70周年を飾る新たな怪獣(タイタン)の物語
「ゴジラ」シリーズ70周年が近づく中、ハリウッドで展開されている「ゴジラ」シリーズのモンスター・ヴァースの最新ドラマシリーズである『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』第4話「パラレルとインテリア世界」が2023年12月1日からApple TV+より配信が開始された。
『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』はドラマシリーズという性質を活かし、ゴジラを研究する特別研究機関MONARCHにかかわる人物の描写を細かく行い、さらには現実の歴史に沿ってゴジラたち怪獣(タイタン)の歴史を描いていくものである。
本記事ではそのようなモンスター・ヴァースの最新ドラマシリーズである『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』第4話「パラレルとインテリア世界」について解説と考察をしていこう。なお、本記事には『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』第4話「パラレルとインテリア世界」のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。
以下の内容は、ドラマ『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
凶兆か、吉兆か
ユタ州での発見
2015年、アメリカ合衆国ユタ州。そこには銀色のキャンピングトレーラーで何かの調査をする女性の姿があった。ユタ州は南側にアリゾナ州があるが、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019)ではアリゾナ州はセドナの油田地帯から蜘蛛に似ている頭足類の怪獣(タイタン)スキュラが出現するなど特別研究機関MONARCHの監視下にある地域だ。そこに近接しているユタ州などの地域も特別研究機関MONARCHの研究対象の可能性があると考察できる。
やはり、調査していた女性、ジェス・サルゲイロ演じるバーンズ博士は特別研究機関MONARCHのメンバーであり、ユタ州は第47監視所にあたるようだ。ジェス・サルゲイロは『ザ・ボーイズ』(2019-)で物語のきっかけとなったAトレインにひき殺されてしまったロビンを演じた俳優だ。バーンズは特別研究機関MONARCH上層部のミレリー・テイラー演じるナタリア・ベルドゥーゴに連絡を取る。
ここでナタリアの役職が副長官であることが明らかになる。ナタリアは第3話「秘密とウソ」で自身の地位について『GODZILLA ゴジラ』(2014)で登場した渡辺謙演じる特別研究機関MONARCHの生物学者の芹沢猪四郎博士と近い地位であることを語っていたため、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』で芹沢猪四郎博士が特別研究機関MONARCHの実質的なリーダーであったことから芹沢猪四郎博士が特別研究機関MONARCHの長官である可能性が考察できる。
アラスカ州での襲撃
時は同じく2015年、アメリカ合衆国アラスカ州ウトキアグヴィク、旧名バロー。そこではカート・ラッセル演じる現在のリー・ショウ大佐、渡部蓮演じるケンタロウ、アンナ・サワイ演じるケイト、カーシー・クレモンズ演じるメイが怪獣(タイタン)フロスト・ヴァークの襲撃を受けていた。
ケンタロウは破壊された飛行機に残されていた照明弾でフロスト・ヴァークを撃つが弾は逸れ、失敗に終わった。リーの機転で氷に覆われた洞窟に逃げ込むことに成功した4人。しかし、メイが洞窟内にあった水たまりに足を落としてしまい、低体温症の危機に陥る。そのような状況で無関係なメイを巻き込んでしまったことにケンタロウは後悔の念を隠せずにいた。
東京での出会い
1年前の2014年、東京。ケンタロウは自身のアートを画廊に説明しようとしていたが、言葉がうまく出ず躊躇してしまった。ケンタロウのアート作品のタイトルは「パラレルとインテリア世界」、アーティスト名はローマ字でのKENTAROだった。
