ドラマ『エコー』配信開始
MCUドラマ最新作『エコー』が2024年1月10日(水) より配信を開始。『エコー』は、ドラマ『ホークアイ』(2022) で初登場を果たしたマヤ・ロペスを主人公に据えた作品で、マヤと同じくネイティブ・アメリカンでろう者のアラクア・コックスが主演を務める。
アラクア・コックスは『ホークアイ』のオーディションでマヤ役を勝ち取った人物であり、同作で初めて俳優を経験している。『エコー』はアラクア・コックスにとって初の主演作となる。『ホークアイ』のその後のマヤとキングピンの姿が描かれるとあって、注目度も高い作品だ。
今回は、全5話が一斉配信されたMCUドラマ『エコー』より、第1話のネタバレ解説&考察をお送りする。以下の内容には本編のネタバレを含むため、必ずディズニープラスで本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、ドラマ『エコー』第1話の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『エコー』第1話「チャファ」ネタバレ解説&考察
反時計回りの意味
MCUドラマ『エコー』の冒頭は、「視聴に注意が必要な内容を含みます」と注意書きが表示される。『エコー』はMCU作品では初めて、成熟した視聴者を対象とするTV-MA指定の作品となっている。これは、ABC製作の『デアデビル』(2015-2018) 等の大人向けの作品と同じカテゴリだ。日本版ディズニープラスのレートとしては15歳以上向けとなっている。
また、『エコー』にはいつものマーベル・スタジオのオープニングロゴの映像と音楽はなく、代わりに「マーベル・スポットライト」の控え目なタイトルロゴが挿入されている。「マーベル・スポットライト」は個々のキャラクターに焦点を当てたコミックシリーズから名付けられたMCUの新ブランドで、「マーベル・スポットライト」作品では世界観よりもキャラクター自身を掘り下げる物語が展開される。
『エコー』第1話の最初のシーンでは、青く光る泉のような場所が映し出される。これはアニメ『ホワット・イフ…?』シーズン2に登場したネイティブ・アメリカンのMCUオリジナルキャラクター、カホーリのエピソードを想起させる演出だ。『ホワット・イフ…?』シーズン2第6話ではカホーリが村の近くの洞窟で青く光る泉を発見し、その泉に入ると別世界へと飛んでスーパーパワーを身につけるという物語が描かれている。
なお、『エコー』に登場した泉は渦を巻いているのだが、渦の巻き方が反時計回りになっている。本作の監修を手がけたチョクトー居留地がウェブサイトで公開している資料によると、チョクトーの踊りでは“反時計回り”の動きが多く用いられており、それは“時計回り=自然”とは異なる“人間らしさ”、あるいは“人間の不完全さ”を表現した文化だとされている。この冒頭1秒だけでも分かる通り、『エコー』にはかなり細かいところまでネイティブ・アメリカンの文化が反映されている。解説必須の作品だ。
チョクトー族のオリジン
冒頭に描かれているのは、第1話のタイトルであるチャファという人物の物語。洞窟にキツツキが現れると洞窟は崩れ、「最初のチョクトー人」であるチャファに助けられた部族は人間の姿を手に入れてこの世界で生きていくことに。これが「チョクトー族の始まり」と紹介されている。
まず、チョクトー族というのは『エコー』の主人公であるマヤ・ロペスの出身部族の名前だ。チョクトー族は実際に存在する部族で、ネイティブ・アメリカンの五大部族に数えられている。『エコー』第1話冒頭の現実離れしたチョクトー族の描かれ方にギョッとした人もいるかもしれないが、チョクトー族の起源については部族内で複数の伝説があり、ここでは“地底から地上に上がってきて土の身体から現在の人間の姿になった”というオリジンが採用されている。
ネイティブ・アメリカンの伝承は、その多くが歌や語りによって継承されており、文献やネット上に残されていないものも多い。雑な文化の描き方になっていないかが気になるところだが、ネイティブ・アメリカンのコミュニティを描くドラマ『エコー』においては、舞台となったチョクトー居留地の自治組織と同組織に所属する民族考古学者のイアン・トンプソンが文化・言語・歴史が正しく描かれているかどうかの監修を行なっている。同居留地の代表であるギャリー・バトンも『エコー』に推薦コメントを寄せており、これを一つの保証と見てもよいだろう。
