第1話ネタバレ解説『シークレット・インベージョン』AIのオープニング? ラストの意味は? 徹底考察 | VG+ (バゴプラ)

第1話ネタバレ解説『シークレット・インベージョン』AIのオープニング? ラストの意味は? 徹底考察

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『シークレット・インベージョン』配信開始

MCUドラマ最新作『シークレット・インベージョン』が2023年6月21日(水)よりディズニープラスで配信を開始した。MCUの連続ドラマが配信されるのは、2022年8月から配信を開始した『シー・ハルク:ザ・アトーニー』以来。映画『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(2023) で幕を開けたフェーズ5では、『シークレット・インベージョン』が初のドラマ作品になる。

『シークレット・インベージョン』では、フェーズ4では一度も姿を現さなかったニック・フューリーが遂に帰還する。一体どんな物語が待っていたのだろうか。今回は『シークレット・インベージョン』第1話の各シーンをネタバレありで解説&考察していこう。

なお、以下の内容は本編のネタバレを含むので、必ずディズニープラスで本編を視聴してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、ドラマ『シークレット・インベージョン』第1話の内容に関するネタバレを含みます。

ドラマ『シークレット・インベージョン』第1話「復活」ネタバレあらすじ&解説

ボゴタのテロ

ドラマ『シークレット・インベージョン』第1話は、「現在のモスクワ」から幕を開ける。ここでいう「現在」とは、MCUフェーズ4〜5の舞台となっている2025年ごろのことだろう。冒頭で登場したのはマーティン・フリーマン演じるCIA捜査官のエヴェレット・ロスだ。映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(2022) に続く登場になる。だが、『ワカンダ・フォーエバー』を観た人なら、何かがおかしいということに気づくだろう。

ロスはプレスコッド捜査官という人物と合流。プレスコッドは、マスコミの情報とネットの情報が食い違うなど、情報が信用できない時代を踏まえて、目の前の人すら信用できないようになればどうなるか、と問いかける。現在の私たちの状況に、もう一歩進んだ「IF(もしも)」を突きつけるSF的な問いかけである。

プレスコッド捜査官の部屋の壁には、「ボゴタのテロ」「ミュンヘン 大量虐殺」など物騒な言葉が並んでいる。ボゴタはコロンビアの首都で、映画『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014) では、かつてニック・フューリーがボゴタの大使館占拠事件でS.H.I.E.L.D.理事のアレクサンダー・ピアースの娘を含む人質を救助したという過去が語られている。

アレクサンダー・ピアースは同作で「モスクワでテロが起きるのも時間の問題だ。(中略)力の前に外交は役に立たない。私はそれをボゴタで学んだ」と語っている。その一件とプレスコッドのメモに繋がりがあるのかどうかは不明だが、ピアースの予測は的中することになる。

交差する物語

プレスコッド捜査官は一見すると陰謀論者のように見え、5つの事件を関連付けて世界が戦争状態になる、その裏にはスクラル人がいると血走った目で主張している。曰く、スクラル人は30年前に地球を見つけて以来この星を狙っているという。映画『キャプテン・マーベル』(2019) でスクラル人が地球を見つけたのは1995年のことなので、プレスコッドが言う通りそれがちょうど30年前の出来事なのだとすれば、『シークレット・インベージョン』の舞台は2025年ということになりそうだ。

プレスコッドは、キャプテン・マーベルことキャロル・ダンヴァースとニック・フューリーがスクラル人に新しい故郷を見つけると約束したが、現在ではスクラル人は地球を新たな故郷にしようとしていると主張している。スクラル人はクリー人に故郷を破壊されて宇宙を彷徨う難民だった。『キャプテン・マーベル』のラストではキャロルと共に安住できる星を探して旅立ったが、まだそれを見つけることはできていないようだ。

