『ブラックアダム』降臨
DCU(DCユニバース、DCEUからリブランディング)最新作の映画『ブラックアダム』が2022年12月2日(金)より日本で劇場公開された。本作の主演を務めたのはドウェイン・ジョンソン。映画『ジャングル・クルーズ』(2021) に続いてジャウム・コレット=セラ監督とのタッグとなっている。
『ブラックアダム』では、映画『シャザム!』(2019) でその存在が示唆されたブラックアダムことテス・アダムの物語が描かれる。原作コミックでは、元々はシャザムのヴィランとして知られていたブラックアダムが“DC最恐アンチヒーロー”としてスクリーンデビューを果たす。
今回は、映画『ブラックアダム』のあのラストとポストクレジットシーンについて、その意味を詳しく解説していく。なお、以下の内容は重大なネタバレを含むため、必ず本編を劇場で観てから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『ブラックアダム』の内容と結末に関するネタバレを含みます。
Contents
『ブラックアダム』ラストはどうなった?
ブラックアダムの正体
映画『ブラックアダム』の終盤では、いくつものサプライズが待っていた。アクション中心で展開されていた『ブラックアダム』に訪れた最初の大きな展開は、冒頭から登場していた5,000年前のカーンダックの少年とテス・アダムは同一人物ではなかったというものだ。
かつてカーンダックを侵略して圧政を敷いた王サバックの末裔で、現代のカーンダックを占領するインターギャングのリーダーであるイシュマエルは、アドリアナの息子アモンを人質に取る。これによりサバックの王冠を手に入れたイシュマエルだが、ブラックアダムの力によって死亡。しかしその直前に“フルート”という人物の死について触れ、ブラックアダムを挑発した。
米国産ヒーローチームのジャスティス・オブ・ソサエティ・オブ・アメリカ (JSA) のリーダーであるホークマンは、ブラックアダムにフルートという人物について尋ねる。その人物とは、テス・アダムの息子であり、王サバックに挑んだ真のヒーローであった。逆に『ブラックアダム』の冒頭で兵士に挑もうとする少年に「守ってやれない」と忠告を与えていた人物こそがテス・アダムである。
サバックは魔術師シャザムに強大な力を与えられたフルートを倒せないと判断し、その家族を攻撃する。テス・アダムの妻は殺され、テス自身も瀕死の状態になるが、フルートは自分が魔術師から与えられた力を父に譲ることによってテスを救ったのだった。
しかし、力を失ったフルートは王の兵士に殺されてしまい、怒り狂ったテス・アダムは“呪い”の力で黒いスーツに身を包まれる。それが“破壊神”としてのブラックアダム誕生の瞬間であり、テス自身は「魔術師に力を与えられたのではない。呪いから生まれた」と解説している。
『シャザム!』では、同じ魔術師シャザムから力を手に与えられたシャザム役には、当時30代だったザッカリー・リーヴァイが起用された。『ブラックアダム』では50歳のドウェイン・ジョンソンが主演ということで、もともと歳を重ねた人物が変身したという設定は、この年齢の差を十分に説明できている。
なお、息子のフルートが変身した時の姿を演じていたのはウリ・ラトゥケフだ。ドウェイン・ジョンソンの半生を描くコメディドラマの『ヤング・ロック』(2021-) では、若き日のドウェイン・ジョンソン役を演じている。その風貌が似ていることを利用し、フルートの変身後の姿をブラックアダムだと誤認させる巧みなミスリードが行われていたのだ。
あの人は誰?
自分はヒーローになるべき人物ではないと語るテス・アダムは、ホークマンに自ら封印されることを志願し、変身を解く「シャザム」の呪文を唱える。テスは口を封じられ、タスクフォースXの基地に運ばれる。DCファンの方にはお馴染みの「タスクフォースX」という名称。これは、映画『スーサイド・スクワッド』(2016) で紹介されたスーサイド・スクワッドの正式名称である。
そしてJSAの一行を出迎えたのはエミリア・ハーコートだった。堂々たる風貌で気づかなかった方もいるかもしれないが、映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(2021) に政府側の職員として登場し、ドラマ『ピースメイカー』(2022-) で中心人物として描かれたエミリアである。
『ザ・スーサイド・スクワッド』でのエミリアは、タスクフォースXの司令官で『ブラックアダム』でも序盤にホークマンにJSA集結の指示を出していたアマンダ・ウォラーの下で働いていた。『ピースメイカー』でも引き続きウォラーの指示でピースメイカーのお目付け役として働いている。『ブラックアダム』でも「ウォラーがよろしくって」とホークマンに伝言を伝えており、現在もウォラーの右腕であることが分かる。
ドラマ『ピースメイカー』では、エミリアはもう一人の主人公として活躍しており、『ブラックアダム』でのリーダー然とした態度とどうやら昇進したらしいポジションは、『ピースメイカー』から地続きのものと考えられる。この点については、こちらの記事で解説及び考察している。
なお、タスクフォースXには大量のスーパーヒューマンが封印されていることが示唆されている。元々タスクフォースXは犯罪者(ヴィラン)を利用した特殊部隊であり、力を持つ悪人をコントロールするというのがコンセプトだと考えられる。大小様々なポッドが見えたが、いずれ誰かが脱走する/させるかもしれない。
サバックはなぜ復活した?
