『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の前に前作を振り返り! 『アバター』ネタバレ解説&考察 | VG+ (バゴプラ)

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の前に前作を振り返り! 『アバター』ネタバレ解説&考察

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『アバター』(2009) は監督・脚本・製作・共同編集をジェームズ・キャメロン監督が務め、『タイタニック』(1997) を越えて歴代世界興行収入1位となり、一度は『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019) に塗り替えられるも、その後の中国での再公開で1位の座を奪還。その美麗なCGIは批評家からも高く評価され、アカデミー賞では作品賞と監督賞を含む9部門にノミネートされ、美術賞、撮影賞、視覚効果賞を受賞。近年のCGI映画の流れを作った金字塔的作品である。

その最新作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が2022年12月16日(金)に日本でも公開される。その前に前作の物語と、『アバター』が与えた影響を解説し、考察していきたい。なお、この記事には『アバター』のネタバレが含まれるため、ご注意いただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『アバター』(2009) の内容に関するネタバレを含みます。

最前線を走り続ける伝説

ジェームズ・キャメロン監督は『アビス』(1989) でSFXによる水などの描写でアカデミー賞の視覚効果賞を受賞しており、その点から今回の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』での海の描写に注目が集まっている。また、先住民族ナヴィと人類の懸け橋になるグレイス・オーガスティン博士役のシガニー・ウィーバー氏とは『エイリアン2』(1986) のエレン・リプリー役からの付き合いである。シガニー・ウィーバー氏は「エイリアン」シリーズを通して、「ターミネーター」シリーズと共にハリウッドにおける戦う女性像を確立したと言われ、「ゴースト・バスターズ」シリーズなど多くのSF作品に出演している。

実際、シガニー・ウィーバー氏がもたらした影響は偉大であり、英米合同制作のSFコメディ映画で、主演と脚本をサイモン・ペッグ氏が務めた『宇宙人ポール』(2011) では宇宙人との戦いに長けた英雄的な存在「ビッグ・ガイ」を演じ、様々なホラー映画のオマージュの込められた『キャビン』(2012) では黒幕である館長を演じるなど、ハリウッド作品には欠かせない名優となっている。グレイス・オーガスティン博士は『アバター』の中で死んだような演出がされているが、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』で胸を貫かれて死んだはずの悪役的な人物のスティーヴン・ラング氏演じるマイルズ・クオリッチ大佐と共に復帰することが報じられている。

SFによって描かれる社会問題

『アバター』の主人公のサム・ワーシントン氏演じるジェイク・サリーは元海兵隊員の退役軍人であり、戦地での負傷で下半身が不随になっている。そこでかかる莫大な医療費を支払うためにジェイクの兄で科学者のトミーは惑星パンドラへ旅立つ計画に参加していたが、出発一週間前に強盗事件により死亡。ジェイクはトミーとのDNAの一致や報酬などを理由に計画に参加し、惑星パンドラへと旅立った。退役軍人の生活難はベトナム戦争からイラク戦争にいたるまで、今もなお続くアメリカの社会問題であり、国民皆保険制度のないアメリカでは医療費による破産などは身近な社会問題の一つである。

彼ら軍人はRDA社という企業に雇われた存在であり、その企業も二人のエンジニアがシリコン・バレーのガレージから始めたというマイクロソフトなどのIT新興企業を思わせる次世代のアメリカン・ドリーム的なものである。ジェームズ・キャメロン監督は「『アバター』は反米的映画ではない」と否定はしているが、その一方で侵略者と先住民の関係性、文化相対主義、IT新興企業による新世代のアメリカン・ドリーム、ベトナム戦争からイラク戦争まで続く中東の混乱とアメリカ軍の関係など、アメリカの負の側面を描いていることは間違いないだろう。