画廊からバイヤーなどの顧客はアートではなく、アーティストに大金を払うのであって、作品の説明に直感やひらめきといった言葉の逃げ道はないといわれるケンタロウ。ケンタロウが作品の解説としてボードに書いたものは「KENTAROの『パラレルとインテリア世界』への飽くなき探求心。それは見る者が持つアイデンティティへの思い込みに一石を投じる…」というものだった。
その下に数多くの受賞歴があることから、第1話「余波」でケンタロウはケイトにコンピューターエンジニアではないかと推測されていたが、実際はIT機器を用いたアーティストであったことが考察できる。ケンタロウがメイと共にゲームデザインをしたのは、このアーティストの側面があったとも考察できる。事実、ケンタロウとメイは個展をきっかけに出会っている。
アラスカ州での解散
2015年の低体温症になりかけているメイと皆を救うためにケンタロウが見たというゴルフボール状に似た建築物に向かう一行。しかし、日が暮れ始めてもケンタロウの語っていた建築物は見つからない。
その一方でケイトは石油リグか人家らしきものを見つける。そこに向かおうとする3人に対し、自分の見た建築物の方が近いと譲らないケンタロウ。父親譲りの意固地さを知っているリーはケンタロウと一時別行動をし、人を見つけ次第、お互いに助けを呼ぶ約束をするのだった。
バージニア州での報告
2015年、バージニア州の特別研究機関MONARCHの基地。バーンズ博士はナタリア副長官に調査結果を報告しようとしていた。バーンズ博士が発見したのは30 EHz(エクサヘルツ)の放射線であった。エクサヘルツは1秒間に100京(10の18乗)回繰り返される周波数、振動数を表す単位であり、主にガンマ線の単位として用いられる。30 EHzのガンマ線は宇宙のパルサーやブラックホール並みの数値であり、地球上で観測されることはまずないと解説するバーンズ博士。
バーンズ博士が突き止めたガンマ線の発生源はリーやケンタロウ、ケイト、メイのいるアラスカだった。ナタリア副長官は予算を増額し、いち早く調査を進めるべくデータを送るようにバーンズ博士に命令する。立ち去ろうとするナタリア副長官を引き留めるバーンズ博士。バーンズ博士曰く、30 EHzのガンマ線が検出された事例がゴジラによる「サンフランシスコの悲劇」、通称G-Day以前にも確認されたそうだ。
その前例とは雀路羅市原子力発電所とユッカマウンテン放射性廃棄物処分場の2か所だった。この2か所は『GODZILLA ゴジラ』において重要な意味を持つ場所であり、なおかつ特別研究機関MONARCHが監視下に置いていた場所である。
雀路羅市原子力発電所の地下には地震を引き起こしていたMUTO(Massive Unidentified Terrestrial Organism、未確認巨大陸生生命体の意)の繭があり、ユッカマウンテン放射性廃棄物処分場にはフィリピンで発見されたゴジラの同種族の死体に産み付けられていたMUTOの繭が保管されていた。つまり、30 EHzのガンマ線が検出はG-Day並みの災害を引き起こすMUTOの出現を意味していると考察できる。
アラスカ州での焼却
リーとケイト、メイの組とケンタロウとで二手に分かれて建築物を探している4人。しかし、ケイトが不安通りケンタロウは2014年のメイとの出会いを走馬灯のように思い出しており、メイもまた低体温症によるせん妄状態となっていた。そしてリーら一行はケイトが見つけた建築物にたどり着くが、それは最初に来た平岳大演じるケンタロウとケイトの父親のヒロシのテントだった。
焚火を起こしてメイを救おうとするケイトだったが、燃やせるものはもうヒロシの残した直筆の書類だけであった。ヒロシの考えや行先など情報がすべてつまった書類。ケイトは無関係のメイを巻き込んでしまった罪悪感と二つの家庭を持っていた父親のヒロシへの恨みからか、それも燃やすようにリーに頼む。そこに怪獣(タイタン)フロスト・ヴァークが現れ、焚火といった熱源をすべて奪い去っていくのだった。
特別研究機関MONARCHの理念
2015年、バージニア州の特別研究機関MONARCHの基地ではバーンズ博士の発見をナタリア副長官が発表していた。ゴジラやMUTOの再来を危惧し、軍隊を動かすべきか、それともパニックを防ぐために情報を隠蔽すべきかと討論を重ねる一同。そこにジョー・ティペット演じるティムとエリサ・ラソウスキー演じるデュバルがテレビ通話で割って入る。
