『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』公開
「ジュラシック・パーク」シリーズ第6弾にして「ジュラシック・ワールド」三部作の完結編にあたる映画『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』が2022年7月29日(金)より日本全国の劇場で公開された。本作は『ジュラシック・ワールド』(2015) で監督を務めたコリン・トレヴォロウが再び指揮をとり、『パシフィック・リム:アップライジング』(2018) で共同脚本を務めたエミリー・カーマイケルが同監督と共に脚本を担当した。
俳優陣は、前作『ジュラシック・ワールド/炎の王国』(2018) からオーウェン役のクリス・プラット、クレア役のブライス・ダラス・ハワード、メイジー役のイザベラ・サーモンが続投。更に「ジュラシック・パーク」三部作からアラン役のサム・ニール、エリー役のローラ・ダーン、前作にも登場したイアン役のジェフ・ゴールドブラムも出演するオールスターキャストでシリーズ最終作に華を添える。
これまで約30年にわたって人類の倫理を問うてきた「ジュラシック・パーク」シリーズ。英語で「Dominion(主権/統治権)」日本語で『新たなる支配者』と題された最終作にはどんなメッセージが込められていたのか、そのラストを解説していこう。なお、以下の内容は重要なネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』の結末に関するネタバレを含みます。
『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』ラストネタバレ解説
『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』解説
シリーズ第二作目『ジュラシック・ワールド/炎の王国』では、自身がクローンであることを知ったメイジーが密売されようとする恐竜たちを解放。『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』の世界では既に野生の恐竜があちこちに棲むようになっていた。恐竜の闇取引が広がる中、国連はバイオシン社にイタリアのドロミティ山脈の一角で恐竜を保護することを一任したのだった。
『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』では、大手バイオテック企業のバイオシン社が恐竜の遺伝子を活用して人間のあらゆる病気を治すという野望を抱きながらも、恐竜の遺伝子を取り入れ、作物を食い荒らす巨大イナゴを生み出してしまう。そして、その失敗を修復するために史上初の人間のクローンであるメイジーと、ヴェロキラプトルのブルーの子ベータを拐い、その遺伝子を利用しようとしていた。
ブルーは一個体のみで子を生むことができ、メイジーを生んだシャーロットもまた研究の結果、一人での妊娠・出産に成功していた。しかもシャーロットはメイジーを生む際に病原体を利用して遺伝子組み換えを行い、メイジーが持っていた他の病原体を駆逐していた。バイオシン社で働くヘンリー・ウー博士はその遺伝子を応用して、巨大イナゴの誕生という自らの罪を滅ぼそうとしていたのだった。
ルイスの最後の意味
『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』は終盤からオーウェン、クレア、メイジー、アラン、エリー、イアン、そしてバイオシン社の広報で今回の内部告発者であるラムジー、元空軍パイロットのケイラが揃って行動する展開に。ここに、過ちを正したいと話すウー博士を加えた9人は、ギガノトサウルスと、ティラノサウルス、テリジノサウルスの戦いを尻目に燃えゆく保護区からヘリで脱出することに成功する。
一方で、バイオシン社のCEOルイス・ドジスンはエリマキを持つディロフォサウルスに殺されてしまう。実はこのシーンは第一作目『ジュラシック・パーク』のオマージュ。ルイス・ドジスンは、パークを運営していたインジェン社のライバル会社バイオシンの人間として第一作目にも登場している。冒頭で、パークで働くが安い給与に不満を持つシステムエンジニアのネドリーを買収した人物がルイスだ。
『ジュラシック・パーク』では、ルイスはネドリーに工作したシェービングクリームの缶を渡し、インジェン社の技術を盗むためにそこに恐竜の胚を入れるよう指示していた。ネドリーは缶に盗んだ胚を入れたが、雨の中でディロフォサウルスに殺されてしまった。そう、ルイスは自分が30年前に雇ったネドリーと同じ最後を迎えたのだ。
なお、このシーンの直前では、ルイスが自室の棚からそのシェービングクリームの缶を持ち去ろうとしている。『ジュラシック・パーク』では胚は土に埋れてしまっていたが、バイオシン社は缶を回収することに成功したのだろう。実は、この物語はスピンオフアニメの『ジュラシック・ワールド/サバイバル・キャンプ』(2020-2022) で描かれている。詳しくはこちらの記事で解説している。
それぞれのその後
