『スリ・アシィ』 ウピ監督と主演ペフィタ・ピアースへインタビュー BCUで描かれるヒーロー像に迫る | VG+ (バゴプラ)

『スリ・アシィ』 ウピ監督と主演ペフィタ・ピアースへインタビュー BCUで描かれるヒーロー像に迫る

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MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)に続け! BCU(ブンミラゲット・シネマティック・ユニバース)

1950年代から続くインドネシアのブンミラゲットのコミックのヒーローたち。監督・脚本をジョコ・アンワルが務めた稲妻の力と格闘技の技術でマフィアと腐敗した社会と戦うヒーロー映画『グンダラ ライズ・オブ・ヒーロー』がBCU(ブンミラゲット・シネマティック・ユニバース)第1弾として2019年に公開された。そしてインドネシアで最も影響力があるとされ、インドネシア映画祭(FFI)で数多くのノミネートも経験しているウピ監督がメガホンを取るBCU第2弾『スリ・アシィ』が日本でも2023年12月15日に公開される。

『スリ・アシィ』はジャワ島のムラビ山噴火に巻き込まれ、母親の死の間際に生まれた少女のアラナが正義感溢れる格闘家として豊穣の女神の力に目覚め、腐敗した社会と悪魔の精、そして悪魔の精を司る邪悪な火の女神と戦う物語だ。モチーフになったのは稲作と豊穣の女神であるデヴィ・スリ伝説であり、現代のインドネシアと過去のインドネシアが交わることになる『スリ・アシィ』。

本記事では腐敗した社会に立ち向かうスリ・アシィを現代によみがえらせたインドネシアで最も影響力のある監督であり、インドネシアで最も尊敬を集める女性の1人にも数えられているウピ監督Instagramで1800万人のフォロワーを抱えるインドネシアが誇る大人気俳優で主人公のアラナ/スリ・アシィを演じるペフィタ・ピアースの2人にインタビューしていこう。

現代に『スリ・アシィ』をよみがえらせた立役者、ウピ監督

インドネシアのコミック事情について

インタビュアー:BCU第2弾ということですが、今後のBCUの日本展開についてどう思われますか?日本も漫画大国と言われることがありますが、インドネシアでも漫画が身近な存在でしたか?漫画に関する思い出なども合わせて教えていただけると幸いです。

ウピ監督(以下、監督):インドネシアではかつて漫画がとても人気がありました。そのため、今ではグンダラやスリ・アシィのような古典的なスーパーヒーローが存在しています。しかし、時がたつにつれ人々の関心はオンラインコミックに、そしてアクションよりも主にコメディに移りました。

私自身熱狂的な漫画好きとは言えませんが、過去に漫画はいくつか読んだことがあり、この映画のために『スリ・アシィ』の漫画を読みました。この物語はインドネシア初のスーパーヒーローコミックをベースにしており、かつ女性ヒーローについての作品でとりわけ興味深いものになっています。

1950年代から続くコミックの世界のスーパーヒーローである『グンダラ』や『スリ・アシィ』だが、現在のインドネシアではコメディなどのオンラインコミックが流行しているようだ。そのような中、インドネシア初のスーパーヒーローコミックかつ女性ヒーローの『スリ・アシィ』を現代に甦らせる意味とは何なのだろうか。ウピ監督にその点についても尋ねてみた。

現代にスリ・アシィを甦らせたことについて

インタビュアー:インドネシア初のヒーローであるスリ・アシィというキャラクターを現代のインドネシアに甦らせる上で、何か意識したことなどがあれば教えていただけると幸いです。

監督:正直に言って、スーパーヒーロー映画を作ることは、作り手にとってだけでなく(インドネシアの)映画産業自体にとっても挑戦でした。というのも、このコミックは1954年に創作されたもので、非常にページ数が少なく、要点がとてもストレートに書かれたものだったからです。

そのため、それを映画化するためには、多くの事を新しく創作する必要がありました。ストーリーを作るために、私はジョコ・アンワル(『グンダラ』の監督兼、脚本家兼、プロデューサー)と話し合いました。ジョコさんは、スリ・アシィの世界のバイブルを作ってくれたので、私はその内容に基づいてストーリーを展開させるだけでした。

