Amazon『ユートピア 〜悪のウイルス〜』は「最も不運なドラマ」? コロナ禍での配信で評価が別れた理由 | VG+ (バゴプラ)

Amazon『ユートピア 〜悪のウイルス〜』は「最も不運なドラマ」? コロナ禍での配信で評価が別れた理由

© 2020 Amazon Studios, Prime Video

『ユートピア 〜悪のウイルス〜』が日本上陸

SFドラマ『ユートピア 〜悪のウイルス〜』が2020年10月30日(金)より、日本のAmazonプライムビデオで配信を開始する。『ユートピア 〜悪のウイルス〜』は、かつてイギリスで放送され、カルト的な人気を誇るスタイリッシュな同名ドラマをリメイクした作品だ。『KIZU―傷―』(2006)、『冥闇』(2009)、『ゴーン・ガール』(2012) といった傑作小説を生み出してきた作家のギリアン・フリンがドラマを統括するショーランナーを務めることも話題となっている。

『ユートピア 〜悪のウイルス〜』のあらすじや出演者はこちらの記事に詳しい。シーズン2についての情報はこちらの記事に詳しい。

『ユートピア 〜悪のウイルス〜』の評価は?

実は『ユートピア 〜悪のウイルス〜』は、北米では1ヶ月早い2020年9月25日より配信を開始している。結果、Amazonの主力SFドラマである『ザ・ボーイズ』シーズン2と配信が重なりながらも、大きな注目を集めた。だが、その評価は賛否両論。IMDbでは5,819の投票で、6.7/10という評価となっている。『ザ・ボーイズ』(2019-)や『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』(2020)、『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~』(2020)など、近年Amazonは新作SFドラマで高い評価を得ているが、一体何があったのだろうか。

『ユートピア 〜悪のウイルス〜』の物語は、劇中に登場するコミックに描かれたパンデミックが現実となっていくというもの。新型コロナウイルスの感染が拡大した現実の世界を想起せずにはいられない。Netflixで配信された『湖へ』(2020)やTNT『スノーピアサー』(2020)など、予期せずコロナ禍というタイミングでの公開になったことで、物語に深みが増した作品は少なくない。だが、『ユートピア 〜悪のウイルス〜』の場合は、まさにこのコロナ禍での配信開始によって物議を醸しているのだ。

『ユートピア 〜悪のウイルス〜』は、コミックに描かれたパンデミックが現実になっていくという“陰謀”をベースにした物語だが、これが陰謀論を展開するアメリカの保守層 (アメリカに限った話ではないが) の姿勢と重なってしまったのだ。米The Vergeは、米配信開始後の9月29日に「『ユートピア』は今年最も不幸なドラマになるだろう」と題した記事を公開。インド紙のThe Hinduもまた、同日に「ギリアン・フリンのAmazonドラマは恐ろしく現実的で、アンタイムリー」と題したレビューを公開している。

『ユートピア』が想起させた“Qアノン”

The Verge誌においても『ユートピア 〜悪のウイルス〜』と関連づけて紹介されているのは、“Qアノン”の存在だ。アメリカでは、“Qアノン”と呼ばれる陰謀論者の保守派がデマを拡散する活動を展開しており、2020年10月にはYouTubeがQアノンの関連動画およびチャンネルを削除している。

“Q”は4chで陰謀論の発信を始めた人物のハンドルネーム、“アノン”は“Anonymous (=匿名)”を略したものだ。Qアノンはただの極右の陰謀論者の集まり。だが、Qアノンがヒラリー・クリントンを攻撃するために発信した「ヒラリー・クリントンがピザ店での児童人身売買に関与している」というデマが発端となり、そのピザ店で発砲事件が起きるなど、現実世界にも影響を及ぼしている。

Qアノンはドナルド・トランプが既得権益を倒すヒーローだと信じているため、ドナルド・トランプの政権移行チームに入っていた人物までもがこうした陰謀論に便乗した。コロナ禍においては、QアノンはSNSを活用し、パンデミックの深刻さを矮小化する発信を続ける。一時は、「COVID-19に感染しやすいのはアジア人であり、白人には免疫がある」というデマも拡散された。Qアノンの拡散戦略はコロナ禍で活発化。結果、ドイツにまで拡がり、ドイツのネオナチで構成されるQアノンはトランプがナチスドイツを復活させると信じている。Qアノンの陰謀論の根底に、人種差別思想があることは明らかだ。

破壊された現実とフィクションの関係性

このように、現在、“パンデミックと陰謀論”は非常にセンシティブなトピックだ。裏には陰謀が隠されていた——そんなSFではお決まりのストーリーも、“Qアノンが主張するようなストーリー”として受け取られてしまう。The VergeのJoshua Rivera記者が前述の記事で、以下のように記している。

現実とフィクションの違いに対するアメリカ人の付き合い方は、徹底的に破壊されてしまった。CDC (アメリカ疾病予防管理センター) のようなかつては中立的だった公的機関も政治に利用され、科学者と医者の助言はパンデミックの間はわきに追いやられた。Qアノンの妄想の信者であることを候補者が小選挙区で勝利する始末だ。何かが事実であると主張するためには、これまで以上に労力が必要になった。空が青くないと主張する無数の無意味なクレームに対処する準備をして、誤りを指摘しなければならないからだ。

同記者は、この記事を「悪は目の前にある」という言葉で締めくくっている。一方で、この時期に『ユートピア 〜悪のウイルス〜』が配信されたことについては「誰のせいでもない」と擁護する。故に、「最も不運なドラマ」と結論づけたのだろう。

SFに限らず、フィクションをその時代のその社会の文脈と切り離して捉えることは不可能に近い。世界の真実に気付いた少数の主人公たちの物語は、現代においては、これまでとは異なる受け止められ方が待っていた。

ドラマ『ユートピア 〜悪のウイルス〜』は、イギリスの原作ドラマのようなビジュアル面での鮮烈さは無くなったが、そのシナリオや配信ドラマ特有のクリフハンガーに対しては高い評価も聞かれる。日本のユーザーとして、このドラマをどのように受け止めるべきか……ぜひその目で観て確かめてみよう。

AmazonプライムビデオのオリジナルSFドラマ『ユートピア ~悪のウイルス~』は、2020年10月30日(金)配信開始。

『ユートピア ~悪のウイルス~』のあらすじはこちらの記事から。

シーズン2についての情報はこちらの記事から。

Source
The Verge / The Hindu

VG+編集部

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