ドラマ『エコー』配信開始
ドラマ『エコー』が2024年1月10日(水) より全5話の配信をスタート。MCUの新シリーズ「マーベル・スポットライト」の第1弾となる作品で、エコー/マヤ・ロペスにスポットライトを当てた物語が描かれる。
ドラマ『エコー』には、ABC製作のドラマ『デアデビル』(2015-2018) に登場し、ドラマ『ホークアイ』(2021) で復活を遂げたヴィンセント・ドノフリオ演じるキングピンことウィルソン・フィスクも登場。少女時代のマヤはこの犯罪王にどんな影響を受け、そして今度どのように向き合うことになるのだろうか。
今回はドラマ『エコー』第4話をネタバレありで解説&考察していく。以下の内容は『エコー』第4話の重大なネタバレを含むため、必ずディズニープラスで本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、ドラマ『エコー』第4話の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
ドラマ『エコー』第4話「タロア」ネタバレ解説&考察
全盛期キングピン
マーベル・スポットライトのロゴタイトルの音楽が流れず、シリアスさが演出される中、『エコー』第4話は幕を開ける。これまではチョクトー族の先祖の女性のストーリーが冒頭に挿入されてきたが、第4話は2008年のマヤの姿から始まっている。
2008年といえばアイアンマンが活動を始めた時期で、2012年のニューヨークの戦い後を舞台にしたドラマ『デアデビル』よりも前の時期にあたる。デアデビルが活躍を始める前の時代と考えられる。また、第1話の回想シーンは2007年と表記されていたので、ウィリアムとマヤがニューヨークに出て1年後と言うことになる。
幼いマヤは学校から帰り道、アイスクリーム屋の店主から耳が聞こえず言葉が喋れないことを差別される。それを見ていた“おじさん”ことウィルソン・フィスクは路地裏で店主をボコボコにするのだが、マヤもその姿を見て店主に復讐の拳を振るう。このマヤの様子を見れば、ニューヨークに出てきてから様々な類の差別に直面してきたということも想像できる。
それにしてもこの場面のウィルソン・フィスクはまさにキングピンという様相だ。服装は第1話の回想シーンと似ていて、やはりドラマ『ホークアイ』のアロハシャツに白ジャケットの装いよりも風格がある。デアデビルどころかアイアンマンもニューヨークに現れる前の時代であり、“全盛期キングピン”と言っても過言ではないだろう。
各話の解説で、ドラマ『エコー』からマヤの戦闘スタイルにパンチが加わったと書いているが、第4話の回想におけるキングピンの拳での殴打も非常に印象に残る。生身の拳で相手を圧倒するキングピンの姿をマヤに重ね合わせる演出の意図もあるのだろう。
また、怒りに支配されたキングピンの様子はドラマ『デアデビル』でも見られたものだが、デアデビルことマット・マードック自身も、ローニンとして活動していたホークアイことクリント・バートンも、そしてマヤ・ロペス自身にも怒りに支配される描写が存在することは興味深い。誰もが完全な悪、または善ではなく、どちらにも転がり得る、そこで自分はどちらであろうとするか、というシリーズを跨いだテーマが読み取れる。
ちなみにドラマ『ホークアイ』ではキングピンが道場でマヤにアイスクリームを食べるかと聞くシーンがある。この時の二人の思い出として、フィスクがマヤにアイスを買うという行事が生まれたのだろう。フィスクには、ウィルソンも知らない二人だけの秘密を示唆してマヤを手懐ける意図もあったものと思われる。
最新技術キングピン
時代は飛んで2021年。MCU世界では指パッチンで人類の半分が消えたから3年が経過した頃だ。ウィルソンは死に、マヤがフィスクのもとで働いている時の話のようだ。フィスクは「最後のレッスン」として「信頼できるのはお互いだけ」と伝えた後、その場で部下に手話の通訳を殺させる。
二人の会話を全て把握している通訳を殺すことで、「二人だけの秘密」を作り出すやり方は被保護者に対するグルーミングの究極的な表現だと言える。一方で『ホークアイ』ではキングピンはジャージ・マフィアNo.2のカジも右腕として従えており、フィスクの二枚舌、狡猾さがよく分かるシーンである。
