ラスト ネタバレ解説『アクアマン/失われた王国』はDC版○○○○? 感想&考察 | VG+ (バゴプラ)

ラスト ネタバレ解説『アクアマン/失われた王国』はDC版○○○○? 感想&考察

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DCEU有終の美を飾る作品

2013年公開のザック・スナイダー監督作『マン・オブ・スティール』で幕を開けたDCEU(DCエクステンデッドユニバース)。その道のりは決して平坦ではなかった。監督の離脱、俳優からの告発、相次ぐ方針転換、立て続けに起きた俳優の不祥事。そのすべてを払拭するようにジェームズ・ガン共同CEOのもと、DCU(DCユニバース)が立ち上げられることになった。そのDCEUの最後を飾るのが2024年1月12日公開の『アクアマン/失われた王国』だ。

『アクアマン/失われた王国』は本国アメリカでは2023年12月20日に公開されており、『マン・オブ・スティール』から10年目に公開された作品だった。そのため、DCEUは10年の節目で幕引きとなっている。何度も空中分解しかけたDCEUの有終の美を飾る『アクアマン/失われた王国』はDCEUに対してどのような結末を与えただろうか。

本記事では『アクアマン/失われた王国』の考察と解説を行なっていきたい。なお、本記事は『アクアマン/失われた王国』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。また、『アクアマン/失われた王国』には地震や津波の場面があるので、記事を読む際には注意していただきたい。

注意
以下の内容は、地震や津波に関する情報を含みます。
ネタバレ注意
以下の内容は、映画『アクアマン/失われた王国』の内容に関するネタバレを含みます。

一貫したテーマとDCEUに対するアンサー

アクアマンとオーシャンマスターではない2人

ジェームズ・ワン監督は『アクアマン/失われた王国』のテーマとしてブロマンス(性的関係を伴わない非常に近い男性同士の関係のこと)があるとしている。それがアクアマンとオーシャンマスターではなく、アーサー・カリーとオーム・マリウスとして描かれた関係性だろう。前作『アクアマン』(2018)ではヒーローとヴィランだったアクアマンとオーシャンマスターだったが、『アクアマン/失われた王国』では等身大の人物として描かれている。

ジェイソン・モモア演じるアーサー・カリーはその特殊な生い立ちから孤独な幼少期を過ごした。アンバー・ハード演じるメラとの間にアーサーJrを授かると、父親として自分が味わった孤独を味わってほしくないと思うようになったと考察できる。それはテムエラ・モリソン演じる父親のトム・カリーとの会話の中でも読み取ることが出来る。

トム・カリーはアーサー・カリーに同じ境遇の兄弟がいたらアーサー・カリーは孤独の苦しみに悩むことはなかったのではないかと自分を責めている。アーサー・カリーは父親に自分を責めるべきではないと語る。しかし、アーサー・カリーは孤独を紛らわすようにアクアマンとして活動している中で自分には異父弟がいることを知り、それが心に引っかかっている。

一方で、似た悩みをオーム・マリウスも感じていた。オーム・マリウスの幼少期は王族ながらも孤独であった。母親であるニコール・キッドマン演じるアトランナの愛は自分の父親には向けられておらず、自分は政略結婚で生まれた子供だと知っていた。そのため、アトランナがどんなに愛を注いでもそれを受け入れきれず、自分のアイデンティティをアトランティス王国の王族という点にしか見いだせなかった。

そして、『アクアマン』で2人が出会ったとき、アーサー・カリーは永遠に続くとも思われた孤独の終わりに歓喜するが、オーム・マリウスは母親アトランナの本当の愛情により生まれた子供の存在により、アイデンティティが崩壊してしまったのだ。そのオーム・マリウスの恐怖が生み出したのがすべての海の覇者オーシャンマスターであった。孤独がアクアマンとオーシャンマスターを生んだと考察できる。

アーサー・カリーとオーム・マリウスとして

ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世演じるブラックマンタことデイビッド・ケインが世界を滅ぼそうとしたとき、アクアマンとしてアーサー・カリーはオーシャンマスターだったオーム・マリウスに助けを求める。アーサー・カリーから兄弟と呼ばれていてもオーム・マリウスはそれを受け入れないが、アトランティス人としての誇りを意識する点は自分のアイデンティティをアトランティス王国の王族という点に求めていると考察できる。

そしてアクアマンとオーシャンマスターの共同戦線が繰り広げられるのだが、ちゃらついた性格のアーサー・カリーと律儀な性格のオーム・マリウスは反りが合わない。それでも地球滅亡を防ぐという共通の目的のもとで、行動を共にするうちにお互いの心境を吐露できるようになっていく。

それが如実に表現されていたのが悪魔の深奥での場面で、オーム・マリウスはアーサー・カリーに玉座を奪われるのではないかと不安になっていたことを明かす。その一方でアーサー・カリーは玉座に興味はなく、あくまでも玉座は自分のルーツを知るための通過点でしかなかった。

アーサー・カリーにとって自分のルーツは大事なもので、トム・カリーと共にハカを踊る場面もある。これはポリネシア系であることを誇りに思っているジェイソン・モモアのバックボーンをアクアマンというキャラクターに反映させたものだと考察できる。

最終決戦ではブラックトライデントを通してアクアマンとオーシャンマスターではなく、アーサー・カリーと異父弟として向き合ったオーム・マリウス、アーサー・カリーは自分を見て孤独ではなかったこと、そしてアトランティス王国という自分のルーツを学んだことを知り、トライデントを手渡すのだった。最後には兄上とまで呼べている。

