ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』最終回はどうなった?
ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』シーズン1がいよいよ完結。ドラマ『デアデビル』(2015-2018) の正統続編にして、チャーリー・コックス演じるデアデビルがMCUに本格参戦することになった本作は、4月16日に最終回となる第9話が配信された。
ウィルソン・フィスクと対峙する中で様々なヴィジランテと交差してきたマット・マードックは、シーズン1のラストでどんな結末を迎えたのか。今回は『デアデビル:ボーン・アゲイン』シーズン1最終回をネタバレ有りで解説&考察していこう。なお、以下の内容は結末を含む重大なネタバレを含むため、必ずディズニープラスで本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』最終回第9話の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』最終回第9話ネタバレ解説
ポインデクスターとヴァネッサ
ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』最終話の第9話は、第8話に引き続きジャスティン・ベンソン&アーロン・ムーアヘッドがエピソード監督を務める。ドラマ『ロキ』(2021-) や『ムーンナイト』(2022) に携わってきた監督コンビだ。
第8話では、フォギーの死の真相に一歩近づく展開が描かれた。フォギーは殺される前にある裁判で勝利を確信していたこと、フォギーを殺したブルズアイことポインデクスターは誰かに雇われていたこと、その雇い主がウィルソン・フィスクではなくヴァネッサだったことが明らかになったのだ。
第8話のラストでは、マットはポインデクスターが撃とうとしたフィスクを庇って胸に銃弾を受けてしまった。その後を心配していた人は多かったはずだが、第9話の冒頭はその1年前の出来事が描かれる。ポインデクスターがヴァネッサに雇われることになった場面だ。
ポインデクスターの面会にやってきたヴァネッサは、FBIの汚職事件やナディーム捜査官の死の後、ウィルソン・フィスクが無罪になったと語る。「FBIの汚職事件やナディーム捜査官の死」というのは『デアデビル』シーズン3で描かれたストーリーだ。
『デアデビル』シーズン3では獄中のフィスクがFBIのナディーム捜査官に裏社会の人間達の情報を渡し、商売敵を排除すると同時に、その見返りにフィスクは刑務所からペントハウスに移送された。フィスクはそのペントハウスの地下に基地を持ち、そこを拠点として徐々にFBIを支配下に置いていった。
ナディームと同じくFBI捜査官だったポインデクスターもフィスクの支配下に置かれ、偽デアデビルとして暗躍した。ナディームは家族を人質にされていたが、最後にはデアデビルと共にフィスクに挑むことを決意。しかし、フィスクと共に“ビジネス”を取り仕切ることを決めたヴァネッサがナディームの暗殺を指示し、ポインデクスターによってナディームは殺されてしまった。
つまり、フィスクを介してはいるが、元々ヴァネッサはナディーム殺害の指示役で、ポインデクスターは実行犯だった。今回ヴァネッサはフィスクとポインデクスターの過去は関係ないと言葉をかけているが、こうした経緯もあり、ポインデクスターは常にフィスクが関係していると否定するのだった。
ヴァネッサは、ポインデクスターに上訴に伴う保釈を受け入れるよう説得。この手続きを進める見返りとして、窃盗犯ベンジャミン・カファロと弁護人のフォギー・ネルソンの暗殺を依頼したのだった。
ヴァネッサは、フォギーが担当している事件のせいで不都合な事実がバレることを危惧していた。つまり、ヴァネッサがポインデクスターに依頼した仕事はフィスクとは無関係だったのである。
