公開3日にして興行収入10億円突破の快挙
2016年公開の庵野秀明監督作『シン・ゴジラ』以来、7年ぶりの日本産「ゴジラ」シリーズ映画となった山崎貴監督作『ゴジラ-1.0』。2023年11月3日に公開された『ゴジラ-1.0』は、第1作の『ゴジラ』の1954年11月3日公開と公開日を合わせた「ゴジラ」シリーズ70周年記念作品となっている。
初週の興行収入が10億円を突破するなど、既に新たな「ゴジラ」シリーズのはじまりと言えそうな気配を漂わせている『ゴジラ-1.0』だが、観客から注目を集める点として「戦後の武器も軍隊も無い日本がゴジラにどのように立ち向かうのか」というのが挙げられる。本記事では作中に登場した対ゴジラ作戦について考察をしていく。なお本記事は『ゴジラ-1.0』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。
以下の内容は、映画『ゴジラ-1.0』の内容に関するネタバレを含みます。
海神作戦
メルボルン大学とキング・アブドゥッラー科学技術大学などの科学者らよる研究
『ゴジラ-1.0』において武器もない日本の民間人たちの手でゴジラを倒すために、吉岡秀隆演じる元海軍技術士官の野田健治が提案したのが「海神(わだつみ)作戦」だ。「海神作戦」の内容はゴジラの体表をフロンガスの気泡によって包み込み、それによって水の抵抗力を無くし、ゴジラを相模湾の深海1500mに沈めることで生まれる急激な水圧の変化で殺すというものである。
一見すると佐々木蔵之介演じる「新生丸」の船長の秋津淸治らが突っ込んでいた通り荒唐無稽に思える「海神作戦」。しかし、実はこの気泡で包み込むことで水の抵抗を無くすという実験は現実でも行われており、オーストラリアのメルボルン大学とサウジアラビアのキング・アブドゥッラー科学技術大学などの科学者たちが研究を進めている。
メルボルン大学とキング・アブドゥッラー科学技術大学などの科学者たちは通常の金属球と高熱の金属球、表面に超疎水処理を施した金属球を用意し、それを水中に落としたところ、通常の金属球と比べて高熱の金属球と表面に超疎水処理を施した金属球は落下速度が10倍の速度に及んでいたということだ。これは通常の金属球に対し、両金属球の表面に薄い気泡の膜が発生していたことによるもので、まさしく「海神作戦」と同じ条件である。
高熱の金属球に薄い気泡の膜が生まれた現象はライデンフロスト効果というもので、熱したフライパンの上に水を流したとき、フライパンと水の接着面が蒸発し、それによって水球の状態で転がり、なかなか蒸発しない状況と同じである。超疎水処理がされた金属球はいわゆる撥水加工のものと同じであり、こちらの金属球は常温でもライデンフロスト効果に近い効果が得られる。この気泡の被膜により、金属球にかかっていた浮力という抵抗が遮られ、それによって沈む速度が増加したのである。これはゴムボールなどでも可能で、浮かんでいたゴムボールに気泡を大量に浴びせることで沈ませるという実験も存在している。
この実験は似たものが日本でも行われており、そちらでは船舶の底をマイクロバブルで覆うことで水の抵抗を減らし、船舶のスピードアップや消費されるエネルギーの削減を目指したものである。このような理論を戦後間もない日本で対ゴジラ作戦である「海神作戦」として、短い期間で考え、さらにはゴジラを高熱にすることも、ましてや撥水加工を施すこともできないことからフロンガスによる気泡で代用するという案を思いついた野田健治は天才だと言えよう。
深海魚から見る第二案
もし最初の「海神作戦」でゴジラを殺せなかった場合に野田健治が考えていた案が、東洋バルーンに提供してもらったバルーンで相模湾の深海1500mから一気に引き上げ、急激な減圧により臓器を破壊して殺害する作戦である。この作戦に関してはポテトチップスの袋を飛行機や山頂に持って行った際の場面を想像するとわかりやすい。
