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ダイナゼノン、バトルゴー!!!!!!!!!!!
絶賛TV放送&ネット配信中の『SSSS.DYNAZENON(ダイナゼノン)』。
実写作品『電光超人グリッドマン』を原作として新たな物語を紡ぐ”GRIDMAN UNIVERSE”の第2弾。物語も遂に最終回直前。最後までテンションを落とすことなく、それどころか息継ぎの暇さえ与えずにここまで連れてきてくれたことにまずは感謝したい。最終回を目前に控え、終わって欲しくない、しかし先が観たいというアンビバレンツな興奮を本当に久し振りに味わっている。それでは、早速第11話を振り返っていきたい。
第11話「果たせぬ願いって、なに?」のあらすじ
勝てなかったよ
食堂の駐車場で目覚める怪獣優生思想の四人。「勝てなかったよ、ダイナゼノンたちにやられた」と言うムジナに、シズムは怪獣の種はもう尽きたと告げる。散り散りになるムジナ、オニジャ、ジュウガの背中を見詰めながらシズムは一人意味深に呟く。怪獣使いは怪獣を失うと人間に戻ってしまう、と。
うっそだろ
いつものベッドで半身を起こして何やらペンを動かしている山中を見下ろすちせ。何と山中は履歴書を書いていたのだ。特技欄にはご丁寧にも「ダイナストライカー(独学)」と記されていた。書くことがないが故に書いても意味のないことまで書いてしまい、しかもそれを書くことで相手にどう受け取られるかまで想像が及ばない未熟さは、大学を卒業してこの方定職に就いた経験のない筆者としてもとても他人事とは思えない。未だに履歴書には中学生時分に取ったきり何も更新されていない「英語検定三級」と、しかし空白を恐れるあまりに書き込んでしまう。特段職能に関わらず書いても書かなくても同じことならば、むしろ面接官にはそれを「敢えて書こうとした判断=自己評価」をこそ評価されてしまうので、やはり書かない方が無難なのだ。よし、次からは書くまい。
第3話での「中学は行ってたよ」という台詞から、山中は早ければ高校時代頃から自室に篭りきりの”無職”生活を始めたのかと踏んでいたが、履歴書によれば大学までは進んだ上で中途退学しているようだ。職歴は四ヶ月で辞めたパン屋のアルバイトが一つきり。
スーツを探して母親を呼びに行く山中に部屋に取り残されたちせと筆者も声を揃えて「うっそだろ…」と呟きたくなった。山中、そこ実家だったのかよ。
その辺の蟹より美味しいかも知れませんよ
登校中、母親からの土産として蟹煎餅をガウマに手渡す蓬。夢芽は両手を蟹のハサミの形にして「その辺の蟹より美味しいかも知れませんよ」と言ってガウマをからかう。
ここで夢芽がしていた蟹のポーズは、前作『SSSS.GRIDMAN』から観ていた視聴者にはお馴染みの新条アカネが響裕太に向けてしていたポーズと同じだ。
そう言えば、前回映し出された夢芽の家の洗面所は『SSSS.GRIDMAN』における宝多六花の家の洗面所と同じデザインだった。この意味するところとは、果たして。
二人を送り出したガウマは立ち眩みしそうになる。右手の甲の痣は拡がっているようだが、大丈夫なのだろうか?
学校ではシズムの不在が話題となる。
分かんねーよ!
山中の姿に背中を押されたのか、ちせも意を決して制服に着替えて中学の校門の前まで来る。しかしどうしてもそこから一歩を踏み出せずにいると、その背中に声が掛けられる。ナイトと2代目だ。二人は怪獣の現れなくなったこの世界を去る決意をしたようだ。ゴルドバーンも連れて行くと言うナイトはちせに「覚悟を決めておけ」と迫る。「世の中が正しいことなんて分かってますよ」と言いながらもちせは、結局「分かんねーよ!」と叫んで校門と逆方向に駆け出してしまう。
改めてよく見るとコイツ、カッコいいなって
いつもの土手でガウマの前に姿を現したジュウガは自分達の敗北を認める。しかしその一言では怒りの収まらないガウマがジュウガに馬乗りになって殴り付けているところに蓬と夢芽が止めに入る。二度と姿を見せるなと言うガウマに捨て台詞を吐いてジュウガは去る。
その後、蓬と夢芽に自らの過去について語るガウマ。それによれば五千年前、将来を誓い合った”姫”が自分の後を追って自殺してしまったらしい。ガウマは自分が死んだ後で、何故か「御姫様もあなたの後を追って死んだのよ。あなたに会いたくて死んだのよ」という声が聞こえたと言う。
この声は原典である『電光超人グリッドマン』第18話「竜の伝説」においてゆかが生き返ったミイラに対して実際に放った台詞だ。つまりガウマは現実に五千年前から蘇り、ゆかに出会い、その後蓬たちと出会ったということだろうか。だとすれば『SSSS.DYNAZENON』の世界は『電光超人グリッドマン』と同じ”現実”世界ということか?そして生き返ったのが怪獣使いだけだとしたら、もうガウマは姫には会えないのだろうか?
