ジェームズ・ワン監督の手腕が光るDCEU最終作
スーパーマン誕生を描いたザック・スナイダー監督作『マン・オブ・スティール』からはじまり、約10年の歴史に幕を閉じたDCEU(DCエクステンデッドユニバース)。その最終作となる2024年1月12日全国公開の『アクアマン/失われた王国』は、予告編でもわかる通り、前作『アクアマン』(2018)から引き続き多くのクリーチャーが登場している。
一大ヒーロー・ユニバースの最終作となる『アクアマン/失われた王国』だが、実はヒーロー映画とは違うもう一つの顔も持っている。本記事ではそのような『アクアマン/失われた王国』が持つもう一つの顔について解説と考察をしていこう。なお、本記事は『アクアマン/失われた王国』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。
以下の内容は、映画『アクアマン/失われた王国』の内容に関するネタバレを含みます。
実は○○○映画の「アクアマン」シリーズ
ブラックマンタが主人公の『ザ・トレンチ』
ジェームズ・ワン監督と主演のジェイソン・モモアのタッグという点から、「アクアマン」シリーズは「ワイルドスピード」シリーズ的な映画のイメージが強い。だが、ジェームズ・ワン監督の代表作と言えば「ソウ」シリーズ、「インシディアス」シリーズ、「死霊館」ユニバースなどのホラー作品だ。それは前作『アクアマン』で登場した海溝に棲む種族トレンチの描写からも考察できる。
実は、あのホラー映画のような海の怪物トレンチを主軸にした『ザ・トレンチ』という映画がDCEUで企画されていた。DCEUの海底にはアトランティス人たちですら近づかない未知の領域が存在しており、そこに存在する怪物トレンチとの戦いを描くホラー映画が『ザ・トレンチ』だ。その企画は頓挫してしまったが、そこで主人公を務めるはずだったのがヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世演じるブラックマンタことデイビッド・ケインだった。
その影響は『アクアマン/失われた王国』にも色濃く残っており、それが失われた王国「ネクラス」とその王であり、市民と自らを魔物に変えたコーダックスだと考察できる。コミック版のコーダックスは金髪と緑の鱗に覆われた姿だが、『アクアマン/失われた王国』でのコーダックスは死霊そのもののような姿に変わっている。ジェームズ・ワン監督はこれらの魔物をウォーターゾンビと呼んでいる。
そして、そのコーダックスに取り憑かれるのがブラックマンタであり、復讐の鬼だったブラックマンタが死霊のコーダックスに支配されることで正気を失っていく姿は正しくホラー映画だ。そのような描写にもジェームズ・ワン監督の手腕が光る。そのようにしてブラックマンタを中心に展開するのが頓挫してしまった映画『ザ・トレンチ』だと考察できる。その点では、「アクアマン」シリーズはホラー映画でもあったとも考察できる。
イタリア映画からの影響
失われた王国「ネクラス」の死霊たちや、「悪魔の深奥」に潜むオリハルカムの影響で生まれた巨大昆虫や食虫植物、海賊の天国と称される船の墓場「深淵の砦」、血で渇きを耐え忍んできた「砂海王国」の兵士たちと様々な形でホラー映画の様相を呈している『アクアマン/失われた王国』。その世界観には1本のイタリア映画が影響しているという。それが『バンパイアの惑星』(1965)だ。
『バンパイアの惑星』は宇宙SFとゴシック・ホラーが融合した作品で、SFホラーの金字塔であるリドリー・スコット監督作『エイリアン』(1979)にも影響を与えたと言われている。ジェームズ・ワン監督はそういったSFホラー映画からインスピレーションを受け、シュモクザメやエイを想起させる暗黒都市「ネクラス」の技術で生み出された潜水艦や船員の衣装をデザインしたと語られている。
それを踏まえると、滑らかなデザインの潜水艦に比べ、同じ暗黒都市「ネクラス」の技術で生み出されたはずの水陸両用のオクトボットは工業製品や重機のような印象を受ける。ジェームズ・ワン監督がSFホラーから影響を受けているならば、ウォーターゾンビに対してドルフ・ラングレン演じるネレウス王がオクトボットで戦う場面は『エイリアン2』(1986)のパワーローダーとエイリアンクイーンの戦闘場面の影響があると考察できる。
DCUでも○○○映画の製作の可能性はあるのか
DCEUというヒーロー・ユニバースの中でも異色なホラー映画の道を模索し続けていたジェームズ・ワン監督。果たしてDCEUがDCU(DCユニバース)としてジェームズ・ガン共同CEOのもとで再構築(リランチ)された後にヒーロー・ユニバースのホラー映画は制作されるのだろうか。
その答えを簡単に言うならばYESだ。事実、DC10年計画「神々と怪物」ではダークでホラーな作風の作品として『スワンプシング(原題:Swamp Thing)』の製作が決定している。スワンプシングは湿地帯に棲む元科学者が植物の怪物になるというストーリーで、ヒーローでもヴィランでもないキャラクターだ。DC10年計画「神々と怪物」に関してはこちらが詳しい。
その上、『スワンプシング』は一度、DCEUでもジェームズ・ワン監督が製作総指揮となってドラマシリーズ化している。そこでは税金控除のミスなどによって全13話が全10話に短縮され、シーズン1で打ち切られてしまったが、DCU版『スワンプシング』にはその心配はない。DCU版『スワンプシング』はDCU全体に影響を与える重要な作品になるとジェームズ・ガン共同CEOが発表しているからだ。
MCUでもホラー作品『ウェアウルフ・バイ・ナイト』(2022)が製作されて、成功を収めている。そういった意味ではジェームズ・ワン監督がDCEUというヒーロー・ユニバースの中に残したホラー要素は、DCUでは『スワンプシング』に受け継がれるのかもしれないと考察できる。
「悪魔の深奥」のジャングルでの食虫植物の場面は『スワンプシング』のデモンストレーションであった可能性も考察できる。「アクアマン」シリーズを通してヒーローとホラーの融合を試みたジェームズ・ワン監督。その手腕がDCUでも活かされることを期待したい。
『アクアマン/失われた王国』は2024年1月12日より全国公開。
『アクアマン/失われた王国』のサウンドトラックは配信中。
『アクアマン/失われた王国』ラストとポストクレジットの解説はこちらの記事で。
『アクアマン/失われた王国』ラストから読み取るメッセージの解説はこちらから。
『アクアマン/失われた王国』の音楽解説はこちらの記事で。
環境戦士としてのオーシャンマスターについての解説はこちらの記事で。
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