ドラマ版『ファウンデーション』“クローン”を取り入れた背景とは 「アシモフは何を言いたかったのか」 | VG+ (バゴプラ)

ドラマ版『ファウンデーション』“クローン”を取り入れた背景とは 「アシモフは何を言いたかったのか」

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ドラマ『ファウンデーション』配信開始

アイザック・アシモフが1942年から発表し、1951年に書籍化された『ファウンデーション』。これまでに20世紀フォックスやコロンビア、HBOとワーナーなどが映像化を試みてきたがいずれも頓挫。しかし、シリーズ第一弾の刊行から70年が経過する2021年にスカイダンス製作、Apple配給のApple TV+オリジナルシリーズとしてドラマ化された。

2021年9月24日(金) に配信を開始したドラマ『ファウンデーション』は、実写化困難とされてきた本作の壮大な世界観を映像化することに成功している。一方で、原作小説からの改変はいくつも見られる。ドラマ化にあたっての大きな変更の一つは、物語で重要な役割を担う皇帝がクローンになっているという点だ。ドラマ版『ファウンデーション』には、なぜこの改変が必要だったのだろうか。

クローン導入の理由

ドラマ『ファウンデーション』では、銀河帝国の首都惑星であるトランターがドーンデイダスクという名の三人のクローンによって治められている。この三人のクローンのオリジナルはクレオン1世で、それぞれがクレオン1世の幼少期・中年期・老年期の年齢になっている。クローンからクローンへと皇帝の地位を引き継ぐことで、彼らは4世紀にわたって銀河帝国を統治し続けている。

原作小説では、ハリ・セルダンを高く評価していたクレオン1世の登場はわずかで、後にクレオン2世が皇帝の座につく。ドラマ版では400年にわたってクレオン1世がクローンとして皇帝の地位にあり、シリーズにおける重要なキャラクターとなる。

このプロットを設定した理由について、ショーランナーを務めるデヴィッド・S・ゴイヤーは配信直前のリモート会見で以下のように話している。

この作品は、映像化に対するアプローチの方法を示した素晴らしい例になります。小説の中では、帝国は1万年以上前から1万個以上の世界に君臨してきました。帝国は強力で、変化に対して抵抗します。融通がきかないんです。だからこそ、私はそもそものヴィジョンとテーマは何なのかということを考えました。アシモフは何を言いたかったのか。それをキャラクターとして具現化するにはどうすればいいのか。(辿り着いた答えが)「一人の男が自分のクローンを作り続け、銀河全体にエゴを押し付けている」ということでした。

この設定が引き金となり、素晴らしいキャラクターが誕生しました。レガシーはこのドラマのテーマでもありますが、クレオン達は皆、個性を出して、銀河に自分の足跡を残そうと必死です。悲劇は、彼らが皆クレオン1世の影の中で生きているということです。だからこそ、彼らがモンスターであっても、視聴者が共感できるようなストーリーを作ることができました。

デヴィッド・ゴイヤーは以前、『ファウンデーション』実写化が困難だった理由として、3つの要因を挙げている。そのうちの一つが、「物語の舞台が1,000年以上に及ぶ」というものだった。その解決方法の一つとして、「何人かの寿命を伸ばす」という方法を選んだと話していたが、その具体的な手段が「皇帝をクローンにする」ということだったのだろう。

デヴィッド・ゴイヤーはドラマ『ファウンデーション』を80話規模で構成したいと話している。皇帝をクローンに設定していることから、シーズンの更新が決まれば、数世紀にわたる物語の中で皇帝は圧倒的な存在感を示すことになる。クレオン1世(とそのクローン達)は、新たなSF大作の大物ヴィランへと育つことになるのかもしれない。

クローン皇帝を演じるために

では、クローンの中でも壮年期にあたり、三人の中で中心に立つブラザー・デイを演じた俳優のリー・ペイスは、この古くて新しい皇帝クレオンをどのように演じたのだろうか。ペイスは“クローンの皇帝”について、こう話している。

私はただの人間を演じているのではなく、人生のあるポイントで銀河皇帝の役割を引き継ぐ“一連の人間”を演じています。一人の人間が銀河系全体を支配し、何兆人もの人々の生死を左右する。どの惑星が繁栄し、どの惑星が窮状に陥るのかを一人の人間がコントロールできるという不条理な思想です。

そのような不条理で抽象的なキャラクターにアプローチする為には、多様な意見を取り入れるようにしました。リサーチをすることは俳優の仕事の中でも最も好きなことの一つです。

アイザック・アシモフがこの物語を書くきっかけになったローマ皇帝のことや、中国の王朝についても調べました。インカ帝国においては、皇帝は基本的に神のような存在でした。良い読み物がたくさんできましたよ。カプシチンスキの『皇帝ハイレ・セラシエ -エチオピア帝国最後の日々』に書かれていたハイレ・セラシエが特に興味深く、このシーズンで演じる皇帝の一人のモデルとして注目しました。

ペイスは、これらの三人の皇帝が、クローンであるが故に「神によって」ではなく「同じ存在であることによって」その権力を継承していくことに注目している。デイは最も若いドーンに対して、どのように考え、振る舞い、装うのかを教えていく。一方でデイは先代であるダスクを超えていくという気持ちも強く、彼らの考えはそもそも矛盾しているというのがリー・ペイスの見方だ。

原作へのリスペクト

ドラマ『ファウンデーション』の中でも大きな改変を任されたリー・ペイス。本作はアイザック・アシモフの原作小説ファンにも注目されているが、ドラマ化にあたっての改変については、以下のように話している。

私がシリーズに持ち込んだものは全て正しいと思っていますし、正しいものは一つもないとも思っています。このドラマは読書感想文ではありませんし、「これが『ファウンデーション』です」と1ページずつ紹介しようとするものでもありません。

私たちは原作をリスペクトしており、アーシュラ・K・ル=グウィン、「デューン」や「ハイペリオン」といった多くの作家と作品に扉を開いたアイザック・アシモフをリスペクトしています。私が読んだ多くのSF小説がアシモフの影響を受けていました。私はこのキャラクターと共に広く網を張っています。デヴィッド・ゴイヤーがそれを編集して、ドラマを完成させてくれればいいのです。

リー・ペイスは、原作とアイザック・アシモフにリスペクトを示し、そこからテーマを広く取り入れてキャラクターに昇華している。リー・ペイスの言葉と、デヴィッド・ゴイヤーの「アシモフは何を言いたかったのか。それをキャラクターとして具現化するにはどうすればいいのか」と、テーマを捉えることを優先したという発言は重なるものがある。

アダプテーションにおいては原作からの改変はつきものだ。異なる時代、異なるメディアで復活した『ファウンデーション』は、原作の根っこにあるテーマをどのように捉え、どのように表現するのだろうか。今後のエピソードとシーズン更新に期待しよう。

ラマ『ファウンデーション』はApple TV+で独占配信中。

『ファウンデーション』Apple TV+

原作のアイザック・アシモフ『銀河帝国の興亡』は、鍛治靖子による新訳版が東京創元社より発売中。

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ドラマ『ファウンデーション』第1話のネタバレ解説はこちらから。

シーズン2の情報はこちらから。

『ファウンデーション』実写化のための三つの壁についてはこちらから。

『ファウンデーション』を80話規模で製作する構想についてはこちらの記事で。

Source
Gadgets 360

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