怪獣が現れないならダイナゼノンは必要ないだろうと言うガウマにダイナウィングを返す夢芽。ダイナソルジャーを手にしたまま見詰める蓬を訝るガウマに、「改めてよく見るとコイツ、カッコいいなって」と初めて蓬はダイナソルジャーへの気持ちを口にする。
私は暦くんが憎いよ
履歴書用の証明写真を撮る山中。スーツは着ているものの無造作に伸ばした髪の隙間からわざとらしく微笑んだ目を覗かせる山中の写真は、本人をして「これは酷い」と呟かせるほどのものだった。
そこへ現れたムジナは恐らくこれから怪獣が現れることはないこと、だからもう戦う必要はないことを告げる。しかし山中は「でもそれで、ああ良かった、にはならないよ」と答える。自分が憎いかと問うムジナに、山中はただ自分の仕事をしていただけだと擁護する。そんな山中に「私は暦くんが憎いよ」と寂しげな笑みで言い残してムジナは去る。
何ともハードボイルド!!
『SSSS.DYNAZENON』史上一番の”大人”なやり取りが見れたのではなかろうか。
ムジナが何故山中をこうまで気に掛けるのかは分からないが、少なくとも二人はどうやら互いに憎からず思っているようではある。それが今までは敵同士という立場もあって迂闊に関係を進展させることはできなかった。そこへ晴れて怪獣の脅威が去り、怪獣使いからただの人間へと戻ったムジナの手であれば、山中は躊躇わずに握ることができたのではないか。そういう思いも確かに過る一方で、やはり現実には山中の言うようにそれで何もかもチャラという訳にはいかない。怪獣は山中の世界を確かに変えてしまったのだ。少なくとも山中が就職活動を始めるくらいには。そのきっかけにはムジナも確かに居ただろう。
しかし変わりつつある山中は、もう稲本に誘われるがままにのこのこと出掛けていくこともない。「それでチャラ」にはならない世界を、棒付きキャンディのように苦味を噛み砕きながら、あるいは舌で転がしながら、逞しく生きていくのだろう。
怪獣とともに力を失ったムジナは、だから怪獣を倒すことで力を得た山中に嫉妬もしていただろう。しかもそこには単なる嫉妬だけではなく、自分を袖にした山中に誇りを傷付けられたというような怒りもあった筈だ。しかし現状を作り出した元凶は自分でもあるし、だからこそ山中はその状況に巻き込まれる中でそれなりに魅力的な変化も遂げた。そうした状況を受け容れるしかないムジナの、悟り切れない捨て台詞こそが「私は暦くんが憎いよ」という言葉だったのである。
とは言え煩悩に塗れた筆者である。もしも自分があのような表情で「憎い」と言われてしまえば、その一言ですべてをチャラにし、どこまでも後を追ってしまいそうである。そうせずに一人その場に佇むことを選んだ山中は、筆者よりは遥かに”大人”だった。
ダイナゼノンに乗らなくなっても、俺は南さんと会いたい
夜の土手を歩きながら、五千年前のミイラが生き返って消えた事件の記事をスマホで夢芽に見せる蓬。手に持つスマホを凝視する夢芽の顔が近付いて焦る蓬。このように切り取られる「青春のワンシーン」の解像度が一々高いのだ、『SSSS.DYNAZENON』という作品は。
そのミイラこそがガウマではないかと話す蓬に、別れ際夢芽は明日付き合って欲しいと持ち掛ける。
夢芽が食卓でカノの墓参りに行くと伝えると、母親は急だと困惑するが、これまで母親と言い争う声しか聞こえてこなかった父親がテレビの電源を消して「何時に行くの? 車出そうか?」と訊いてくる。それを受けて夢芽は驚きつつも笑顔を見せて「一人で行くから大丈夫」と言う。これまで家族の問題は一切母親に任せきりで無責任に感じられた父親が、初めて自分から関わろうと一歩を踏み出したシーンが敢えて描かれたことは評価したい。最初の一歩は誰だってぎこちなくなるものだ。
それでもそれを踏み外すことを怖れていつまでも安全圏に身を置いたまま我関せずを貫くよりは、美味しいとこ取りと謗られる覚悟で一歩を踏み出す方が余程良い。ほんの僅かのこのシーンは、「仕事」に代表される公的な身分に縛られて身動きの取れなくなってしまいがちな“男性”をエンパワメントし私的領域における他者との交流へと回帰させる重要なシーンであると感じた。
