『マッドマックス:フュリオサ』がいつの物語なのかを時系列から考察
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)で子産み女とされていたイモータン・ジョーの妻たちのワイブズを救出した英雄であるフュリオサを主人公にした最新作『マッドマックス:フュリオサ』が、2024年5月31日(金)に公開された。そこで観客の注目を集めたのは「マッドマックス」シリーズの時系列だ。『マッドマックス:フュリオサ』は時系列ではどこに属し、マックスの年齢は何歳なのだろうか。
本記事では「マッドマックス」シリーズの時系列を整理し、それをもとにマックスの年齢や『マッドマックス:フュリオサ』が属する時間について考察と解説を述べていこう。なお、本記事は『マッドマックス:フュリオサ』のネタバレを含むため、必ず劇場で本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『マッドマックス:フュリオサ』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
映画「マッドマックス」シリーズ時系列
『マッドマックス』(1979)
近未来の荒廃したオーストラリアを舞台に、暴走族専門の特殊警察メイン・フォース・パトロール(M.F.P.)の隊員であるマクシミリアン・“マックス”・ロカタンスキーの活躍を描くシリーズ第1作。マックスは暴走族のナイトライダーやトーカッター、ジョニー・ザ・ボーイと戦う。
明確な時代は明かされていないが、司法省に本部を置くM.F.P.が1983年に設立されたことが明らかになっているため、第1作『マッドマックス』は1980年代以降が舞台であることは明らかである。M.F.P.がセクターごとに都市を管理している、マックスの同僚である「不死身のグース」ことジム・グース・レインズがジョニー・ザ・ボーイを逮捕した際に不起訴されるなど司法機関が機能しているため、荒廃した世界ではあるが政府は存在している。他にもグースが生きたまま焼かれた際には病院に運び込まれているため、病院など機能していない続編ほど世界は壊滅状態に置かれていない。
マックスの年齢も明らかにされていないが、演じているメル・ギブソンの公開当時の年齢から23歳だと考察されている。マックスには妻のジェシー・“ジェス”・ロカタンスキーと幼い子供がおり、暴走族によって子供は殺害され、ジェスは重傷を負わされる。マックスは復讐のために暴走族たちを殺害し、M.F.P.の対暴走族専用車両である1973年製フォードファルコンXB GT クーペを改造したV8インターセプターで地平線へと走り去っていった。フュリオサは復讐の対象であるディメンタスを生きたまま苗床にするという復讐を果たしたが、マックスは対照的に殺害して回っている。
『マッドマックス2』(1981)
『マッドマックス2』は第1作『マッドマックス』の約3年後が舞台。前作の直後、二大国間で世界大戦が発生し、文明は崩壊してしまった。中東情勢の悪化により石油が貴重品となり、石油の奪い合いが各地で発生している。この奪い合いこそが、イモータン・ジョーがジョー・ムーア大佐だった頃に活躍した石油戦争だと考察できる。
物語は北部民族長老が石油の精製所にいた幼き日の思い出を語る形で描かれる。この形は『マッドマックス:フュリオサ』でも見られた賢者〈ヒストリーマン〉と同じものであり、『マッドマックス2』の頃からマックスは神話的な英雄として表現されるようになる。ジョージ・ミラー監督は『マッドマックス2』を撮影するにあたり、アメリカ合衆国の神話学者ジョーゼフ・キャンベルの『千の顔を持つ英雄』を参考にしている。
M.F.P.を辞め、飼い犬と共に放浪の旅を続けていたマックスは「ロックンローラーのアヤトラ(伝道師)」と呼ばれるヒューマンガスに脅かされる石油の精製所に住む人々を救うために戦うことになる。繰り返される死闘と支払われた多くの犠牲の末に石油の精製所に暮らしていた人々を救ったマックスは、1人でまた荒野に去っていく。これは貴種流離譚(本来は高い身分の者が不幸な境遇に置かれ、そこで冒険などを通して正義を果たすという英雄譚、もしくはヒーローズ・ジャーニーの総称)を意味していると思われる。また、第1作『マッドマックス』から約3年後が舞台であるため、マックスの年齢は26歳だと考察されている。
『マッドマックス/サンダードーム』(1985)
核戦争が勃発してから15年が経過した近未来が舞台であり、夢物語を信じてトゥモローランドに行こうとする子どもたちだけの集団をマックスが救うことになる。「マッドマックス」シリーズの世界では文明を崩壊させた戦争として石油戦争、水戦争、核戦争が挙げられており、核戦争による世界各国の土壌汚染は『マッドマックス:フュリオサ』の冒頭でも触れられている。
核戦争から15年経過した未来ということで、マックスの年齢は38歳から41歳だと考察されている。しかし、マックスを演じるメル・ギブソンは公開当時29歳であったため、マックスとは10歳以上年齢がかけ離れていたと考えられる。
マックスは物々交換で成り立つ「バータータウン」のサンダードームで自分の持ち物を取り戻すために戦うが、子どもたちのためにオアシスを築き上げた後に失踪したボーイング機のパイロットである伝説のキャプテン・ウォーカーだと勘違いされながら戦うなど、神話的な英雄の側面が強くなっている。
『マッドマックス:フュリオサ』(2024)
