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『シャザム!』が描いた“里親制度”
『シャザム!』が日本でも公開
2019年8月21日、DC映画『シャザム!』のブルーレイ&DVDが発売された。その能力は王道ヒーローのそれでありながら、「見た目は大人、中身は子ども」というコミカルな設定で人気を集めている。これまでホラー映画を中心に手がけてきたデヴィッド・F・サンドバーグ監督が指揮をとっており、ユーモアの中にも適度な緊張感が漂う、抑揚の効いた演出とストーリー展開は必見だ。
テーマは“家族”
そんな『シャザム!』の物語の中心に据えられていたのは、“家族”というテーマだ。里親の家を転々とする孤児のビリー・バットソンは、フレディ、メアリー、ユージーン、ペドロ、ダーラの5人の孤児と暮らすビクターとローザの家に招き入れられる。そこから展開されるストーリーはぜひ劇場でご覧いただきたいが、この設定について特筆すべきは、『シャザム!』という作品が “里親制度” を描き直そうとしているという点だ。
アメリカの里親制度
里親制度ってなに?
そもそもアメリカの里親制度は、“フォスターケア (Foster Care)”と呼ばれており、トレーニングを受けた里親が、身寄りのない子どもを一時的または長期的に預かる制度だ。緊急避難的に受け入れを行うこともあるため、養子縁組を組むのとはまた違う意味を持つ。最初から「ずっと一緒に暮らす」という心構えは持っていない場合が多いのだ。里親には政府から月数百ドル (数万円) ほどの補助金が支給されるが、子どもの年齢や必要とするケア、住んでいる州によって金額は異なる。
全米で50万人
『シャザム!』の舞台となったペンシルバニア州フィラデルフィア市のウェブサイトによると、同市だけで5,000人の子ども達が里親制度を利用している。ペンシルバニア州によると、同州では13,000〜15,000人の子ども達が、アメリカ全体では40万〜50万人の子ども達が“フォスターチルドレン”として同制度を利用している。アメリカに住む人々にとって、里親制度は日常的に耳にする身近な存在なのだ。
里親たちはどう描かれてきた?
ステレオタイプな描かれ方
それだけに、映画やドラマの設定として里親が登場することは少なくないのだが、問題はその描かれ方だ。近年ではフォスターファミリーそのものを題材としたドラマも登場し、多様な家族のあり方やそれぞれの苦悩が描かれることも増えてきた。その一方で、ホラーやサスペンスといったジャンル映画で登場するフォスターファミリーは、いつも意地悪であるか、子どもに関心がない (もちろん、事件を起こすための演出だ)。里親制度を直接描いていなかったとしても、“過去に里親からいじめを受けていた”という設定はよく見られる。
物語の序盤で、ビリーのルームメイトであるフレディが、彼らが住む家のことを激しい権力争いが繰り広げられるドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011-2019) に例えるジョークを言い放った理由は、そこにある。これはフォスターファミリーという設定そのものを皮肉ったジョークだったのだ。
社会からのドライな視線
筆者は、アメリカでの在住歴があるが、確かに“フォスターケア”という言葉は必ずしも好意的な意味では使われていなかった。周囲からは「金銭的なメリットのために里親をやっている」という視線を投げかけられることもある。とはいえ、子ども達には雨風をしのぐ場所と、食事を提供してくれる大人が必要だ。「フォスターペアレントはお金がもらえて、フォスターチャイルドは住む家が与えられる。それでいいじゃないか」——里親制度は、そんなドライな視線と共に社会から受容されているという側面も理解しておく必要がある。
『シャザム!』が描いた“生身”の里親
悩み、苦悩する里親
だが、『シャザム!』はそんな斜に構えた“空気感”をフレディのジョークで一笑に付した。そこで描かれていたのは、実際に子ども達の面倒をみる“里親側”の立場だった。里親制度の中で、子どもの事情を気遣いながらも、時には叱り、時には悩み、親としての無力さを自覚し、また夫婦で励ましあいながら、子ども達と生活している“生身”の里親の姿だった。
『シャザム!』のヒーロー論と重なる里親の姿
里親と子どもの間では、単に性格や生活習慣が合わないこともある。人種も違えば、料理が口に合わないこともあるだろう。その子がこれまで歩んできた人生に干渉する権限もないのかもしれない……そんな現実も受け入れながら、それでも救える命があるのではないか、手を差し伸べられる人生があるのではないかと、ビクターとローザは里親制度に参加している。完璧な里親ではないかもしれないが、善きフォスターペアレンツであろうと努めてきた。そうした感覚は、“純粋な心とは?”を問うた『シャザム!』のヒーロー論と重なる部分もあるのではないだろうか。
『シャザム!』は孤独な少年がヒーローになっていく姿を描いた物語だが、同時に、そうした子どもと社会に必要とされる里親達を“正しく”描いた作品でもあったのだ。
孤独な少年ビリーは、ある日突然スーパーパワーを手に入れ、ヒーロー“シャザム”に変身‼
悪ノリ全開でやりたい放題していたら、突然現れた最凶の敵が現れ大ピンチに!?💥
見た目はオトナ中身はコドモ!全米大爆笑の“ダサかわ”ヒーロ―誕生✨
『#シャザム!』大ヒット公開中⚡https://t.co/OaJ9pZjXec pic.twitter.com/PB7PjKME0j
— ワーナー ブラザース ジャパン (@warnerjp) 2019年4月19日
なお、日本の厚生労働省によると、2016年の時点で日本における里親への委託児童数は5,190人。小規模住居型の児童擁護事業 “ファミリーホーム”に住む子どもを合わせると6,546人だ。この数字は2001年以降、年々増加している。
Source
里親制度について (厚生労働省) / City of Philadelphia / Pennsylvania State Resource Family Association