ヴァネッサはポインデクスターをファーストネームの「ベンジャミン」と呼び、手を重ねている。『デアデビル』シーズン3では、幼い頃に両親が事故死したこと、青年時代のポインデクスターがカウンセラーのマーサーに執着していた様子が描かれた。ポインデクスターは一人になることを恐れ、自殺防止センターで働いていた時に出会ったジュリーをストーキングするようになった。
マーサーは癌でポインデクスターのカウンセリングを終えることになったが、その時にポインデクスターに「北極星になる人がいれば、あなたの心のコンパスはちゃんと動く」と助言した。ゆえにポインデクスターは父のような態度を見せるウィルソン・フィスクに簡単に操られることになってしまった。
ポインデクスターの根底にあるのは、依存できる誰かを追い求める弱さだ。そしてヴァネッサは、フィスクと同じようにポインデクスターを動かすことに成功したのだった。また、面会シーンでは、ポインデクスターが施設から処方される薬物の影響下にあることも示されている。
そんな状態の中、「自分を取り戻せるチャンス」という言葉でヴァネッサに雇われたポインデクスター。書面の色が青色に変わっていく演出は、ポインデクスター自身の視界を表現しているのだろう。第8話から印象的に使われている青い照明の演出は、混乱したポインデクスターの視点を反映したものだったと考えられる。
暴走するフィスク
撃たれた後、病室で意識を取り戻したマットは、初手でヘザーに「カレン?」と言ってしまう最悪の初手を打つ。二人の共通の友人で仲人であるキルスティンが咄嗟に「薬の影響だね」とマットを“弁護”するところまで完璧な流れだ。
フィスクは救われたがポインデクスターは捕まっていないという状況で、マットは、フォギーを殺させたのはヴァネッサだとキルスティンに話す。すると、あの夜にフォギーと最後に話していた人物であるキルスティンは、フォギーが控訴棄却を申し立てると言っていたと明かすのだった。
一方のフィスクはヴァネッサに、ガロやルカ、ギャングも計画の一部であり、市長として計画が進められればこれまでのビジネスを復活させられることを示唆する。街を救うために市長になったが、機会が自然と巡ってきたと話すのだ。
ドラマ『エコー』(2024) では、マヤ・ロペスに目覚めたヒーリング能力によってフィスクから過去の痛みが取り除かれたような演出が見られた。その力によって、フィスクは純粋な心で市長選出馬を決めたものと思われる。しかし、権力を手にしてフィスクはまた元に戻ってしまったようだ。
マヤのヒーリング能力は、相手を“出直し”させる効果はあるものの、その後はその人次第ということだろう。どんなヴィランでも改心させられる万能なパワーというわけではなさそうだ。確かにそんなパワーがあれば、MCU世界で引っ張りだこになってしまう。
フィスクは狙撃事件をきっかけに大人しくなるどころか更なる暴走を始める。現実のドナルド・トランプ銃撃事件を思い出す光景だ。フィスクは令状なしでのヴィジランテの取り締まり、橋の封鎖とトンネルの通行禁止を指示する。
ガロはそれは違法だと指摘し、シーラは街を封鎖するなら市民に危機が迫っていないといけないと忠告するが、フィスクは意に介さない。一度被害者となった権力者はここぞとばかりに強硬な策を推し進めようとする。
さらにフィスクは事もあろうに命を救ってくれたマットの死を画策する。恐れを知らない弁護士が市長を救って死んだというストーリーを演出しようとしているのだ。「死んだヒーローは生きているヴィジランテより良い」とは、なんだか古くからあることわざのようだ。
シーラを呼び出したフィスクは、少しでも逆らう者は排除しろと指示。このシーンのフィスクは原作コミックのキングピンっぽい表情を作っている。また、全身白のスーツを着ているフィスクに対し、シーラの服装は白色と黒色が半々のドレスになっていて、選択を迫られている様子が表現されている。
シーラと入れ替わりで、フィスクのオフィスには電力会社の担当者が入っていく。電力会社の職員と聞くと、『アメイジング・スパイダーマン2』(2014) で感電事故でエレクトロとなったマックス・ディロンを思い出す。映画『スパイダーマン/ノー・ウェイ・ホーム』(2021) ではマックスが一時的にアース616にやって来たが、今回の電力会社の人物はアース616のマックスだったのかもしれない。
