ネタバレ考察『アバター2』/『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のジェイクはなぜ家父長的態度を見せるのか | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ考察『アバター2』/『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のジェイクはなぜ家父長的態度を見せるのか

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2009年に公開されたジェームズ・キャメロン監督のCGI映画の金字塔『アバター』。13年の時を経て『アバター2』として制作された『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』はこれから始まる「アバター」シリーズの5部作の起承転結における“起”にあたる作品だ。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の中では海と家族が中心に描かれるが、多くの視聴者にとって主人公のサム・ワーシントン氏演じるジェイク・サリーのヘテロ中心の家父長制が心にひっかかってしまうポイントになっている。その理由は何なのか。それについて考察していきたいと思う。

なお、本記事には『アバター2』にあたる『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のネタバレが含まれるため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の内容に関するネタバレを含みます。

ナヴィの部族内構造

惑星パンドラの先住民族であるナヴィたちのコミュニティは家父長制に近いが、一方でそうとも言い切れない独特な部族内の階級を持つ。まず、族長は基本的に男性であり、彼らがその部族を取り仕切る政治的な指導者の立ち位置にある。そして、その妻に選ばれる女性はツァヒクと呼ばれる惑星パンドラの自然神エイワの意志を汲み取る巫女として位置づけられている。

このツァヒクという立場が特殊であり、族長はその部族の戦士階級から選ばれるが、ツァヒクは族長の第一子の娘が母親から薬草などの伝統的な知識を受け継ぎ、呪術医的な側面を受け継いで就任するのである。ある意味でいえば、ツァヒクの方が貴族などに近い血統で選ばれる存在なのだ。

ジェイクが族長を務めていたオマティカヤ族では、元々はCCH・パウンダー氏演じるモアトがツァヒクの立場を務め、その娘でありジェイクと結婚したゾーイ・ザルタナ氏演じるネイティリがツァヒクの跡を継ぐことが示唆されていた。『アバター』でジェイクを受け入れる際や族長のウェス・ステュディ氏演じるエイトゥカンが死亡した後は、モアトが部族を仕切っているような描写も見受けられた。

戦争による家父長制化

そのような文化を持つはずのナヴィやオマティカヤ族がどうして『アバター2』にあたる『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』では強いヘテロ中心の家父長制になってしまっているのか。それにはジェイクの持つ家族の喪失への恐怖が関係していると考えられる。

そもそも、『アバター』で元海兵隊の退役軍人であるジェイクが惑星パンドラへと来訪した理由は、実の兄であるトミーが、軍人年金では賄いきれないジェイクの戦争による半身不随の治療費を稼ぐために惑星パンドラに向かうはずが直前で強盗に殺害されたことにある。この時点でジェイクは家族の喪失に内心で恐怖心を抱いているように思える。

『アバター2』として『アバター』から約10年後を描いている『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の冒頭では過度な家父長制は顔を出さず、ジェイクとネイティリはオマティカヤ族として幸せな家庭を築いているように見えた。しかし、それは人類(スカイ・ピープル)の再来で一変する。

一度は捨てたはずのライフルを再び手に取り、殺人に手を染めることになるという矛盾した立場に置かれるようになったジェイクはオマティカヤ族のジェイク・サリーから“海兵隊”部族と称されたジェイク・サリーへと戻ってしまっているのだ。それを表すように人類との戦いの中では息子たちに「集合」「解散」「任務」「命令の遂行」「謹慎」と軍隊的な指示を下し、連絡時にはデビルドッグとイーグアイというコードネームで呼び合うなど完全に海兵隊と同じ手法をとるようになっている。

息子たちも軍隊的な返事をするようになり、オマティカヤ族の戦士というよりも“海兵隊”部族の戦士という印象だ。長男のネテヤムが怪我をしても軍隊的な対応をしており、ロアク(ローク)に対しても「謹慎処分」を下す姿は海兵隊そのものである。更には戦いの後に逐一ライフルの整備を行い、ネイティリも『アバター』での姉と父の死からその海兵隊的行動を受け入れている上、ジェイクは彼女だけに「息子を喪うかと思った」と恐怖心を吐露するなど、完全に家族の喪失の恐怖心に支配されている。

メトカイナ族とのやり取りの中で見える家族像

ジェイクは家族の喪失への恐怖心からネイティリの反対も強引に押し切り、オマティカヤ族のハイ・キャンプを離れ、数多の部族を束ねる名誉ある戦士の称号であるトゥルーク・マクトの座すら捨ててメトカイナ族に身を寄せる決断を下す。このときの恐怖心からの行動は家父長的態度が極まっている描写だ。ネイティリら家族の「家はここ(ハイ・キャンプ)だ」という反対すらも耳に入らないほどに恐怖心に取りつかれている。