ポテトチップスなどの密閉された袋を気圧の低い場所に持っていくと、気圧の高いところに比べてパンパンに膨らむことがある。これをゴジラに対して実践しようとしたのが「海神作戦」の第二案だ。これが生物相手でも可能なのかと言えば、『ゴジラ-1.0』でゴジラが現れる前兆として浮かび上がってきた深海魚を思い出してもらえばわかりやすいだろう。
ゴジラが出現する前兆として浮かび上がってきた深海魚は、どれも臓器らしきものが飛び出していた。これは深海で深海魚がバランスを保つための浮袋などが、ポテトチップスの袋のように一気に膨れ上がり、体内の臓器を押しつぶして外に押し出すためである。それによって目が飛び出す「メヌケ」という魚も存在している。
深海魚は夜間などに餌を求めて浅瀬に来ることはあるが、この場合は浮袋を自分で調整するので目玉が飛び出したりすることはない。釣りなどで浅瀬に引き上げられるなどして、急激に減圧されると胃袋や目玉が浮袋によって飛び出してしまうのである。だが、すべての深海魚が浮袋でバランス調整をしているわけではない。深海魚の中には肝臓や脂肪、アンモニアを用いて深海でバランス調整している種類も存在している。
この急速な減圧によるゴジラを殺すという「海神作戦」は、そのため賭けの要素があり、実際には完全な成功とはいえない結末となった。ゴジラは体が瓦解するも、一命をとりとめており、放射熱線で駆逐艦「雪風」と「響」を沈めようとしていた。
しかし、ゴジラの異常な再生能力をもってしてもこの減圧のダメージは大きく、放射熱線のエネルギーが体外へと漏れ、最後の神木隆之介演じる主人公の敷島浩一の局地戦闘機「震電」の攻撃による止めへと繋がったので無駄ではなかったと言える。
戦争文学とハードSFの組み合わせ
『ゴジラ-1.0』では『シン・ゴジラ』との差別化もあってか、最新技術を使えない状況下でどのようにゴジラへと民間人が対抗するかを描かれた。また、『シン・ゴジラ』からの差別化を図る一方で、未来の超科学などや現実的にはあり得ない方法ではなく、現実でも再現できる可能性の高い作戦が選ばれている。
それによって戦後の日本をゴジラが襲う絶望感をより一層生々しくさせ、ゴジラの存在感を際立たせていた。ゴジラを誘導する際にも、ゴジラが品川から銀座を自身の縄張りだと思っていることや、音響式機雷用のスピーカーで録音された自身の咆哮を別個体だと誤認して誘導されるなど、戦争文学の要素とSFの要素が組み合わされている。
だが、このゴジラが縄張り意識を持つ生物である点や、音響式機雷用のスピーカーから流れる自身の咆哮を別個体だと誤認するという設定は、ゴジラにも別個体が存在し、ゴジラの脅威は過ぎ去っていないことを表している。
更にラストシーンではゴジラの肉片が再生していることからも、「海神作戦」が完全には成功していないことがわかる。今後、ゴジラが再び現れたとき、『ゴジラ-1.0』の世界の人々はどのようにして立ち向かうのだろうか。続編の情報などにも注目していきたい。
『ゴジラ-1.0』は2023年11月3日(金)より全国公開。
Source
Phys.org 「Hydrodynamics researchers demonstrate objects sinking in water with zero drag」
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日本流体力学会「マイクロバブルによる船舶の摩擦抵抗低減」
Source
大日本水産会「飛行機で気圧の探求! 深海魚の目が飛び出る秘密も知ってしまおう!」
山崎貴監督が手がけた『ゴジラ-1.0』の小説版は、11月8日(水)発売で予約受付中。
『ゴジラ-1.0』オリジナル・サウンドトラックのLP盤は12月15日(金)発売で予約受付中。
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