ネタバレ考察『シン・仮面ライダー』2000年代オタク文化のヒロイン像と緑川ルリ子 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ考察『シン・仮面ライダー』2000年代オタク文化のヒロイン像と緑川ルリ子

©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

『シン・仮面ライダー』のもう一人の主人公・緑川ルリ子のヒロイン像

2023年3月18日に「仮面ライダー50周年記念作品」として公開された『シン・仮面ライダー』(2023)。その監督を務める庵野秀明監督と言えば、妻である漫画家の安野モヨコ氏のエッセイ『監督不行届』(2014-)の中で「日本のオタク四天王の一人」と称されるほどのオタクだ。

そのため、シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバースの最新作として制作された『シン・仮面ライダー』も公開の10日前に完成し、細かな撮り直しも何度も行われたというこだわりがつまっている。その主人公である浜辺美波氏が演じる緑川ルリ子にもそのこだわりがつめこまれている。そしてそのこだわりは庵野秀明監督「新世紀エヴァンゲリオン」から続くものだと考察できる。

なお、本記事は『シン・仮面ライダー』のネタバレを一部含むため本編視聴後に読んでいただけると幸福である。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『シン・仮面ライダー』の内容に関するネタバレを含みます。

庵野秀明監督たちが生んだ新ヒロイン像

本記事では緑川ルリ子の持つ2000年代オタク文化との関係性について、庵野秀明監督が社会現象を起こした作品である「エヴァンゲリオン」シリーズから順を追って考察していこうと思う。そのために、2000年代のオタク文化のヒロイン像についても、その歴史を追っていきたい。そして最後に『シン・仮面ライダー』の緑川ルリ子とは何だったのかについてより深く考察していきたいと思う。

ガイナックス、創設

庵野秀明監督が90年代を代表するアニメーション監督であることは間違いないことだろう。彼とその学友が立ち上げ、かつて所属していたガイナックスは天才の集まりと言えた。総監督は庵野秀明監督、監督に『シン・ウルトラマン』など「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」に携わる樋口真嗣監督、そしてキャラクターデザインに貞本義行氏、音楽に鷺巣詩郎氏を迎えて制作された『ふしぎの海のナディア』は大ヒットした。

他にもガイナックスには美少女シミュレーションゲームという概念を生み出した赤井孝美氏など数多くの名監督、名アニメーターが所属していた。このメンバーたちは更に仲間を加えて大きくなり、後に「エヴァンゲリオン」シリーズも生み出し社会現象を起こすことになる。

しかしガイナックスは空中分解し、いくつかの会社に分かれるのだが、どの会社も現在のアニメーション業界を語る際になくてはならない存在となっている。オタク四天王と呼ばれる庵野秀明監督も、学友と共に立ち上げた会社の分解という衝撃から立ち直るのには時間を有した。

しかし、そこから立ち直る中でデザイナーの前田真宏氏山下いくと氏らと共に新しく築き上げたのが現在のスタジオカラーだ。それと共に産声を上げたのが「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」第一作目『シン・ゴジラ』なのだが、それに関しては『よい子のれきしアニメ 大きなカブ(株)』で詳しく描かれている。

『SSSS.DRIDMAN』(2018)や『SSSS.DYNAZENON』(2021)、『グリッドマン ユニバース』(2023)という形で円谷プロの非ウルトラマン系ヒーロー『電光超人グリッドマン』(1993-1994)をリメイクした株式会社トリガーもガイナックスから分かれていった会社の一つと言える。

綾波レイというファースト・インパクト

その庵野秀明監督を筆頭とする天才たちの手によって創り出された新たなヒロイン像が『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-1996)のヒロインの一人である綾波レイだった。デザインの根っこには貞本義行氏が筋肉少女帯の『何処へでも行ける切手』の包帯の少女があり、綾波レイの登場によって「無口系」「無感情系」「綾波レイ系」のヒロイン像が確立され、ブームとなった。

『新世紀エヴァンゲ

社会現象にもなった「エヴァンゲリオン」シリーズとそこで生み出されたキャラクター像は、アニメや実写作品問わず、音楽に至るまで数多くの作品に影響を与えた。綾波レイという人間を庵野秀明監督は感情表現を知らないだけであり、主人公の碇シンジたちと接していく中で、感情表現が豊かなものになるとした。

2000年代のオタク文化

長門有希というセカンド・インパクト

時代が流れ、2000年代に突入するとオタク文化に新しい流行が生まれる。「涼宮ハルヒ」シリーズの大ヒットと、その人気キャラクターである長門有希の登場だった。長門有希は無口で何を考えているかわからないというキャラクター設定で、綾波レイの系譜のヒロイン像の一つと言える人気キャラクターだ。

涼宮ハルヒの憂鬱(Hulu)

長門有希の正体は情報統合思念体、いわゆる宇宙人が創り出した対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース(TFEI端末)の一体であった。そして情報統合思念体は涼宮ハルヒという一人の少女を観測するために複数体のTFEI端末を派遣しており、情報統合思念体自体が一枚岩ではないため、主人公のキョンを強襲した朝倉涼子や観測役の観測役である喜緑江美里などが登場している。