Marvel Studios’ #Echo brings an authentic representation of Native American culture to the Marvel Universe. Filmmakers worked with the #ChoctawNation during production to ensure our culture, language, and history were accurately represented. Learn more at https://t.co/xBBoqmOVXe. pic.twitter.com/lEVw5Mwupp
— ChoctawNationOK (@choctawnationOK) January 9, 2024
洞窟が崩れるシーンではキツツキがチャファのもとに現れるが、チョクトー人の言い伝えではキツツキは悪い出来事を知らせてくれる存在である。ドラマ『エコー』では度々キツツキが登場することになるので、注目してみよう。
このようにドラマ『エコー』では、現在のコミュニティのリアルなネイティブ・アメリカンの姿と、伝説をフィクションに落とし込むストーリーが盛り込まれている。コミックのキャラクターを描き直すだけでなく、カルチャーもステレオタイプにならない形で監修を入れて描き直しているという点も『エコー』の特徴と言える。
ネイティブ・アメリカンの豪華俳優陣
幼いマヤは従妹のボニーとテントで遊んでいる。幼いマヤを演じているのは、ドラマ『ホークアイ』の回想シーンと同じくダーネル・べサウ。マヤを演じるアラクア・コックスの実の従妹だ。『エコー』ではマヤのオリジンも描かれるとあって、グッと出演回数が増えている。見事な演技を見せており、また一人ネイティブ・アメリカンの優れた俳優が誕生することになりそうだ。
そして、焚き火を囲う若き日のマヤの祖母チュラ、祖父スカリー、父ウィリアム、そしてまだ名前が明かされていない母の姿が映し出される。ここでマヤの従兄弟であるビスケッツの名前も上がっている。マヤの母もろう者なのだが、スカリーは一人だけ手話の練習をしているため、マヤや母と血のつながった祖父ではないのかもしれない。祖母チュラの再婚相手、またはボーイフレンドという可能性もあるだろう。
祖父スカーリを演じているのはベテラン俳優のグラハム(グレアム)・グリーンだ。ネイティブ・アメリカンのオナイダ族の出身で、映画『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(1990) や映画『マーヴェリック』(1994) などでネイティブ・アメリカンの人物を演じたことで知られる。グラハム・グリーンは映画『ダンス・ウィズ・ウルブズ』でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたが、同作には『エコー』でマヤの祖母チュラを演じているタントゥ・カーディナルも出演している。なお、タントゥ・カーディナルは昨年公開された映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』にも出演している。
このシーンで、画面の右下には「2007年 オクラホマ州タマハ」と表示されている。ネイティブ・アメリカンの五大部族は1830年から数十年かけて現在のオクラホマ州東部へと徒歩で強制移住させられた。移住先の土地は、白人がネイティブ・アメリカン用に土地を保留したという意味で「保留地 (Reservation)」という言葉が使用されている。
また、時期は2007年と表記されており、ドラマ『ホークアイ』は2024年末の出来事なので、この後の本作舞台から約15年前であることが分かる。MCUではアイアンマンらスーパーヒーローたちが公然と世間に姿を現す前の時代である。
ウィリアム追放
マヤの祖父母が体調を崩しているビスケッツの話をしながら家を出る場面では、再びキツツキが登場する。“悪い知らせ”を予感させ、チュラも何かを感じている時、ココアを欲しがったマヤのために母は車を走らせ、マヤと共に交通事故に遭ってしまう。この事故で母は亡くなり、マヤも右足を失う。マヤの右足が義足になった理由がここで明かされている。
事故が起きたのは、『ホークアイ』にも登場したマヤの父ウィリアム・ロペスが何者かに狙われ、トラックのブレーキを壊されていたからだった。ウィリアムはこの頃から裏社会で働いており、命を狙われていたのだ。男が裏社会で生きていたことによって妻の命が奪われるというストーリーは、映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2022) におけるウェンウーの物語と重なる部分がある。
