ネタバレ解説&考察『マトリックス レザレクションズ』20年を経て変わったメッセージとは? | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説&考察『マトリックス レザレクションズ』20年を経て変わったメッセージとは?

(C)2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

“マトリックス”シリーズ最新作『マトリックス レザレクションズ』公開!

2021年12月17日(金)、”マトリックス”シリーズ最新作『マトリックス レザレクションズ』が日本で世界最速公開された。劇中には意外な日本の登場シーンもあるが、それは見てのお楽しみ。さて、20年の時を経て再び語られた『マトリックス レザレクションズ』とは一体どういう物語だったのだろうか? 早速ではあるが、前三部作と比較しつつその内容に踏み込んだ考察をしていきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『マトリックス レザレクションズ』の内容に関するネタバレを含みます。

『マトリックス レザレクションズ』ネタバレ解説&考察

機械と人間の関係

『マトリックス』という作品は、多くの優れた作品がそうであるようにその時々に時代を反映してきた。その第一弾が公開された1999年時点ではまだインターネットは黎明期と言ってよく、現在のように一人一人がスマホを持ちいつでもどこでもネットに接続できるような環境ではなかった。そのような時代にあって、機械に”接続された”人々が暮らす世界こそを”現実”として描いたのは今にして思えば先駆的な表現だ。

しかし、それから約20年後の2021年に公開された『マトリックス レザレクションズ』では機械と人間の関係の描写はかつて描かれた「支配‐被支配」というような二項対立的なものではなかった。ネオたちが所属する”アイオ”という人類集団の中にも「味方」の機械は存在しており、他ならぬネオ自身がその機械の手助けによって覚醒することができたのだった。

ここには「機械か、人間か」という二者択一の絶滅戦争的な状況から、機械と共存しながら生き延びる道を模索する「多様性」の表現へのシフトが見られる。

幼い英雄主義との訣別

第一作の『マトリックス』では、ネオを覚醒させたモーフィアス自身が「マトリックスは社会だ。敵は社会だ」と言っていた。そして“マトリックス”内に生きる人々を「我々が救おうとしている人々だ。だが今はマトリックスの一部で、つまり敵だ」とネオに語っていた。つまり、”蒙昧な大衆”と”それを導く我々”という古臭いエリート主義が味方側の論理として語られていたのだった。

しかし『マトリックス レザレクションズ』では、覚醒した人々が未だ覚醒せざる人々を侮るような台詞は見受けられない。むしろ、彼らを「sheeple (羊の群れのような人々)」と呼んで蔑むのは、物語のヴィランである”アナリスト”だ。ここには、「真実に目覚めて敵を倒せば平和な世界を獲得できる」という幼い英雄主義から、”現実”の多様で複雑な力学を踏まえた上で自らの望む世界を実現すべく奮闘しようという物語の進歩が見て取れる。

『マトリックス レザレクションズ』は、決して単なるノスタルジーとして20年前の物語を語り直すだけの作品ではないのだ。

描かれた社会批判

それでは、『マトリックス レザレクションズ』は”大衆”に対する批判的なメッセージを失い、単にヒマ潰しに消費されるだけのアクション映画に成り下がってしまったのだろうか? 勿論そうではない。

『マトリックス』が社会に向ける批判的な目線は、より洗練されたメッセージ、かつ見方によってはより過激な表現として提示されている。それが”エージェント”として覚醒する前のスミスが”ネオ”として覚醒する前のトーマスを呼び出して(劇中劇としての)ゲーム版『マトリックス』の続編を作れと実在の「ワーナー・ブラザーズ」から言われている、と打ち明けるシーンだ。

これは最早比喩でも何でもなく”現実”にラナ・ウォシャウスキー監督がワーナーから『マトリックス』の続編を作れと言われたことを苦々しく思った心境の吐露だろうか…

その実際はともかく、このような台詞を『デッド・プール』(2016)のようなメタギャグ満載の作品でなくシリアスな諷刺として許容するワーナーの懐の広さには感服する。

そして、ポストクレジットにおいてはトーマス(ネオ)が”マトリックス”内で勤めていた会社の同僚たちが口々に「最早”物語”は不要だ」と言う。大衆に刺激を与えて再生回数を稼ぐ為には物語よりも直接的な刺激の方が良い。猫の動画に「CATRIX(キャットリックス)」という名前を付けて出せ、というような台詞がある。

この台詞には、ラナ・ウォシャウスキー監督の物語の作り手としての矜持、なけなしの”資本主義”に対する抵抗を感じた。たとえYouTubeで無料で観れる猫の動画の方が再生回数を稼げたとしても、それでも『マトリックス レザレクションズ』という作品が作られた意味はあるのだと、筆者は信じる者の一人である。

バレットタイム

そして、「CATRIX」と同じように劇中で商業主義を批判する為に用いられた印象的な台詞が「Bullet-time(バレットタイム)」だ。『マトリックス』第一作(1999)が一世を風靡した際、物語もさることながらまず注目されたのはその大胆なアクションとカメラワークだった。中でも登場人物がスローモーションで動きながら周りを弾丸が飛び交う印象的なシーンに用いられた撮影手法が「バレットタイム」だ。

これはカメラで被写体を取り囲み、アングルを動かしたい方向にそれぞれのカメラを順番に連続撮影すると被写体の動きはスローモーションで見えるが、カメラワークは高速で移動する映像が撮れる技術のことだ。

この表現の源流は1870年代まで遡れるらしいが、『マトリックス』で用いられることによって世界的に有名になった。『マトリックス』のタイトルから多くの人が思い浮かべるのはバレットタイムで撮影されたシーンだろう。バレットタイムはまさに『マトリックス』を象徴する撮影技術だ。