一方、ロスはスクラルがコンタクトを取るのはニック・フューリーだけであり、ニック・フューリーは今SABERにいると反論する。このSABERというのは、2023年4月に公開された映画『マーベルズ』の予告編でその名が登場している。『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019) のラストでフューリーがいた宇宙基地がSABERであり、『マーベルズ』の予告編では「S.A.B.E.R. SPACE STATION」と表記されている。S.A.B.E.R.は原作コミックに登場しない名前で、MCUオリジナルの存在のようだ。

プレスコッド捜査官は「世界に火をつける」スクラルの計画に関するデータを渡すが、これをフューリーに渡すと言い出したロスが偽物だと気づきタックルをかます。しかし、揉み合いになった後、偽ロスがプレスコッドを撃ち逃亡。追手が迫る中、マリア・ヒルに助けを要請して逃げようとするが、ロスを追い詰めたのはタロスで、マリア・ヒルの前でロスの正体がスクラル人だったことが判明する。

この時点で情報がかなり渋滞しているが、まず、マリア・ヒルは『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019) 以来の登場となる元S.H.I.E.L.D.の副長官。ニック・フューリーの側近としてインフィニティ・サーガでは活躍を見せた。タロスは前述の通り、『キャプテン・マーベル』ラストの時点では新たな故郷を探して旅立ったが、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』ではニック・フューリーに擬態してフューリーのもとで働いていることが明らかになっていた。

そして、偽物であることが分かったエヴェレット・ロスは、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』でCIA長官となったコンテッサ・ヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌが元妻であることが明かされた。その後、ワカンダのスパイとしての活動を見破られて逮捕されたが、オコエに助け出されており、現在はワカンダに亡命しているものと思われる。つまり時系列的に『シークレット・インベージョン』が『ワカンダ・フォーエバー』よりも後の話だとすると、エヴェレット・ロスはすでにCIA捜査官ではないのだ。

しかもタロスはロスに化けていたスクラル人が敵対勢力であると明かす。一筋縄ではいかない複雑な様相を呈して、『シークレット・インベージョン』第1話は幕を開ける。

AIを利用したオープニング

そして、配信直後から物議を醸しているのが『シークレット・インベージョン』のオープニングクレジット映像だ。今までのMCUにはなかったスタイルで、その独特さに初見で驚いた人もいるだろう。実はこのオープニングはAIを利用して制作されたものとなのだという。

これは『シークレット・インベージョン』の監督兼製作総指揮を務めるアリ・セリムが米Polygonに語ったことだ。『シークレット・インベージョン』の「誰がやったのか? これは誰なのか?」というコンセプトに一致するものだと考えたそうだ。

このオープニングでのAI利用をめぐっては、英語圏の視聴者を中心に強い反発が起きている。現在、生成AIが問題になっているのは、その学習元のデータの権利者に許可を得ていない場合に著作物の権利侵害が行われており、そのデータから生成された成果物は「盗作」になるという前提からである。ChatGPTのOpenAI社などは欧米諸国でこれが違法であると知りながらサービスの提供を行っているため、強く批判されている。

一方、学習元のデータが著作権を侵害しているかどうかについては生成AIがどんなデータベースを利用しているかによるため、一律に「AI利用=権利侵害」となるわけではない。例えば、自分の作品をAIに学習させた上でAIに新たな作品を生成させるアーティストも存在し、アーティストに権利料を支払った上でデータセットを作り、任意の作品をAIに学習させる場合もあり得る。

今回、アリ・セリムはこのオープニングについて、Method Studiosという会社が「人工知能を利用して」制作したということだけを明かしており、詳細な経緯については述べられていない。権利を侵害する類のソフトウェアを利用していたとすれば問題になるのはもちろんだが、そうでない場合も、現在は「AIを使った」という表明だけではパニックが広がる状況であり、マーベル・スタジオは慎重に配慮して丁寧な情報発信を行うべきだったと言える。

