ネタバレ解説 一文字隼人の決断と覚悟『シン・仮面ライダー』ラストシーン考察 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説 一文字隼人の決断と覚悟『シン・仮面ライダー』ラストシーン考察

©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

ダブルライダーの戦いと覚悟を振り返る

2023年3月18日全国公開された野秀明監督最新作品『シン・仮面ライダー』(2023)。庵野秀明監督の7年ぶりの実写監督作品というだけあって注目を集める『シン・仮面ライダー』だが、そこにキャスト陣が各地にゲストビジット(行脚)する、視聴回数ごとに特典が付くなど、更なる興行成績の伸びが期待できる。また、2023年7月21日よりAmazon Primeより独占配信が開始されることも発表された。

 

3月18日(土)、3月19日(日)にキャストによるゲストビジットの実施が緊急決定

プロデューサーたちが「庵野秀明監督をアニメーション作品でも、実写作品でも100億円の興行成績を出した監督にしたい」と語るほどの意欲作でもあるシン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース最新作の『シン・仮面ライダー』。その中でも特に注目が集まったのは柄本佑氏が演じた一文字隼人/仮面ライダー第2号の存在だろう。

本記事では『シン・仮面ライダー』のラストシーンにおける一文字隼人/仮面ライダー第2号の動向についてネタバレ解説と考察をしていきたいと思う。

今回の記事は『シン・仮面ライダー』と脚本:山田胡瓜、作画:藤村緋二のスピンオフ漫画『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』のネタバレを含むため、本編視聴後および本編読了後に読んでいただけると幸福である。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『シン・仮面ライダー』および漫画『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』の内容に関するネタバレを含みます。

一文字隼人/仮面ライダー第2号としての決断

最後の戦い

池松壮亮氏演じる本郷猛/仮面ライダーはKKオーグ(カメレオン・カマキリオーグ)の凶刃を受けて命を落とした浜辺美波氏演じる緑川ルリ子の遺志を継ぎ、彼女の兄である森山未來氏演じる緑川イチロー/チョウオーグ/仮面ライダー第0号との最終決戦へと向かう。

柄本佑氏演じる一文字隼人/第2バッタオーグは風力を必要とせずに変身やプラーナの圧縮が可能な緑川イチローによる改良型のバッタオーグだった。一文字隼人/仮面ライダー第2号が風力無しで変身できるのは、テレビシリーズにおいて一文字隼人役の佐々木剛氏がバイクの免許を持っていなかったため生まれたという小ネタを「第2バッタオーグは緑川イチローによって強化されている」という設定にした巧い解釈だ。

一文字隼人は、緑川ルリ子に洗脳を解かれ、悲しみ記憶の洪水に襲われながらも赤い正義のマフラーを託されて仮面ライダーの名を継ぐことになる。群れるのを嫌い、ジャーナリスト故か政府ら権力側につくことを嫌って一人でショッカーと戦う道を選んだ一文字隼人/仮面ライダー第2号。

しかし、KKオーグ(カメレオン・カマキリオーグ)を倒して緑川ルリ子の仇を討った一文字隼人は緑川ルリ子から託された仮面ライダーの名と赤いマフラーの重責を受け入れ、ショッカー基地へと向かう本郷猛の後を追う。そして大量発生相変異型バッタオーグ(ショッカーライダー)に襲われる本郷猛/仮面ライダーの窮地を救うのだった。

圧倒的な量のプラーナを操る緑川イチロー/チョウオーグ/仮面ライダー第0号に劣勢となるダブルライダー。サイクロン号の自爆によってプラーナの供給を絶っても圧倒的に優位な立場の緑川イチローの立場は揺るがない。一文字隼人は勝つ見込みはあるのか本郷猛に訪ね、軽口を叩きながらも勝利の可能性に賭ける姿はスパイダーマンを彷彿とさせる。

