『アバター2』/『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』で見せたジェームズ・キャメロン監督の映像美と活動家の顔 | VG+ (バゴプラ)

『アバター2』/『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』で見せたジェームズ・キャメロン監督の映像美と活動家の顔

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CGI映画の金字塔的作品『アバター』。その13年ぶりの再始動となる『アバター2』として制作された『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』。監督は「ターミネーター」シリーズで人類の行き過ぎた科学へ警鐘を鳴らし、『エイリアン2』(1986)や『アビス』(1989)で新技術を映画に取り入れ、『タイタニック』(1997)では映画史に残るロマンスを撮ったジェームズ・キャメロン監督である。

ジェームズ・キャメロン監督は以前より海へ強い関心を抱いており、大学時代は海洋生物学を専攻していた経験もある。さらにはドキュメンタリー作品として『クジラと海洋生物たちの社会』(2021)を撮影するなど、その関心は映像制作にも影響している。

伝説的な映画監督でありながら常に新しい技術を取り入れ続けるジェームズ・キャメロン監督。彼が『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』ではどんな新技術を取り入れ、新しい試みを行ったのだろうか。

模型製作者として始まったキャリア

前述の通り、「アバター」シリーズや「ターミネーター」シリーズに『タイニック』と今日では伝説的な監督として有名なジェームズ・キャメロン監督だが、そのキャリアの初期は模型製作者だった。彼は「スター・ウォーズ」シリーズを観て、映画業界へ入ることを決意。そこで低予算映画の仕事を中心に多忙な日々を過ごしながら「スターウォーズ」のパロディ的作品『宇宙の7人』(1980)に関わることになる。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』での映像美を語るのに、なぜジェームズ・キャメロン監督が模型製作者だった時代の話をするのか。その理由は簡単で、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』で見せた新技術の源流には、模型製作者時代から続くチャレンジ精神があるからだ。

ジェームズ・キャメロン監督は『ギャラクシー・オブ・テラー/恐怖の惑星』(1981)で美術全般を任されると、弁当容器の廃材を利用し、見事な宇宙船内の装飾を作り上げた。これを約12ドルで済ませたというというから驚きだ彼は創作の原点にアマチュア画家だった母親の存在を挙げているが、この時点で「やってできないことはない」精神があったと言える。

『エイリアンズ』で見せたごみ袋の女王

ジェームズ・キャメロン監督の代表作品の一つに『エイリアン2』がある。『エイリアン2』では新技術を技術班と共に作り上げ、同作は「ターミネーター」シリーズと共にハリウッドの戦う女性像に影響を与えた作品としても有名だ。彼はこの作品にかなりの思い入れがあり、当初は自身の制作の源流である母親の影響から題名を『Mother』とした。ジェームズ・キャメロン監督が『エイリアン2』ではなく原題の『エイリアンズ』と呼ばないと怒るのはちょっとした逸話だ。

『エイリアン2』の最大の見どころといえばエイリアン・クイーンとシガニー・ウィーバー氏演じるエレン・リプリーの母親対決だが、このエイリアン・クイーンの精密な動きや撮影は困難を極めた。しかし、ジェームズ・キャメロン監督は「やってできないことはない」精神の持ち主であり、なおかつ「不可能」を嫌う監督だった。そこで今でも映画の第一線で活躍するスタン・ウィンストンのスタジオの若いクリエイターたちと共に発泡スチロールとごみ袋で実寸大の模型を作り、操作した。

いまでこそ、このときに参加した若いクリエイターたちも業界で名の知れたクリエイターになっているが、ジェームズ・キャメロン監督の指示の無理難題さ、そして彼の求める映像美への飽くなきこだわりは相当印象に残ったらしく、「ごみ袋で試す」は仲間内の一種のジョークにもなっている。また、彼のミリタリーマニアとしてのこだわりも相当なもので、当時の俳優たちは寝ても夢に見るまで細かく指導された。

「水」への挑戦

ここまでジェームズ・キャメロン監督が映像美にこだわる監督なのかを書いてきたが、『エイリアン2』と「ターミネーター」シリーズなどで培っていった技術を使い、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』で海の映像美につながる作品を撮影していく。その代表例が『アビス』だろう。

ここでは動き回る水の描写として、CGIを導入した。このときにCGIを担当したのはILMという制作会社のアニメーションスタッフであり、彼らは『ジュラシック・パーク』(1990)で映画史にCGIやVFXというコンピューター技術を定着させたスタッフである。この液体の表現は『ターミネーター2』(1991)に繋がり、ジェームズ・キャメロン監督の中で液体のより精緻な描写への挑戦のきっかけになったと思われる。

そしてCGIだけではなく、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』へと繋がる重要なジェームズ・キャメロン監督の精神性にリアリティの追及がある。その代表例が『タイタニック』だろう。彼はCGIだけではなく、俳優たちのリアルな演技を求めた。そこに彼の水の映像美が混ざり、『タイタニック』では俳優たちに巨大な船のセットと冷たいプールに浸かってもらうことになった。