また、AIを利用することでアーティストの雇用が奪われるという批判もある。現在、WGA(全米脚本家組合)はストライキに入っているが、その要求の一つには脚本執筆へのAI利用の規制も盛り込まれている。アーティストが描き下ろしをしてスタジオが賃金と権利料を支払ったのならば話は少し違ってくるかもしれないが、脚本家たちに助けられてきたマーベルほどの大スタジオであればストライキに入っているWGAと歩調を合わせても良かったはずだ。

その一方で、AIベンダーの企業による権利侵害は批判されるべきだが、クリエイターのみの責任とするべきではないという意見もある。現在、世界で広く議論が行われている真っ只中なのだ。

一部では、今回の『シークレット・インベージョン』のオープニングでのAI利用はフェイク(ハッタリ)なのではないかと疑問視する声もある。つまり、人間が作ったのにAIが作ったと表明し、議論になった後にネタバラシをして、本作の「誰が誰か信用できない」というコンセプトを現実世界に持ち込む演出だということだ。流石にそれはやり過ぎであり、多くの人が慎重に議論している中では悪手でしかないと思うが、とにかく公式の声明を待ちたいところである。

タロスとの再会

話が逸れてしまったが、まずは第1話の解説をやり切ろう。久しぶりに地球に降り立ったニック・フューリーは、右足を引きずるようにして歩いている。久しぶりの地球の重力ということもあるのだろうが、演じるサミュエル・L・ジャクソン自身も74歳を迎えている。さすがのニック・フューリーももうおじいちゃんなのだ。

マリア・ヒルと合流したニック・フューリーは、ロシアの地でタロスと再会を果たす。タロスは地上では『キャプテン・マーベル』の時に化けた元S.H.I.E.L.D.ロサンゼルス支局長のケラーの姿で行動している。スクラルのサントミリカという植物を大事にしているタロスだが、元の持ち主であるソレンは死んでしまったという。ソレンはタロスの妻で、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』ではマリア・ヒルに擬態してピーター・パーカーを助けていた。

なお、このシーンでタロスは「順応」派であることに触れられている。侵略か、順応かという選択が『シークレット・インベージョン』の一つのテーマだと言える。そして、地球の侵略を試みるのがグラヴィクである。

タロスは、ニック・フューリーのスクラルに新たな故郷を見つけるという約束を果たしてもらうために協力をしてきたと話す。しかし、フューリーはサノスの指パッチンから復活した後に地球から消えたという。タロスはキャロル・ダンヴァースも消えたと話しているが、これはドラマ『ワンダヴィジョン』(2021) でモニカ・ランボーがキャロルに対して複雑な思いを抱いている様子を見せた理由なのかもしれない。

反乱分子であるグラヴィクは約束を果たさなかったフューリーを恨み、タロスの娘のガイアもその一派に合流、タロスは評議会から追放されたという。これはある意味で、地球という故郷を傷つけてきた上の世代に対する若い世代の反発と重なる部分もある。世代間対立というのも『シークレット・インベージョン』のテーマになりそうだ。

「汚い爆弾」とカザフスタン

マリア・ヒルは、スクラルは放射線に強いため、廃棄された原発が多くあるロシアに潜伏していると話す。廃炉になった原発の記録を米国が掴んでいないという状況は、近年の現実世界におけるアメリカとロシアの距離感を反映させたものだろう。もっとも、MCUの世界では2019年から2024年まで指パッチンで人口が半分消えていたので、ウクライナ侵攻をめぐる史実は異なるかもしれないが。

そして、プレスコッド捜査官がロスに渡そうとしていたデータは、スクラルが手に入れた「汚い爆弾」の設計図だったことが明らかになる。「汚い爆弾」とは、放射性物質を利用した爆弾のことであり、放射線を散布する化学兵器のような形で用いられる。放射線に強いスクラルは、街が放射能で汚染されたとしてもそこに住むことができる。汚染地域を増やしていけば占領が進むということなのだろう。

