『マッドマックス 怒りのデス・ロード』とは違うイモータン・ジョー
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)の人気キャラクターであるフュリオサを主人公にした前日譚『マッドマックス:フュリオサ』が、2024年5月31日(金)に公開された。『マッドマックス:フュリオサ』はフュリオサの設定や背景を深掘りするものだったが、もう1人深掘りされた人物がいる。それは砦〈シタデル〉の支配者イモータン・ジョーだ。
本記事では『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ではわからなかった支配者としてのイモータン・ジョーについて解説と考察をしていこう。なお、以下の内容は『マッドマックス:フュリオサ』本編のネタバレを含むので、必ず劇場で鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『マッドマックス:フュリオサ』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『マッドマックス:フュリオサ』のイモータン・ジョー
『マッドマックス:フュリオサ』のもう1人の脅威
『マッドマックス:フュリオサ』では主人公フュリオサと宿敵ディメンタスの15年にわたる因縁に目が行くが、フュリオサにとってもう1人の脅威がいることを忘れてはならない。それは砦〈シタデル〉を支配するイモータン・ジョーだ。
ディメンタスはフュリオサのためだと言いながら、フュリオサの母親であるメリーを殺害し、フュリオサを自分の養女リトルDとした。ディメンタスの抱える最大の恐怖とは忘れ去られることであり、フュリオサをリトルDとすることで自分の存在を語り継がせようとしたと考察できる。それについてはこちらの記事が詳しい。
それだけでもフュリオサを警戒するのは無理もないが、イモータン・ジョーは更なる警戒の対象だ。イモータン・ジョーは13~14歳、下手をすれば11歳~12歳のフュリオサを一目見て子産み女として妻に迎えると発言するのである。フュリオサはイモータン・ジョーの息子であるリクタス・エレクタスにも性加害を受けそうになり、髪を剃って男児のふりをしてメカニックとして生きることを選ぶ。
イモータン・ジョーのバックグラウンド
イモータン・ジョーは最初から救世主と名乗っていたわけではない。イモータン・ジョーは文明崩壊の前はジョー・ムーア大佐という軍人だった。石油戦争や水戦争、核戦争を経験したジョー・ムーア大佐は、軍人仲間を集めてディープドッグという武装組織を立ち上げる。ジャックの両親はジョー・ムーア大佐に使える軍人であり、おそらくディープドッグのメンバーだと考察できる。ジャックの両親についてはこちらの記事が詳しい。
荒れはてた地に水資源のある砦〈シタデル〉があることを知ったジョー・ムーア大佐は、そこを占拠していた武装組織を倒して支配者の座に君臨する。砦〈シタデル〉の情報を教えた元銀行員の太った男は人食い男爵と名乗って腹心となり、軍人の1人は裁判官と死刑執行人の役割を務める武器将軍として弾薬畑〈バレットファーム〉を支配するようになったのだった。
ジョー・ムーア大佐は砦〈シタデル〉を支配していく中で狂気に苛まれ、自身をイモータン・ジョーという救世主だと名乗り始める。そして周囲の人間を攫っては寿命の短い腫瘍を抱える子供たちに「死後、英雄の館に生まれ変わる」という教義を与え、ウォー・ボーイズに変えた。ジャックの両親はイモータン・ジョーがかつて持っていた善性を覚えており、仕え続けたと考察できる。狂気に囚われたイモータン・ジョーは呼吸器が必要なほど体が衰えている。
子産み女と後継者問題
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』と『マッドマックス:フュリオサ』の冒頭で核戦争による環境汚染で人類の寿命は半分になったことが語られている。それは救世主を名乗るイモータン・ジョーも例外ではなく、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ではイモータン・ジョーの皮膚に腫瘍が出来ている描写がある。
寿命の終わりが見えてきたイモータン・ジョーは自分の後継者探しに躍起になる。イモータン・ジョーの後継者のための健康な子供を産む女性探しこそが子産み女で、フュリオサを引き取った理由である。
イモータン・ジョーもある意味ではディメンタスと同じ精神性を持っており、死後神格化されることを望んでいたと考察できる。しかし、イモータン・ジョーとディメンタスには決定的な違いが存在している。
イモータン・ジョーとディメンタスの違い
『マッドマックス:フュリオサ』のイモータン・ジョーはCEO?
