ネタバレ解説 ドラマ『ファウンデーション』第1話 原作からの改変は? アシモフの名作SFが映像化 あらすじ・考察 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説 ドラマ『ファウンデーション』第1話 原作からの改変は? アシモフの名作SFが映像化 あらすじ・考察

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ドラマ『ファウンデーション』配信開始

アイザック・アシモフによる名作SFを初めて実写化することに成功したドラマ『ファウンデーション』が、2021年9月24日(金)より配信を開始した。『ファウンデーション』は長年にわたって栄えた銀河帝国が崩壊することを予測した数学者のハリ・セルダンたちが、知識を後世に残すために“銀河百科辞典”を編纂する“ファウンデーション”を結成する物語。

原作小説は「スター・ウォーズ」シリーズなどのスペースオペラ作品にも影響を与えたが、一方で実写化は困難とされてきた。50年以上にわたって映像化が模索されてきたが、遂にAppleがこれを実現。Apple TV+でドラマ『ファウンデーション』が独占配信されることになった。

ドラマ『ファウンデーション』を手掛けるのはデヴィッド・S・ゴイヤー。「ダークナイト」シリーズの原案や『マン・オブ・スティール』(2013)、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)、『ターミネーター:ニュー・フェイト』(2019) といった作品の脚本を手掛けてきた人物だ。ゴイヤーは『ファウンデーション』を『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011-2019) のような大作ドラマに育て、80話規模の物語を描きたいとしている。

そして『ファウンデーション』の壮大な音楽を手掛けているのはベアー・マクリアリー。映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019) やドラマ『エージェント・オブ・シールド』(2013-2020)、ドラマ『スノーピアサー』(2020-) などを手掛けてきた人物だ。『ファウンデーション』のサウンドトラックはドラマの配信開始と同時に配信を開始している。

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今回は、配信がスタートした『ファウンデーション』シーズン1の第1話「皇帝の平和」でどのような物語描かれたのか、ネタバレ有りの解説付きで振り返ってみよう。以下の内容は物語の革新部分にあたるネタバレを含むので、必ず本編を見てから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、ドラマ『ファウンデーション』第1話「皇帝の平和」の内容に関するネタバレを含みます。

『ファウンデーション』シーズン1第1話「皇帝の平和」ネタバレあらすじ&解説

ガールの物語

『ファウンデーション』第1話は、ある人物の語りから始まる。この人物は幼い頃に母親から銀河の最果てにあるターミナスの話を聞いたという。そのターミナスで映し出されるのは「スター・ウォーズ」シリーズのスピーダーのような乗り物。ターミナスの広大な風景からも、ドラマ『ファウンデーション』は映画級の予算が投じられたシリーズに仕上がっていることが分かる。

ターミナスの子ども達はヌルフィールド(零の領域)を目指す。そこにあるのは“ヴォールト”と呼ばれる物体だ。ヌルフィールドとは、強力な念力を発するヴォールトの領域を指し、そこには誰も入ることができない。無謀にもヴォールトに近づこうとして倒れた少年ポリーを助けたのは、サルヴァー・ハーディン。原作では男性のキャラクターだったが、ドラマ版では俳優のリア・ハーヴィ(ハーヴィの三人称はthey/them)が演じる。

あらゆる生物を拒否するヴォールトは「何も教えてくれない」と話すサルヴァー。ナレーションではサルヴァーとホバー・マロウ、ミュールを「後世の者たち」と呼び、ストーリーは35年前の帝国首都トランターに移る。『ファウンデーション』の主人公の一人である数学者ハリ・セルダンの登場だ。レイチが「全てが崩壊する」と危機を知らせる一方、セルダンは「立て直す方法はある」とこの危機を乗り越える唯一の方法があることを告げる。

場所は変わってシンナックス。ルー・ロベル演じるガール・ドーニックは辺境の星であるシンナックスを出て、帝都トランターで生きていくことを決心している。後ろ指を指されながらも、母からは「堂々と歩くこと」を教えられ、ガールは集落を離れる。ここでは幻想的な水の世界が映し出されているが、『ファウンデーション』はアイルランドと島国のマルタをロケ地にして撮影されている

ガールは中継地点であるジャンプシップからジャンプポッドに乗り込んでハリ・セルダンが待つトランターへ向かう。ガールはジャンプシップで出会ったジェリルに、数学コンテストで優勝し、ハリ・セルダンと共に働くことになったと話す。このシーンでは、シンナックス出身で大きな数学コンテストで優勝してハリ・セルダンと働くことは、非常な名誉であるということが示されている。

トランターの巨大さ

ジャンプシーンではハリウッド大作映画級の壮大で美しい映像が映し出される。トランターでのシャトル移動のシーンも含め、その圧倒的な映像は銀河帝国の優れた技術力を誇示する演出になっている。

トランターでは数十億人が地下で働き、クレオン1世の遺伝子を継承する幼少期・中年期・老年期の3人のクローンたち=ドーンデイダスクが皇帝として君臨する。英語の表記は「Dawn, Day, Dusk」となっており、三つのDが並んでいる。