キングピンという呼び名
電力まで牛耳ろうとするフィスクについて、ガロ市警本部長はシーラに相談する。知事や最高裁に掛け合うとし、「キングピンの好きにはさせない」と話すのだ。確かに知事やニューヨーク選出の国会議員がキングピンの好き勝手にさせすぎだとは思う。
ウィルソン・フィスクの「キングピン」という呼び名は『デアデビル』シーズン3で正式に登場した。FBIが全てを牛耳ったフィスクを“キングピン”というコードネームで呼び始めたのである。そこには、FBIがフィスクに支配されているということを外部に知られたくないという後ろめたさも感じられた。
『デアデビル:ボーン・アゲイン』最終回でも、ガロは大きな声では話せない話の中で「キングピン」という名をコードネーム的に使っている。「キングピン」という名前はそもそも現実的ではないコミック的な名前だが、フィスクが狙撃されたことで内部にも監視体制を敷き、周囲がその呼び名を導入するという経緯はうまく設定されている。
キャッシュマンがマットに迫り、電力供給が止められる中、流れる曲はロバータ・フラック「Killing Me Softly」(1973)。「彼の言葉で指が私の痛みを爪弾く、彼の言葉で私の人生が歌われる、彼の歌が私をゆるやかに殺していく」と歌われている。キングピンに支配された街を表現するかのような選曲だ。
プレッパーとしてのパニッシャー
マットはキャッシュマンの到着前に脱出して着の身着のままで自宅に帰還。そこにいたのはパニッシャーことフランク・キャッスルだった。フランクがマットを「ナイトガウンマン(夜着マン)」と言うのはマットが病院着のままだからだ。
髪を切って髭も剃ったフランクは、誰かから電話を受けてマットのヘルプに来たようだ。この家は電気がなくなったらコーヒーも作れないのか、と嘆くフランクは、自分の基地では自家発電機くらいは用意しているのだろう。
アメリカには、有事に備えて自給自足の準備を怠らない「プレッパー(prepper=準備する人)」と呼ばれる人々が存在する。銃を常備するなど保守思想と相性が良かったが、トランプ政権以降は生活に危機感を抱いたリベラルの間でも広がりを見せた。
強い暴力性を内包するマッチョなパニッシャーは、これまで保守派の人々からの人気が強かったことも事実だ。だが、今では権力者の暴走に備えるパニッシャーの姿はリベラルの姿勢と重なる。排外主義や差別主義が猛威を振るう中で、パニッシャーをそのイコンにさせない、かつパニッシャーのキャラクターを変えてしまわない優れた演出だと言える。
マットの家には特別部隊が到着。ノースはパニッシャーのロゴが入った防弾チョッキを身につけている。しかし、そこに現れるデアデビルと、本物のパニッシャー。最終回の第9話にこの二人の共闘を持ってくるのは胸熱すぎる。
スローモーションで容赦無く警察達を殺しまくるパニッシャーの頼もしさたるや。手負いのマット一人では絶対に対処できなかったであろう数の敵を二人で倒していく。けれど、血飛沫をあげてバキバキになっているパニッシャーにはやはり危うさもある。
フランクはパニッシャーロゴの薬莢を発見。ヘクター・アラヤを殺したのがノースだったことが明らかになる。マットは、自分が弁護したヘクターとの思い出やフォギーの死を回想し、「最悪の敵を守れるか」というブルズアイから突きつけられた難問に再度直面する。
殺したくないマットと、なぜか殺したいフランクは口論になるが、そこで手榴弾が爆発し、マットの家は破壊されてしまう。脱出したマットがフランクにかけた「あんたは最低だ」という言葉は心の底からの言葉だろう。なんだかかつてのサムとバッキーを見ているようで、微笑ましくもあるが。
「ショットガン」の意味、フランクとカレン