そして現在、マヤのもとに舞い戻ったウィルソン・フィスクは、マヤの左目に無理やりコンタクトレンズをつける。すると、マヤの視界にはフィスクが喋った内容に連動したバーチャル手話がARで表示される。フィスクもまた手話が音声化される技術でマヤの手話を音声として受け取っている。2025年が舞台とはいえ、フィスクがこんなSFガジェットを用いるとは少し驚きもある。
AR技術といえば、映画『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019) に登場し、かつてスターク・インダストリーズで働いていたミステリオを想起させる。映画『スパイダーマン:ホームカミング』(2017) では、トニー・スタークが所有していたアベンジャーズ・タワーからスタークたちが引っ越しをしたが、新オーナーは明かされないままだった。
『エコー』配信前に米Phase ZeroのYouTubeでは、マーベル・スタジオのブラッド・ウィンダーバウムがアベンジャーズ・タワーを買収した人物はいつか明かされると発言している。キングピンがアベンジャーズ・タワーを買収し、スターク亡き後のスターク・インダストリーズの技術の一端を手に入れたと考察することもできる。『ホークアイ』でのフィスクの様子を見るに、それほどのパワーがあるとは思えないが……。
ちなみに現実では2022年にはARで手話を学べるフィルターをスナップチャットが公開している。スマホカメラを通して手の形を認識し、手話の学習をサポートしてくれる優れものだ。フィスクが使ったような技術が登場する日も、そう遠くないのかもしれない。
とはいえ、フィスクのダメなところは、スカーリのように手話を学ぼうともせず、通訳を使ったり、テクノロジーで代用したりする点だ。故郷ではマヤの周りにいる人たちは手話を学ぶ、マヤとコミュニケーションが取れるように努力してきた。フィスクのそれは上部だけの“対処”でしかない。
間違い続けるキングピン
昔のように日曜のディナーをしにきたと言うキングピン。眼帯を外す時に青く発光するシートを剥がしているのが分かる。これを通してマヤの手話を入力して音声に変換していたのだろうか。シートを外した後も音声変換は続いているので、フィスクは目にもレンズを入れていると考えられる。というか、失明すらしていないようだ。あのデジタルなシートは治療用のパッチかもしれない。
フィスクは自分を撃ったマヤに対して「それでこそ私の弟子」「生きててよかったと思ってるだろ」「お前を守ってきた」と、なおもパタナリズムな姿勢でマヤに接している。しかもウィルソン殺しの指示についても認めていない。
ワインを捨てたマヤに、フィスクはLevain Bakeryのクッキーを差し出す。Levain Bakeryは実在するニューヨークの著名なクッキー店だ。最新技術でのコミュニケーションに有名店のお土産。このおじさん、徹底的に選択を間違えている。
一緒にディナーを食べようと言ってお弁当を持ってきたキングピンだが、目的は「帝国が欲しいなら与える、だから自分とニューヨークに帰ろう」とマヤにオファーすることだった。それを告げるとフィスクは食事もとらずに立ち去る。いやお弁当箱とか持って帰ってよ……と言いたげな表情のマヤを残して。
ヘンリーの誠実さ
相談されたヘンリーはこれに反対し、自分の大事な人を殺されてきたから独り身でい続けている、ウィルソンが死んでから組織を抜けようとしたが脅されて抜けられなかったと明かす。同じ道を歩ませたくないと言うヘンリーを、マヤは自分を孤立させたとしてなおも責めるが、ヘンリーは「怖かった」と謝罪するのだった。それぞれがどうしようもなく最善の選択をできなかったとき、救いになるのはそれを認める”正直さ”と“誠実さ”だろう。それは今のマヤに欠けているものでもある。
チュラが準備をしていたチョクトー・ネーションのパウワウ祭りの準備が進められている。ドラマ『ミズ・マーベル』(2022) 第2話では、イスラム教のラマダン(断食)の終わりを祝うイードのお祭りが描かれたが、パウワウはネイティブ・アメリカンの文化を祝うイベントで、宗教的な意味はない。ここではネイティブ・アメリカンの手芸品が売られている。
