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映画『ブラック・ウィドウ』で流れた音楽は?
2021年7月8日(木)より劇場公開された映画『ブラック・ウィドウ』は、MCU映画としては『スパイダーマン: ファー・フロム・ホーム』以来2年ぶりの劇場公開作品。翌9日(金)からはDisney+ プレミアアクセスでの配信も始まり、いよいよ世界中の人々がブラック・ウィドウの物語を目にする。
今回は、映画『ブラック・ウィドウ』で使用された音楽に焦点をあててみよう。『キャプテン・マーベル』(2019) や『スパイダーマン: ファー・フロム・ホーム』でも印象的な音楽の使い方がされており、歌詞に込められたメッセージと物語がリンクする演出はMCU映画ではすっかりお馴染みになった。『ブラック・ウィドウ』で流れた音楽にはどのような意味が込められていたのか、一つずつ丁寧に見ていこう。
以下の内容は、映画『ブラック・ウィドウ』の内容に関するネタバレを含みます。
『ブラック・ウィドウ』で流れた曲まとめ
車の中で流れる「アメリカン・パイ」
オハイオからの逃走シーン、エレーナがアクセレイに「かけて」とせがむカセットテープは、ドン・マクリン「アメリカン・パイ」(1971) だ。1972年に北米で大ヒットを記録したこの曲は2000年にはマドンナが、自身が主演する映画『2番目に幸せなこと』の主題歌としてカバーし、世界的なヒットを記録している。
「アメリカン・パイ」は『ブラック・ウィドウ』の中盤でも歌われる。エレーナと微妙な空気になったアレクセイが「アメリカン・パイ」を歌い出し、エレーナは苦笑しながらも一緒に歌を口ずさむ。『ブラック・ウィドウ』において「アメリカン・パイ」はエレーナの家族との大事な思い出であり、音楽は重要な役割を果たしている。
では、なぜ「アメリカン・パイ」なのか。この曲では、アーティストのバディ・ホリー、リッチー・ヴァレンス、ザ・ビッグ・ボッパーがオハイオ上空での飛行機事故で墜落死したことについて歌われており、「その日が音楽が死んだ日だ」との歌詞が登場する。その後、「だからさよなら、ミス・アメリカン・パイ」「今日は私が死ぬ日になるだろう」と歌われる。「ミス・アメリカン・パイ」とは、典型的なアメリカ人女性のことを意味しており、“音楽の死”と共に古き良き日のアメリカに別れを告げる内容になっている。
そして、『ブラック・ウィドウ』においては「アメリカン・パイ」が流れる日は、ナターシャの一家にとってアメリカでの生活が終わりを迎える日だ。オハイオから一時避難先のキューバに小型飛行機で飛び立つシーンは、「アメリカン・パイ」で歌われた飛行機事故を想起させる。
エレーナは無邪気に「アメリカン・パイ」をリクエストしているが、この後の展開を理解しているアレクセイとメリーナにとっては不吉な選曲だったことだろう。4人は墜落することはなくむしろ飛び立って行ったのだが、曲の歌詞通り、この日が古き良き一家の生活が終焉を迎えた日になった。
オープニングクレジットで「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」
オープニングクレジットで流れる曲はThink Up Anger Ft Malia Jによる「Smells Like Teen Spirit」(2015)。言わずと知れた伝説のロックバンド、ニルヴァーナの名曲「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」(1991) をカバーした一曲だ。
男性目線で語られることの多かった「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」だが、レッド・ルームに拉致された少女たちの映像と共に流れることで、「Hello, hello, hello」というフックの呼びかけが、“いないことにされてきた”少女たちの呼びかけとして捉えることができる。
「明かりを消せば 危険は少なくなる」「私たちはここにいる 楽しませてみて」と歌われ、最後には「A denial(=拒絶)」というフレーズを9回繰り返してオープニングクレジットは終了する。使い捨てにされる少女たちの解放を目指すナターシャとエレーナの戦いの幕開けを予感させる一曲になっている。
車で流れているのは「Cheap Thrills」
ナターシャがゴミを捨てるために車を走らせるシーン、タスクマスターとの接触の直前に車から流れている曲はシーアの「チープ・スリルズ (Cheap Thrills)」(2016)。ここで流れている歌詞では、「ダンスフロアを盛り上げるまで」「必要なものは全てある」「お金はいらない」という内容が歌われている。
この曲がリリースされたのは2016年1月29日であり、『ブラック・ウィドウ』の舞台もそれ以降の出来事だということが分かる。
なお、シーアは2020年に『ドクター・ドリトル』の主題歌「Original」を歌っている。この映画はアイアンマンことトニー・スタークを演じたロバート・ダウニー・Jr.の『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2018) 以降初の主演映画である。
食卓で歌う「Rise, Ye Children of Salvation」
家族の“リユニオン”の時、食卓についたアレクセイが口ずさむのは「いざたて戦人よ(原題: Rise, Ye Children of Salvation)」。100年以上前に作られた曲で、今ではパブリック・ドメインになっている。合唱ではお馴染みの曲だが、歌詞の内容は「いざたて戦人 旗につづけ 雄々しく進め」という戦意高揚の曲となっており、日本でも戦時中に歌われていたという。
アレクセイが歌うくらいなのでロシアの曲かと思いきや、原作者のジェームズ・マクグラハンはアメリカ人。だが、1907年にオハイオ州で最期の時を迎えており、オハイオ以来となる家族での食卓にテンションが上がったアレクセイは、オハイオとの繋がりがあるこの曲を選んだのかも知れない。
なお、アレクセイの家族と任務に対する思いはこちらの記事に詳しい。
ナターシャが飛び立つ時に「The Avengers Theme」
ナターシャがジェット機で“もう一つの家族”であるアベンジャーズの面々のもとへ向かうラストシーンで流れるのは、もちろんアラン・シルヴェストリの「The Avengers Theme」(2012) だ。ポストクレジットシーンでも「娘」「姉妹」と共に「アベンジャー」という肩書が墓に刻まれており、ナターシャはやはりアベンジャーズとして世界を救ったということが強調されて『ブラック・ウィドウ』の物語は幕を閉じる。
なお、ポストクレジットシーンの意味はこちらの記事で、ラストシーン後にナターシャがどこへ向かったかについてはこちらの記事で解説している。
以上が、映画『ブラック・ウィドウ』で流れた楽曲だ。こうして丁寧に見ていくと、一つ一つの曲に意味があることが分かるだろう。歌詞の内容や曲の背景を知った上でもう一度『ブラック・ウィドウ』を見てみると、新たな見方ができるかもしれない。7月9日(金) からは配信でも観ることができるので、気になるシーンはチェックしてみよう。
映画『ブラック・ウィドウ』はは2021年7月8日(木)より劇場公開中。7月9日(金) からはDisney+ プレミアアクセスで視聴することもできる。
『ブラック・ウィドウ』のサントラはYouTubeで無料公開されている。詳細はこちらの記事で。
『ブラック・ウィドウ』のテーマについての議論を含むレビューはこちらから。
『スパイダーマン: ファー・フロム・ホーム』で流れた音楽の解説はこちらから。
『ブラックパンサー』で流れた音楽はこちらから。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』で流れた音楽はこちらから。
『キャプテン・マーベル』で流れた音楽はこちらから。
ドラマ『ロキ』のサントラはこちらにあるリンクから全曲無料で聴くことができる。