『SSSS.DYNAZENON』第11話を観て
第1話から右肩上がりに怒涛の展開を続けてきた『SSSS.DYNAZENON (ダイナゼノン)』も残すところ最終回のみとなった。筆者としてはここ十年で観たアニメの中で最も楽しんだ作品なので非常に名残惜しくあるのだが、これまでの流れを振り返りつつ来るべき最終回に向けて物語が如何なる終着点へ向かうのかを予想してみたい。
世界観の謎
最終回目前となった第11話現在においても、『SSSS.DYNAZENON』という作品の舞台が果たしてどこなのかは明かされていない。原典である『電光超人グリッドマン』や前作『SSSS.GRIDMAN』と同じくコンピューター上の架空世界、電脳世界であるのか、それとも我々の暮らすのと同じ現実世界であるのか。
回を追うごとに徐々に明らかとなることを期待しながら観ていたが、実際には小出しにされる情報によって余計に攪乱され続けてきてしまった。
例えば『SSSS.GRIDMAN』に出てきたのと外観は同一ながら名称だけが異なる駅が出てきたり、かと思えば全く同じ外観と名称のカフェやコンビニが出てきたりした。『SSSS.GRIDMAN』には出てこなかった実在の地名や宇宙が存在することも描かれた。
だとするならここは現実世界なのだろうか、と結論を下しそうになった矢先に、現れたのがグリッドナイトである。グリッドナイトは『SSSS.GRIDMAN』に出てきた怪獣、”アンチ”がグリッドマンの容姿や能力、そして恐らく意志までもコピーして誕生した、謂わば「影のグリッドマン」とでも呼べるヒーローだ。つまりグリッドナイトは電脳空間上の存在なのである。
そのグリッドナイトが姿を現したということは、この世界もやはり電脳空間であったということだろうか。細部が異なるのは、『SSSS.GRIDMAN』で世界を作り上げた造物主たる新条アカネによるのではない、また別の造物主によって作り上げられた電脳空間ということで、例えばあらゆる電脳空間が市販されているゲームのようなソフトによって作られているとすればそこから共用のデータを持ち出し、細部は自分でカスタマイズしたと考えれば自然だ。そしてナイトと2代目はその異なる電脳空間を渡り歩くウィルスのようなものだと。
南夢芽=現実世界の新条アカネ?
しかし第11話において、このような見立てはそもそも根本的に間違っていたのではないかという疑惑が生じる。
ここへきて、これまで何ら前作との繋がりを感じさせなかった南夢芽の挙動が、俄かに既視感を帯び始めるのである。
最初の違和感は蓬がガウマに蟹煎餅を差し入れした時だ。
この時夢芽がした「蟹の真似」のジェスチャーは、『SSSS.GRIDMAN』において怪獣オタクである新条アカネが”バルタン星人”の真似として響裕太に披露したものと同じだ。
蟹の真似だけなら、最も簡単なのは人差し指と中指を立ててピースの形にして閉じたり開いたりすることだ。それだけで十分「ハサミ」は表現できる。けれど怪獣オタクである新条アカネはバルタン星人のハサミが蟹のハサミと混同されることを嫌い、自分の中で明確に差別化した。その結果、親指から中指までを合わせた三本指と、小指と薬指を合わせた二本指を一対として真ん中で開閉させるという、指の動きに不慣れな人にとっては難易度の高いジェスチャーを編み出した。これは敢えて練習しない限り初見では難しいし、そもそも殆どの人は発想さえしないだろう。そのジェスチャーを、蟹を表現するためだけに夢芽は行ったのである。これを偶然と捉えるには無理がある。
ここで違和感が生じれば、思い出されるのは第10話で小学生姿の夢芽が歯を磨いていた洗面所のレイアウトが『SSSS.GRIDMAN』における宝多六花の家の洗面所のそれと小物の配置に至るまで完全に同一であった事実だ。これは、一度は共用の元データが存在しているのかと考えたが、それにしては細部が似過ぎている。
そして決定的だったのは、墓参りのシーンで蓬に放った「うっそー」という台詞の口振りである。これは『SSSS.GRIDMAN』第5話において新条アカネが宝多六花に背中に日焼け止めを塗ってもらった後で「前は?」と言って困らせ、最後に「うっそー」とタネ明かしをしてからかった際の口振りと瓜二つである。
と、ここまで材料が揃ってしまえば想像力を逞しくせざるを得まい。
即ち、南夢芽とは作中における”現実”世界の新条アカネであり、『SSSS.DYNAZENON』の舞台とは、『SSSS.GRIDMAN』の電脳世界に対する”現実”世界なのではないか、と。
そう考えれば、第1話でダイナゼノンが怪獣と戦った際に破壊された街並みが『SSSS.GRIDMAN』と違っていつまで経っても復旧しないのも頷ける。そこは現実世界なのだから、都合良く怪獣が現れて一日で修復してくれる訳ではないのだ。
そして『SSSS.GRIDMAN』において新条アカネに何故両親が居なかったのかの理由も自ずと明らかとなる。家庭環境に居心地の悪さを感じる夢芽はその逃避先として電脳空間を選んだ。そこでは自分が神となり、好きなように街を作り、好きなように嫌いな人間を殺せた。
しかしその欺瞞をグリッドマンに破られたアカネは”現実”へと帰還する。とは言え電脳空間の経験が夢芽に何も影響を与えなかった訳ではない。そこで命の尊さを教えられた夢芽は、だから現実にダイナウィングのパイロットとして自ら率先して街を、人を守ろうとするのである。