ブラックアダムが封印された直後、焼かれたイシュマエルがサバックとして復活を遂げる。かつてサバックがエターニウムを使って解放した6人の悪魔は、“終末の岩”と呼ばれる場所にいた。この終末の岩は、映画『シャザム!』でビリーが召喚された“永遠の岩”と対の場所で、原作コミックと同じく終末の岩は永遠の岩のミラーワールドになっている。
王冠に刻まれていた「生は死への唯一の道」という言葉は、鏡のように逆にすると「死は生への唯一の道」という言葉になる。イシュマエルはアモンを人質にとってブラックアダムに殺されることで終末の岩へ行くことができ、その死をもって終末の岩で封印されていたサバックを復活させたのだった。
一方のJSAもドクター・フェイトがその死を予見したホークマンの身代わりになってサバックを食い止めつつ、遠隔でテス・アダムを解放。予期せぬ事態とはいえ、力を持たないテスが脱出できてしまうとは、タスクフォースXのセキュリティがいささか不安である。それにドクター・フェイトはあそこに封印されていた全員を解放し得たということでもある。
ドクター・フェイトは命を落とすが、復活したブラックアダムはホークマンと協力してサバックを倒すことに成功する。ブラックアダムは「地獄送り、ブラック見参」と、アモンに教えられた決め台詞を言うと、サバックを真っ二つに引き裂く。アモンもカーンダックの市民を立ち上がらせ、一人ひとりがヒーローになれることを証明し、ブラックアダムは玉座を破壊するのだった。そして、ブラックアダムはヒーローとしてではなく、守護者としてカーンダックに残ると宣言する。
注目したいのはJSAメンバーが立ち去るシーン。ホークマンはもうブラックアダムに力を放棄させようとしていない。ブラックアダムが力を持っていても問題ないと判断したのだろう。あるいは、亡き親友ドクター・フェイトがブラックアダムに語りかけた「世界はいつも白い騎士(ホワイトナイト)を必要としているわけじゃない、時には“黒”も必要だ」という考えを尊重したのかもしれない。
また、アトム・スマッシャーは去り際にこの即席チームが良いチームだったとブラックアダムに告げ、ブラックアダムは「最高のチームだ」と応答する。アトム・スマッシャーが「僕たちはきっと」と言いかけたところでブラックアダムは「以上だ」と言葉を遮る。おそらくアトム・スマッシャーはブラックアダムをJSAに誘いたかったのだろう。原作コミックではブラックアダムはJSAメンバーとして活動した時期もあるが、DCUでは今回の短いチームアップで両者の絡みは終了ということになるのだろうか。
ミッドクレジットシーンの意味は?