娘を失った祖母のチュラはウィリアムを責め、ロペス家の男たちとの結婚には反対だったと主張。裏社会を生きてきた家系なのだろう。本作は主人公のマヤ・ロペスも含めて、“ロペス家の呪い”との戦いも注目ポイントの一つだ。
チュラは「一生許さない」としてウィリアムに立ち去るよう要求。ウィリアムは“ヘンリー”から仕事を紹介されてニューヨークに行くという。ヘンリーは後で登場するが、彼もまたロペス家の人間であり、チュラはその名を聞いただけで紹介されたのが裏社会の仕事であることに勘付いている。
ウィリアムはマヤに母の死を伝え、マヤと共にオクラホマからニューヨークへ移住する。この時からウィリアムはニューヨークでキングピンの直属の部下として働いていたのだろう。チュラのもう一人の孫であり、マヤの従姉妹であるボニーとの別れのシーンは涙もの。耳の聞こえないマヤのニューヨークでの暮らしは、ドラマ『ホークアイ』第3話で描かれたシーンと同じものだ。
『ホークアイ』でも印象的だったウィリアムがマヤに伝える「二つの世界を行き来できるようになりなさい」「よく見ればいい」という言葉も描かれる。『ホークアイ』ではこの前にマヤが耳が聞こえない子ども達の学校に通わなくていいのかと聞き、ウィリアムが「必要ない」と答えるシーンも挿入されていた。ウィリアムは自分が愛した妻もろう者であり、耳が聞こえる人と聞こえない人が共生できる世界を信じていたのだろう。
なお、この寝室のシーンからウィリアムの首にはタトゥーが入っている。ニューヨークに来てから入れたものということになり、ウィリアムが以前よりも裏社会にコミットしていること、あるいは故郷から離れたことで民族的な帰属を身体に刻んでいることが示唆されている(ただのオシャレかもしれないが)。
ウィリアムがマヤに自分とは違う人生を生きてもらいたいと思っていること、父の言葉からマヤは相手をよく見て戦えるようになったことなどが描かれ、マヤの人生の解像度が『ホークアイ』の時とはまた違った形で上がっていく。その上でローニンがウィリアムを殺害するシーンが。
『ホークアイ』ではローニンがキングピンの依頼を受けてウィリアムを殺害したことが明らかになっている。ウィリアムが死ぬ時にマヤの顔に手を当て、マヤの顔に手形の血が残るという演出は原作コミックから引用されたものである。
それにしても、こうしてマヤのオリジンから順を追って父ウィリアムが殺された流れを観ると、マヤがローニンへの復讐を誓った気持ちも理解できる。しかも、こんな状況でケイト・ビショップやらカジやらの相手をしないといけなかったのは結構ダルいことだっただろう。立場を変えれば見方が変わるというものである。
元気な頃のキングピン
母を失い、一族から追い出され、そして父を失ったマヤは、ボニーからの「いつでも力になる」というテキストを無視し、グレていくことになる。バイクをジャックするシーンでは警察が集結するが、マヤにはサイレンの音も警官の警告も聞こえない。耳が聞こえる者を前提とした警察の対応がマヤにとっては意味のないことだと示されている。
拘束されたマヤだが、そこに現れたのはキングピンことウィルソン・フィスク。一言も発することなく、警察の方から道を譲られ、勝手にマヤを連れていく。『ホークアイ』の製作陣は転落した状態のキングピンを描いたと話していたが、ローニンが活動している時期=映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019) の5年間のどこかを舞台としている『エコー』のこのシーンでは、まだ十分に力があることが示されている。
マヤを保護したキングピンだが、手話は通訳者を通して行っており自分では手話を学んでいないようだ。さらにウィリアムの死について、自分の指示であることを隠し自分の父も殺されたと言い出す。このストーリーはドラマ『デアデビル』で描かれたもので、12歳の時に虐待父を自ら殺害している。
なお、ABC制作のドラマシリーズと現行のMCUの繋がりについては、製作陣が「ユニバースについて扱うのではなく、キャラクターの物語を扱う。キャラクターたちが私たちの世界に入ってくる」と発言している。キャラクターの設定だけを引き継いでいるものと思われ、過去作を全て観る必要はないはずなので安心していただきたい。【2024年1月17日(水) 追記】『エコー』配信後、キングピン役のヴィンセント・ドノフリオは米Hollywood ReporterにABC制作の過去シリーズが正史になり、「全てのストーリーが持ち込まれる」と語った。