そして、二人を車で迎えに来たのはカレンだった。フランクにマットを助けるよう電話を入れたのはカレンだったのである。カレンはポインデクスターが逃げたと聞いてフランクにマットの“世話”を依頼していた。『デアデビル』シーズン3では、ポインデクスターがマットの育ての親であるラントム神父をマットとカレンの目の前で殺したという経緯もある。
カレン・ペイジは元々『デアデビル』のキャラクターだが、シーズン2でフランクを助け、逆にフランクに助けられることもあった。カレンは一時新聞社のニューヨーク・ブレティンで働いていたが、そこでの当初の目的はフランクのストーリーを世間に届けるためだった。
カレンとマットは一時期恋人同士の関係にあったが、フランクは総じてカレンに恩があり、異なる信念を持つデアデビルとパニッシャーを結びつけるには、カレンの存在が重要だったのである。
カレンの車の助手席に座りたいマットは、英語で「ショットガン」と言っているが、アメリカでは助手席のことを「ショットガン」と呼ぶ。開拓時代、馬車で助手席にショットガンを持った護衛を乗せていたことが起源とされており、『デアデビル:ボーン・アゲイン』ではパニッシャーがショットガンを武器として用いていることにかけて、今度はデアデビルの方がショットガン=助手席を取るというジョークになっている。
パニッシャーの拠点に逃げた三人。このシーンではコーヒーが大好きなフランクと、ツンデレなフランクの姿を楽しむことができる。マットとカレンはフォギー殺しの調査に乗り出すが、フランクはついてこない。
カレンはそのフランクの姿を見て微笑んでいるが、昔を思い出したのかもしれない。「本当は心配なくせに」と言えるのは、カレンがフランクの善人としての側面を知っているからだ。「あんたの頼みは聞いた」「死ぬなよ」と言えるフランクは、不器用で悪人に容赦はないけれど、やっぱり善人なのだ。
ダニエルとキャッシュマンがフィスクの治安回復計画を支持するよう議会に圧力をかける中、電力を失ったニューヨークの街は治安が悪化。警察が射殺した市民にマスクを被せてヴィジランテを作り上げるという不正も横行している。
これが手続きを無視することの最大の弊害だ。手続きを飛ばすことでスピーディーに事が進むように思えるが、プロセスを経ないことでルールは都合良く運用され、後付けの理由によっていかなる結果も正当化されてしまうのだ。
フォギーの資料とフィスクの野望
勝手にフランクとカレンの鼓動を聞いて嫉妬しているマット。カレンの心拍数がマットに対してもフランクに対しても上がっていたことが示唆される。マットが昔の荷物の中から見つけた札に書いてある「アボカド法律事務所」は、『デアデビル』シーズン1で学生時代のマットとフォギーが最初につけた事務所の名前。スペイン語で「アボガド」が弁護士を意味することから採用した名前だ。一時の間、思い出話に花を咲かせるマットとカレン。『デアデビル:ボーン・アゲイン』第1話の衝撃を多少は癒してくれる演出だ。
そしてカレンはフォギーの資料を発見。1855年にレッド・フックが州にも国にも属さないことを定めた「レッド・フック宣言」を根拠に、レッド・フックで起きた事案には裁判権がないとフォギーは主張していた。
フォギーが弁護したベニーはレッド・フックで窃盗に手を染めたのだろう。だがレッド・フックはどこの管轄でもないため、そもそも罪に問えないとフォギーは考えたのだ。カレンとマットは、自由港であるレッド・フックは関税はなく押収もされない、ヴァネッサは美術品をここに集めて資金洗浄を行っていたと見当をつける。
そして市長となったフィスクはレッド・フックに複合施設を作り、ギャンブルも密輸も合法に行える場所として利用し、ニューヨークを都市国家(City State)とする計画だと想像する。一つの街の市長でしかないフィスクだが、自分の軍隊と経済権を持てば小さな国の王となれる。そして、その計画はすでに進行している。
もしかすると、裁判でフォギーがレッド・フックでの行為が罪に問えないことを明らかにしてしまうと、レッド・フックの法整備が進められてしまうとヴァネッサは考えたのかもしれない。フィスクが市長になった今その心配はないが、フィスクがいない時点ではヴァネッサはフォギーの口封じをする以外に利権を維持する方法を思い付けなかったのかもしれない。