『マッドマックス:フュリオサ』でイモータン・ジョーを演じたラッキー・ヒュームは、イモータン・ジョーを企業のCEOと例えている。イモータン・ジョーは人食い男爵を腹心としているが、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で描かれるように砦〈シタデル〉と弾薬畑〈バレットファーム〉、そしてガスタウンは対等な関係にあり、物資を取引し合っていることで関係性を維持している。
イモータン・ジョーの真の恐ろしいところは、ラッキー・ヒュームの語った企業のCEOを思わせる姿勢である。イモータン・ジョーは子産み女が3回出産して健康な男児を産めなければ、ミルキングマザーとして母乳を絞るためだけの存在に変えてしまう。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でイモータン・ジョーは究極の家父長制の象徴であり、男根主義を体現した人物として描かれた。しかし、『マッドマックス:フュリオサ』ではその背景がさらに深掘りされ、とてつもなくシステマチックな家父長制と男根主義を実行し、それによって利益を上げている邪悪な資本主義とも言える構造を砦〈シタデル〉に築いていたことが明らかになった。
大人になったフュリオサが警戒していたのはそのシステマチックな家父長制と男根主義で、イモータン・ジョーの5人の妻であり子産み女であるワイブズを逃がそうとしたのも砦〈シタデル〉からではなく、そのシステムそのものからだと考察できる。
ショーマンとビジネスマン
この中期的~長期的な計画を立てることができるのがディメンタスとの違いだと考察できる。ディメンタスは演説に長け、自分自身を誇張して表現する。ディメンタスはそれによって自分のことを「赤風のディメンタス」や「偉大なるディメンタス」、「バイク帝国の支配者」、「ガスタウンの守護者」、「ダーク・ディメンタス」、「暗黒王」などの数えきれないほどの異名をつけて表現するのである。
ディメンタスを演じたクリス・ヘムズワース曰く、ディメンタスとはショーマンだ。そう考えてディメンタスとイモータン・ジョーを比較すると、2人ともカルト宗教の教祖のような支配者だが、イモータン・ジョーはビジネスマンであるように感じることができる。イモータン・ジョーにとって男根主義的なカルト宗教はビジネスであり、アクアコーラと呼ばれる地下水や水耕栽培の野菜、ミルキングマザーの母乳などを取引材料に弾薬畑〈バレットファーム〉とガスタウンとの関係を維持しているのである。
長期的な政治力の必要性
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』では弾薬畑〈バレットファーム〉とガスタウンは名前しか登場せず、イモータン・ジョーの配下にあるような印象を受けた。しかし、『マッドマックス:フュリオサ』ではその二つの都市が深掘りされ、そこに住民が暮らしていることが明らかになった。
そのことから、都市を支配するディメンタス、人食い男爵、武器将軍は統治者として住民たちからの支持を得ないといけないことがわかった。ディメンタスはそれに失敗し、ガスタウンを崩壊させてしまっている。各都市の支配者は住民が暴徒と化さないように食糧や物資を分配しなければならない。ここでもショーマンとしての短期的な支配力ではなく、ビジネスマンとしての中期~長期的な支配力が求められる。
このようにショーマンであるディメンタスと比較することで、ビジネスマンとしてイモータン・ジョーと、彼が築き上げたシステマチックな家父長制と男根主義の恐ろしさが見えてくる。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ではフュリオサとマックスはこのシステムを倒すために、リクタス・エレクタスを含む息子や同盟関係の支配者を含めたすべてを倒さなければならなかった。
『マッドマックス:フュリオサ』の後に制作されるマッドマックス・サーガで、イモータン・ジョーが築いたシステムを操るものは現われるのだろうか。フュリオサが警戒していたシステムについても注目していきたい。
映画『マッドマックス:フュリオサ』は2024年5月31日(金)より全国の劇場で公開。
「マッドマックス」は過去4作を収録した「マッドマックス」アンソロジー4K Ultra HD BOXが発売中。
『マッドマックス:フュリオサ』のサントラは配信中。
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