惑星パンドラは地球人類が喉から手が出るほどほしい希少な鉱石「アンオブタニウム」を多く有している惑星だが、その大気は人類の生存には適さない。さらに現住生物は天然の炭素繊維の骨格を持つ強靭な肉体のため、ジェイクらはナヴィの遺伝子と人間の遺伝子を掛け合わせたアバターと神経を繋げることによって惑星パンドラで活動する。

世界観は人類側とナヴィ側という対立構造で語られることが多いが、作品をよく観ていくと資本主義で利益を最優先としているIT富裕層、彼らの手足となって現場で働くエッセンシャル・ワーカーの軍人たち、そして先住民ナヴィと彼らの文化と惑星パンドラの自然を守りたい人々という三すくみの構造によって成り立っていることが読み取れる。皮肉にも、このような三つの対立構造は近年注目されているものであり、グレタ・トゥーンベリ氏が牽引する環境保護議論やコロナ禍によって浮かび上がってきたこれまでのエッセンシャル・ワーカー軽視の姿勢などと似ており、ジェームズ・キャメロン監督ら制作陣の社会への眼差しが強く感じられる。

ナヴィ側に対する人類の描写にも嫌なほどリアリティがあり、ジョヴァンニ・リビシ氏演じるRDA社員のパーカー・セルフリッジやスティーヴン・ラング氏演じるマイルズ・クオリッチ大佐がナヴィらを野蛮人扱いする発言、さらにはオマティカヤ族が過去に人類がつくった学校によって英語を話せるようになったという経緯や過去に人類の文化を伝える教育計画があった設定はアメリカなど各国の同化政策を想起させ、アイヌなどの歴史を思えば日本人も耳が痛い。その点では『ゴールデンカムイ』(2014-2022)や『プレデター:ザ・プレイ』(2022)がヒットしている現在の日本にはより受け入れやすい作品になっているかもしれない。

映像美と「もしも」の歴史

『アバター』では、ジェームズ・キャメロン監督の手腕によって、これらの社会批判的要素を交えつつも、惑星パンドラの独自の生態系や言語を美しく描き、観客が本当に宇宙旅行をしているような気持ちにさせてくれる。主人公にあえて元軍人だが半身不随になって希望を失い、似たDNAを持つという理由で派遣されたジェイク・サリーを据え、その視点を通して惑星パンドラの不可思議で神秘的な美に満ちた世界に触れさせることで、観客の心をがっちりとつかんで離さない。ある意味、ジェイクが無知であるが故にシガニー・ウィーバー氏演じるグレイス・オーガスティン博士の解説が冗長な説明台詞にならないのだ。

この作品を観る上で理解すべきは文化相対主義だろう。文化相対主義とは、大雑把に言えば文化は優劣で比べられるものではなく平等であり、文化の洗練さは外部からの価値観では測ることはできず、自身の文化を相対的に把握した上で相手側の価値観や文化を差別せずにありのまま理解すべきという考え方である。女子割礼の問題など、文化相対主義も完ぺきとは言い難いが、この作品では地球側の文化(正確に言えば欧米側、特に白人の文化)の方が優れていると考える人類がナヴィの文化に触れていく中で考えを改め、そして自分を見つめ直す展開が中心となっている。そういった意味では「ブラックパンサー」シリーズなどにも通じるものがあると言える。

文化相対主義は現実社会でも大きな問題の一つであり、日本でいえば明治時代、欧米列強に近づくためには欧米化しなければならない、日本の文化とは遅れたものだから捨て去らなければならないというものがあった。この時代には三味線や琴に否定的でドレミファソラシドの欧米にの音階の方が軍事的に優れているとされた。

これらの議論はナショナリズムにも成り兼ねないが、歴史的に欧米によってアジア等は「自身の文化は遅れているから欧米化しなければならない」という考えにとらわれた背景があり、文学研究者エドワード・サイードは自身の著書『オリエンタリズム』の中で、東洋趣味を意味するオリエンタリズムには帝国主義的側面があると批判し、それによって当事者たちが自分たちは欧米に比べて劣っていると考えて欧米の考えるオリエント像に合わせてしまう「オリエントのオリエント化」を招いたと訴えた。『アバター』はある意味では「ブラックパンサー」シリーズのように、そのような「欧米による負の支配に抵抗できたならば」という思いが込められているようにも感じられる。