両腕を折られながらも緑川イチロー/チョウオーグ/仮面ライダー第0号の仮面/マスクを頭突きで叩き割る一文字隼人。それにより一文字隼人の仮面/マスク、仮面ライダー第2号の象徴も失う。その代償によってダブルライダーは勝利を収めるも、緑川イチローは拒絶していた外の世界を受け入れて消滅、本郷猛も体を維持するプラーナを使い果たし消滅。孤独を好んでいたはずの一文字隼人は真に孤独なバッタオーグとなってしまった。

遺された者の重責

アンチショッカー同盟として孤独と言いながら互いを信用し、協力し合っていた緑川ルリ子と本郷猛/仮面ライダー。それとは異なり、真の孤独に陥ってしまった一文字隼人/仮面ライダー第2号。その重責は計り知れない。

一度は赤いマフラーを捨てようとするものの、政府の男こと立花と情報機関の男こと滝からプラーナによって本郷猛の仮面ライダーとしての魂が文字通り遺された仮面/マスクを託される。緑川ルリ子の赤いマフラーと本郷猛の仮面/マスクから「仮面ライダー」という名を受け継ぐ道を選んだ一文字隼人。その姿は先代から盾を引き継いだ『ファルコン&ウィンターソルジャー』(2021)のファルコン/2代目キャプテン・アメリカ/サム・ウィルソンを想起させる。

立花と滝との新たなるアンチショッカー同盟からコブラオーグというショッカーの新しい合成オーグメントの存在を知った一文字隼人は、強化スーツの新調とマスクの修理、新サイクロン号の調達を頼む。そして“二人で一人”の体を共有しながら一文字隼人/仮面ライダーが魂だけとなった本郷猛と語らいながら新サイクロン号で疾走する石ノ森章太郎作品の漫画版『仮面ライダー』(1971)と同じエンディングを迎えるのだった。

戦いつづけるということ

ここでキーワードになってくるのが「一文字隼人は政府関係者を嫌っていたジャーナリストだった」ということだ。本郷猛と一文字隼人が“二人で一人”の体を共有し、仮面ライダーとして戦い続けるという点は石ノ森章太郎作品の漫画版『仮面ライダー』と同じだ。

そうだとすれば、一文字隼人の背景も漫画版『仮面ライダー』と似たものだと考えられる。漫画版の一文字隼人は仮面ライダー2号となる前からフリーのカメラマン兼ジャーナリストとして不正と戦い続け、広島に投下された原爆に関する写真集『黒い雨を追って』を出版している。そのため、『シン・仮面ライダー』の一文字隼人も政府や権力者の不正を追っていたジャーナリストであり、仮面ライダー第2号になる前から悪と戦う正義の味方であったと考察できる。

これらのことから『シン・仮面ライダー』のラストシーンで一文字隼人が孤独の中で迷っていた理由は映画序盤の本郷猛と同じく他人の命を自らの手で奪うという葛藤、嫌悪していた政府や権力者と協力するか否か、そして悲しみの記憶の洪水による真の孤独の恐怖にあったと考えられる。

そして一文字隼人が仮面ライダー第2号として「仮面ライダー」の名を継いだのは、緑川ルリ子が「自分ではなく自分のプランを信じてくれ」といった本郷猛に対して「あなたを信じる」と返したように、本郷猛と緑川ルリ子たちのように人間の善性を信じてみようとした結果ではないだろうか。

新たなる“仮面ライダー”

仮面ライダーと仮面ライダー第2号

池松壮亮氏演じる本郷猛が変身する仮面ライダーのデザインは俗に「旧1号」と呼ばれるデザインで、顔に浮かび上がる手術跡などは漫画版を踏襲したものとなっていた。それは柄本佑氏演じる一文字隼人も同じで、一文字隼人の変身する仮面ライダー第2号も「旧2号」に似たデザインと設定になっている。

ここには庵野秀明監督たち「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」の根幹にある「ノスタルジーと最新技術の融合」というテーマによるものがあると思われ、緑川ルリ子の服装なども70年代をどこか思わせるものになっている。そのため、観客の多くが新しくスーツを変えたときの姿がどうなるのかに期待していた。

