『ゴジラ-1.0』を通して描かれる“生”への執着 ネタバレ感想&考察 | VG+ (バゴプラ)

『ゴジラ-1.0』を通して描かれる“生”への執着 ネタバレ感想&考察

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初日興行収入4億5500万円の首位スタート

『シン・ゴジラ』(2016)以来7年ぶりの日本産「ゴジラ」シリーズ映画作品となった山崎貴監督作『ゴジラ-1.0』(2023)。『ゴジラ-1.0』は『シン・ゴジラ』を超える初日興行収入を叩き出し、「ゴジラ」シリーズ70周年記念作品として華々しいスタートを切ったと言える。その中でも注目すべき要素に戦後の日本のヒューマンドラマが挙げられるだろう。

本記事では『ゴジラ-1.0』で描かれる“生”への執着と命の重さについて感想と考察をしていこう。なお、本記事は『ゴジラ-1.0』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ゴジラ-1.0』の内容に関するネタバレを含みます。

大日本帝国の負の遺産

死んで来いという命令

『ゴジラ-1.0』の中で命の重さが伝わる場面として多く登場するのが戦時中に徴兵された兵士たちに対する「死んで来い」という命令だろう。最初に『ゴジラ-1.0』で「死んで来い」という命令が登場するのが神木隆之介演じる主人公の敷島浩一に出された菊水作戦での特攻攻撃の命令だ。敷島浩一は第二次世界大戦末期に第六〇一海軍航空隊の隊員として零式艦上戦闘機(零戦)で、菊水作戦の一環として特攻攻撃を命じられている。

零戦の故障を理由に特攻攻撃から逃げた敷島浩一は、整備のために着陸した大戸島の守備隊基地の整備班班員と戦地にいるからわかる「既に大日本帝国は敗戦濃厚である」という会話をしている。このことから、敷島浩一は特攻攻撃をしても連合国軍に損害は与えても勝つことはできず、所詮は上層部の面子のための攻撃だと理解していたと考えられる。

敷島浩一にとって特攻攻撃という「死んで来い」という命令の存在は大きく、復員省から「新生丸」による機雷撤去の掃海の仕事を受けたとき、心配する浜辺美波演じる大石典子に「必ず死ぬわけではない」と発言している。「巨大生物對策説明会」でも敷島浩一と似た境遇の旧海軍の乗組員らしき人物の発言があり、そこでは「戦争のときと違って必ず死ぬわけではない」という理由でゴジラ対策作戦に参加している。

大日本帝国へのアンチテーゼ

命を軽視していた大日本帝国へのアンチテーゼは命令に関するものだけではない。それは装備品や作戦そのものにも及ぶ。吉岡秀隆演じる野田健治は大日本帝国時代の装備品や作戦に関して、脆弱な装甲の戦車の製造、精神論に頼り切った補給不足による餓死者と病死者の増加、戦闘機に脱出装置すら取り付けないという命を軽視した姿勢を指摘している。

局地戦闘機「震電」の改造場面もその一つと考えられるだろう。当初、敷島浩一はゴジラの口腔に特攻攻撃をし、文字通り死ぬつもりで刺し違える覚悟だった。しかし、簡易ながら青木崇高演じる橘宗作は「震電」に脱出装置を取り付けており、そのような改造を行なった橘宗作に対して敷島浩一は「いざ死ぬ覚悟を決めると死にたくなくなった」と漏らしている。そして、特攻攻撃の際に脱出装置を利用している。

この簡易的な脱出装置を取り付けるという判断は、野田健治が指摘していた大日本帝国時代の負の側面の一つからの脱却であり、『ゴジラ-1.0』における「死を美談にしない」という山崎貴監督の意図が感じられる場面である。死を美談にせず、生きたいという強い想いがゴジラを倒す。そこに『ゴジラ-1.0』のキャッチコピーである「生きて、抗え。」の意味が込められていると考察できた。

ゴジラと生

この“生”への執着というのはゴジラにも当てはまると考察できる。元々のゴジラは小笠原諸島の近くに存在する大戸島近海を縄張りとしている恐竜時代の生き残りの生物だった。しかし、ビキニ諸島で行なわれた米軍によるクロスロード作戦で被爆し、再生とエラーを繰り返した結果、巨大なゴジラという怪獣へと変貌したことが解説されている。

ゴジラは本来ならば大戸島周辺を縄張りにしていそうだが、被爆した後は米軍の艦艇を破壊しながら東京に向かい、そして戦後日本で空襲などの被害を免れた日本劇場などを壊し、積極的に戦後の日本を生きる人々を殺害している。縄張りを荒らされたわけでもないゴジラが、明確に人々を殺害する理由は“生”への執着があるのではないだろうか。