キングピンの才能とデアデビルの部隊
フランクの方は警察無線を盗聴し、悪徳警官が集まるレッド・フックへ。ここでフランクは特別部隊に捕まってしまうが、パニッシャーを信奉しているというパウエル巡査達にNOを突きつけ、自分がどんな痛みを抱えているか分からないだろうと言い放つ。
フランクは妻と娘、息子を殺されてパニッシャーとなったが、この警官達は違う。前述のように勝手に保守派やオルタナ右翼のイコンにされてしまうパニッシャーというキャラクターの怒りを表現するようなシーンだ。このシーンだけでもジョン・バーンサルが演じるパニッシャーが復活した意味がある。
一方、シーラはガロの謀反をフィスクに報告しており、ガロはフィスクの元へと連行される。ガロはフィスクがキングピンであることをやめていない、否、やめられないのだと指摘。するとフィスクはあろうことか警察官達の前でガロの頭を砕いて殺してしまう。『キングピン:ボーン・アゲイン』。意外にも市長になってからの殺人はこれが初で、フィスクはついに殺人市長になってしまった。
しかも警察達はキングピンに手を出すことができない。『デアデビル』シーズン3ではFBIを牛耳ったし、シーラがキングピン側についてしまったこともそうだが、ガロの言うようにウィルソン・フィスクには“キングピン”となる天性の才能があるように思える。
キングピンが着々と勝利を収める中、デアデビルはレッド・フックに突入しようとするが、カレンの説得で思いとどまることに。カレンはマットに「暗闇じゃない、まるで千の太陽だ」という言葉を思い出させ、街を取り戻すために「部隊 (army)」を作ることを宣言するのだった。もちろんこの言葉が示唆するのはヴィジランテによるチーム結成だ。
旧作のドラマ『デアデビル』は、デアデビル、ジェシカ・ジョーンズ、ルーク・ケイジ、アイアン・フィストからなるディフェンダーズの戦いを描くクロスオーバードラマ『ザ・ディフェンダーズ』(2017) へと繋がった。同作ではヤミノテという組織が相手だったが、キングピンに支配されたニューヨークの街の危機に、マットはディフェンダーズのアッセンブルを思いついたのだろうか。
キングピン治安回復法
ヘザーはキングピン市政のメンタルヘルス責任者に就任。BBレポートの映像が差し込まれるが、街について語る市民の姿はない。味方が敵となり、市民が沈黙する中、キングピンは会見で①ヴィジランテに狙撃されたこと、②妨害工作で電力供給が失われたこと、③ガロ本部長が辞任したことを発表。これらを理由に治安回復法の施行を宣言する。
・全ての自警活動は違法
・夜8時以降は外出禁止
・近い将来に戒厳令を敷く
これによってニューヨークに住む全てのヒーローが自警を禁じられたことになる。ドクター・ストレンジは自警活動をしていないが、スパイダーマンはまさにその対象になるだろう。バッキーがたまたま強盗に出くわしても対処すれば犯罪になる。襲来したサノス軍への対応は自警だったのか? ヴィジランテだけでなく、“ヒーロー”とされる人達も取り締まりの対象となりそうな法律だ。
「法の秩序が回復すれば自由で幸せになれる」と語るキングピンの姿は、「一時期の辛抱が必要」というロジックでトランプ関税を押し進めようとしたドナルド・トランプと重なる。法を牛耳ったキングピンは怖いものなしだ。キングピンは第1話のラストと同じく「I Love New York」を宣言するのだった。
全てはあるべき場所へ
マットは幼い頃に事故で視力を失ったことについて、最初は神様が視力を奪ったと考えたが、次に特別な運命を与えられた、マスクと使命が救いになると思うようになったと吐露。だが、信じるだけでは救われず、自分の中の闇を甘く見たことで闇に支配され、ポインデクスターを殺そうとしてしまったと告白する。
ポインデクスターを殺したかったという自分の闇と、フォギーの死で自分を見失ったことを認めたマットに、カレンは、フォギーはマットの光も闇も怒りも慈悲も受け入れ、全てを理解して信頼していたと言ってやるのだった。