まさかのサプライズ
そして、『ブラックアダム』最大のサプライズはポストクレジットシーン(ミッドクレジットシーン)にあった。以下の内容は、ドラマ『ピースメイカー』終盤の内容に関するネタバレも含むので未見の方は注意していただきたい。
一人になったブラックアダムの前に一機のドローンが飛来。今回ホークマンに出動の指令を出した張本人であり、エミリアの上司であり、タスクフォースXの司令官であり、政府組織A.R.G.U.S.の司令官であるアマンダ・ウォラーがホログラムで登場する。
「おめでとう、あなたは私の関心を得た」と上から目線の挨拶をすると、カーンダックから出ないよう警告する。このアメリカ合衆国政府らしい傲慢な振る舞いに対し、ブラックアダムは「この惑星で私を止められるものはいない」と返答。返す刀でウォラーが「異星からの応援を呼ぶこともできる」と言うと、ブラックアダムは「全員送れ」と言い、ウォラーが「お望み通り」と言うとブラックアダムはドローンを破壊する。
異星から来たDCヒーローといえば、もちろんあの人だ。煙の向こうからゆっくりと登場したのはスーパーマン。映画『マン・オブ・スティール』(2013) から同役を演じるヘンリー・カヴィルが続投している。DC最恐のアンチヒーローの前に、DCを代表するスーパーヒーローが登場するサプライズだ。スーパーマンことカル・エルは「誰かが世界をこんなに不安に陥れたのは久しぶりだ」と言うと、「ブラックアダム、話をしよう」と語りかけて本作は幕を閉じる。
あの人の登場が意味すること
米The Hollywood Reporterによると、このスーパーマンのカメオはドウェイン・ジョンソンの提案によって実行され、9月中旬に撮影されたばかりだという。『ブラックアダム』の米公開日は10月21日なので、今回のミッドクレジットシーンは直前に挿入されたということになる。
スーパーマン役のヘンリー・カヴィルは10月25日に自身のInstagramに動画を投稿。「スーパーマンとして戻ってくることを正式に発表したい」と語り、スーパーマン役でDCUに復帰することを発表した。DC側は『マン・オブ・スティール2』の製作を希望しており、今後、スーパーマンとブラックアダムの衝突が描かれる可能性もある。
ヘンリー・カヴィルの復帰については別の機会に述べることとして、ここではDCUの物語上の流れについて考察したい。スーパーマンがカメオ以外でDCU/DCEU映画に登場したのは、映画『ジャスティス・リーグ』(2017) が最後。復活したスーパーマンはジャスティス・リーグのメンバーと共にステッペンウルフの脅威を退けた後、フラッシュとスピード対決をしている。
チームのメンバーと打ち解けた印象で、2019年公開の映画『シャザム!』のラストでは、顔は映っていないがスーパーマンがカメオ出演するサプライズがあった。この時もシャザムことビリーのためにコスチュームを着て学校に出向いてあげており、他のスーパーヒーローに対して好意的な態度を見せていることは確かだ。
そして、DCU全体でスーパーマンが最後に登場したのはドラマ『ピースメイカー』第9話だ。この時も顔は映っていないがスーパーマンがサプライズで登場している。ピースメイカーとエミリアらが脅威を退けた後、ジャスティス・リーグのメンバーが遅れて参上するのだ。この時、ジェイソン・モモア演じるアクアマンと、エズラ・ミラー演じるフラッシュは顔出しで出演しているが、残りのワンダーウーマンとスーパーマンは顔出しをしていない。
なお、このシーンにバットマンは登場していない。そもそもジャスティス・リーグはバットマンによる私設チームだが、『ピースメイカー』のラストでジャスティス・リーグが出動したのは政府の人間であるアマンダ・ウォラーの要請に応えてのものだった。『ブラックアダム』のラストでアマンダ・ウォラーがスーパーマンを送り込んだのは、この流れを汲んだものと考えられる。
つまり、どこかの時点でスーパーマンは政府からの要請を受けることを決めたのだろう。ゴッサムの街を守ることを第一に考えるバットマンがその流れに加わっていないのは理にかなっている。それにしても、スーパーマンという高潔な人物があくどいやり方で仕事を進めるアマンダ・ウォラーと共闘しているというのは意外でもある。
『ブラックアダム』のラストシーンは、スーパーマンがブラックアダムに「話をしよう」と語りかけた。これはもしかすると、ウォラーのやり方や米政府の脅威についてブラックアダムに相談を持ちかけようとしたのかもしれない。大きな正義に依拠するのが昔ながらのスーパーマンの特徴だが、新時代のスーパーマンはどのような立場を選ぶのだろうか。
映画『ブラックアダム』感想
JSAと正義の描き方
以上が、映画『ブラックアダム』のラストとミッドクレジットシーンの解説である。なお、エンドロール後のポストクレジットシーンはなく、MCUとの差異を示しているようにも思える。
『ブラックアダム』に登場したJSAは、予想に反してかませ犬ではなく、それぞれに見せ場も用意されていた。上述の通りバットマンの登場がしばらくない中で、ホークマンは大豪邸にスーパーハイテクのマシンを保有しており、バットマン=ブルース・ウェイン的な役割を担っている。