翌日、夢芽とともにカノの墓参りにやって来た蓬は夢芽の両親の不仲を聞かされる。それに対して自分の家も知らないおっさんが父親になりそうだと返す蓬。この墓地に対して一目で既視感を覚えたが、恐らく『SSSS.GRIDMAN』第9話における夢の中で新条アカネと響裕太一緒に歩いていた墓地と同じものだろう。
ご先祖様に両親が喧嘩ばかりしていると言い付けようとの夢芽の言葉に蓬が「マジか」と言うと、「うっそー」とおどけて見せる夢芽。イチャつきやがって!
しかしこの「うっそー」という口振り、妙にどこかで聞いた覚えがあるような…
帰り際、人の家の墓参りに初めて来たと言う蓬に「蓬くんなら私の話、聞いてくれると思って」と夢芽は第1話で言った台詞を繰り返す。けれど口振りからすると、恐らく夢芽本人はかつて同じ台詞を蓬に対して言ったことは覚えていないようだ。何せ、第1話の時点では蓬との約束を守るつもりなどハナからなく、ただ誘い文句として口から出任せを言っていたに過ぎないのだから。それが関係を深める中で、今回は心の底からの思いが自然に口をついて出たのだろう。けれど蓬の方としてはかつて言われた言葉を覚えている。そして今改めて言われたことで夢芽への想いが急激に高まり、告白するなら今ではないか?! と何かを口にしかけたところで夢芽は足を止め、桶を返しに行ってしまう。完全にタイミングを逸した蓬の純情は、次回へと持ち越されることとなった。
と思いきや再戦のチャンスは意外に早く訪れる。
墓参りの帰路、夜の土手を歩きながら夢芽はダイナゼノンに乗っていた時の方がみんなでプールに行ったり花火をしたりといった「普通のこと」をしていたと蓬に語る。ダイナゼノンに乗らなくなればそうやってみんなと会う機会も減っていくのかなと言う夢芽に、蓬は「怪獣が居なくなっても、ダイナゼノンに乗らなくなっても、俺は南さんと会いたい」と真っ直ぐな気持ちをぶつける。振り返る夢芽の表情も真剣だ。1.5メートルほどの距離で見詰め合う二人。「好きです、付き合ってください」と蓬が言い、夢芽が口を開き掛けたその時、不意に「やっぱり君たちの傍に居て正解だった」という声が聞こえる。突如現れたシズムの胸元から発される光は一直線に蓬を目指す。が、そこに現れたガウマが蓬を庇って吹っ飛ぶ。蓬と夢芽に迫るシズム。二人のピンチに駆け付けたナイトも、シズムの光に弾き飛ばされてしまう。
怪獣はどこまでも自由であるべきだ
シズムは自らの体内に怪獣を宿していたのだ。「インスタンス・ドミネーション」の掛け声を発し、シズムは「怪獣はどこまでも自由であるべきだ」と呟きながら怪獣化する。
弱るガウマを慮り、ナイトは自分とゴルドバーンだけでカイゼルグリッドナイトへと合体する。しかし全員の力が揃っていない状態では、やはり本来の力が出せないようだ。
弱るガウマに病院へ行こうと蓬は言うが、夢芽はそんなガウマの異変に気付く。
怪獣の圧倒的な力に成す術なく蹂躙されるカイゼルグリッドナイト。
その様子をそれぞれの場所から眺めるオニジャ、ジュウガ、ムジナ。
現場へと急ぐちせ、山中。
待て、最終回。
『SSSS.DYNAZENON(ダイナゼノン)』第11話 解説&注目ポイント
怪獣移動物体が発現
山中の部屋で怪獣出現を告げるテレビ画面には「怪獣移動物体が発現」と表示されていた。庵野秀明監督作『シン・ゴジラ』(2016)においては「ゴジラ」や「怪獣」という概念がそもそも存在しない世界に初めてゴジラが現れたという設定であったため、劇中で「怪獣」の呼称は用いられず代わりに「巨大不明生物」の名称が設定された。決して耳に馴染む言葉ではないが、怪獣という概念が存在しない世界でそれを表す名称が何か考えられたとしたら、という思考実験においては、確かにリアリティのある名称に思える。
翻って『SSSS.DYNAZENON』においては第1話で初めて怪獣が出現した時点で蓬たちは自明のものとして「怪獣」の呼称を受け入れていた。だとするなら、報道に際しても端的に「怪獣が出現」で良さそうにも思えるが、それではあまりに幼い印象になってしまう。だからと言って「怪獣移動物体が発現」という言い回しにリアリティが感じられる訳でもなく、これは言ってしまえばリアリティを度外視した演出の遊び心なのだろう。
「ロボット」としての怪獣
これまでにも怪獣を「自由をくれるもの」と言いその超越性を称揚していたシズムが、満を持して怪獣化した。デザインは率直に言ってラスボスに相応しい威容を誇っている。筆者の初見の印象では『ベターマン』に登場した”ベターマンネブラ”が強く意識されたデザインと感じられた。