さらに、アメリカの反ロシア組織 AAR(Americans Against Russia)がテロに利用されるという情報も入っている上、プレスコッドが殺された日にはカザフスタンで強盗事件があったという。カザフスタンは旧ソ連の国で、1989年までの40年間の間に467回もの核実験が行われた場所だ。ソ連崩壊後にもカザフスタンには核弾頭が残されていたが、1996年までにすべてロシアに移管されている。スクラル達は汚い爆弾を作るため、カザフスタンで何らかの形で放射性物質を手に入れたものと考えられる。

ところ変わって米国のホワイトハウス。セイバーを離れたニック・フューリーについて、ローディ・ローズが大統領に報告している。ローディを演じるドン・チードルは、現在ローディは大統領の右腕として働いていることを明かしている。また、ダーモット・マローニーが演じるリットソン大統領は『ワカンダ・フォーエバー』でニュー・アスガルドと貿易協定を結んだことがテレビ画面で報じられている。また、ワカンダに強気な姿勢を示していることがヴァルの口から語られている。

大統領は、セイバーのことを「人類史上最も複雑な航空宇宙防衛システム」と形容している。なかなか大事な場所を任されていたようである。ローディはマリア・ヒルがフューリーを呼び出したことを説明し、連絡が取れなくなったことから「事実上の無断離隊」と報告する。何だか『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014) を思わせる展開だ。『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(2021) でサムに寄り添ったローディだったが、すっかり政府側の人間になってしまったのだろうか。

MI6とフューリー

一方、ニック・フューリーはイギリスの捜査官であるソーニャ・ファルズワースの元へ拉致される。ソーニャ・ファルズワースはイギリスの諜報機関であるMI6のエージェントだが、フューリーとは旧知の仲のようである。長年のキャリアで各国のスパイと時に対立し、時に協力してきたであろうフューリーの余裕が頼もしい。

この場面でソーニャ・ファルズワースは「モスクワで長身の黒人ならニック・フューリーか、ポール・ロブソンの幽霊」と話している。ポール・ロブソンとはアメリカ出身の有名なオペラ歌手・俳優で、アメリカ黒人への暴力に対して怒りの声をあげ、最終的にはソ連支持の立場をとった。ソ連のスパイだったと言われている人物だ。

フューリーはソーニャを褒めながら置物にカメラを仕掛けている。流石の動きだ。フューリーはカザフスタンの武器商人の倉庫が強盗被害にあったことについて尋ねるが、ソーニャはフューリーに「勘が錆びついた」と言い相手にしない。加えて「サノスの指パッチンで変わった」「正義のために戦ってもより強い者に潰されることを思い知った」と手痛い言葉を投げかけている。

ニック・フューリーはサノスとの戦いで自分が消え、それを復活させるためにトニー・スタークとナターシャ・ロマノフという初期にリクルートした二人を犠牲にしたことが大きな傷になっている。そのことは、フューリーを演じるサミュエル・L・ジャクソンも認めている。それでも、フューリーが「君に会うためにわざと捕まった」と話すのはあながち嘘ではないのだろう。

ニュー・スクラロス

そして舞台はモスクワ南西312キロの場所に。モスクワの南西というのはウクライナがある方面であり、312キロというのは、ウクライナ国境とモスクワの中心の間くらいの位置ということだろう。そこにあったのはスクラルの拠点だった。上空からの映像では、廃炉になった原発も見える。そして、放浪していたスクラルのベトを迎え入れたのは、タロスとソレンの娘のガイアだ。

ガイアはこの場所を「ニュー・スクラロス」と呼ぶ。スクラロスは原作コミックに登場したスクラルの故郷だ。「ニュー・スクラロス」という名は、同じく故郷を失って地球に居を構えたアスガルド人達のニュー・アスガルドを想起させる。そこで暮らすのは普通の人々であり、難民としてのスクラルの姿が印象づけられる。

ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』では、カーリ・モーゲンソウが率いる難民で組織されたフラッグ・スマッシャーズが登場した。この時は指パッチンから人々が戻ってきたことによって居場所を奪われた人々の集まりだったが、今回のスクラル達は30年間新たな故郷を待ち侘びた結果、実力行使に出ることにしたようだ。