ここでチュラは先祖のビジョンを見る。同時にマヤもビジョンを見るのだが、悪い知らせを届けるキツツキの姿も見られる。さらに妊婦の姿や、洞窟が崩れる様子も。危険が迫っていることを予感させるが、マヤは意識を失ってしまい、ヘンリーはこの奇妙な状況を前にマヤをチュラのもとへ連れて行くのだった。
チュラとタロア
マヤとチュラの再会。おそらく第1話でニューヨークへ向かうマヤを見送った時以来だ。マヤを家に招き入れたチュラは自分で焼いたクッキーを出して、何が飲みたいかをマヤに聞く。これはキングピンが有名店のクッキーを買ってきて、自分の趣味のワインを押し付けたのとは対照的だ。ソーダを飲むかと聞いているが、マヤは先ほどフィスクのワインを捨ててコーラを飲んでおり、離れていてもチュラがマヤの好みを理解していることを示している。
マヤがビジョンを見たことを伝えると、チュラは自分もそのビジョンを見たことを告げ、母を産んだときのことを語り始める。妊娠の合併症でチュラもマヤの母も命が危ないという状況を西洋医学では救えず、チュラは産婆と姉妹たちの立ち会いのもと森で娘を出産していた。マヤがビジョンで見ていた妊婦はチュラだったのだ。
最初のチョクトー人チャファ、イシュタボリの英雄ロワク、チョクトーの戦士トゥクロ、そしてマヤの母を産んだチュラ。全ての女性がマヤにつながるヒーローだ。チュラは、先祖は助けを必要としているときに現れると話し、ここで初めて“タロア”という名前が登場する。「タロア」は第4話のタイトルにもなっているが、チュラの娘/マヤの母の名前だ。
タロアは生まれた時から天賦のギフトで人の痛みを取り除けたといい、難産だったにもかかわらず、出産直後のチュラも元気な姿を見せている。出産時に命の危険があったチュラは、タロアに命を救われたという思いもあったのだろう。タロアが死んだときに自分も死にたいと思い、ウィリアムを許せなかったこと、マヤにタロアの姿を重ね合わせて辛かったことを吐露する。
そして、チュラは、今先祖たちがこだま(エコー)して二人に手を差し伸べてると語り、本作のタイトルである「エコー」がここで登場する。原作コミックではマヤ・ロペスは相手の能力を見てコピーすることができた。その能力自体に「Echo=模倣」という意味があったが、MCUでは先祖の力や声がこだま=エコーするという意味に改変されたということだ。ネイティブ・アメリカンのルーツを活用した見事な改変だと言える。
「手放したくないものは捨ててはいけない」
ヘンリーに続き、チュラもまたマヤに正直な思いを告げた。自分を守るために弱い者を犠牲にしたかつての過ちに対し、加害者側ができることは、それを認めて反省することしかない。マヤはチュラを「孫より自分が大事」と突き放して去るが、それでもチュラはマヤのため、カバーをかけていた衣服に手をつけ始める。第2話ではパウワウの準備をするシーンで過去にチュラが民芸品店を営んでいたことに触れられていた。あれはチュラがマヤのために何かを作る流れの布石だったのだ。
家族はバラバラになったまま。その困難に、チュラがそれでも前を向いて手を動かすことで報おうとするシーンには涙を禁じえない。この場面で流れる曲はアリソン・クラウスが歌う「Down In The River」(2007)。元は1867年に作られたゴスペルソングで、「川に下って祈りを捧げた/昔のやり方を学びながら/ローブをまとい、冠を戴くのは誰か」「姉妹たちよ下って行こう」と歌われている。
「姉妹よ」と歌われる箇所ではボニーの姿が見え、ビスケッツはルーディという友人から映画『ライオンキング』(1994) の「太陽の届くところはお前のもの」という引用の言葉を受ける。ビスケッツは自分でスクラップの山からパーツを見つけてチュラのトラックを直すことにしたのだが、ここでのビスケッツの言葉も名言だ。
「ばあちゃんがいつも言ってる。ボロボロすぎて直せないものなんてない、手放したくないものは捨てるんじゃない、って」。修復不可能なほどに壊れてしまったように思えても、手放したくないと思うのなら諦めてはいけない。それは家族の誰もがマヤに対して持っている感情だろう。チュラは自らの弱さと苦悩を乗り越えて、手放したくないものを修復しようとしているのだ。
金槌の形に注目
マヤはウィルソン・フィスクが滞在しているチョクトー・カジノ・リゾートへ。チョクトー・カジノ・リゾートは実在するカジノリゾートだ。マヤがキングピンのもとへ行った理由は今度こそキングピンを殺すため。「子どもの幻想がモンスターをヒーローに変えた」と言うマヤに、フィスクはマヤが命令に背かなかったことを理由に「どちらがモンスターだ?」と問いかける。命令に従わせて、「自分の意思だった」と思わせようとする支配の常套手段だ。