いくつもの対立構造

実際、ジェイク・サリーはゾーイ・ザルタナ氏演じるオマティカヤ族のネイティリからナヴィの文化と考え方を、そしてグレイス・オーガスティン博士とジョエル・デヴィッド・ムーア氏演じる人類学者ノーム・スペルマンから文化相対主義や異文化理解を学び、希望を失った無自覚な白人至上主義的ともいえる人類至上主義の軍人から立ち直っていく様子が惑星パンドラの自然の中で描かれ、その映像美に観客は目と心を奪われることになる。特にネイティリの絆という言葉はRDA社たち人類側と対立的な眼差しとして描かれ、ナヴィは数多の生物と後頭部の髪の毛のようなフィーラーという神経を使って繋がることで共存することができる。

自然を支配しようとして地球を壊滅に追いやった人類と、自然との共存の道を選んだナヴィ。この対立構造がジェイクらに大きな影響を与えていく。特にジェイク・サリーはまるで『胡蝶の夢』のようにアバターとしての人生を本当の人生と考えるようになり始めている。人類至上主義として侵略者であり続けるためにRDA社に従属し続ける人生か、ナヴィとして自然のあるべき姿を守る人生かの岐路に立たされるのだ。

ディズニー作品で痛烈な批判を浴びた白人男性とネイティブ・アメリカンの女性の恋愛を描いた『ポカホンタス』(1994)や「白人の救世主」の側面を孕みかねない過去作から続く設定を、ジェームズ・キャメロン監督はジェイク・サリーの思想の変化を過去の自分と現在の自分の対立構造として巧く差異化させているように感じる。

この作品の中には母星である地球すら食い尽くした人類と惑星パンドラの自然と共存するナヴィ、本質を見失ったIT長者とエッセンシャル・ワーカーの軍人と自然環境や文化を守りたい人々、そして過去の自分と現在の自分の思想の変化といった複数の対立構造が隠されていると考えられる。ほかにもIT長者たちの冷笑的な態度をとることで議論から逃げる様子やマジョリティによるジェイクらとナヴィの分断と結束を恐れる姿勢などは、2022年の現実にも通じるものがある。これらを踏まえてもジェームズ・キャメロン監督らの先見の明というよりも、2009年の時点から偽りの平穏ともいうべき社会に隠されていた問題に対する眼差しを感じ取ることができる。

大海原へと泳ぎだす

翼竜のマウンテン・バンシーに乗り、そしてトゥルーク(最期の影)とも呼ばれるグレート・レオノプテリックスと絆を結んで15の部族をまとめ上げるトゥルーク・マクトになったジェイク・サリー。RDA社とマイルズ・クオリッチ大佐による空爆を地の利を活かし、結束することで打ち破り、ナヴィとして生きる道を選んだ彼らだったが、物語はそれでは終わらない。

人類の再来により、彼らは再び惑星パンドラを守るために結束することになる。舞台は大空から大海原へと移り変わり、ニュージーランドの先住民族マオリやメラネシア人の方々をモデルとし、マオリの俳優らが演じる海洋民族のメトケイナ族と共に自然と尊厳を守るために戦うことになるナヴィたち。CGI映画の歴史の転換点ともなった「アバター」シリーズが、2050年には海洋プラスチックが魚の総重量を越えると言われている昨今の社会情勢の中で何を描くのかに期待が高まる。

『アバター』はエクステンデッド・エディションのBlu-rayが発売中。

ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
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『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は2022年12月16日(金)より劇場公開。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』公式サイト

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の特報映像はこちらから。

【ネタバレ注意】『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のネタバレ解説はこちらの記事で。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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