『ゴジラ-1.0』で描かれる政府への不信感 ネタバレ感想&考察 | VG+ (バゴプラ)

『ゴジラ-1.0』で描かれる政府への不信感 ネタバレ感想&考察

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『シン・ゴジラ』(2016)初日対比265%の大ヒットスタート

2023年11月3日(金)に公開された『ゴジラ-1.0』。11月3日という第1作『ゴジラ』(1954)と同じ日に公開され、「ゴジラ」シリーズ70周年を飾ることになった『ゴジラ-1.0』だが、7年ぶりの日本産「ゴジラ」映画として名作と名高い『シン・ゴジラ』の残した宿題をどう乗り越えるか不安視されていたが、その不安は良い意味で裏切られることになった。

本記事ではそのような『ゴジラ-1.0』で描かれた登場人物たちが抱く政府への不信感について解説と考察をしていく。なお、本記事は『ゴジラ-1.0』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。

終わらない戦争の悪夢

第六〇一海軍航空隊

神木隆之介演じる主人公の敷島浩一は軍服に「六〇一」と刺繍されていることからもわかる通り、第六〇一海軍航空隊に所属していると考察できる。第六〇一海軍航空隊はマリアナ沖海戦、硫黄島の戦い、沖縄地上戦、関東防空戦で敵機動部隊への攻撃と防空を担当した部隊であり、敷島浩一の操縦していた零式艦上戦闘機(零戦)を有していた部隊でもある。

第六〇一海軍航空隊も特別攻撃を命じられており、その作戦が菊水作戦だ。菊水作戦は第二次世界大戦末期に沖縄に来攻する連合国軍に対して行われた作戦で、時系列とも合致する。また、大戸島が「ゴジラ」シリーズで小笠原諸島にある架空の島として描かれるため、地理的にも合致する。このことを示すように敷島浩一も第六〇一海軍航空隊の隊員として特攻攻撃を命じられていたが、死への恐怖から故障を理由に先延ばしにしていたことが考察できる。

菊水作戦は連合国側に約10000名の兵士の死傷を出し、36隻の艦船を沈没させ、368隻が損傷するという甚大な被害を出した。しかし、所詮は特攻攻撃だ。海軍機は940機、陸軍機は887機が特攻攻撃を実施し、それにより海軍は2045名、陸軍は1022名、合わせて3067名の犠牲者を出した。敷島浩一はゴジラとの初遭遇での戦闘から逃げただけではなく、特攻攻撃から逃げたことでもPTSDに陥っていたが、敷島浩一が命令通り菊水作戦に参加していた場合、3068名の犠牲者が日本軍から出ていたことになる。

この後の戦地帰りの人間たちの台詞からも明らかになることだが、戦場という死地に送られた人間にとって、「戦争に勝つため戦え」ではなく、「戦争に勝つため死ね」という命令が心に残した傷の深さが垣間見える。戦場にいるからこそわかる大本営発表という虚偽の裏にある敗戦濃厚という真実。それにも関わらず、上層部の面子のためだけに「死んでこい」と命令されたことが生きたいという願いと政府への不信感を生んだと考えられる。

復員省への不信感

浜辺美波演じる大石典子と赤ん坊の明子と共に暮らす中、少しずつPTSDが落ち着いてきた敷島浩一。全員を養うべく、敷島浩一は復員省からの仕事として木製の特設掃海艇「新生丸」での磁気式機雷の掃海の仕事を請け負う。危険な仕事に就く敷島浩一を大石典子は心配するが、敷島浩一は復員省の仕事だから大丈夫だと説得する。だが、この復員省というのも政府への不信感を生んでいるのだと考えられる。

復員省は第一復員省と第二復員省からなる戦後の日本に存在した省庁であり、第一復員省は旧陸軍省、第二復員省は旧海軍省である。その役割の一つに「引揚援護、戦傷病者、戦没者遺族、未帰還者留守家族等の援護及び旧陸海軍の残務の整理を行うこと」があるなど、戦後復興のための省庁に見える。しかし、敷島浩一が所属していた海軍の軍政を司った海軍省を改組した第二復員省には秘密裏に工作活動を行っている歴史がある。

第二復員省が行なった工作活動は極東国際軍事裁判対策と呼ばれるものである。その内容は秘密裏に旧海軍軍令部出身者の豊田隈雄元大佐らを中心に昭和天皇への訴追回避、旧海軍幹部への量刑減刑を狙ったもので、想定問答集の策定から第23代連合艦隊司令長官、第19代と第24代海軍大臣、第37代内閣総理大臣を歴任した米内光政をGHQと折衝させるなどを行なっている。更には戦犯の裁判において陸軍に開戦の責任の大部があることを証言してもらおうと工作活動を行っている。