観客の大半が一文字隼人/仮面ライダー第2号が強化スーツを新しく新調し、仮面/マスクを修理した姿は「新2号」の姿が来ると思っていたことだろう。しかし、一文字隼人の強化スーツには二本の白いラインが入っており、その緑の仮面/マスクと合わせて「新1号」の姿そのものとなっていた。

新1号とは『仮面ライダー』第53話以降に登場した仮面ライダー1号の姿で、仮面ライダー1号が強化されたことで仮面ライダー2号と同様に風力を溜められるようになった姿とされる。同様に仮面ライダー2号が強化されたのが新2号と呼ばれる姿なのだが、テレビ版ではダブルライダーが新1号と新2号の姿に変化した理由などは明確に説明されていない。ここも庵野秀明監督による新1号への変身の巧い解釈だ。

これは余談になるが、『仮面ライダー』(1972-1973)のオープニング『レッツゴー!! ライダーキック』で「緑の仮面」と歌われているが、実際の旧1号の仮面/マスクの色は青に近い。これは庵野秀明監督と大学時代に学友だった島本和彦氏の自伝的漫画『アオイホノオ』(2007-)でもネタにされている。だからこそ、同じ大学で過ごした庵野秀明監督は本当に緑の仮面/マスクになった後に『レッツゴー!! ライダーキック』を歌詞付きでエンドロールに流したのかもしれない。

『アオイホノオ』 島本和彦 | ゲッサンWEB

真の孤独と真の結束

『シン・仮面ライダー』のラストシーンでは「新1号」の姿になった柄本佑氏が演じる一文字隼人/仮面ライダー第2号が新サイクロン号にまたがり独りで疾走するところが写されて終わるが、本当の意味で一文字隼人は孤独ではない。浜辺美波氏が演じる緑川ルリ子の魂とプラーナは安全な別空間に固定されていることが政府の男こと立花から告げられ、一文字隼人は仮面/マスクに固定された本郷猛の魂とプラーナと語らっている。

一見すると孤独だが、実際は命を落とした者たちの遺志を継ぎ、ショッカーとの戦いを続ける道を選んだことで真の孤独ではなく、真の結束を知った一文字隼人/仮面ライダー第2号。この点は外の世界は絶望に満ちているから人間たちを隷属させるか、肉体を捨てて嘘偽りのないハビタット世界に魂だけ旅立つしかないと考えた森山未來氏が演じた緑川イチローと対比となっているように思える。

『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』で深く語られているが、緑川イチローは部下のクモオーグやハチオーグ、サソリオーグにプラーナを利用して操った人、子供のころから共に過ごした外世界観測用自立型人工知能ケイに囲まれながらも世界は絶望に満ちているとして外界から隔離され孤独だった。それに対して仲間から受け継いだ遺志と魂によって結束を得た一文字隼人。これによって本郷猛と緑川イチローの対比から物語が一文字隼人と緑川イチローの対比に移り、主人公の交代劇を描いている。

また、仲間の遺志を継いで結束するという点は同じ「仮面ライダー50周年記念作品」である『仮面ライダーBLACK SUN』(2022)のラストシーンと共通しており、『シン・仮面ライダー』と『仮面ライダーBLACK SUN』はコインの表と裏のような、文字通り表裏一体の作品だったと言える。

一文字隼人による続編の可能性

ショッカー残党の存在

池松壮亮氏演じる本郷猛が柄本佑氏演じる一文字隼人/仮面ライダー第2号の体を介して、新サイクロン号のエンジンの音や風を感じるという語りで美しく終わった『シン・仮面ライダー』だが、ショッカーが壊滅したわけではない。一文字隼人は、政府の男こと立花と情報機関の男ことからコブラオーグの出現を告げられている。

二人の名前が、「昭和仮面ライダー」シリーズを語る上で外すことができない小林昭二が演じた「おやっさん」こと立花藤兵衛、『仮面ライダー』において本郷猛のバディとも言うべき存在だった矢吹郎氏が演じたFBI捜査官の滝和也から来ていることは明らかだ。この点も続編の可能性を匂わせる一つの要素だ。