この救済の言葉は、マットと同じくらいフォギーを深く知る人物でなければ説得力を持たない。『デアデビル:ボーン・アゲイン』シーズン1は第1話でマットがフォギーの死によって自分を見失い、最終回でカレンの言葉によってマットが自分を取り戻すまでの物語だったのだろう。
マットが次に取り戻すのはニューヨークの街だ。だが、それはマット一人の仕事ではない。マットはニューヨークの街の人々と共に立ち上がる。実際に世界を救うのは一人のヒーロー=英雄ではなく、そこに生きる人々だからだ。地に足のついた『デアデビル:ボーン・アゲイン』らしい結論だ。
デアデビル姿のマットとカレンがいたのは、フォギーが殺され、マットが自分を見失う場所となったジョージーズだった。ジョージーズの店主は前回反フィスクの姿勢を鮮明にしていた信頼できる人物だ。そこにはチェリーとキム刑事、何人かの警察の姿も。デアデビルはこの仲間達とジョージーズを拠点に出直すことになるのだろう。
このシーンで流れる曲はレディオヘッド「エヴリシング・イン・イッツ・ライト・プレイス」(2000)。「全てはあるべき場所へ」「私の頭の中には二つの色がある」「それが君が伝えようとしたこと」と歌われている。ジョージーズに帰ってきたマット、マットの中にある光と闇、それを理解してくれていたフォギー。歌詞の内容とピッタリ重なる。
白いスーツのキングピンは赤いドレスのヴァネッサと地下室へ。そこには人々が動物のように檻の中に入れられており、フランクの姿もある。【追記】ソーズマンことジャック・デュケインの姿も確認した。
二人が食事をとるのは旧作『デアデビル』から度々登場している絵画「吹雪の中のウサギ」の前。白い絵に飛び散ったキングピンの血がヴァネッサとフィスクの関係を表現し、「全てはあるべき場所へ」「私の頭の中には二つの色がある」という歌詞がもう一つの意味を持つ。
笑顔で勝利のシャンパンを飲むフィスクとヴァネッサ。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)、『ロキ』シーズン1 (2021) 以来となるヴィラン勝利エンド。そして映し出されるキャッシュマン、ダニエル、シーラ。政権中枢で現実離れした政策を推し進めていく人々の姿を思い浮かべずにはいられない。どんなに嘘のように見える現実でも、そうなるまでの経緯があるということをフィクションを通して教えられる不思議な気分だ。
抵抗、反乱、再建
そして、どんな苦境にも立ち向かう策がある。マットは、街の主は私たちであり、力を合わせれば取り戻せると語る。そこで映し出されるのは、BBとBBレポートでインタビューを受け、マットとすれ違ってきたニューヨークの街の人々、ヘクターの姪アンジェラ、そしてヘザーだ。
キルスティンはフォギーが遺した1855年のレッド・フック宣言の書類を手にしている。キルスティンは諦めていないのだ。ブルズアイ、パニッシャーらの姿も捉えられる中、マットは「弱き者、強き者」、全員が一丸となり「抵抗、反乱、再建(Rebel, Resist, Rebuild)」に取り組もうと呼びかける。現実にも使えそうな標語だ。
「私達がこの街だ」「恐れるな」というデアデビルからのメッセージは、不本意な現実を生きざるを得ない私達に語りかけているようで、涙が出そうになる。自分の脆さを認めたマット。そのマットの戦いが街の人々の戦いに昇華できるなら、国や世界の人々の戦いにも昇華できるはず。『デアデビル:ボーン・アゲイン』は一つの街の物語を描いた作品だが、そのメッセージは広く届くことになるだろう。
『デアデビル:ボーン・アゲイン』シーズン1最終話第9話にはポストクレジットシーンも用意されていた。檻の中のフランクはニュージャージー出身の看守に同郷だと言って油断させるが、一応MCUのフランクはニューヨークのクイーンズ生まれという設定なので、同郷というのは嘘だと思われる。