事件の後、ドロミティ山脈の一角のバイオシン社が保護区としていた場所の跡地は、人間が「保護」するのではなく、恐竜が自由に生活できる場所に。『炎の王国』では、ロックウッドは「ハモンドの夢は恐竜の保護 (protection) ではなく人間の不在 (absence) だった」と話していた。奇しくもバイオシン社の跡地でインジェン社創業者の夢が叶う結末となった。
アラン、エリー、イアン、そしてラムジーの4人はバイオシン社の悪事について法廷で証言。ずっと独り身だったアランだが、今回は発掘に戻るのではなく、同じく一人になったエリーについていくことを決めた。
オーウェン、クレアとメイジーは家に戻り、ブルーのもとに子どものベータを帰してやる。ブルーとベータは再び自然へと帰っていくが、ブルーは一度オーウェンたちのもとへと引き返し、礼を言うかのようにアイコンタクトをとり、去っていくのだった。
パイロットのケイラは墜落した飛行機に代わる新機をゲット。おそらくバイオシン社から賠償が取れたのだろう。以前よりも大きい二代目の飛行機に「2」と描き入れて満足気な表情を浮かべている。
ウー博士は予告した通り、巨大イナゴの遺伝子組み換えに成功した様子。一匹のイナゴを群の中に解き放ち、爽やかなラストを迎える。ウーは劇中、遺伝子を組み替えたイナゴを群に入れれば一世代で駆逐できると話していた。
そして、『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』のエンディングは、メイジーの生みの親であるシャーロット・ロックウッドの言葉で閉じられる。シャーロットは、人類も恐竜も地球の長い歴史の一部でしかないこと、支配しようとするのではなく、互いを信頼し、頼り、共存していくことを説く。
映し出される世界は、恐竜たちが馬と共に走り、鳥と共に飛び、鯨と共に泳ぎ、象と共に歩む姿だった。動物たちは既に共生を始めている。人間にもそれができるはずだと、希望に満ちたメッセージを感じさせて「ジュラシック・ワールド」三部作は幕を閉じるのだった。
『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』ラスト考察&感想
これまでの「ジュラシック・パーク」シリーズは、人間の傲慢さや罪にスポットライトを当て、旧三部作では人間が神のように“創造すること”に批判的なメッセージを向けていた。しかし、J・A・パヨナ監督が指揮をとった『ジュラシック・ワールド/炎の王国』では、既に生まれた命との向き合い方に焦点が当てられた。それは、理論よりも実践の話であり、学者を主人公に置いてきた前三部作から、労働者が主人公になった新三部作を象徴する物語でもあった。
今回の『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』は、様々な立場の人間を総動員し、それぞれのキャラクターが“マシな選択”を選び取っていった。ラムジーはCEOに見込まれながらも正義のために内部告発をし、密輸業者だったケイラも児童誘拐を解決するためにクレアに手を貸すことを決めた。劇中、エリーはかつてジュラシック・ワールドの管理責任者として働いていたクレアに、過去に引きづられすぎると前に進めなくなると忠告する。
今ある現実、目の前の問題に対してどう動くか、どう生きるかということが大切だというメッセージが込められていたのが『新たなる支配者』のエンディングだったのではないだろうか。自然界に恐竜が解き放たれた以上、人間の力で恐竜をなんとかしようというあらゆる発想を捨てて、人類はこの事実を受け止め、謙虚に共存の道を歩んでいくしかないのだ。
一方で、ウー博士は巨大イナゴを自らの手で滅ぼした。「もう何もできない」と諦観に陥るのではなく、恐竜に食べられて終わりということでもなく、科学者が正せる過ちは償わせるというのも本作の結論の一つだろう。シリーズ第一作目の『ジュラシック・パーク』から登場し、科学者として悩み続けいてたヘンリー・ウー博士にその役割を担わせるというのが粋な点だ。
反省から実践へ、支配から共存へ。この標語は、環境保護の観点から見れば、人間が既に後戻りのできないところまで来てしまっているということの裏返しでもある。しかし、パンデミック後の新しい世界を生きる私たちには、また別の示唆を与えてくれるものでもある。
マイケル・クライトン原作のSF小説から、人間の罪を問う社会派のSF映画シリーズとして確固たる地位を築いた「ジュラシック・パーク」シリーズ。現実に生きる私たちは、新たなメッセージを届ける新シリーズの誕生を“阻止”できるだろうか。
映画『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』は2022年7月29日(金)劇場公開。
唯一の人間側の恐竜であるブルーについての考察はこちらから。
これまで「ジュラシック・ワールド」シリーズにしか出演してこなかったメイジー役のイザベラ・サーモンが語った今後についてはこちらの記事で。
プロデューサーが語った『新たなる支配者』後の続編の可能性についてはこちらの記事で。
日本で目撃された恐竜の情報はこちらから。