『エコー』のこのシーンでは自分が殺したことを隠して「殺された」「痛みを感じた」「辛かった」ということだけマヤに伝える狡さを見せている。キングピンことウィルソン・フィスクは自らの指示で殺したウィリアムの娘を、その心の傷を利用して組織に取り込んだのだ。
マヤの新たなアクション
マヤ・ロペスの初任務の場面で流れている音楽はLeikeli47「Chitty Bang」(2002)。「チキチキバンバン」という擬音はエンジン音を表現しており、『エコー』で印象的に使われるマヤのバイクのエンジン音を想起させる。
マヤと一緒に仕事をするキングピンの部下は手話が使えないので、ゆっくり話してマヤが読唇術を使っている。取引相手のセキュリティーはマヤのボディチェックでセクハラをかまし、マヤはそいつを取り押さえるが、仲間は助けてはくれない。そのリスペクトのなさの根底には、女性蔑視も人種差別も耳が聞こえないことに対する差別も含まれているのだろう。父を含む家族との生活から一変した、ニューヨークの裏社会での厳しい現実が描かれている。
マヤの任務は、フィスクのシマを奪おうとしている奴らの取引で皆殺しにすることだった。ここからのアクションシーンはワンカット(長回し)で撮影されており、大胆なアクションが繰り広げられている。ここでマヤは初めて人を殺すことになる。そのシーンは聞こえる音が心臓の音だけになり、相手の首の骨が折れる音が響く。ここからマヤは戦闘モードになり、BGMでBONES UK「Pretty Waste」(2019) が鳴り響く。同曲は「綺麗な顔がもったいない」「こんな風に生きるのは簡単じゃない」という歌詞が歌われている。
なお、マヤ役のアラクア・コックスはこのアクション・シーンでパンチを使っているが、これは『ホークアイ』では見られなかった演出だ。『ホークアイ』の製作陣は、アラクア・コックスにとってコミュニケーションをとる手段である手を危険に晒すべきでないと考え、スタントシーンにパンチを入れず、基本的にエルボーで戦うスタイルをマヤに与えた。マヤ役で役者デビューを果たしたアラクア・コックスも、今作で2作目ということでパンチを解禁したのかもしれない。
デアデビル登場
セクハラ野郎もボコボコにして復讐を果たしたマヤだったが、そこに現れたのは“覆面の男”。デアデビルである。チャーリー・コックス演じるデアデビルことマット・マードックはMCUドラマ『シー・ハルク ザ・アトーニー』(2022) に登場。こちらもABC製作のドラマ『デアデビル』から引き継がれているキャラクターだ。
マット・マードックは『シー・ハルク』で原作コミックでも登場した黄色と赤の新スーツを手に入れた。だが、『エコー』のこの場面は『エンドゲーム』の5年間の出来事だと考えられるため、ドラマ『デアデビル』と同じスーツを使っている。
スパイダーマンもドクター・ストレンジも指パッチンでニューヨークから消えたこの時期、生き残ったデアデビルはニューヨークで犯罪者と戦っていたようだ。『ホークアイ』でキングピンが転落していた背景には、デアデビルがキングピンの組織解体に取り組んでいた背景があるのかもしれない。
なお、このシーンのデアデビルは戦い方や表情などから『デアデビル』シーズン3に登場した偽デアデビルではないかと見る向きもあった。だが、『エコー』のクレジットでは登場したのがチャーリー・コックス演じるデアデビルことマット・マードックであることが明記されている。
コミックでもお馴染みのデアデビルvsエコーの戦いは見どころ十分。マットは目が見えず、マヤは耳が聞こえないが、互いにそれを知らない状態で互角に戦っている。デアデビルがマヤが義足だと知らず右足を殴ったり、逆にマヤがその右足でタメを使ったハイキックを繰り出したりと見応えのある戦いが繰り広げられている。
キングピンのグルーミング
善戦するマヤに対し、デアデビルはこれ以上戦っても無益と考えたのだろう、視界を逸らして姿を消してしまう。だが、これを評価したのはキングピンだった。ウィルソン・フィスクはデアデビルを高く評価しており、互角に渡り合ったマヤを誉めると、今のマヤには「居場所と目的」がある、「何があっても家族だ」と告げるのだった。