『アクアマン/失われた王国』は40代の2人の男が抱える孤独とその根源にある問題をヒーローとヴィランという巨大なものではなく、一家族の問題として描いて解決に導き、そして自分のルーツを知るという大きな問題に再度帰結させたと言える。その一つがコーダックスとアトラン王もまた兄弟であり、その確執が失われた王国を生み出す原因になったという描写だと考察できる。

DCEU、10年のアンサー

しかし、『アクアマン/失われた王国』はそれだけでは終わらない。いや、終われない。『アクアマン/失われた王国』にはDCEUが10年かけて出したアンサーを観客に伝える役割もあるからだ。そのアンサーというのは単純かつ明確なもので、団結と信頼であった。団結が重要なことなど言われなくてもわかっていると思うかもしれないが、『アクアマン/失われた王国』はそれでも団結と信頼の重要性を描いた。

かつて『アクアマン』や『ジャスティスリーグ』(2017)のときのアクアマンは孤独を愛するヒーローとして描かれ、悪人ならば見捨てることもある冷淡な人物として描写されていた。だが、『アクアマン/失われた王国』ではアーサーJrとアトランティス王国、そして人類という守るべきものが増えたことで、そのような人物像から変化しつつある。

最後、コーダックスの死亡によりその宮殿が崩壊するとき、かつてはブラックマンタが亀裂に落ちそうになる。そのときかつてブラックマンタの父親を見捨てたアクアマンが、今回は手を差し伸べて救おうとしている。ブラックマンタはそれを拒絶して命を絶ったが、ブラックマンタの協力者であったランドール・パーク演じるシン博士を救出しているなど、よりヒーローらしい人物像に変化している。

また、DCEUの10年の答えを描く上で重要になってくるのが気候変動だ。DCEUではブラックマンタがコーダックスを復活させるために温室効果ガスを大量に発生させ、南極の氷河を溶かしていくが、これは現実でも起きている問題だ。その問題に対しても必要なのは団結と信頼であり、それでしか気候変動などといった大きな問題を解決することができないというのがDCEUの10年の答えだ。

ラストでアクアマンがアトランティス王国国王アーサー・カリーとして全世界にアトランティス王国をはじめとする海底の6つの王国を世界に発表し、その技術力で気候変動など社会問題に立ち向かう姿はMCUの『ブラックパンサー』(2018)のラストを想起させる。

アクアマンはアトランティス代表評議会カーションにさえ秘密裏に国連に働きかけてアトランティス王国など国連に加盟させ、今まで秘匿にしていた技術を提供し、共に気候変動や社会問題に立ち向かおうと力強く演説した。その姿はチャドウィック・ボーズマン演じるティ・チャラ国王の姿を想い起させる。

それによりシン博士のアトランティス王国の実在という研究は眉唾物ではなくなり、人類は新たなる種族の海底人との共存という大きな一歩を踏み出すことになった。

『アクアマン/失われた王国』と『ブラックパンサー』の両者とも現実の社会問題を映画の世界に落とし込み、そしてヒーローになれるのは観客であり、その一人一人の行動で世界は変わると説いた。困難な道のりや映画外からのノイズも多かったDCEUだったが、その苦難の果てに辿り着いた答えは目と鼻の先にあり、最初から手の届くところにあったのだ。

そして、それをジェームズ・ワン監督や主演のジェイソン・モモアらが自分たちの現実のバックボーンに照らし合わせて丁寧に描いたのが『アクアマン/失われた王国』だったと考察できる。

『アクアマン/失われた王国』ネタバレ感想

最初に『アクアマン/失われた王国』を見始めたときは孤独を愛する性格だったアクアマンがちゃらついた性格に変わっており、過去映像の流用が多いなど、何だかぶつ切りにされた映画を見ているような印象だった。しかし、後半に行くにつれ、手垢のついた普遍的なテーマでも、いや、そのようなテーマだからこそ今描く必要性があるのだと感じることのできる映画だった。

そして終わりを告げるDCEUの世界に対し、あの世界は団結の意味を知ったからもう大丈夫だと観客を安心させてくれる映画でもあった。ジェームズ・ワン監督たち『アクアマン/失われた王国』のスタッフの手で、まっさらなキャンパスに戻ったDC映画の世界。ジェームズ・ガン共同CEOが今後どのような絵を描いていくのか注目していきたい。

『アクアマン/失われた王国』は2024年1月12日より全国公開。

『アクアマン/失われた王国』公式サイト

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『アクアマン/失われた王国』のサウンドトラックは配信中。

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『アクアマン/失われた王国』ラストとポストクレジットの解説はこちらの記事で。

ジェームズ・ワン監督の過去作から見る『アクアマン/失われた王国』への影響の解説はこちらの記事で。

『アクアマン/失われた王国』の音楽解説はこちらの記事で。

環境戦士としてのオーシャンマスターについての解説はこちらの記事で。

オーシャンマスターを演じたパトリック・ウィルソンを含む前作『アクアマン』の豪華キャストのまとめはこちらの記事で。

同年に登場した『アクアマン』と『ブラックパンサー』に共通するメッセージについての解説はこちらから。

映画『ザ・フラッシュ』ラストのネタバレ解説はこちらから。

映画『シャザム! 〜神々の怒り〜』ラストのネタバレ解説はこちらの記事で。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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