そして、看守は(どう考えてもやるべきではないが)フランクと握手を交わし、その腕を折られて『デアデビル:ボーン・アゲイン』シーズン1最終回は幕をとじる。MCUではパニッシャーの単独スペシャルの制作が決定している。『デアデビル:ボーン・アゲイン』シーズン1の制作中に生まれた案ということで、フランクのその後が描かれることに期待しよう。
『デアデビル:ボーン・アゲイン』最終回第9話ネタバレ考察&感想
ヴィジランテを主人公にした完璧な作品
『デアデビル:ボーン・アゲイン』シーズン1は、完璧な作品と言ってもいい。MCUにはこんなシリーズを作るだけの底力があったのだ。ハリウッドでの大規模ストライキもあり、2024年の実写作品が『エコー』『デッドプール&ウルヴァリン』『アガサ・オール・アロング』の3作だけになったこと、制作のペースが落ち着いたことが良い方向に出たのだろうか。『アガサ』も違うベクトルで良くできた作品だったし、製作側の焦りのようなものが作品から滲み出なくなったことは、MCU全体のことを考えると一安心だ。
『デアデビル:ボーン・アゲイン』単体としては、ヒーローではないヴィジランテを描く作品だからこそ、観ている視聴者に「君もヒーローになれる」と呼びかけるようなメッセージではなく、「私達」という集団で街を取り戻そうというメッセージに説得力があった。誰かを助けるためという英雄的な動機ではなく、この街を作ってきた自分たちのために、という呼びかけはより多くの人に届くメッセージでもある。
だからマットは最後に「弱き者も強き者も」と呼びかけ、人々の強さを問わない。ヒーローとヴィランという明確な線引きが奪われた世界で、より多くの人が団結できるロジックを提示したという点で『デアデビル:ボーン・アゲイン』は特別な作品になったと言える。
むしろ上から目線で「この街を救う」と言っているのはキングピンの方だ。このパターナリズム(父権主義)的な姿勢は、勝手に人々を守ろうとするヒーローと紙一重でもある。そのロジックに抵抗できるのは、自己との葛藤を抱えながら光と闇の中で前に進もうとするデアデビルというヴィジランテだ。人々に必要なのは、上から目線の救済を与えるヒーローではなく、自分意思で戦い、戦い方の手本を見せてくれるリーダーなのだ。
また、『デアデビル』では、法の外で動くキングピンに対してデアデビルが法の外で対応してきた。『デデビル:ボーン・アゲイン』では、デアデビルとキングピンがもう一度生まれただけでなく、キングピンが法を支配する立場になり、デアデビルは再び法の外で戦わざるを得なくなる。単に焼き直しではない、続編であり新作という絶妙なラインを押さえた展開だったと言える。
キングピンとデアデビル/ヴァネッサとカレン
『デアデビル:ボーン・アゲイン』第1話ではフォギーの死に大きなショックを受けたが、最終回まで観ると、シーズン1を安易なマット&フォギー&カレンのストーリーにしなかったことは正解だったと思える。最終的にフォギーとカレン、そしてフランクとの物語に帰着した展開は見事で、マットが二人と離れてニューヨークの様々な人々との関わりを通して自分自身と向き合う物語だったことが最終回で分かる作りになっていた。
カレンは最後の最後でマット・マードックの「ボーン・アゲイン」に大きな役割を果たしたが、ウィルソン・フィスクをキングピンに引き戻したのはヴァネッサだ。フィスクは『エコー』でマヤに人間性の“ヒーリング”を受けたが、フィスクがそうしている間にヴァネッサは「クイーン」となり裏稼業を仕切っていた。
ヴァネッサはレッド・フックの利権をめぐってポインデクスターにフォギーを暗殺させ、脱獄したポインデクスターはフィスクを暗殺しようとした。結果、フィスクに改革を強行する口実を与えることになったのである。
『デアデビル』ではフィスクの影響を受けたヴァネッサが闇に堕ち、『デアデビル:ボーン・アゲイン』ではヴァネッサがクリーンになったフィスクを闇に引きずり戻した。『デアデビル:ボーン・アゲイン』の物語にはカレンのカムバックは必要不可欠だったが、ヴァネッサもまたキングピンという大ヴィランをMCUで育てていくにあたって必要不可欠な存在だったのである。
シーズン2とディフェンダーズはどうなる?