『タイタニック』の現場ではジェームズ・キャメロン監督の完璧主義も相まって俳優たちは長時間冷たい水に浸かり続け、主演のケイト・ウィンスレット氏は余程の“大金”でも稼がないかぎり、ジェームズ・キャメロン監督との仕事はしたくないと皮肉っている。だが、『アバター2』にあたる『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』でケイト・ウィンスレット氏がメトケイナ族のツァヒクのロナルを演じてくれたということは、彼女を納得させるだけの映像美があってこそといえる。

なぜならば、今回の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』ではCGIで描く惑星パンドラの海洋生物たちの美しさに加え、俳優たちにも水の中で泳ぐリアリティを追及させるために深さ9メートルの巨大なタンクで泳いでもらっているからだ。そのため、俳優たちはナヴィたち同様に息を長時間止めることを求められ、訓練の賜物でケイト・ウィンスレット氏はハリウッド最長と言われる7分以上も水中で息を止め続けた。この病的ともいえるほどの映像の作りこみが『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の大海原の美しさにつながっている。

大海原への熱意

ジェームズ・キャメロン監督の映像美へのこだわりを調べていくと、俳優たちから“ハリウッドで最も怖い男”と揶揄されるぐらい完璧主義であり、冷酷にも思えるほどのこだわりを持つ監督であるように思えてくる。しかし、それは彼の一面でしかなく、ジェームズ・キャメロン監督は自身の作品はエンターテイメント作品であり、ラブストーリーと語るなど人間の感情の機微へのこだわりも垣間見せる。それは映画の中だけにはとどまらない。

現実世界でのジェームズ・キャメロン監督は環境問題に熱心に取り組む活動家としても有名であり、2010年にはメキシコ湾原油流出事故を解決するための会議に米連邦当局の依頼を受けて出席するなどしている。さらには酪農の環境負荷を理由にヴィーガンになったことを公表している。

ジェームズ・キャメロン監督は海の探検家としても有名であり、実物のタイタニック号にも潜っている。そんな海の探検家であり、大学時代に海洋生物学を専攻していたほどの情熱を持った彼は、旧友であるシガニー・ウィーバー氏と共に3年かけて制作しエミー賞作品賞を受賞したドキュメンタリー『クジラと海洋生物の社会』ではトゥルクン(タルカン)の原型ともいえるクジラへの思いを明かしている。

ジェームズ・キャメロン監督はクジラやイルカの脳の大きさに触れながら、クジラたちが文化的かつ知的な生物であるかを述べている。これは『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』でのメトケイナ族の考えるトゥルクン像そのままだ。そして反捕鯨だけではなく、軍隊の船舶などが発するソナー音や海洋ごみによるクジラたちへの騒音問題も批判しているが、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』でも人類がトゥルクンに対して音響兵器を用いるなど、作中演出にもその影響があるように思える。

前述の通りヴィーガンになったのも、少しでも肉や乳製品を摂らない生活をする人間が増えれば自然環境への負荷を抑えられると思ってのことであり、ジェームズ・キャメロン監督の根底には大海原への熱意があると言える。これらに関する問題を扱ったNetflix制作のドキュメンタリー『ゲームチェンジャースポーツ栄養学の真実』に携わり、そこでは肉や乳製品といった環境負荷の高い食べ物に関する自らの考えと研究結果をもとに最もタンパク質を摂取できる環境負荷の低いヴィーガン向け食品を調査している。

そして、ドキュメンタリー『クジラと海洋生物の社会』の制作に関するインタビューを受けた際には、アイデンティティの問題や家族の問題、そして自分たちの生活の延長線上の問題として海洋問題に取り組んでほしいと語っており、『アバター2』/『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』はある意味で『クジラと海洋生物の社会』の延長線上にある作品なのかもしれない。

彼が「アバター」シリーズの13年ぶりの再始動作品として『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を制作した背景には、最新の映像技術と俳優たちの演技によるリアリティ溢れる映像美と、そこで家族やアイデンティティを描き、それと海を繋げて描くことで2050年には魚の総重量を海洋プラスチックごみが越えると言われるほど深刻な海洋問題に向き合ってほしいという思いがあるのかもしれない。

『アバター3』ではジェームズ・キャメロン監督は山や砂漠、北極のような極地を描きたいと語っているが、そこではどのような最新技術とリアルな演技を俳優たちにしてもらうための工夫が凝らされているのか。そしてジェームズ・キャメロン監督自身の環境問題への思いがどのような形で込められるのか。期待が高まる。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は2022年12月16日(金)より劇場公開。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』公式サイト

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のオリジナル・サウンドトラックは発売中&配信中。

『アバター』はエクステンデッド・エディションのBlu-rayが発売中。

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『アバター2』のネタバレ解説&考察はこちらの記事で。

ジェイクが見せた家父長的態度についての考察はこちらの記事で。

子ども達に焦点を当てたネタバレ考察はこちらから。

『アバター3』の考察はこちらから。

前作『アバター』のネタバレ解説&考察はこちらから。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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