500人以上が集うニュー・スクラロスでは、一般市民はスクラル人の肌で生活し、戦士達は殻に馴染ませるために人間の姿を保っている。だが、閉じられた扉の向こうでは、人間達が拘束され、装置にかけられていた。これは『キャプテン・マーベル』の序盤でスクラルに捕まったキャロル・ダンヴァースが逆さまになってかけられていた機械と同じもののようだ。だが、1995年当時と比べると小型化されており、被験者を逆さまにしなくてもよいように改善されたようである。

ここで、捕えられたAARのメンバーは戦士になるスクラルにその外見を盗まれ、“精神”も奪われる。精神を奪うというのは、キャロルがやられたように記憶を遡り、過去を知るということだろうか。

ニック・フューリーチームは、ソーニャチームの音声を傍受し、スクラルが汚い爆弾を手に入れる相手について、元チェチェン独立派の画商だというポプリシュチンに狙いを定める。チェチェン独立派というのは、旧ソ連解体後にロシア連邦への残留を望む勢力に対し、チェチェンの独立を求めて武力闘争を行なったグループのことである。

This is my fight.

コーヒーに大量の角砂糖を入れるグラヴィクは、ニック・フューリーが帰還したという情報を得る。大義をとるか、自分をとるか、を聞いた上で故郷が大義だと言い放つグラヴィクは、軍隊としては強いリーダーではあるが、言いにくい決まった答えを言わせようとする立派なモラハラ上司である。

ポプリシュチンからの汚い爆弾回収の任を命じられたのはガイア。一方のタロスとフューリーもポプリシュチンの元へと乗り込んでいく。なお、車の中でフューリーを見送る時のマリア・ヒルは穏やかな笑顔を顔に浮かべている。これまでは強い一面しか見せてこなかったマリア・ヒルが介護をしている老いた父に見せるような表情を見せているのだ。

この後のシーンでは、タロスが136歳であること、人間で言うと40歳にも満たないということなので、どうやらスクラルの年齢は人間の3倍ほどであることが明らかになっている。また、鎖を引きちぎることで、スーパーソルジャー並みのスクラル人のパワーも披露されている。

そして、「中年の危機における大人買い」の話題になると、フューリーは衝動買いしたものとして「アベンジャーズだ」と答える。確かにフューリーにとっては人生最大の衝動買いであり、贅沢だったのかもしれない。

ニック・フューリーがピストルを片手にポプリシュチンを尋問するシーンは流石の余裕が見える。「やり直しがきくのは1回だけ。2回目はない」と言い追い詰めていく様はもはやヴィランのようだ。結果、ポプリシュチンはスクラルの擬態だったことが分かり、タロスと揉み合いになる。

タロスがフューリーに「撃つな」と言っているところは英語で「This is my fight!」と言っている。同胞を庇っているというより、自分の戦いに自分でけじめをつけたいという思いがあったのかもしれない。それにしてもスクラルをあっさり殺してしまうフューリーは容赦がない。

ひと足先に汚い爆弾を手に入れたガイアは、追跡してくるマリアを排除するも、父のタロスに追いつかれてしまう。タロスは発砲して「最後の警告」としながら、ガイアはそれが最後でないことを見抜いている。タロスは、「チャンスは2度」と言い切ってスクラルを撃ち殺したニック・フューリーとは対照的で、この前のシーンでも言われていたように、「優しすぎる」のかもしれない。

タロスはガイアの母のソレンが死んだことを告げると、グラヴィクの一味によって死に追いやられたことを示唆する。ソレンの死を知らなかった様子のガイアはショックを受けるが、タロスに「あなたには誰のことも守れない」と言い放って爆弾を持ち去ってしまう。『アントマン&ワスプ:クアントマニア』でも扱われた「父と娘」も『シークレット・インベージョン』のテーマになるようだ。

帰還は誰のため?

