かぐやSF2大賞作品が中国「科幻世界」掲載
2021年に開催された第二回かぐやSFコンテストで大賞を受賞した吉美駿一郎「アザラシの子どもは生まれてから三日間へその緒をつけたまま泳ぐ」(以下、「アザラシの〜」)の中国語訳が、中国のSF誌「科幻世界」2022年3月号に掲載されることが決まった。中国語訳を担当したのは翻訳者の田田で、中題は「曾经,小海豹出生后能拖着脐带游三天」。紙媒体への掲載になる。
「科幻世界」は世界最大規模の読者数を誇る中国の歴史あるSF誌で、1979年の創刊以降、40年以上にわたって国内外のSF小説を紹介してきた。日本でも大ヒットを記録した小説『三体』も、最初に連載されたのは「科幻世界」だった。2019年10月号では日本幻想文学特集が組まれるなど、多くの日本のSF作家達を中国に紹介してきた。
田田は第一回かぐやSFコンテストでも、大賞受賞作の勝山海百合「あれは真珠というものかしら」、審査員長賞を受賞した大竹竜平「祖父に乗り込む」の中国語訳を担当。2021年には、乾緑郎の代表作の一つであるSF小説『機巧のイヴ』(2014, 新潮社) の中国語訳を手がけ、自身初となる単著訳が刊行されている。
吉美駿一郎「アザラシの〜」は、「未来の色彩」をテーマに4,000字以内のSF小説を募集した第二回かぐやSFコンテストの大賞受賞作品。2021年夏にSFメディアのバゴプラが開催した同コンテストは、井上彼方、奥村勝也、坂崎かおる、橋本輝幸が審査員を務め、筆者匿名の状態で最終候補および受賞作を選出した。
プロアマ混合の381編の応募の中から大賞に選ばれた「アザラシの〜」は、現代のエッセンシャルワーカーが置かれている状況をSF設定と共に巧みに描き出した作品だ。2021年11月にはToshiya Kameiによる英訳版がバゴプラで公開されている。
「アザラシの子どもは生まれてから三日間へその緒をつけたまま泳ぐ」の日本語版はこちらから、審査員4名による選評はこちらから読むことができる。
「あなたの“未来”を世界へ」をテーマに賞品を英語と中国語に設定した かぐやSFコンテストの応募作品からは、これまでに受賞作を含む10編以上が翻訳されている。海外の編集者も認めるSF作品の書き手が日本にはまだまだ存在していることが示されているが、同コンテストの応募作から中国の媒体に掲載される作品は「アザラシの〜」が初となる。
なお、2022年1月17日には、日本から十三不塔「白蛇吐信」(武甜静 訳)が中国の未来管理事務局が運営するSFウェブメディア「不存在科幻」に掲載されたばかり。第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞を受賞した『ヴィンダウス・エンジン』で知られる十三不塔は、第二回かぐやSFコンテストでは「スウィーティーパイ」で最終候補入りしている。
https://t.co/5QLWL8H4lB
〈不存在科幻〉にて中国史SF『白蛇吐信』が公開されました。王陽明の弟子による独白体で地球上外知性体との邂逅が描かれます。蛇と竹を巡る「蜕变新生」がテーマの歴史改変悪漢小説です。中国語のみとなりまが、よろしくお願いします。— 十三不塔 (@hridayam) January 18, 2022
コロナ禍にあっても、世界を目指すSFの流れは止まらない。
吉美駿一郎「アザラシの子どもは生まれてから三日間へその緒をつけたまま泳ぐ」の田田による中国語訳が掲載される「科幻世界」2022年3月号は、3月に中国で発売予定。
プロアマ混合の文芸によるオープントーナメントであるブンゲイファイトクラブで第一回と第二回で本選に出場。2021年には「犬と街灯」によるエッセイアンソロジー『みんなの美術館』に寄稿している。同年夏に開催された第二回かぐやSFコンテストでは「アザラシの子どもは生まれてから三日間へその緒をつけたまま泳ぐ」で大賞を受賞した。
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バゴプラが新たに立ち上げるSFレーベルの Kaguya Books からは、かぐやSFコンテストの最終候補筆者による書き下ろし新作を集めたアンソロジーが2022年8月に刊行される予定となっている。こちらも続報をチェックしていただきたい。
中国の成都では、2023年に世界SF大会(ワールドコン)が開催されることが決定している。初めて中国で開催されるワールドコンの誘致は、科幻世界が中心となって実施されていた。
早川書房の「SFマガジン」2020年12月号では、科幻世界とのコラボで中国SF特集が組まれている。
かぐやSFコンテストから派生して誕生したオンラインSF誌のKaguya Planetでは、ジェンダー特集を実施中。第2弾は1月29日(土)より先行公開を開始する。