メトカイナ族に身を寄せるようになっても、その家父長制的な強引さは続き、子供たちに対する態度などは観ていて顔をしかめてしまうような演出も見られる。ジェームズ・キャメロン監督はNetflix制作のドキュメンタリー『ボクらを作った映画たち』の『エイリアン2』(1986)を取り扱ったエピソードの中で家族像へのこだわりについて語られているが、そこでは家父長制ではなく母親への強い愛情について語られていた。

「アバター」シリーズでも共演しているシガニー・ウィーバー氏とタッグを組んだ『エイリアン2』だが、その主軸はシガニー・ウィーバー氏演じるエレン・リプリーとエイリアン・クイーンとの母親対決である。彼は当初、映画のタイトルを『Mother』としていたなど、自身の創作の源流にはアマチュア画家で意志の強かった母親の存在をあげている。それを反映するように『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』には母親に執着するキリなどのキャラクターが登場する。そのようなジェームズ・キャメロン監督がなぜ家父長的態度の強いジェイク・サリーを描いたのだろうか。

「アバター」シリーズの起承転結の“起”の『アバター2』

それを考えるためには『アバター』をエピソード0と考えたときに、『アバター2』である『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は「アバター」シリーズ5部作の起承転結の“起”にあたる作品であることを考慮すべきである。この構造はある意味で最初の作品を前日譚のような扱いにした「マッドマックス」シリーズに近いかもしれない。

ジェイクは何かと「父親の役割」「父親として自分が家族を守らなければ」と口にする。その一方でネイティリも家族を守るためのオマティカヤ族で反人類的な戦士としての一面と、人々の心に寄り添うツァヒクの一面を見せる。ジェイクは家族を守るためにレジスタンス活動から手を引いたとはいえ、何かと危険から守るために家族を束縛しようとする。この性格は完全に“海兵隊”部族のジェイクだ。

それに反発するかのように子供たちはメトカイナ族の子供たちや、トゥルクン(タルカン)のパヤカンと絆を結んでいく。そしてスティーヴン・ラング氏演じるマイルズ・クオリッチ大佐の率いる捕鯨船S-76シードラゴンとの戦いで長男ネテヤムを喪い、更にその口から「家に帰りたい」という言葉を聞くことで家族の本音と向き合うことになる。クオリッチ大佐は息子であるジャック・チャンピオン氏演じるスパイダーとの間のぎくしゃくした関係性が家父長制的なジェイクの鏡映しの関係になっているようにも思える。

そしてメトカイナ族たちナヴィは辛勝を収めるも、ジェイクは父親の役割について再び考え始める。この作品が『アバター2』/『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』という名の「アバター」シリーズの起承転結の“起”であると評したのはこれが一因だ。ここからジェイクの家族像と父親像をめぐる物語がはじまり、シガニー・ウィーバー氏演じるグレイス・オーガスティン博士のアバターが出産した父親不明のキリといった家族全体の物語がはじまるのだ。

「アバター」シリーズのはじまり

『アバター3』をはじめとして、『アバター4』や『アバター5』まで既に制作に着手しているという「アバター」シリーズ。『アバター2』である『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は素晴らしい海の描写と映像美と共に「アバター」シリーズの13年ぶりの再始動となった。3時間近い大作ではあるが、これはまだほんの序章に過ぎないと感じさせてくれる。

シガニー・ウィーバー氏は『エイリアン2』に関するインタビューの中で、ジェームズ・キャメロン監督らとの仕事によって、ハリウッドがセクシー服を着てぴったりと主演俳優に抱き着き、同情を誘い、泣き叫ぶような女性像から、どこにでもいる強い女性像を描く転換点になったと語っている。それを考えれば、ジェームズ・キャメロン監督は「アバター」シリーズの新たなはじまりである『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』で従来のハリウッドが描きがちな男性像に訴えるものを作ろうとしているのかもしれない。

しかし、これはまだ憶測の域を出ない。なぜならば、すべてはまだ始まったばかりであり、これから約2年に一本のペースで「アバター」シリーズは新たな作品を公開していく過程にあるのだ。環境問題など、社会問題に関して熱心な活動家としても知られるジェームズ・キャメロン監督。彼がジェイク・サリーを通して何を訴えかけたいのか、その今後に期待していきたい。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は2022年12月16日(金)より劇場公開。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』公式サイト

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のオリジナル・サウンドトラックは発売中&配信中。

『アバター』はエクステンデッド・エディションのBlu-rayが発売中。

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『アバター2』のネタバレ解説&考察はこちらの記事で。

『アバター3』の考察はこちらから。

前作『アバター』のネタバレ解説&考察はこちらから。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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