『グンダラ ライズ・オブ・ヒーロー』の監督・脚本・プロデューサーを務めるだけではなく、『スリ・アシィ』の脚本にも携わっているジョコ・アンワル監督。『スリ・アシィ』はジョコ・アンワル監督とウピ監督の共同作業となったようだ。ジョコ・アンワル監督がつくった世界観でストーリーを展開させたとかたるウピ監督だが、演出面でのこだわりなどはあるのだろうか。

インドネシアの伝統文化について

インタビュアー:アラナが善の女神であるアシィと繋がる場面など、踊りを舞うようにして祈りを捧げる場面がありますが、あの演出の元となったインドネシア文化について教えていただけると幸いです。

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監督:インドネシアには、特別な力、主にスピリチュアルなスーパーパワーを得るための伝統的、文化的儀式が数多くあります。『スリ・アシィ』では、インドネシアのそのようなスピリチュアル的側面が強い文化にインスピレーションを受け、アラナは私たちの文化を代表する形でスリ・アシィとしての新たなる責任を果たすべきだと考えました。

実際の儀式から直接着想を得たわけではありませんが、私たちはその特定のシーンのために、とてもインドネシアらしいと感じられる振り付けを作り上げました。

インドネシアの伝統文化にインスピレーションを受けて、そのスピリチュアル的な要素を『スリ・アシィ』に落とし込んだウピ監督。伝統文化をヒーローとしてインドネシア国外の私たちにも伝わるように表現したことを感じさせてくれる回答だ。では、現代のインドネシアについて、『スリ・アシィ』ではどのように表現しているのだろうか。

現代のインドネシアについて

インタビュアー:本作はインドネシアの社会問題を組み込んだということですが、インドネシアが抱える社会問題とヒーローたちの親和性、伝えたいメッセージなどがあれば教えていただけると幸いです。

監督:アラナが生きる世界は、スーパーヒーローを切実に必要としていると思います。アラナはスーパーヒーローとして、貧しい人々や恵まれない人々に不利益をもたらす犯罪と戦います。それは身の回りの小さな犯罪が、とても大きな事件と関わっていると知る前からです。

そして自分よりも大きな何かに立ち向かっていることを知った後も、彼女は勇敢に敵に立ち向かいます。この描写によって、アラナは女性のためだけや、特定の社会問題のためだけでなく、すべての人にとってのヒーローなのだというメッセージを伝えたいと思います。

特定の問題だけではなく、インドネシアや世界全体が抱える社会問題について敢然と立ち向かうことで、観客にも勇気を与える作品となった『スリ・アシィ』。それでは『スリ・アシィ』を現代によみがえらせたもう1人の立役者、主演のペフィタ・ピアースさんにも質問していこう。

インドネシアを代表する大人気俳優、ペフィタ・ピアース

ウピ監督とのタッグについて

インタビュアー:インドネシアで最も影響力のある女性監督であるウピ監督とInstagramのフォロワー1800万人越えの新進気鋭の女優ペフィタ・ピアースさんのタッグが話題を呼んだ本作ですが、それによって生まれる化学反応やインドネシアでの反響、監督の印象など教えていただけると幸いです。

ペフィタ・ピアース(以下、ペフィタ):嬉しいことに、インドネシアの観客はこの映画をとても高く評価してくれました。ウピ監督との仕事はとても光栄で、以前から彼女の事は聞いていましたし、彼女の映画は本当に面白いと思っていました。

彼女の第一印象は、柔軟でありながら、自分がスクリーンに何を映したいかを的確に把握している監督だということでした。彼女は映画制作のプロセスを通して私を沢山指導してくれて、私のキャラクターをより深く理解する手助けをしてくれました。

自分の持つ考えを現場に合わせて柔軟に対応しながら、その一方で自分が撮りたい映像を明確に把握していたというウピ監督。そのようなウピ監督とのタッグを通して、ペフィタ・ピアースさんもキャラクターを深く知ることができたようだ。では、『スリ・アシィ』の魅力の一つでもあるアクションや格闘シーンの撮影について質問してみた。