フィスクによるマヤへの行為と態度は、心理的なグルーミングを表現していると言える。身寄りがなくなった若者に犯罪行為を行わせ、それを通して承認と居場所を与える。“二人だけの秘密”を作り、信頼を築くと同時に逃れられない状況も作っていく。『エコー』で描かれる二人の関係は、権力者である白人男性が立場を利用してマイノリティの若い女性をグルーミングしていく様子だと捉えることができる。
ジャージ・マフィアに居場所を見出したマヤ・ロペスの映像は、『ホークアイ』内のものも使われている。マヤは父の仇には自分でトドメをさすと宣言した後、『ホークアイ』で描かれたクリント・バートンとの対決を通して、キングピンがウィリアム殺しの首謀者であったことが明かされる。フィスクとは違い、クリントは自身も難聴であるためマヤに手話で語りかける。クリントはマヤと自分が共にフィスクに怒りを利用されたことを指摘し、マヤはキングピンへの復讐を果たすのだった。
ここまではドラマ『ホークアイ』で描かれた内容。マヤがキングピンの頭に目掛けて発砲し、巨体が倒れる音を残して、その後は分からないままだった。『エコー』第1話ではその5ヶ月後から物語が進んでいく。『ホークアイ』が2024年12月末の出来事だったので、『エコー』のメインストーリーは2025年5月が舞台ということになる。これは『シー・ハルク』と同時期であり、デアデビルは西海岸のロサンゼルスに行っているものと思われる。
タマハの街
バイクで登場したマヤは腹部に銃創があり、まだ戦いの日々から抜け出せずにいた。血を流しながらもバイクでオクラホマまで辿り着いたマヤ。オクラホマはアメリカ中西部に位置し、バイクだと丸一日はかかる距離だ。字幕ではオクラホマ州ということしか分からないが、道路標識には「チョクトー・ネイション・オブ・オクラホマ」と、チョクトーの居留地であることが示されている。
意識朦朧とする中実家にたどり着いたマヤはボニーとの幼少期を思い出しつつ、デンタルフロス(歯と歯の間を掃除する糸ようじ)で腹部を縫う粗治療を行う。グロくはあるが強い痛みを表現できており、さすがTV-MA指定のドラマだ。
マヤは夢の中で冒頭登場したチャファを含む先祖の姿を見る。そこに現れたのは従兄弟のビスケッツ。「20年経ったのに」と言っているが、実際に経過したのは18年だ。なんか良いやつそうなビスケッツは愛犬のビリー・ジャックに話す時も手話を使っているが、これはビリー・ジャックに話しながら、なんと言っているかをマヤにも知らせるための動きである。その証拠にビスケッツの頭はビリー・ジャックの方を向いているが、手話はマヤの方を向いている。
ビスケッツは祖母のチュラのトラックを使っているようだが、ドアには「POSTAL SERVICE」と書いており、チュラが郵便局員であることが示唆されている。追放された地で帰ってきたことを知られたくないマヤは、ビスケッツの協力を得て物資を調達することにする。
ここからはネイティブ・アメリカンの人々が住むリアルなタマハの街並みが描かれる。マヤはタマハ消防署で働くボニーの姿を遠くから見守る。大人になったボニーを演じているデヴァリー・ジェイコブスは、アニメ『ホワット・イフ…?』でネイティブ・アメリカンのスーパーヒーローであるカホーリの声を演じた俳優だ。『ホワット・イフ…?』のエピソードは別ユニバースでの物語なので、もしかするとボニーはスーパーヒーローにならなかった世界線のカホーリの子孫なのかもしれない。
ロペス家の男
だがマヤはボニーには声をかけずにその場を去る。すでに裏社会絡みで母と父を失ったマヤは、これ以上大事な人を自分が置かれている状況に巻き込みたくないのだろう。マヤはブラック・クロウ・スケートライフに向かう。ブラック・クロウはマーベルのコミックに登場するナバホ族出身のヒーローで、キャプテン・アメリカやデアデビルと縁が深い。このスケート場を運営するヘンリー・ロペスが後にブラック・クロウになる可能性もある。
スケート場で流れる音楽はJ・ガイルズ・バンド「堕ちた天使(原題:Centerfold)」(1981)。1980年代に大ヒットした曲だ。壁には「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」をもじった「Make America Skate Again(アメリカを再びスケート国に)」と言葉が書かれている。この標語はもともと1980年にロナルド・レーガンが大統領選で使用したもので、音楽と相まって1980年代に取り残されたような雰囲気が作り上げられている。
