ネタバレ解説『ザ・バットマン』リドラーはなぜ〇〇できたのか 浮上する過去とキーワードとは | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説『ザ・バットマン』リドラーはなぜ〇〇できたのか 浮上する過去とキーワードとは

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『THE BATMAN-ザ・バットマン-』公開

マット・リーヴス監督による新シリーズ第一弾『THE BATMAN-ザ・バットマン-』が2022年3月11日(金)より、日本でも劇場公開された。『ザ・バットマン』は、今までの映画シリーズとは異なり、バットマンになってから2年という若い時期のブルース・ウェインを描く。そして、ロバート・パティンソンが新たに演じる若き日のバットマンの前に立ち塞がるのが、ポール・ダノ演じるリドラーだ。

ティム・バートン監督の『バットマン』(1989) ではジョーカーが、クリストファー・ノーラン監督の『バットマン ビギンズ』(2005) ではラーズ・アル・グールがシリーズ最初のメインヴィランに選ばれた。最初のヴィランはシリーズの方向性を決定づける重要なキャラクターだ。

今回は、『ザ・バットマン』劇中のリドラーのある設定について解説していきたい。リドラーについての理解を深めることで、よりマット・リーヴス監督の「バットマン」シリーズの世界観を楽しめるようになるだろう。

以下の内容は映画『ザ・バットマン』の内容に関する重要なネタバレを含むため、必ず本編を劇場で鑑賞してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ザ・バットマン -ザ・バットマン-』の内容に関する重大なネタバレを含みます。

リドラーの正体は?

マット・リーヴス監督による映画『ザ・バットマン』は、SFというよりもミステリー要素の強い作品になっていた。その最大の理由は、バットマンへ“なぞなぞ”を突きつけるリドラーがメインヴィランに採用されたからだ。

リドラーは“復讐”の殺人を遂行するたびにバットマンにメッセージを残す。バットマンはその謎を解きながらリドラーを追っているつもりだが、リドラーの思惑は、バットマンにはあって自分にはない“筋肉”を使ってゴッサムの腐敗の真実を世に発信することだった。それに、マスクをつけて「俺は復讐だ」とゴッサムに恐怖を植え付けるバットマンのことを、リドラーは模範的な存在だと思い込んでいた。

バットマンは自らが探偵でリドラーが犯人、という構図で動いていたが、リドラーにとってはバットマンは共犯者、という見立てだった。リドラーはブルース・ウェインを殺そうとしたが、バットマンの正体には気付いておらず、むしろ自分と同類だと思っていたのだ。

リドラーはブルースの父トーマスが再開発しようとした孤児院の出身だった。トーマスが残した孤児のための再開発基金はゴッサムの権力者たちに食い物にされたが、それはトーマスが家族のスキャンダルをもみ消すためにファルコーネを頼ったことがきっかけだと考えていたようだ。

リドラーはなぜ知ることができたのか

ここで問題になるのが、基金が食い物にされているという市長や警察・ギャングのトップといった権力者たちしか知らない情報を、なぜリドラーは知ることができたのか、ということだ。気付いた方もおられるだろうが、その答えはリドラーことエドワード・ナッシュトンの職業にある。

これまでリドラーは、映画『バットマン フォーエヴァー』(1995) では科学研究員、ドラマ『GOTHAM/ゴッサム』(2014-2019) では警察の鑑識官という職業で描かれた。『ザ・バットマン』では劇中で触れられた通り、職業は法廷会計士 (Forensic accountant) になっている。

法廷会計士とは、監査を行なって会計上の不正を見つけたり、アドバイス業務を通して不正を予防したり、トランザクションを解析して刑事事件に協力したりといった業務を行う。つまり、正義(法)の執行のために会計の知識を活用する職業なのだ。

リドラーは法廷会計士の仕事の中で、再開発基金を通したマネーロンダリングや不正会計を見破ったのだろう。劣悪な環境の孤児院で育ち、法廷会計士になったのは立派なことだ。しかし、法廷会計士の仕事を通してゴッサムを良くしていくことはできなかったのだろうか。

リドラーの悲しい背景

そんな楽観的な“正論”に対しては、リドラーを演じたポール・ダノの解説を参照するべきだろう。『ザ・バットマン』の公式パンフレットでダノは「エドワード(リドラー)は頭脳明晰な法廷会計士なのに、一度も昇進の機会を得られなかった」と語っており、法廷会計士としては優れていても、腐敗したゴッサムでは思い通りに職務を果たせなかったことが示唆されている。

劣悪な環境の孤児院から懸命に勉強し、法廷会計士という立派な職についたリドラーだったが、トップが腐敗している街では、まともな道を歩んでいても問題は解決できないということに気づいたのだろう。そんなリドラーが連続殺人の計画に踏み込んだ背景については、マット・リーヴス監督が米Colliderのインタビューで、以下のように語っている。

