いたATフィールドに似たバリアを展開するなど、「エヴァンゲリオン」シリーズを想起させるが、緑川イチローの理想郷「ハビタット世界」は浜辺美波氏演じる緑川ルリ子から「ディストピア」「地獄」と評されている。

緑川イチローの変身するチョウオーグ/仮面ライダー第0号は2つのタイフーンや父親と母親、そして妹に執着する姿から『仮面ライダーV3』(1973-1974)をモデルにしていると考えられる。そして顔の傷の形や蝶との合成オーグメント、羽化するという設定からリメイク元に同じく石ノ森章太郎作品『イナズマン』(1973-1974)の要素もあると考察できる。

しかし、仮面ライダー1号と2号に自身の改造を懇願した風見志郎とは違い、緑川イチローは自らの手で一文字隼人/仮面ライダー第2号/第2バッタオーグの強化や大量発生相変異型バッタオーグ(ショッカーライダー)を生み出している。

さらにショッカーライダー最初は13体登場している。キリスト教で不吉とされる13という数字だが、庵野秀明作品でもその傾向が見られる。『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(1997)で登場した惣流・アスカ・ラングレーを含む5号機~13号機、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』で絶望の機体とした後に第13の使徒となってフォース・インパクトを起こしたエヴァンゲリオン第13号機などと同じ13体という不吉な数だったが、ダブルライダーによって13体からテレビ版『仮面ライダー』と同じ6体になるように倒される演出がなされている。

「エヴァンゲリオン」シリーズの人類補完計画を思わせる作戦を行う緑川イチロー/チョウオーグ/仮面ライダー第0号だが、外の世界を知った緑川ルリ子たちから「それが果たして幸福なのか」というアンサーを返されている。庵野秀明監督はかつて森山未來氏が演じた劇団☆新感線『髑髏城の七人』の天魔王をイメージしてキャラクター造形を行い、彼のコンテンポラリーダンスなどで培われた動きも冴えわたる登場人物となっている。

豪華なシークレット・キャストたち

アンチショッカー同盟やSHOCKERだけに豪華な未発表キャストが起用されているわけではない。他にも市川実日子氏が緑川イチローの母親である緑川硝子役に起用されている。市川実日子氏は『キューティーハニー』や『シン・ゴジラ』など庵野秀明監督作品に出演しており、特に『シン・ゴジラ』で演じた尾頭ヒロミは作品を代表するキャラクターとなった。

また、「あぶない刑事」シリーズでおなじみの仲村トオル氏本郷猛の父親役、演劇ユニットTEAM NACSのメンバーの安田顕氏が通り魔の犯人役、ヒップホップクルーのKANDYTOWNに所属するラッパーのHOLLY Qとしても知られる上杉柊平氏がハチオーグの側近である背広の男役として出演していたことも発表されている。

続編にはどのような豪華なキャストが登場するのか、今後の情報公開に注目していきたい。

映画『シン・仮面ライダー』は2023年3月18日(土)より全国の劇場で公開。

『シン・仮面ライダー』公式サイト

山田胡瓜 漫画脚本、藤村緋二 作画『真の安らぎはこの世になく―シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE―』第1巻は発売中。

『シン・仮面ライダー 音楽集』は2023年4月12日(水)発売で予約受付中。

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発表済みキャストとキャラクターについてはこちらの記事で。

『シン・仮面ライダー』のネタバレ解説&考察はこちらの記事で。

『真の安らぎはこの世になく-シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』ネタバレ解説&考察はこちらの記事で。

『シン・仮面ライダー』の本郷猛と緑川イチローの対比はこちらの記事

『シン・仮面ライダー』の一文字隼人のネタバレ解説&考察はこちらの記事で。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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