長門有希も当初は感情がないようなロボットとも思える描かれ方をされていたが、主人公のキョンたちと触れ合うことで人間らしい感情が生まれ、暴走を引き起こしている。その暴走が描かれたのが映画『涼宮ハルヒの消失』であり、長門有希の積もり積もった感情の爆発による世界改変が描かれている。

エヴァンゲリオンによるニア・サード・インパクト

そこにちょうど重なるように、スタジオカラーは「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズを公開し、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(2007)が公開されたことで、番組終了後も影響を与え続けていた「エヴァンゲリオン」シリーズは更なるブームメントを引き起こすことになった。

「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズには綾波レイだけではなく、綾波レイのクローンも多数登場し、綾波レイならどうするのかを他者に問う「綾波レイになろうとする綾波レイ」であるアヤナミレイ(仮称)も登場した。陰鬱な『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012)では再生産される綾波レイ系ヒロインを意識したかのような展開も挿入された。

そして「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」2作目であり、「エヴァンゲリオン」シリーズ26年間が詰まった最終作『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021)では、アヤナミレイ(仮称)が農作業の中で人間的な感情表現を学んでいく様子も描かれた。そして再登場した綾波レイは人間的な感情表現をできるようになっており、庵野秀明監督の中で「綾波レイ系」ヒロインの再解釈を行ったと思われる。

『シン・仮面ライダー』から見えるキャラクター造形

緑川ルリ子というフォース・インパクト

庵野秀明監督が自分自身のオタク精神の原点である仮面ライダーと向き合う中で、創り出したのが浜辺美波氏演じる『シン・仮面ライダー』の緑川ルリ子だ。『シン・仮面ライダー』の緑川ルリ子は、テレビシリーズ『仮面ライダー』(1972-1971)の緑川ルリ子と大きく設定が異なっている。

『シン・仮面ライダー』の緑川ルリ子は塚本晋也監督演じる緑川弘博士が自分の遺伝子を用いて人工子宮の中で生み出した生きた電算機であり、設定上は緑川弘博士と遺伝子上の繋がりはあっても親子かどうかは定義しにくいという扱いになっている。

この「生きた電算機」という設定は2000年代のオタク文化を生きてきた人間ならば、多くの人間が「涼宮ハルヒ」シリーズの長門有希を思い出したことだろう。そして緑川ルリ子は本郷猛を演じた池松壮亮氏の言葉を借りるとすれば「人間回帰」していき、浜辺美波氏の言葉を借りるとすれば「本郷猛と触れ合う中で人間らしい感情表現を取り戻していく」キャラクターである。

ある意味で庵野秀明監督たちが自分たちの手で生み出した「綾波レイ系」ヒロインが独り歩きし、庵野秀明監督の葛藤の中、成長して帰ってきたのが『シン・仮面ライダー』で冷徹なスパイ的な性格から人間らしい感情を取り戻す緑川ルリ子というキャラクターだと言えるかもしれない。

シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバースというアディショナル・インパクト

『シン・ウルトラマン』では「エヴァンゲリオン」シリーズの葛城ミサトを意識したような長澤まさみ氏演じる浅見弘子をもう一人の主人公として斎藤工氏演じる神永新二のバディとしてキャスティングした。この神永新二もウルトラマンであるがゆえに人間的な感情表現を知らず、浅見弘子たち人間と触れ合うことで人間らしい感情を得ていく「綾波レイ系」のキャラクターである。

この「感情表現を知らず、人と触れ合う中で人間的な感情表現を獲得していく」という設定は庵野秀明監督作品で、特に「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」においてみられる傾向であり、庵野秀明監督が抱く自問自答や対人関係の悩みが詰まったキャラクター性なのかもしれない。

「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」の軸に「ノスタルジーと最新技術の融合」があるとされているが、もう一つの軸として「他人と触れ合うことで感情表現や対人関係を知っていく」というものがあるのかもしれない。ノスタルジーという庵野秀明監督たち「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」の中核を担う人物たちの感情の源を最新技術によって探っていくため、『シン・ウルトラマン』などでは感想としてエモーショナルなものが多く上がったと考察できる。

『シン・仮面ライダー』で浜辺美波氏が演じる緑川ルリ子は「エヴァンゲリオン」シリーズだけではなく、「涼宮ハルヒ」シリーズなどで育ってきたオタクたちにも向けて、エモーショナルな「感想」を呼び起こすキャラクターだと考えられる。「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」で今後どのようなキャラクターが登場するのか。その展開にも期待したい。

映画『シン・仮面ライダー』は一3月18日(土)より全国の劇場で公開。

『シン・仮面ライダー』公式サイト

山田胡瓜 漫画脚本、藤村緋二 作画『真の安らぎはこの世になく―シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE―』第1巻は発売中。

『シン・仮面ライダー 音楽集』は2023年4月12日(水)発売で予約受付中。

キングレコード
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『シン・仮面ライダー デザインワークス』は4月28日(金)発売で予約受付中。

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発表済みキャストとキャラクターについてはこちらの記事で。

『シン・仮面ライダー』のネタバレ解説&考察はこちらの記事で。

 

『シン・仮面ライダー』の一文字隼人のネタバレ解説&考察はこちらの記事で。

『真の安らぎはこの世になく-シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』ネタバレ解説&考察はこちらの記事で。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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