原作小説ではクレオン1世が現役の皇帝で、ハリを宰相に起用しようともする(その後クレオン2世に)。だが、ドラマ版ではクレオン1世のクローンに帝国を統治させることで、永い時を跨ぐ『ファウンデーション』の物語を同じ俳優たちで描き出そうという意図が見える。

実際に、ショーランナーのゴイヤーは実写化特有の問題を乗り越えるために、一部の登場人物の寿命を伸ばすオリジナル設定を導入したと語っていた。その内の一人(三人)は皇帝ということで間違いないだろう。

三人の皇帝はクローン同士、仲睦まじく暮らしている姿が印象的だ。“皇帝がクローン”という設定はともすれば唐突とも受け取れるが、それぞれの年齢が異なる見た目は違うが“似たもの同士”というキャラクター造形の良さがそれに打ち勝っている印象を受ける。

この“クローン皇帝”の裏側についてショーランナーのデヴィッド・ゴイヤーと、デイを演じたリー・ペイスが語った内容はこちらから。

壮年期で中心に立つデイはハリ・セルダンの論文を読んでいた高官をいともたやすく殺してしまう。帝国を批判するハリ・セルダンを蔑んではいるが、同時に支持者を集めていることを危険視しているのだ。

一方で、ターミナス近隣のアナクレオンセスピスはいざこざを起こしていた。セスピスはおそらく原作小説では「スミルノ」にあたる国だろう(ギリシャに存在した都市スミルナやアメリカ合衆国テネシー州の街スミルナと名前が似ているせいか、ドラマ版では名前が変更になったのかもしれない)。隣国の戦争を未然に防ぐのも帝国の役割である。なお、アナクレオンとセスピスの大使が宮殿を案内される場面では、皇帝一家が4世紀続いていることが紹介されるなど、やはり帝国の強大さが強調されている。

ガールが信じた数学

ジェリルと別れたガールはレイチと合流。ジェリルに言われた時と同じように、シンナックス出身の人間を珍しがるレイチに対して嬉しそうな表情を見せる。実力を示してムラ社会を抜ける時には、帰属意識や寂しさやよりも誇りが勝ることがある。

『ジョジョの奇妙な冒険』(1986-) のプッチ神父のように緊張を解くために素数を数えるガール。大量の本で壁が埋め尽くされた場所に案内され、ハリと面会する。ガールはハリに500年以上使われていなかったカーレーの“折り畳みの第9の証明”を使ってアブラクサスの問題を解いたことを褒められる。故郷では孤独だったことから「数学は人を差別しない」と数学を学んだことが語られる。

数学者カーレーの文章は詩的であったがゆえに厳格な学者からは注目されなかった。そうした権威性や偏見を持たないガールに、ハリは可能性を見出したようだ。カーレーのオリジナルの原稿を見せてもらい喜ぶガールだったが、ハリから突然二人が翌日逮捕されると聞かされる。

ここで、ハリの口から“心理歴史学”が紹介される。数学的に人類の未来を導き出す学問であり、『ファウンデーション』の基礎になる概念だ。ハリが心理歴史学で導き出した未来は、トランターも帝国も崩壊の時を迎えるというもので、故に皇帝はハリが民衆に与える影響を恐れていたのだ。

皇帝がガールのトランター入りを認めたのは、アブラクサスを解いたガールにハリの誤りを証明させるため。「数学は悪の手に渡れば兵器に、前の手に渡れば救済になり得る」とはハリ・セルダンの名言である。なお、この直後の皇帝デイの「芸術は政治家の小道具に過ぎない」という権力者ゆえの言葉もなかなかに痺れる。

「銀河百科事典」と「ファウンデーション」

ガールは予言協会に立ち寄るが、“唯一の予言僧”からもハリ・セルダンについて警告される。ハリ・セルダンの言った通り、翌朝反逆罪で逮捕されたガールは原作小説にも登場する弁護士のロース・アヴァキムと面会する。裁判所での答弁で、ハリは銀河帝国8兆人のサンプルから導き出した予測結果として500年以内に銀河帝国が滅びることを宣言。荒廃した世界は3万年続くことになっており、滅亡を防ぐことはできないが、暗黒の時代を1,000年まで短縮することはできると証言するのだった。

そしてハリは、その短縮する方法として銀河中の知識と人類の歴史を集めた「銀河百科事典」の編纂を提案する。これも『ファウンデーション』の根幹をなすアイテムの一つだ。滅亡の後に後世の者たちが新たな文明を築く基礎(ファウンデーション)を作り出すことがハリの計画だった。

裁判の前に、ガールはジャンプシップで出会ったジェリルがガールを監視するスパイだったことを知る。ジェリルはハリの予測が嘘であることを証明するよう求め、心理歴史学の数式を収納できるハリのプライム・レィディアント(基本輻射体)をガールに渡す。壮大で美しい建築物を作り出した帝国を信じるように諭すが、ガールは「創造者は科学者であり政治家ではない」と、これを否定するのだった。