DCUにおけるバットマン役はベン・アフレックが演じてきたが、アルコール依存症の影響で同役を離脱し、『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022) はDCUから切り離された独自のユニバース作品として公開された。2023年6月23日米公開を予定している映画『ザ・フラッシュ(原題)』では、かつてバットマンを演じたマイケル・キートンと共にベン・アフレックもバットマン役で出演するとされている。しかし、同作の主演であるエズラ・ミラーが3月のハラスメント行為、4月の暴行、5月の侵入窃盗などで度々逮捕されており、今後の展開は不透明だ。ホークマンが当面、DCUでブルース・ウェイン的な役割を担う可能性もあるだろう。
バットマンとの関連でいうと、原作コミックにおけるスーパーマンとバットマンの衝突は、大きな正義と小さな正義の衝突として描かれることがしばしばあった。世界や米国を守りたいスーパーマンと、ギャングに殺された両親に報いるためゴッサムを守りたいバットマンの正義が対立するのだ。
『ブラックアダム』では、大きな正義よりも小さな正義を優先することがメインテーマとして描かれていたように思う。JSAとブラックアダムが対立する中、アドリアナはただ息子を助けたいという思いだけで両者を団結させた。また、一度は資格がないと判断したテス・アダムがラストで再びブラックアダムになった時には、「息子に選ばれた」という事実を根拠にしていた。
逆に言うと、それは「細かいことはいいんだよ」の精神とも言える。アクション多めの本作は、世界を難しく考えるよりも目の前の人を助ける、大切な人を守るといったシンプルな考えを原動力にして進んでいった。
「分かりやすさ」という戦略
一方で、世界をシンプルに捉えすぎることの危険性もある。リーダーの黒人ヒーローを「正義で分断している」と非難させるのは、マイノリティが置かれている状況とその歴史を考えればナンセンスだ。これらの演出は、マーベル・スタジオのMCUが確保できていない米保守層への目配せ・配慮だろう。ここぞという見せ場で、トランプ支持を表明したこともある保守派のイェことカニエ・ウエストの楽曲「Power」(2010) が流れたことも印象的だった(『ブラックアダム』の公開と時を同じくしてカニエは反ユダヤ発言でSNSが凍結されている)。
『ブラックアダム』の特徴は、シンプルなメッセージや、キーワードとして簡単な英単語を連発する演出、アクションシーンの多用とほとんどずっと音楽が流れ続けている作風だ。それは、複雑な現実社会を投影するMCUが取りこぼす客層を狙ったDCUの生き残り戦略とも考えられる。
そうしたシンプルさや分かりやすさが良い方向で機能した場面もある。ブラックアダムを演じたドウェイン・ジョンソンによる、“ザ・ロック”の愛称で親しまれたプロレスラー時代を彷彿とさせるアクションや決め台詞は、単純なエンタメとしての楽しさを最大化することに成功していた。
DCUでは、同じくプロレスラーのジョン・シナがピースメイカー役を演じており、ジェームズ・ガン監督が指揮をとったドラマ『ピースメイカー』はシーズン2への更新が決定している。ジョン・シナは問題を抱えるピースメイカーを怪演しており、プロレス的エンタメの追求はDCUの一つの軸になるかもしれない。
DCUの今後は?
今後のDCUについては、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』と『ピースメイカー』を手掛けたジェームズ・ガン監督が新たに“DCスタジオ”の共同会長兼CEOに就任する。ジェームズ・ガンは今後の4年はDCU作品全体の統括を担当することになる。
2023年3月17日(金) には映画『シャザム!〜神々の怒り〜』の日米同時公開、2023年6月23日(金) には映画『ザ・フラッシュ』の全米公開、2023年8月18日(金) には映画『ブルービートル(原題)』の全米公開、2023年12月25日(月) には映画『アクアマン・アンド・ザ・ロスト・キングダム(原題)』の全米公開を控えている。
その他にも制作が報じられている作品があるが、ワーナー・ブラザースとDCの再編にあたってしばらくは見通しの不透明な状況が続くだろう。ワーナーとDCを取り巻く問題はこちらの記事に詳しい。
「ブラックアダム」とDCは、ここからどんな展開を見せるのか、今後も注視していこう。
映画『ブラックアダム』は2022年12月2日(金)より劇場公開。
ブラックアダム誕生のストーリーは中沢俊介・内藤真代 訳のコミック『シャザム!:魔法の守護者』に収録されている。
映画『ブラックアダム』のサントラは発売中&配信中。
『ザ・バットマン』がDCU(DCEU)に属さない理由はこちらから。
『ジャスティス・リーグ: ザック・スナイダーカット』で描かれたジョーカーについての解説はこちらから。
『ザ・スーサイドスクワッド』のポストクレジットシーンの解説はこちらから。
『ザ・バットマン』ラストの解説&考察はこちらの記事で。
あの人が登場する『ザ・バットマン』未公開シーンの解説はこちらから。
『シャザム!』で描かれたアメリカの里親制度についての解説はこちらの記事で。