ところで、『SSSS.DYNAZENON』における「怪獣」と「ロボット」の違いとは一体何だろうか。怪獣がシズムの言うように「自由をくれる」存在であるならば、それをコントロールしようとする”怪獣使い”の態度はそもそも自己矛盾ではあるまいか。「インスタンス・ドミネーション」の掛け声によって怪獣を巨大化させる時、彼らはつまり我々の日常生活を構成する諸権力と同じく「秩序を作り出す」側であり、「怪獣を操る」ということ自体が既に「自由」を内側から破壊している。
外から操られる怪獣は、内に乗って操縦されるダイナゼノンと変わりなく、つまりはこれはロボットバトルなのだ。現にこれまでに出てきた怪獣は概ね生物的というよりは機械的なデザインであったし、第10話で蓬が口から飛び込んだ怪獣の体内はモニターなどの機械部品で埋め尽くされていた。
つまり『SSSS.DYNAZENON』で描かれるのはどちらのロボット=秩序が強いかという政治闘争でしかなく、人間理性vsその外側の自然/超越/神というような話ではない。今回のシズムは、まさに自らの意志で怪獣となった訳で、これは要するに「人型巨大ロボット」について長らく指摘されてきた「拡張された身体」論の延長として捉えることができる。
それでは、シズムの望みとは一体何なのだろうか?
シズムの言う「自由」とは、一切の秩序の存在しない世界を指すのだろうか。
しかしシズムは人間の情動には関心を寄せているようだ。
それも「怪獣を生む」ためという道具的な関心に過ぎなかったが、自らが怪獣と化した今、最早情動を生む存在としての人間は用済みなのだろうか。
そして、夢芽が気付いたガウマの異変とは何だったのか。
謎とバトルに果たして如何なる決着がもたらされるのか、最終回を心して待ちたい。
筆者による最終回第12話の展開予想&これまでの考察はこちらの記事で。
ボイスドラマ【SSSS.DYNAZENON(ダイナゼノン)】第11.11回「元気してる」
今回もボイスドラマが更新されている。本編の解像度が格段に上がること請け合いなので、ファンは要チェックだ。今回は何と本編未登場の蓬の父親の登場。筆者も母子家庭で育ったので父親とは数ヶ月に一度こうして車でどこかへ連れて行ってもらう子供時代を過ごしたが、とは言えこんな風に自然に会話できたことはなかった…
アニメ『SSSS.DYNAZENON (ダイナゼノン)』は、TOKYO MXで2021年4月2日(金) 22時より放送中。
Amazonプライムビデオをはじめとする各動画サイトでも配信されている。
放送局と配信サイトの情報はこちらから。
『SSSS.DYNAZENON』のサントラは発売中。
『SSSS.DYNAZENON』のBlu-rayは予約受付中。
『SSSS.DYNAZENON』最終回第12話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第1話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第2話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第3話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第4話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第5話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第6話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第7話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第8話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第9話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第10話のネタバレ解説はこちらの記事で。