彼(リドラー)はある意味、このヴィジランテ(バットマン)にインスパイアされたのですが、全てはここ2年の間に起きたことです。同時に、そこには子どもの頃から何が彼に降りかかってきていたのか、なぜこの場所(ゴッサム)は荒れ果てていて、なぜ彼が闇の部分に存在しており、なぜ残酷な街の残酷な存在になってしまったのかを理解したいという欲求がありました。

彼が法廷会計士として見つけ出したことが、彼の計画とアイデアに使えないかという発想は、「再開発」という言葉が現れた時によぎったのです。しかし、それはデスクの上にあったものではありません。彼が向こう側を見ると、子どもの頃から悩まされていたものが置かれています。彼は、バットマンのように肉体的に鍛錬して頑丈になり、何にでも耐えられるようになれるわけではありませんが、精神的にはそうなのです。

そして、物事のパターンが見えてきた時、自分の人生の意味が分かってくるんです。おそらくここ2〜3年の間の出来事で、バットマンの存在が彼にこの街の真実を残酷な方法で暴く方法を見出させたと言えます。ポール(・ダノ)と私はこのアイデアについてしばらく話し合っていました。彼がどのように証拠を見つけ、誰にも知られることなく法廷会計を通してこの街の真実を知ったかということをね。そして、彼はバットマンに自分が通った道を歩ませて、この街の腐敗の深淵を暴こうとしているんです。

マット・リーヴス監督は、独特の言い回しでリドラーの計画を解説している。リドラーが法廷会計士として真実にたどり着き、そこに“復讐の鬼”たるバットマンが登場したことで今回の計画が動き出したのだ。

また、リドラーが幼少時代のトラウマに苛まれていることは、バットマンの前で「アヴェ・マリア」を歌ったことからも明らかだ。孤児院で聖歌隊の一員として歌っていたと思われるこの曲は「嘆願する子を聞いて下さい」と歌われる。慈悲の手が差し伸べられることはなく、リドラーは“実力行使”で世間に声を届けようとしたのだ。

キーワードは「会計」

こうした背景を見ていくと、ひとつのキーワードが浮上する。それは「会計」だ。『ザ・バットマン』の序盤、ブルース・ウェインは執事のアルフレッドから会計士と話をするよう勧められる。しかし、トーマス・ウェインから引き継いだ会社を顧みずにバットマンとしての活動に取り組むブルースは、アルフレッドの助言を意に介さない。

細かな資料は全てアルフレッドが管理しており、それが結果的にはアルフレッドがブルースの代わりにリドラーの爆発物を受け取るという事態をも招く。アルフレッドはブルースの前に会計士を通すが、映像では会計士は登場しないまま次のシーンに移り変わっている。ウェイン産業のブルース・ウェインではなく、バットマンとしての物語が続いていくのだ。

会計士を無視するブルースと、法廷会計を通して真実を知ったリドラーは対比になっているように見える。ブルースは経営や政治といった現実的な対処法ではなく、復讐心から暴力を通した問題解決を試みたが、リドラーは法廷会計士としてできる限りのことをしたが復讐につながらず、暴力を頼った。

市長の葬式のシーンでは、ブルースは新市長候補のベラ・リアルから一族がそうしてきたように慈善事業に関わることを勧められている。しかし、ブルースの関心は現実の政治には向かなかった。ブルースがトーマスの基金をしっかりチェックしていれば、基金を通した汚職をやめさせることができたかもしれない。リドラーには、ブルースが“持てる者の責任”を果たしていないように見えたことだろう。

現実に生きる私たちも、ヒーローのような目立つ言動より、帳簿をきちんと付けていくような地道な行動の積み重ねが重要になる場面はよくある。『ザ・バットマン』で描かれた、会計士を無視する大富豪ヒーローと、ヴィランになった法廷会計士の対比から学ぶことは多い。

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映画『THE BATMAN -ザ・バットマン-』は2022年3月11日(金)より日本全国で劇場公開。

『THE BATMAN-ザ・バットマン-』公式サイト

Source
Collider

ジョーカーがバットマンに対してリドラーについて話す削除シーンが公式から公開された。5分超のこのシーンの解説はこちらから。

リドラーのその後を含む『ザ・バットマン』のネタバレ徹底解説はこちらから。

『ザ・バットマン』三部作の続編とスピンオフドラマについての情報はこちらの記事で。

マット・リーヴス監督が「この映画のメッセージ」と語った内容はこちらから。

『ザ・バットマン』がDCEUに属さない理由はこちらの記事で。

10人目のキャットウーマン役、ゾーイ・クラヴィッツが語った思いはこちらの記事で。

本作でのバットモービルへのこだわりはこちらから。

全曲無料公開されている『ザ・バットマン』のサントラはこちらから。

『ジャスティス・リーグ: ザック・スナイダーカット』で描かれたジョーカーについての解説はこちらから。

DCEUドラマ『ピースメイカー』は4月15日(金)より日本での配信を開始する。詳しくはこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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