受付のヴィッキーに嫌がらせを受けつつ、マヤは叔父(ウィリアムの弟)のヘンリー・ロペスと面会。ちなみにヴィッキーを演じているトーマス・E・サリヴァンはドラマ『エージェント・オブ・シールド』(2013-2020) にもナサニエル・マリック役で出演している。ヘンリー・ロペスを演じるチャスク・スペンサーもドラマ『ジェシカ・ジョーンズ』(2015-2019) にジェイス・モンテロ役で出演している。共にABC製作のマーベルドラマ出演者なのだ。
チャスク・スペンサーはラコタ/スー族の俳優で、「トワイライト」シリーズのサム・ウーレイ役などで知られる。かつてのロバート・ダウニー・Jr.のように薬物依存とアルコール依存からリハビリを通して復帰した俳優である。
マヤの祖母チュラが「ロペス家の男」を嫌がっていたことから、このヘンリー・ロペスもまた裏社会と繋がっていることが分かる。一方で受付のヴィッキーも裏社会と繋がっており、懸賞金目当てでマヤの情報を提供。テキスト相手の電話番号のエリアコード「212」はニューヨークのコードの一つであり、ヴィッキーがニューヨークの人物に連絡を入れていることが示されている。
クイーンの時代
ヘンリーはマヤに、ヴィッキーは「ここ以外の仕事も手伝ってる」と言い、治療のために遺体処理のグレッチェンを呼ぶなど、裏社会の顔を見せる。グレッチェンに銃創を治療してもらったマヤはヘンリーと共にタワーの上から街を見下ろすが、ヘンリーはボニーに会いにいくよう助言するが、それよりマヤが注目していたのは街のフィスク運輸 (Fisk Shipping) だった。
ドラマ『ホークアイ』でもキングピンはファットマン中古車やファットマン自動車修理店を運営しており、手広くビジネスを手掛けていることが示されていた。マヤの目的は自分を追うキングピン陣営に警告を送ること。そのためには列車の車両が必要だヘンリーに持ちかける。
アメリカの大陸横断列車はコンテナをそのまま運ぶので、ここでマヤが言う「車両」というのは、運輸会社から発送されるコンテナのことを指している。ヘンリーはこの街で運輸ビジネスを任せられており、マヤはそれを使ってキングピンの手下に警告を与えようとしたのだ。
この街に戦争は持ち込ませないとするヘンリーに対し、マヤは「キングピンの時代は終わった、次はクイーンの時代」と言い放つ。“キングピン”とはボウリングの中心のピンを意味する言葉だが、ここではマヤはチェスを想起させる言い方をしている。
マヤはヘンリーからの協力を断られて『エコー』第1話は幕をとじる……かと思いきや、ラストシーンは病室で蘇ったキングピンの姿だった。マヤが撃った左目にパッチをつけているが、まだ死んでいなかったのである。ちなみに原作コミックではキングピンはマヤに撃たれて両目を失い、デアデビルと同じく目が見えなくなる。MCUではとりあえず片目を失った状態になったようだ。
最後の曲は?
ラストシーンの後は、MCUで初めて今後のエピソードの予告編が入り、クレジットシーンではヤー・ヤー・ヤーズの「Burning」(2022) が使用されている。この曲はドラマ『エコー』の主題歌扱いとなっている。ヤー・ヤー・ヤーズはニューヨーク出身のバンドで、この曲の冒頭では「信じる者が私を熱病のように苦しめた/煙に隠れるあなたを捕まえた/私は隕石のように輝く」と歌われている。
原作コミックでは2021年からエコーがフェニックスの力を手に入れて活躍を見せる『フェニックス・ソング:エコー(原題)』が刊行されている。「Burning」という曲にはそうした背景も込められているのかもしれない。
第1話から怒涛の展開を見せたドラマ『エコー』。MCUドラマでは初の全話一斉配信となったことで、イッキ見できる点も魅力だ。第2話の解説&考察はこちらからチェックしていただきたい。
ドラマ『エコー』はディズニープラスで全5話が配信中。
ドラマ『ホークアイ』最終話のネタバレ解説はこちらの記事で。
『ホークアイ』最終話で残された13の謎はこちらから。
『エコー』主演のアラクア・コックスのこれまでの道のりはこちらの記事に詳しい。
【!ネタバレ注意!】ドラマ『ロキ』シーズン2最終話のネタバレ解説はこちらから。
【!ネタバレ注意!】映画『マーベルズ』のラストからポストクレジットシーンまでの解説&考察はこちらの記事で。
【!ネタバレ注意!】映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』のラストからポストクレジットシーンまでの解説&考察はこちらの記事で。