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で人気を博した警備大隊長フュリオサを主人公にしたスピンオフ。「緑の地」に住む幼い少女が、自分を誘拐したディメンタスや女性を子産み女と考えているイモータン・ジョーたちの危険に曝されながら警備大隊長フュリオサに成長するまでを描く。
物語の最後、フュリオサがディメンタスに向って自分を誘拐して母親のメリーを殺害したのが15年前であると語っている。『マッドマックス:フュリオサ』でフュリオサを演じたアニャ・テイラー=ジョイが28歳であり、幼少期のフュリオサを演じたアリーラ・ブラウンが14歳であることから考えると、フュリオサが誘拐されたのは13~14歳頃だと考察できる。
フュリオサの幼少期には文明が崩壊していることから、その時点で『マッドマックス2』から最低でも13年以上経っている計算となる。後ろ姿のみの登場となったマックスは、『マッドマックス2』にアニャ・テイラー=ジョイの年齢を足した28年を加えると、54歳の可能性がある。しかし、明確な時代設定が提示されていないため、マックスはより高齢の可能性も考察できる。その理由の1つとして、文明が崩壊する前の出来事を知っている人物が賢者〈ヒストリーマン〉の年齢であり、他にも文明崩壊前を知る人物が高齢とされるイモータン・ジョーや人食い男爵、42歳のトム・バーク演じるジャックの両親の世代であることが挙げられる。まだ司法省が機能していたマックスはかなりの高齢の可能性がある。また、文明崩壊の理由が二大国間の戦争から三大国間の戦争へと変更されている。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)
文明が崩壊してから45年後が舞台となった『マッドマックス 怒りのデス・ロード』では、マックスをメル・ギブソンの代わりに公開当時37歳だったトム・ハーディが演じる。文明崩壊を『マッドマックス2』だと仮定すると、マックスの年齢は71歳より年上になる。
これはイモータン・ジョーを演じていた故ヒュー・キース・バーンの公開当時の年齢である68歳よりも年上に当たる。文明崩壊を第1作『マッドマックス』だと仮定しても、マックスの年齢は68歳とイモータン・ジョーと同い年になる。更に完全に文明が崩壊していた『マッドマックス/サンダードーム』から45年経っていたと考えるとマックスは86歳の可能性すら見えてくる。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』はジョージ・ミラー監督が『マッドマックス2』と同じく神話学者ジョーゼフ・キャンベルの『千の顔を持つ英雄』を参考にしたとのことで、マックスが完全に神話上の英雄になっている可能性が考察できる。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』では賢者〈ヒストリーマン〉の語りが入るため、貴種流離譚の英雄であるマックスが若い頃のままのイメージで語り継がれていると考えることもできる。救えなかった人々の幻覚に悩まされるマックスを亡霊だと考察する人々もいる。どちらにしても、マックスはもう現実離れした存在になりつつあるのだ。
時系列では『マッドマックス:フュリオサ』はどこに属する?
『マッドマックス:フュリオサ』でフュリオサを演じたアニャ・テイラー=ジョイが28歳であり、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でフュリオサを演じたシャーリーズ・セロンが公開当時41歳だったことから考察すると、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は『マッドマックス:フュリオサ』から12年後の物語だと考えることができる。ディメンタスを苗床にした植物が、果実を取れる成木になるまでの時間を考えると12年は妥当な年月だと思われる。
このように時系列順に作品を並べてみると、マックスが怒れる復讐者から神話的な英雄へと変化していることが年齢から読み取ることができる。ある意味では文明が崩壊し、寿命が半分になった「マッドマックス」シリーズの世界では歳月というものは意味をなさないのかもしれない。核によって自然が破壊され、季節がなくなったことで1年という時間の感覚も文明と共に崩壊したとも考察できる。
マックスは神話的な英雄か、それとも亡霊か。イモータン・ジョーの子産み女であり、妻にされた女性たちワイブズを救って英雄になったフュリオサも同じように年を重ねるのかもしれない。今後の「マッドマックス」シリーズに注目だ。
映画『マッドマックス:フュリオサ』は2024年5月31日(金)より全国の劇場で公開。
「マッドマックス」は過去4作を収録した「マッドマックス」アンソロジー4K Ultra HD BOXが発売中。
『マッドマックス:フュリオサ』のサントラは配信中。
映画『マッドマックス:フュリオサ』のラストについての解説&考察はこちらの記事で。
『フュリオサ』および「マッドマックス」の続編についての情報はこちらから。
『マッドマックス:フュリオサ』の警備隊長ジャックについての解説&考察はこちらの記事で。
『マッドマックス:フュリオサ』に登場する宿敵ディメンタスについての解説&考察はこちらの記事で。
『フュリオサ』に登場した車両の紹介はこちらの記事で。
ジョージ・ミラー監督はMCU映画『ソー5』にも興味を示している。詳しくはこちらから。
『マッドマックス:フュリオサ』に用いられたAI技術についてはこちらの記事で。
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