ニック・フューリーはロシアの酒場でロシア語を操り、客に酒を奢っている。曰く、冷戦時代に西側に対する市民の悪感情を抑えるために、スパイである自分がロシア人に酒を奢っていたのだとか。本当にそんなことがあったのかどうかは分からないが、もっともらしい話ではある。

フューリーがこの話をマリア・ヒルに「俺たちみたいな黒子がな」と話す場面では、「黒子」は英語で「spooks」となっている。「spook」とは「スパイ」のスラングであり、同時に黒人に対する侮蔑語でもある。これを「不適切」と言う白人のマリア・ヒルに、フューリーは「君が言えばな」とやり返している。

なんだかんだ仲良しの二人だが、フューリはーセイバーを造るために地球を離れたと言い、マリア・ヒルはそれを信じない。フューリーは地球を離れた本当の理由を「信仰の危機」としつつ、戻ってきた理由を「過去が追ってきた」と話している。四半世紀に作り上げてきたアベンジャーズが敗れたということが「信仰の危機」だったのだろうか。

また、タロスのためにも戻ってきたと話すフューリーに、マリア・ヒルは「他の人のためでは?」と聞いている。これは存命の人物なのだろうか。もしかすると、トニーやナターシャのように、命を賭して戦った仲間のために最後の仕事を果たそうと帰ってきたということなのかもしれない。

マリア・ヒルはチェスを通してフューリーの衰えを指摘するとともに、サノスに敗れて足元もおぼつかなくなったフューリーに、退くのも恥ではないと助言する。ソーニャからもマリアからも衰えを指摘されたフューリーは、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で塵となった記憶を思い返していた。

まさかのラスト

一方、母がグラヴィクの一派のせいで死んだと聞いたガイアは、汚い爆弾の計画についてタロスに伝えにきていた。決行の日はロシアの祝日である“民族統一の日(11月4日)”となっており、『シークレット・インベージョン』の舞台は2025年11月であることが予想できる。

テロはヴォッソイェジネェーニエ広場で決行されることを知り、ニック・フューリー、マリア・ヒル、タロスの三人は阻止に挑む。三人は爆弾の入ったリュックを追うが、リュックは囮でフューリーの前に様々な人間の姿に変身するグラヴィクが現れる。『キャプテン・マーベル』ではタロスがスクラルの擬態にも訓練と才能が必要と話しており、グラヴィクは相当な実力者であることが分かる。

この時グラヴィクは、第1話でフューリーが遭遇した市民の姿を見せている。グラヴィクはずっとフューリーのことを監視していたのだ。このシーンについての詳細な考察はこちらの記事で。

そしてグラヴィクはニック・フューリーと向き合うと、目の前で爆破スイッチを起動。広場の人々がテロの犠牲になってしまった。そのパニックの中、マリア・ヒルはフューリーが擬態したグラヴィクに腹部を撃たれる。ニック・フューリーはその場から連れ出され、マリア・ヒルが倒れたまま血を流す画で『シークレット・インベージョン』第1話は幕を閉じる。

『シークレット・インベージョン』第1話ネタバレ考察&感想

マリア・ヒルは死んだ?

ドラマ『シークレット・インベージョン』は事前の評判に違わぬダークな雰囲気で、コミカルな要素もほとんどないシリアスなドラマ展開が待っていた。事前の広告から「誰も信じるな」というメッセージが発されていたが、そんな中、マリア・ヒルがフューリーに化けたグラヴィクに撃たれると言う展開に。

マリア・ヒルはこれで死んでしまったように見えるが、幸い、「誰も信じられない」というのが今回のドラマのコンセプトだ。マリアも本物でなかったり、まだ生きている可能性を信じたいものである。気になるのは、グラヴィクがマリアの腹部を撃った後にトドメを刺そうと頭を狙ったが、フューリーに見つかって撃つことができなかったという点だ。腹部を撃たれて死んでいたら、トドメを刺そうとする描写は不要なはずだが、果たして……。

なお、マリア・ヒル役のコビー・スマルダーズは本作でマリア・ヒルの「これまでで最も深い部分」を見ることができると話していた。本当にこれで退場となってしまうのだろうか。