ティムは自分たちがケイトとケンタロウの祖父であるジョン・グッドマン演じる特別研究機関MONARCHに所属する地質学者ウィリアム・“ビル”・ランダのファイルを追っていることを話し、そして怪獣(タイタン)の隠蔽ではなく、特別研究機関MONARCH発足当初の理念の「皆が知識を持ち寄り、怪獣についてあらゆることを学んで、愛する者を亡くす悲劇を無くすため」へと立ち返るように進言するのだった。
ティムとデュバルはスパイのようにビルのファイルを追っていたが、その理念自体は特別研究機関MONARCH発足当時のケイトとケンタロウの祖母である山本真理演じるミウラ・ケイコ、ワイアット・ラッセル演じる若き日のリー、アンダース・ホルム演じる若き日のビルの思想に極めて近いものだと考察できる。
アラスカ州からの脱出
2015年のアラスカ州でフロスト・ヴァークに襲われかけたリーは、フロスト・ヴァークが自分たちではなく焚火を狙い、破壊された飛行機もエンジンから破壊されていたことから熱に反応していると考察を立てる。そして残された飛行機の燃料を餌にフロスト・ヴァークから海岸沿いへと逃げる作戦を実行しようとする
ここでリーがVJ Dayよりも大きな明かりを焚いてやるといった後にメイが少し怪訝そうな反応を示すのも無理はない。VJ DayとはVictory over Japan Day、つまり対日戦勝記念日のことであり、もしこの場に日本人であるケンタロウがいれば気まずいことになっていただろう。日系人であるケイトとも気まずい空気を生むかもしれない発言だ。ある意味で、現在のリーはケイコと初めて出会った日と同じく、正義感は持つが良くも悪くも「アメリカ人」らしい感性の持ち主だといえる。
メイはいざとなったら自分とリーを捨てて、一人でも生還するようにケイトにこっそりと話した。その頃、降り積もる雪の中で幻覚に悩まされていたケンタロウは、幻覚に襲われる中、鉛筆の削りカスを頼りに打ち捨てられたゴルフボール状の建築物「定点観測所」に辿り着いた。そこで古い通信機と鉛筆の削りカスを見つけたケンタロウは、父親のヒロシもこの通信装置を用いたことを知る。
作戦実行一歩手前でフロスト・ヴァークに襲われたケイト、メイ、リー。リーは飛行機の燃料に火をつけて時間を稼ぐ。そして、その隙をついてヘリに飛び乗る3人。そのヘリはケンタロウがヒロシと思われる人物が修理した無線機で呼んだものであり、その削りカスと修理の跡から父親ヒロシの生存を確信するケンタロウ。リーはヘリの中で、巨大な穴から虹色の光が漏れ出しているのを目にしていた。
リーはメイが咄嗟にフロスト・ヴァークの熱吸収からの盾代わりにしたことでビルのファイルを保存していたノートPCが駄目になったことを知り、腹を立てる。そしてヘリが着陸し、リーは降りようとするが、そこにいたのはティムであり、このヘリも含めてすべて特別研究機関MONARCHの設備だったのだ。
第5話では何が描かれるのか
第3話「秘密とウソ」では1954年のキャッスル作戦や第五福竜丸事件などといった「ゴジラ」シリーズの持つ原爆への恐怖や核への警鐘を描いていたが、第4話「パラレルとインテリア世界」では世界各地に存在している特別研究機関MONARCHの現状を中心に描いていた。そのためか、若き日のリーやビリー、ケイコたちのエピソードはなく、フロスト・ヴァークとの戦いというモンスターパニック映画のような要素が強いエピソードとなった。
一方でケンタロウとメイの出会いや、ケンタロウとヒロシの関係性、そして無関係にもかかわらず事件に巻き込まれてしまったメイの心情が描かれている。第4話「パラレルとインテリア世界」ではモンスターパニック作品的要素とこれまで描かれてこなかった現代の人物たちの深堀りが行われている。
これを踏まえ、第5話では何が描かれるのだろうか。G-Dayに続くMUTO出現の兆候にティムとリーたちはどう立ち向かうのか。これまで怪獣の隠蔽を徹底する姿勢だった特別研究機関MONARCHの姿勢の変化などが描かれそうな第5話。第3話のように「ゴジラ」シリーズの根幹にある政治問題にも触れていくのかにも注目していきたい。
『モナーク:レガシー・オブ・モンスター』第4話「パラレルとインテリア世界」は2023年12月1日からApple TV+より配信開始。
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