この政府の責任の押し付け合いは『ゴジラ-1.0』でも如実に描かれており、木製の特設掃海艇とは名ばかりのオンボロ船「新生丸」に重巡洋艦「高雄」がゴジラ迎撃に来るまでの時間稼ぎを丸投げする、装備品は無い、更には「高雄」が沈没させられると混乱を避ける名目で責任を押し付け合い。ゴジラの存在を秘匿にしている。そのような旧軍部の色が濃く残り、更には責任を押し付け合う政府の象徴とも言える復員省の紹介する仕事だからこそ、大石典子は心配したのではないだろうか。

なぜ政府への不信感が描かれたのか

『シン・ゴジラ』との差別化

庵野秀明監督作『シン・ゴジラ』の残していった宿題の存在は大きい。『シン・ゴジラ』はゴジラを生物というよりも災害として描き、それに翻弄されながらも日本を救うべく奮闘する官僚たちの視点から物語が展開されていく。また、作中で恋愛要素や家族愛の要素が無く、日本とそこに暮らす人々を救うために政界や学会の異端児たちが立ち向かうなどドライな印象受ける作風だった。

それに対し、『ゴジラ-1.0』は家族愛や市民の目線などが重視されているため、『シン・ゴジラ』と比較するとウェットな印象を受ける。安藤サクラ演じる子供を喪った太田澄子など、戦争の残した影響を感じさせる登場人物の存在も大きい。戦後、余裕がなく誰も助けてくれない状況だからこそ、孤児である明子を育てる決心をした大石典子も良い例だと考察できる。

事実、企画とプロデューサーを務めた岸田一晃は『シン・ゴジラ』のヒットを受け、その後の作品が相応しい作品でなければならないといった旨の発言をインタビューに残している。同じく企画とプロデューサーを務めた山田兼司は『シン・ゴジラ』で、現代で出来ることはやり尽くしたため、「ゴジラシリーズ」に新しい展開が必要だったと語っている。

このように大きな影響を与えていった『シン・ゴジラ』。その『シン・ゴジラ』との差別化を図る際に、官僚からの視点ではなく民間人や市民の視点へと変わることが重要になったのではないかと考察できる。また、ある意味で理想の政府像を描き、「現実(ニッポン)対虚構(ゴジラ)」を映像化した『シン・ゴジラ』と比較した際、『ゴジラ-1.0』は現実の政府に対する不安や怒りが感じられる。

他にも圧倒的な巨体で人間の太刀打ちできない災害という印象の強かった『シン・ゴジラ』のゴジラとは異なり、『ゴジラ-1.0』のゴジラは全高15mから50.1mと絶妙に目が合う高さに設定されている。それに加え、積極的に自分の手で人間を殺害していく描写を増やすなど、演出面でも差別化が図られている。

新型コロナの影響

映画とは100人単位で人が動く、文字通りのビッグプロジェクトである。「ゴジラ」シリーズの映画となれば尚更だ。しかし、新型コロナの影響で『ゴジラ-1.0』の撮影は一時中断してしまった。その頃の脚本から「民間」「無政府」「現場」といった言葉が書かれるようになり、会議での議事録からも熱の籠った議論の様子がうかがえる。

政府が機能不全に陥り、民間が対処しなければならないという『ゴジラ-1.0』の虚構が、コロナ禍の日本において現実とリンクしはじめる。第1作『ゴジラ』のゴジラが原爆の象徴、『シン・ゴジラ』のゴジラが東日本大震災を象徴していたのに対し、『ゴジラ-1.0』はコロナ禍の象徴とも言えるだろう。

コロナ禍によって浮き彫りになる政府の本質。責任の押し付け合いに、そのような政府に頼ることができず苦しむ民間人たち。その姿が戦後直後の日本の姿に重なり、『ゴジラ-1.0』の政府と民間人の関係性は描かれた。民間人の目線から描かれるゴジラ。それを実現した『ゴジラ-1.0』は今後の「ゴジラ」シリーズにどのような影響を残すのだろうか。注目していきたい。

『ゴジラ-1.0』は2023年11月3日(金)より全国公開。

『ゴジラ-1.0』公式サイト

山崎貴監督が手がけた『ゴジラ-1.0』の小説版は、11月8日(水)発売で予約受付中。

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『ゴジラ-1.0』オリジナル・サウンドトラックのLP盤は12月15日(金)発売で予約受付中。

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映画『ゴジラ-1.0』のラスト解説についての記事はこちらから。

映画『ゴジラ-1.0』のキャスト紹介の記事はこちらから。

映画『ゴジラ-1.0』予告編第1弾はこちらの記事から。

映画『ゴジラ-1.0』予告編第2弾はこちらの記事から。

映画『ゴジラ-1.0』予告編第3弾とラージフォーマットでの上映に関する記事はこちらから。

モンスター・ヴァース版ゴジラの映画最新作の情報はこちらの記事から。

モンスター・ヴァース版ゴジラのドラマ最新作の情報はこちらの記事から。

『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』の第1話ネタバレ感想と考察はこちらの記事から。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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