それを踏まえて、トーマスも参加する新たな『マトリックス』のゲームの企画会議では、参加者の一人が「バレットタイム」を連呼する。とにかくバレットタイムだ、バレットタイムさえ出しとけば消費者は食い付くんだとでも言わんばかりに。ここにも、ラナ・ウォシャウスキー監督の「バレットタイムだけじゃないぞ」という意地が感じ取れる。

裏も表もない時代

『マトリックス』第一作では、表向きはエンジニアとして生計を立てるトーマスには”ネオ”という名で活動するハッカーとしての”裏の顔”があった。しかし『マトリックス レザレクションズ』において、『マトリックス』という名のゲームで世界的な名声を築いたトーマスに最早裏の顔はない。これは、1999年時点ではまだ「インターネット」が万人に開かれたものではなく、技術を持つ一部の者たちの特権的なユートピアであったことを示すものだろう。

だが、2021年においては最早誰もがスマホを持ちいつでもどこでもネットに接続している。そして誰にでも常に”バズる”可能性がある。まさにアンディ・ウォーホルが1968年に「未来には、誰でも15分間は世界的な有名人になれるだろう」と述べた通りの社会状況が実現したと言えるだろう。

ネットの普及以前には明確な線引きがなされていた「有名人」と”一般人”の間の線引きも限りなく曖昧なものとなった。誰でも親指一つで有名人のアカウントにリプライを送ることができるし、パソコン一台あればユーチューバーになって自らが「有名人」となることもできる。だが、それは逆に言えばかつて明確に仕切られていた”表”と”裏”の区別がなくなってしまったことを意味しているのではないか。

誰もがネットでバズって一獲千金の夢を抱けるようになった代わりに、いつどこで写真や動画を撮られてネットに上げられるかも分からなくなってしまった。気の置けない友人に送ったつもりのメッセージがスクショを撮られてネットに流されてしまうかも知れない。我々が失ったのはまさに「プライバシー」そのものでありはしないか。

そんな時代にあって、トーマスは最早裏の顔を持たない。表社会で成功して、しかしその栄光に自らのものとしての実感を持てずに精神を病むただの人間だ。そんな彼が、自ら望んだ訳ではない戦いの為に外部からの闖入者によって”覚醒”させられてしまう。思えば、第一作『マトリックス』においてもトーマスは自ら日常の外に出口を探し、「本当の自分」に出会う為にもがくモラトリアム青年ではなかった。

20年を経てメッセージや描写は大きく変わった『マトリックス』だが、主人公の覚醒が必ずしも主人公の欲望の成就の為ではないという点は変わらない。この点は、期せずして転生した主人公が異世界で「本当の自分」の実力を発揮して無双するような物語が多い日本の「異世界転生モノ」とは対照的だ。

”日常”を脱け出す為の好奇心

それでは、トーマス=ネオは一体何の為に戦うのだろうか? 人間の自由の為? 愛する者を守る為? それらはともに正しいだろう。しかし、たとえそれが夢だとしても、幸福な夢であればそれで良いのではないか。

『マトリックス』は、影響を受けた日本の押井守監督作品同様、必ずしも「夢」と「現実」の間に明瞭な価値判断を下す作品ではない。身も蓋もないことを言えば、トーマスが青いピルを服んでそこで物語が始まることなく終わってしまっても良い筈だ。

それでもトーマスは赤いピルを選んだ。しかしトーマスが赤いピルを口に含んだその時には、人類の自由についての思索もトリニティへの愛情もトーマスには芽生えていなかった筈だ。それでも赤いピルを選んだのは、ただ「真実を知りたい」という純粋な好奇心ではないだろうか。

「自由」や「愛」といった概念は他者や社会と交渉する中において発生するものだろう。けれどトーマスは、それ以前にこの世界は、そして自分は一体何者であるのかを知りたいというその極めて個人的な好奇心に突き動かされて扉を開けた。

その結果戦いに巻き込まれ、そこでは人類の自由や存亡が賭けられることになってしまうが、それは飽くまでも結果の話。自分が「知りたい」という好奇心の為に、人はいつでも”日常”の外へとその一歩を踏み出せてしまえるのだという、『マトリックス』はそんな素朴なロマンを我々に思い出させてくれもする。

映画『マトリックス レザレクションズ』は2021年12月17日(金) より日本公開。

『マトリックス レザレクションズ』公式サイト

「マトリックス」トリロジーの4K ULTRA HD + Blu-rayボックスセットは発売中。

エンディングとポストクレジットシーンの解説&考察はこちらから。

新たにスミス役を演じたジョナサン・グロフの撮影秘話はこちらから。

『マトリックス レザレクションズ』のサントラは全曲無料で公開中。詳しくはこちらから。

腐ってもみかん

普段は自転車で料理を運んで生計を立てる文字通りの自転車操業生活。けれど真の顔は……という冒頭から始まる変身ヒーローになりたい。文学賞獲ったらなれるかな? ラップしたり小説書いたりしてます。文章書くのは得意じゃないけどそれしかできません。明日はどっちだ!
お問い合わせ

関連記事

  1. 映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』マーゴット・ロビーのお気に入りのコスチュームは「スカートを履いてないマリリン・モンロー」【BIRDS OF PREY】

  2. あらすじ&予告編 韓国初のSFブロックバスター『スペース・スウィーパーズ』がNetflixで配信開始! ソン・ジュンギ&キム・テリ主演の豪華キャスト

  3. 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のキャスト・声優まとめ その後・現在は?【吹き替え・出演者・俳優】

  4. 韓国でもSF! 第23回富川国際ファンタスティック映画祭、今年のテーマはSF