『デアデビル:ボーン・アゲイン』はすでにシーズン2の制作が始まっている。シーズン2は2026年に配信される予定となっており、同年公開予定の映画『アベンジャーズ:ドゥームズデイ(原題)』、『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ(ブランニュー・デイ)(原題)』との絡みも気になるところだ。
キングピンといえばスパイダーマンの宿敵の一人だが、ソニー・ピクチャーズが映像化の権利を持っているため、映画作品への登場はソニーが求めない限りは実現しないと見られている。スパイダーマンとのコラボが実現するかは不透明で、マットが編成を予告した“部隊”には加われない可能性が高い。
そうなると、流石にニューヨークの街の危機にスパイダーマンが全く登場しないというのは展開として無理がある。『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』はソニーの意向でマルチバース展開になると見られており、キングピン政権下でのスパイダーマン不在の理由が明かされるかもしれない。
では、デアデビルの部隊はどんなメンバーになるのだろうか。『デアデビル:ボーン・アゲイン』シーズン1に登場した“ヴィジランテ”で生きているのは、パニッシャー、ブルズアイ、ソーズマンの三人だ。ヘクターの姪のアンジェラもアミュレットを引き継いで二代目ホワイト・タイガーになる伏線は張られている。チェリーやキルスティンといった市民も戦いに加わるだろう。
シーズン2で期待したいのは、やはりここにディフェンダーズのメンバーが加わることだ。Netflixでドラマが配信された〈ザ・ディフェンダーズ・サーガ〉のキャラクターのうち、パニッシャーはディフェンダーズのメンバーではない。つまり『デアデビル:ボーン・アゲイン』では意図的にディフェンダーズのメンバーを登場させないようにしていたとも考えられる。
ディフェンダーズの残りのメンバーの内、ジェシカ・ジョーンズとルーク・ケイジはまだニューヨークにいると思われるが、アイアン・フィストことダニー・ランドが最後にいたのは日本だ。それでも、新たにアイアン・フィストになったコリーン・ウィングはニューヨークにいると思われる。
『デアデビル:ボーン・アゲイン』シーズン2は、ディフェンダーズ再結成の物語になるのだろうか。ジェシカ・ジョーンズを演じたクリステン・リッターは再演を熱望している一方、ルーク・ケイジを演じたマイク・コルターは再演にオープンな姿勢を見せつつも、別の役者が引き継いでくれるならそれも嬉しいと語っている。
その他にも、ニューヨークから国会議員を目指しているバッキー・バーンズとの絡みも気になるところ。2025年5月2日(金) 公開の映画『サンダーボルツ*』には、かつてトニー・スタークがアベンジャーズタワーとして使っていたニューヨークのビルが登場するが、キングピン政権よりも後の物語になるのだろうか。
マットが『デアデビル:ボーン・アゲイン』でもう一度挑んだ戦いは、どこまで波及していくことになるのか。シーズン2の配信を楽しみに待とう。
ドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』はディズニープラスで独占配信中。
フィスク役ヴィンセント・ドノフリオやジャック役トニー・ダルトンのインタビューも掲載されている『ホークアイ マーベルドラマシリーズ オフィシャルガイド』(齋藤隼飛 訳)は発売中。
『デアデビル:ボーン・アゲイン』が『サンダーボルツ*』に与える影響と両作の時系列の解説&考察はこちらから。
第8話のネタバレ解説&考察はこちらから。
第7話のネタバレ解説&考察はこちらから。
第6話のネタバレ解説&考察はこちらから。
第5話のネタバレ解説&考察はこちらから。
第4話のネタバレ解説&考察はこちらから。
第3話のネタバレ解説&考察はこちらから。
第2話のネタバレ解説&考察はこちらから。
第1話のネタバレ解説&考察はこちらから。
これまでの『デアデビル』でデアデビルの正体を知っている人物のまとめはこちらの記事で。
『キャプテン・アメリカ:BNW』と『デアデビル:ボーン・アゲイン』までのMCU時系列まとめはこちらから。
『パニッシャー』の単独ドラマスペシャル作品についてはこちらの記事で。
【ネタバレ注意】ドラマ『エコー』最終回のネタバレ解説はこちらから。
【ネタバレ注意】『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』ラストのネタバレ解説&考察はこちらから。
【ネタバレ注意】『スパイダーマン:フレンドリー・ネイバーフッド』ラストのネタバレ解説&考察はこちらの記事で。
【ネタバレ注意】『アガサ・オール・アロング』最終回のネタバレ解説&考察はこちらから。
【ネタバレ注意】映画『デッドプール&ウルヴァリン』ラストのネタバレ解説はこちらから。