追記:マリア・ヒル役のコビー・スマルダーズが第1話ラストの展開についてメディアに語った。詳しくはこちらから。

一方で、マリア・ヒルと一緒にポスターが公開されていたエヴェレット・ロスも偽物で早々に退場したので、この二人は第1話で退場するコンビだったのかもしれない。

怪しい人たち

もう一人、怪しい人物がタロスの妻のソレンだ。ソレンは死んだことになっているが、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』で元気な姿を見せていたことを考えると、なかなか唐突な設定でもある。今のところソレンが死んだと言っているのはタロスだけであり、こちらも本当のところはまだ分からない。

ニック・フューリーについても、マリア・ヒルがタロス以外の誰かのために戻ってきたと指摘されていたが、一体誰のことだったのだろうか。既に亡くなったメンバーではないとすれば、オリジナルアベンジャーズのホークアイやハルクだろうか。この二人は『ホークアイ』(2021) と『シー・ハルク』で順当にメンターのポジションに移っている。

また、グラヴィクがフューリーを恨むようになったきっかけについても、これから真相が明かされていくことになるだろう。キャロルとフューリーはなぜスクラルとの約束を果たせなかったのか、本当にキャロルはスクラルの新たな故郷を見つけられずにいるのだろうか。この問いは、11月公開の映画『マーベルズ』にも繋がっていくはずだ。

どうなるローディ

最後に気になるのは、ローディの立ち位置である。今回、ロシアの祝日に化学兵器によるテロが起き、その場に二人のアメリカ人(それもS.H.I.E.L.D.の元長官と元副長官)がいたという事実は政治的にはかなり重い出来事である。約1年半前には二代目キャプテン・アメリカのジョン・ウォーカーがドイツのミュンヘンの公の場で非武装の相手を殺してしまっている。CIA捜査官のロスはワカンダに亡命したのだろうし、アメリカ合衆国としては対外的にかなり厳しい状況にあると言える。

ローディは大統領の右腕として働いているようだが、空軍出身で元アベンジャーズのローディを側近として起用するということは、現大統領はスーパーヒューマンの問題に苦悩しているのかもしれない。フェーズ4以降のMCUではアベンジャーズがいなくなったことからダメージ・コントロール局がスーパーヒーローもスーパーヴィランも相手にしている状況だ。

加えて宇宙からの脅威に対応していると思われるセイバーからニック・フューリーが戻ってきた途端にテロが起きるのだか、もはや気の毒ですらある。2024年5月3日(金) 米公開予定の映画『キャプテン・アメリカ:ブレイヴ・ニュー・ワールド(原題)』では、サンダーボルト・ロス将軍が米国大統領として登場するとされているが、それまでに一体どんな展開が待っているのか、ローディはどのように今回の事態に対処するのか、そして、ウォーマシンの出動はあるのか、その点にも注目したい。

波乱の幕開けとなったドラマ『シークレット・インベージョン』。どんな風に展開していくのか、そしてAIオープニング問題に進展はあるのか、引き続き注視していこう。

ドラマ『シークレット・インベージョン』は2023年6月21日(水)より、ディズニープラスで独占配信。

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第2話のネタバレ解説はこちらから。

『シークレット・インベージョン』では、ローディは「大統領の右腕」として登場するとされている。詳しくはこちらから。

サミュエル・L・ジャクソンが語ったニック・フューリーが消えた理由についてはこちらの記事で。

『シークレット・インベージョン』は映画『アーマー・ウォーズ』に繋がっていく要素もあるという。詳しくはこちらから。

 

『シー・ハルク:ザ・アトーニー』ラストに残された9つの謎はこちらから。

【ネタバレ注意!】『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』にあったMCU要素の解説はこちらから。

ドラマ『ロキ』シーズン2は2023年10月6日(金)より配信開始予定。詳しくはこちらの記事で。

映画『マーベルズ』のヴィランについてはこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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