そしてもう一つが、KKオーグ(カメレオン・カマキリオーグ)が話した死神派というショッカー内部派閥の存在だ。おそらく『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』に登場した死神と呼ばれたイワン博士の派閥であり、このイワン博士も『仮面ライダー』で天本英世氏が演じたイワン・タワノビッチ/死神博士/イカデビルがモデルであることも明かだ。他にもスピンオフ漫画の中ではコブラ男に関わった綾小路律子をモデルにしたと思われる綾小路も名前が登場している。他にもアメリカ支部ではAI「カイ」とゲル大佐をモデルにしたウルフソンの存在も明かになっている。

KKオーグ(カメレオン・カマキリオーグ)が死神派に属するカメレオンとカマキリのショッカー初の三種合成オーグメントなのは、『仮面ライダー』第5話「怪人かまきり男」と第6話「死神カメレオン」、第7話「死神カメレオン決斗‼万博跡」に登場した怪人をエピソード順につなげた結果であることがデザインからも考察できる。

しかし、複数の動物を組み合わせた怪人を生み出したのはショッカーではなく、『仮面ライダー』第80話以降に登場したショッカー首領がショッカーを見限り、アフリカ奥地を拠点とする密教集団ゲルダム団と合併させたゲルショッカーである。『仮面ライダー剣』(2004-2005)に登場したカメレオンとサソリの合成怪人のティターンのリメイク元になったサソリトカゲスを生み出したのもゲルショッカーである。

更に緑川弘博士は合成オーグメント(改造人間)の最高傑作は昆虫など節足動物との合成オーグメント(改造人間)と語っていた。コウモリオーグやKKオーグ、そしてコブラオーグなど脊椎動物との合成オーグメント(改造人間)を作った死神派たちが存在しており、彼らの人類を隷属下に置くという計画は今も続いており、一文字隼人/仮面ライダー第2号の戦いはまだ終わっていないのだ。

エンドロールのサプライズ

エンドロールでサプライズ的に流されたのは子門真人氏の『仮面ライダー』の主題歌や挿入歌だ。『シン・仮面ライダー』の劇中でも『レッツゴー‼ライダーキック』などのテレビシリーズの名曲がアレンジされて流されていたが、エンドロールではアレンジなどではなく原曲を流すことでノスタルジックな想いに浸らせてくれる。

最初に仮面ライダーの主題歌である『レッツゴー‼ライダーキック』の子門真人氏版が流され、そのあとに『ロンリー仮面ライダー』というテレビシリーズの三代目エンディング曲が流される。しかし「これで完結か」と観客が思った後に『仮面ライダー』の挿入歌である『かえってくるライダー』で締められるのだ。

順番でいえば主題歌、挿入歌、エンディング曲なのが妥当とも言えるが、『シン・仮面ライダー』では主題歌、エンディング曲の後に挿入歌の順番で流されることに意味があるように思える。挿入歌の中でも選ばれたのが『かえってくるライダー』なのが、MCUにおける「~は帰ってくる」というエンディング後の予告のように思えてならない。

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死神派との決着はつくのかどうか。現時点では「シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバース」の最新作の情報は公開されていない。しかし、イベントなどは開催されており、シン・ジャパン・ヒーロー・ユニバースというユニバース自体が閉じたものではないことは明らかだ。今後の情報公開に期待したい。

映画『シン・仮面ライダー』は2023年7月21日(金)よりAmazon Primeにて独占配信開始。

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庵野秀明監督が明かした『シン・仮面ライダー』続編構想の考察はこちらから。

3月23日(木)に発表されたシークレットキャストとそのキャラについての解説はこちらの記事で。

公開前に発表済みだったキャストとキャラクターについてはこちらの記事で。

『真の安らぎはこの世になく-シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』ネタバレ解説&考察はこちらの記事で。

『シン・仮面ライダー』のネタバレ解説&考察はこちらの記事で。

ラストの本郷猛と緑川イチローの対決の解説と二人の対比はこちらの記事で。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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