更に忘れてはいけない、いや忘れられないのは第9話における水門の上でのちせとのやり取りのシーンだ。ここで夢芽の背中越しに映る、ゴルドバーンを突き飛ばして夢芽を正面から捉えるダイナソルジャーの顔は『SSSS.GRIDMAN』のOP映像のラスト、教室の席に座るアカネを「退屈から救いに来た」グリッドマンのオマージュだとは指摘したが、この意味は単なるオマージュに留まらなかったことになる。
グリッドマンもダイナソルジャー(蓬)も、まさに同じ人間、アカネ=夢芽を救い出そうとしていたのだ。
最終回予想
こう考えれば腑に落ちることは多い。『SSSS.GRIDMAN』と『SSSS.DYNAZENON』で外見は同じなのに名称が違った駅は『SSSS.DYNAZENON』の”現実”世界の実在物をベースとして『SSSS.GRIDMAN』の電脳世界において組み上げられたデータと解釈することができるだろう。
一つ問題なのは、やはりグリッドナイト同盟の存在だが、これも第11話でナイトたちが「この世界を去る」と言っていたことから考えれば、やはり”現実”世界には本来存在できない/してはいけないナイトたちが何らかの方法を使って束の間実体化していたと考えられるのではないだろうか。
では、最後に最終回がどうなるのかを筆者なりに予想してこの稿を閉じたい。
まず夢芽さん、蓬を受け容れてやってくれ!!
蓬の恋さえ成就するならば後はもう正直世界が怪獣によって焼き尽くされようがどうなろうが知ったこっちゃない。
・・・というのは紛れもない筆者の本心なのであるが、それは単なる筆者の願望なのでここではもう少し真面目に予想してみよう。
とは言え第11話、アニメ史上稀に見る真っ直ぐな告白シーンが見れてそれこそミイラのように乾き切って風化しつつある筆者の心も大いに潤い、また洗われた。
大事な気持ちを伝える時には、相手の目を真っ直ぐに見て伝えなくちゃいけない。
表情や仕種、言葉のどこにも嘘を宿してはいけない。
そんなことは頭では分かり切っていても、現実にはそんなにカッコ良く人に気持ちを伝えられた例しのない筆者である。
蓬はちょっと鈍感だけど本当に良い奴だよ、夢芽さん、蓬をよろしく頼みます。
だが二人の恋の情動の前に、シズムは果たして引き下がってくれるかどうか。
むしろその情動を糧として益々力強くなってしまいはしないか。
順当に行けば、再び全員が乗り込んだカイゼルグリッドナイトのフルパワーの一撃によってシズムが倒されるのが最終回の王道だろう。
とは言え、シズムは果たしてそのように「力」によって倒されるべき”悪”なのだろうか。怪獣ファンにはお馴染みのことであるが、ウルトラシリーズにおいてはしばしば善悪の相対化が図られてきた。人類にとっての侵略者が、物語の最後に実は人類による被侵略者であることが明かされるなどのエピソードによって。
『SSSS.DYNAZENON』において一応のラスボスの座に就いたシズムも、しかしこれまでは蓬や夢芽たちと一緒に遊んだり、謎めいた台詞は多かったものの明確な悪意の描写はなされてこなかった。
そして前作『SSSS.GRIDMAN』においても、アレクシス・ケリヴは結局力によって倒されることはなく、ただ捕えられただけだった。
更に蓬には”怪獣使い”に類する何らかの力の兆しが見えたが、それが明確に発揮されることはなかった。その力が最終回において遂に発揮され、シズムとの対話を可能にする。そして「バラバラのままでの共存」を図れるようなラストへ向かうと、2021年のエンタメに相応しい大団円になるのではないかと、個人的には期待している。
アニメ『SSSS.DYNAZENON (ダイナゼノン)』は、TOKYO MXで2021年4月2日(金) 22時より放送。6月18日(金)に放送された最終回第12話のネタバレ感想はこちらから。
Amazonプライムビデオをはじめとする各動画サイトでも配信されている。
放送局と配信サイトの情報はこちらから。
『SSSS.DYNAZENON』のサントラは発売中。
『SSSS.DYNAZENON』のBlu-rayは予約受付中。
『SSSS.DYNAZENON』第11話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第1話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第2話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第3話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第4話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第5話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第6話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第7話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第8話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第9話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第10話のネタバレ解説はこちらの記事で。