山崎貴監督が挙げる好きなゴジラ作品に『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001)が存在する。『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』に登場するゴジラは白目を剥いており、「第二次世界大戦で落命した人間の怨念を背負った負の存在」として描かれている。しかし、『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』では戦争の悲惨さを忘れた日本への復讐としてゴジラが襲来するが、戦後間もない『ゴジラ-1.0』ではその理屈は当てはまらない。

それを踏まえると、『ゴジラ-1.0』に登場するゴジラは第二次世界大戦で命を落とした人々の「もっと生きていたかった」という願いと「何故自分は死なないといけなかったのか」という芽生えたばかりのやり場のない怒りが、ゴジラを東京へと駆り立て、戦争を生き残った人々を殺害するという行動を引き起こさせたのではないだろうか。山崎貴監督はゴジラを生物であり、神にも近い存在としており、『ゴジラ-1.0』を、荒神を鎮める神楽と例えている。

また、敷島浩一は整備班を見殺しにしてしまったことに関して、自分は生きていて良い人間なのかと悩んでおり、そのような戦地帰りの人々が抱えるPTSDの象徴が『ゴジラ-1.0』のゴジラだとも考察できる。『ゴジラ-1.0』のゴジラは銀座の熱線によるキノコ雲と黒い雨から原爆、メタ的な視点からコロナ禍の象徴であるとともに、死地に行った人々が抱える普遍的な「生きていたい」「生きている人間が憎しみすら覚えるほど羨ましい」という願いが形を持って現れたとも考察できる。

命の重さの再認識

これまで書いてきたように大日本帝国時代の命を軽視する姿勢により、多くの人々を傷つけてきた日本。その大日本帝国が命を重視する新たな国家へと生まれ変わる姿を描いたのが『ゴジラ-1.0』だと考察できる。日本は江戸時代以降、明治維新を経て帝国主義へと変わり、敗戦によりGHQの手で現在の形になったため、民主主義国家の形を手に入れるまでに他者の介入があり、本当の意味で日本の市民の手で成し遂げているのかという点を疑問視する声が上がることがある。

『ゴジラ-1.0』では、政府は機能不全に陥り、GHQもソビエト連邦を刺激しないために行動できないという設定になっている。その中でゴジラを倒すために立ち上がったのは民間人たちだ。パンフレットでも『ゴジラ-1.0』の脚本の会議の中で、コロナ禍により「無政府」「民間」「現場」といった言葉が目立つようになったと記載がある。

このことからも『ゴジラ-1.0』ではゴジラ対策などを通して、民間人が自らの手で日本を復興していく様子が強調されていることがよくわかる。命の重さを軽視してきた大日本帝国から、ゴジラという死の恐怖を前に、民間人たち市民が自分たちの手で命を重視する日本へと生まれ変わる様子を描いたのが『ゴジラ-1.0』なのではないだろうか。

70年前に生まれた原爆と戦争の恐怖から生まれた『ゴジラ』から、長い月日を経て現代社会にも通じる命の重さというテーマを描いたと考察できる『ゴジラ-1.0』。次回作の「ゴジラ」シリーズ映画ではどのようなテーマが描かれるのだろうか。注目していきたい。

『ゴジラ-1.0』は2023年11月3日(金)より全国公開。

『ゴジラ-1.0』公式サイト

山崎貴監督が手がけた『ゴジラ-1.0』の小説版は、11月8日(水)発売で予約受付中。

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『ゴジラ-1.0』オリジナル・サウンドトラックのLP盤は12月15日(金)発売で予約受付中。

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映画『ゴジラ-1.0』のラスト解説についての記事はこちらから。

映画『ゴジラ-1.0』で描かれる政府への不信感に関する記事はこちらから。

映画『ゴジラ-1.0』のキャスト紹介の記事はこちらから。

映画『ゴジラ-1.0』予告編第1弾はこちらの記事から。

映画『ゴジラ-1.0』予告編第2弾はこちらの記事から。

映画『ゴジラ-1.0』予告編第3弾とラージフォーマットでの上映に関する記事はこちらから。

モンスター・ヴァース版ゴジラの映画最新作の情報はこちらの記事から。

モンスター・ヴァース版ゴジラのドラマ最新作の情報はこちらの記事から。

『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』の第1話ネタバレ感想と考察はこちらの記事から。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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