身体から「祈りの石」を取り除き、科学を否定する予言協会から抜けていたガールは、自身が“異端”であることを恐れていた。数学を学ぶガールは孤独だったのだ。裁判中にハリを客観的に判断するよう迫られたガールは、ハリの計算が正しいと証言。銀河帝国の滅亡を知らされた市民が動揺する中、デイは即座に二人の処刑を指示する。

しかし、ここで事態が動き出す。複数の人々が自爆テロを起こしてスターブリッジを爆破。崩壊したスターブリッジのシャフトはターミナスに降り注いで街を燃やす。一億人が死ぬ大規模な事故は辺境の外縁部からの攻撃と断定され、怒れるデイはアナクレオンとセスピスの関与を疑うのだった。

「壊すより興したい」

ハリとガールはデイに呼び出され、この事態の責任を問われるが、ハリは心理歴史学が予測できるのは集団の反応だけであり、個人の行動は予測できないという重要なルールを紹介する。更にプライム・レィディアントで方程式を見たガールは、皇帝であるデイが暗殺されると警告。ハリを処刑することで滅亡が加速し、希望が消えてデイが暗殺されると主張するのだった。

一方、ハリは滅亡を数世紀遅らせることも可能と主張する。その条件はクローン制の廃止だった。皇帝自身がクローンであり、長年にわたって“平和”を実現して統治してきたのだから、皇帝たちからすれば自分自身を否定することであり、飲める話ではない。

結果、デイはハリとガールの死は望ましくないとして、「銀河百科事典」を編纂するファウンデーションの創設を認める。しかし、それはトランターから5万光年離れた資源に乏しい辺境の星であるターミナスで、という条件が付けられていた。冒頭に登場したターミナスは、戦争勃発寸前のアナクレオンとセスピスの近隣にあり、これは事実上の追放だ。研究が欺瞞であればターミナスが衰退するだけであり、成果が出ればそれを接収するというのが皇帝デイの作戦だった。

だが、これはハリの作戦通りでもあった。帝国の干渉を避けられる研究に最適な場所としてターミナスを想定していたのだ。解放されたガールは、ハリに故郷で海面上昇の可能性を聞いてもらえなかったことを話す。科学を信用しないポストトゥルースの時代における気候変動問題へのメッセージが読み取れる。

ガールはプライム・レィディアントの暗黒の中に見たわずかな光に希望を持つ。「滅亡は簡単、壊すより興したい」と言うガールに、ハリは「一つの惑星ではなく銀河を救ってくれ」と期待をかけるのだった。

そして35年後のターミナスにはファウンデーションが築かれていた。そこにハリが「予測できない」とした“個人の行動”が。ガールのナレーションは、ヴォールトに唯一近づけるサルヴァーが銀河の運命を握ることを告げて、ドラマ『ファウンデーション』の第1話は幕を閉じる。

『ファウンデーション』シーズン1第1話「皇帝の平和」まとめ

『ファウンデーション』第1話は、故郷を飛び出して帝都へ、そして辺境の地で銀河を救う仕事を始めるガールの旅路が描かれた。原作小説のガールは、ハリと行動を共にしたのはわずかな期間のみ。ドラマ版のガールは、ハリとより強固な師弟関係を築いているように見える。

また、ガールが影響を受けたカーレーという数百年前の数学者は代名詞が「She(彼女)」になっているため、女性であると考えられる。カーレーもまた権威的な学者たちに認められなかった数学者であり、時を超えてガールが影響を受けている人物である。そして、『ファウンデーション』のキーキャラクターになるサルヴァーも原作から性別が改変されており、非男性のキャラクターたちが物語の中心に立っている姿が印象的だった。

また、ファウンデーション側のハリ以外の主要人物は皆有色人種だ。『ファウンデーション』は強大な権力を握る帝国に数学と科学を提示する人々が“異端”とされ、辺境の地で未来の人々のためにファウンデーション=基礎を築いていく物語である。現実の社会においても“非科学的”な理由で周縁に追いやられてきた人々が、科学を味方につけて世界を構築し直す姿は、現実社会に生きる私たちに生きるヒントや希望を与えてくれるSF最大の機能を『ファウンデーション』にもたらしている。

1951年に刊行され、70年後の2021年にドラマとして生まれ変わった『ファウンデーション』。今後どのような物語が描かれていくのか、最後まで見届けよう。

ドラマ『ファウンデーション』はApple TV+で独占配信中。

『ファウンデーション』Apple TV+

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米時間2021年10月7日にシーズン2への更新が発表された。アイザック・アシモフの娘ロビン・アシモフのコメントを含む詳細はこちらから。

シーズン2以降の構想についてはこちらから。

シーズン2の新キャラと新キャストはこちらの記事で。

 

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Netflixからはドラマ版『カウボーイビバップ』が11月に配信を控えている。詳細はこちらから。

Disney+配信のドラマ『ホークアイ』の予告解説はこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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