『スリ・アシィ』のアクション、格闘シーンの撮影について

インタビュアー:本作の主人公アラナはスリ・アシィになる前から臨場感あふれる格闘シーンが多く、スリ・アシィとなってからは超人的かつアクロバティックなアクションシーンが多いですが、そのようなキャラクターを演じる上で意識したこと、または苦労したことはありましたでしょうか? 教えていただけると幸いです。

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ペフィタ:私自身、格闘技の経験はゼロです。格闘技もやったことがないし、格闘シーンの振り付けもやったことがないので、本当にゼロからのスタートでした。でも、本作のアクションチームであるウワイス・チームに助けられ、指導してもらったので、大丈夫だと思いました。

また、アクションシーンの準備をするにあたって、シラットの基礎を学び、体を作り、他の種類のスポーツを通じて持久力を鍛えました。ウワイス・チームと一緒にVコンも準備したので、どういう画を撮りたいか正確に把握することが出来ました。

意外にもペフィタ・ピアースさん自身は格闘技の経験は無いという。アクションシーンや格闘シーンはアクションチームであるウワイス・チームと共に創り上げていったとのことだ。だが、それはウワイス・チームに一方的に支えられていたわけではない。

ペフィタ・ピアースさんも筋力トレーニングやインドネシアの伝統武術であるシラットのトレーニングなどの絶え間ない努力があったようだ。そのような努力によって創り出されたアラナ/スリ・アシィというキャラクター像。努力で創り上げたアラナ/スリ・アシィとペフィタ・ピアースさんの共通点はあるのだろうか。

アラナ/スリ・アシィとの共通点

インタビュアー:アラナは、ペフィタ・ピアースさんご自身と重なる部分などありますでしょうか?パーソナルな質問かもしれませんが教えていただけると幸いです。

ペフィタ:私とアラナには、家族を大切にするという共通点があると思います。しかし、『スリ・アシィ』では、アラナの世界ははるかに複雑であり、彼女の問題に立ち向かうには勇気と強さが必要です。

アラナとは家族を大切にするという共通点を持っていると語ってくれたペフィタ・ピアースさん。そしてアラナがスリ・アシィとして活躍していく中では複雑な世界や問題に立ち向かう勇気と強さが必要だとも語ってくれた。それでは最後にそのような勇気と強さ、家族愛を持ったアラナ/スリ・アシィを演じるにあたっての思いについて尋ねてみた。

アラナ/スリ・アシィを演じるにあたって

インタビュアー:インドネシア初のスーパーヒーローを演じるにあたって、何か思い入れなどございましたら教えていただけると幸いです。

ペフィタ:この役を演じるのは夢のような気分でした。小さいころ、漫画を読んだり、スーパーヒーロー映画を観たりしていましたが、その時の途方もない夢の1つは、自分もスーパーヒーローになることでした。この映画で自分自身や自分の強さに対する見方が変わり、最初は不可能だと思っていたことも自分の身体には可能なのだと知りました。

自分でもできるとは思っていなかった仕事を引き受けるほどに、誰かが自分を信じてくれていたという事実は、本当に希望をもたらしてくれます。これは、新しいコンセプト、トピック、パッケージで、業界最高の人たちと作り上げる、インドネシア映画界での新たな試みであるという意識を持っていました。

ペフィタ・ピアースさんにとって夢であったというスーパーヒーロー。『スリ・アシィ』に出演する上で、シラットなどの格闘技の訓練やアクションシーンのトレーニング、そしてキャラクター造形の中でその夢は現実のものになったと語るペフィタ・ピアースさん。

そして、アラナ/スリ・アシィがペフィタ・ピアースさんにとっての希望になったように、観客にとってもアラナ/スリ・アシィが希望になるのが『スリ・アシィ』という作品だ。そのような映画『スリ・アシィ』が日本の劇場で観ることができるというのは、大変素晴らしいことだと思う。そして今後もアラナ/スリ・アシィが劇場で観続けられるように、BCU(ブンミラゲット・シネマティック・ユニバース)の日本での展開に期待したい。

映画『スリ・アシィ』は2023年12月15日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷他にて全国順次公開。

『スリ・アシィ』公式サイト

『スリ・アシィ』公式X(旧Twitter)

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『スリ・アシィ』予告編第1弾の記事はこちらから。

『スリ・アシィ』に寄せられた著名人のコメントはこちらから。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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