だが、マヤは怯まない。マヤを孤立させて自分を信用させたこと、手話を習いたくないからレンズを作ったことを指摘されたフィスクは「支えてやっただろ!」と声を荒げるのだった。典型的なモラハラである。ガモーラやネビュラに対するサノスの心理的虐待を想起させる。この一人の子どもに対する罪だけでも、キングピンは大ヴィランになったと言える。
そしてフィスクは、自らの父を殺した金槌をマヤに見せる。実はこの金槌、ドラマ『デアデビル』でフィスク少年が父を殺した時の金槌とは形が全く違っている。この一点を見ても、やはりMCUはABC製作ドラマのキャラクターのストーリーは継承しているが、ユニバースそのものが繋がっているというわけではないことが分かる。これは『ホークアイ』の時に製作陣が語っている通りである。
【2024年1月17日(水) 追記】『エコー』配信後、キングピン役のヴィンセント・ドノフリオは米Hollywood ReporterにABC制作の過去シリーズが正史になり、「全てのストーリーが持ち込まれる」と語った。金槌の形の変更については、「プロジェクトによって多少物事が変更されてもおかしくない」「クリエイティブな人々がユニークな選択をすることは許されるべき」と語っている。
マヤの選択
母に暴力を振るっていた父を自ら殴り殺したと告白したキングピンは、マヤにも同じように金槌で自分を殺せと迫る。フィスクはもちろんマヤがそうしないとタカを括っていたのだろうが、ごく僅かに本当にこの人生から逃れられるかもしれないという希望を感じているようにも思える。マヤはこれを拒むと、やはりフィスクは一瞬で態度を変えて翌朝一緒に帰ろうとオファーするのだった。
選択を迫られたマヤは、過去のフィスクとの食事、フィスクの笑顔、「愛してる」と手話で言ってくれたこと、フィスクのために働いていた時代、ヘンリー、ビスケッツ、ボニー、スカーリ、チュラ、ウィリアム、タロアの姿を思い巡らせる。壊れていても、手放したくないものは捨ててはいけない。
マヤはバイクを走らせるとそのままタマハを離れる。部下がそれをフィスクに伝えると、フィスクは怒りを露わにするのだった。「信頼できるのは互いだけ」と言いながらマヤに尾行をつけているあたり、誰も信頼していないフィスクらしい仕草だ。そにれにしても、フィスクはプライベートジェットでオクラホマを訪れていることから、まだまだ財力は健在であることが分かる。服装も合わせて、『ホークアイ』のときよりも状況は改善しているように思える。
エンディングで流れている曲はHalluci Nation feat. Blackbear「Bread and Cheese」(2013)。ファースト・ネーション(イヌイットとメティ以外のカナダの先住民)のアーティストによる楽曲だ。ここで初めてネイティブのアーティストの曲が使われたことで、マヤがネイティブ・アメリカンの家族のための道を選んだことが示唆されている。
そしていよいよドラマ『エコー』は最終話へ。壊れた家族の“どうしようもなさ”に、道筋が見え始めた今、マヤはキングピン相手にどんな決着をつけるのか。最終話の解説&考察もお楽しみに!
ドラマ『エコー』はディズニープラスで全5話が配信中。
『エコー』第4話のネタバレ解説&考察はこちらから。
第3話のネタバレ解説&考察はこちらから。
第2話のネタバレ解説&考察はこちらから。
第1話のネタバレ解説&考察はこちらから。
ドラマ『ホークアイ』最終話のネタバレ解説はこちらの記事で。
『ホークアイ』最終話で残された13の謎はこちらから。
『エコー』主演のアラクア・コックスのこれまでの道のりはこちらの記事に詳しい。
【!ネタバレ注意!】ドラマ『ロキ』シーズン2最終話のネタバレ解説はこちらから。
【!ネタバレ注意!】映画『マーベルズ』のラストからポストクレジットシーンまでの解説&考察はこちらの記事で。
【!ネタバレ注意!】映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』のラストからポストクレジットシーンまでの解説&考察はこちらの記事で。