ソコヴィア協定廃止の意味は? 意外な影響も『シー・ハルク』第8話で見えたMCUフェーズ4の分岐点を考察 | VG+ (バゴプラ)

ソコヴィア協定廃止の意味は? 意外な影響も『シー・ハルク』第8話で見えたMCUフェーズ4の分岐点を考察

© 2022 Marvel

『シー・ハルク』第8話で新事実

2022年8月から配信を開始したMCUドラマ『シー・ハルク:ザ・アトーニー』は、『ワンダヴィジョン』(2021) 以来となるコメディシリーズとなり、全9話構成で配信されている。本作の特徴は、弁護士の主人公ジェニファー・ウォルターズを通して様々なケース(事件)が描かれている点だ。

スーパーヒーローを対象とした裁判では、一つ一つの判決が“判例”となり、今後のMCU世界にも影響を与える可能性がある。そんな重要な位置付けにある『シー・ハルク』で、第8話で描かれた裁判シーンでMCUの歴史が大きく動く新事実が明かされた。

ソコヴィア協定は廃止されていた

『シー・ハルク』第8話で明らかになった新事実とは、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016) で紹介されて以降、物語の中心に置かれてきたソコヴィア協定が廃止されたということだった。これは、第8話で登場したデアデビルことマット・マードックの発言で発覚したものだ。

スーパーヒーローのスーツを専門に手掛けるルーク・ジェイコブソンの弁護士として登場したマットは、顧客名簿の開示を要求するジェニファーに対して、スーパーヒーローのプライバシーは保護されるべきと主張。その主張の決定打として「ソコヴィア協定は廃止された」と付け加えるのだ。

裁判官もこの主張に頷いており、MCU世界ではソコヴィア協定の廃止は周知の事実になっていることが分かる。ソコヴィア協定はスーパーヒーロー達を国連の管理下に置く協定であり、これに合意したヒーローは国連が認めた範囲で合法的に活動することができる。一方で、それは個人情報を公的な機関に申告することでもあり、ヒーローがプライバシーを捨てることをも意味しているため、裁判のシーンではプライバシーに関する流れの中で触れられたのだ。

ソコヴィア協定はいつ廃止された?

『シー・ハルク』第8話の解説記事でも触れた通り、ソコヴィア協定の廃止時期は2024年4月以降と考えられる。ドラマ『ワンダヴィジョン』(2021) は2023年11月を舞台にしていたが、S.W.O.R.D.長官のヘイワードがソコヴィア協定違反となるヴィジョンの兵器転用を実行し、その罪をワンダに着せようとしている。また、ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(2021) は2024年4月が舞台だが、シャロン・カーターがソコヴィア協定違反で逃亡生活を送っている様子が描かれた。

シャロンは『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016) でソコヴィア協定への署名を拒否したキャプテン・アメリカの逃亡を手助けしたことで追われる身となっていた。『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』のラストでは、国防長官がシャロンに謝罪して完全赦免となっている。つまり、この時期(2022年4月)まではソコヴィア協定は有効だったと想定することができる。

ソコヴィア協定によってアベンジャーズが分断されたことでサノスによる人口半減が現実になり、協定の外で再結集したアベンジャーズがサノスの脅威から世界を救ったことによって、ソコヴィア協定が廃止されたと考えることもできる。一方で、人口復活(2023年10月)から8ヶ月後の『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』でもソコヴィア協定が有効っぽい様子を見ると、シャロンのような“被害者”の存在がソコヴィア協定廃止のきっかけになった可能性も考えられる。

フェーズ4の時系列はこちらの記事に詳しい。

ソコヴィア協定廃止の意味と影響

ダメージ・コントロール局の台頭

ソコヴィア協定が廃止に至った背景は改めて作中で描かれることになるだろう。重要なのはソコヴィア協定の廃止がMCU世界にどのような影響を与えるのか、という点だ。実は、その影響は既に作品内に表れており、それはMCUフェーズ4の物語を特徴づける要素になっている。

フェーズ4後半の最大の特徴は、ダメージ・コントロール局の台頭だろう。映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021) でピーター・パーカーを追い詰めると、ドラマ『ミズ・マーベル』(2022) でも主人公カマラ・カーンを執拗に追う敵役として登場した。そして、ドラマ『シー・ハルク』でもアボミネーションことエミル・ブロンスキーを収監し、第8話ラストではシー・ハルクの身柄確保に乗り出した。

突如存在感を示し出したダメージ・コントロール局だが、その初出は映画『アイアンマン』(2008) にまで遡る。終盤のトニーの部屋のテレビで流れるニュースのテロップに「ダメージ・コントロール局はレポートを出す予定」という字幕が流れるのだ。映画『スパイダーマン:ホームカミング』(2017) では、スターク・インダストリーズと政府の合弁事業であるダメージ・コントロール局がニューヨークの戦いの後始末を行うと報じられている。ピーターが閉じ込められる巨大倉庫もダメージ・コントロール局のものである。

つまり、ダメージ・コントロール局自体は以前から存在していたが、フェーズ4の後半になって突如として躍動し始めたのだ。これは、明らかにソコヴィア協定が廃止されたことが理由だと考えられる。これまで、ソコヴィア協定に署名したスーパーヒーローの活動以外は一律非合法と考えればよかったが、協定の廃止によってその基準がなくなったため、ダメージ・コントロール局がケースごとに対処するという形に移行したのではないだろうか。

ダメージ・コントロール局がスーパーパワーを持った人々に対処しなければいけない理由は、以前まで人々を守っていたS.H.I.E.L.D.とアベンジャーズが不在となったことだろう。スパイダーマンとミステリオの一件で明らかなように、スーパーパワーを持った人々のうち誰がヴィランで誰がヒーローかという判断も難しい中、ダメージ・コントロール局が面倒な役を引き受けているという見方もできる。

いずれにせよ、前述の通り2024年4月以降にソコヴィア協定が廃止されたとすれば、2024年夏を舞台にした『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』、2025年6月を舞台にした『ミズ・マーベル』、2024年4月以降が舞台の『シー・ハルク』の三作品でダメージ・コントロール局が活発な活動を見せていることに合点がいく。

フェーズ4後半になってダメージ・コントロール局が急激に力をつけた背景には、ソコヴィア協定廃止の影響があったと考えてよいだろう。今後、新たな協定が結ばれるまでは、ダメージ・コントロール局による恣意的な取り締まりが続くことになりそうだ。

アイアンハートと『アーマー・ウォーズ』に影響?

ソコヴィア協定廃止の余波はそれだけではない。ソコヴィア協定とダメージ・コントロール局の最大の違いは、国際条約であるか、アメリカ国内の一組織に過ぎないかという点である。つまり、ソコヴィア協定は国連加盟国の領地内であれば適用されるが、ダメージ・コントロール局はおそらく国外のヒーローまでは取り締まる気はないだろうということだ。

ドラマ『ムーンナイト』(2022) の舞台は2025年春だが、主人公のマーク・スペクター/スティーヴン・グラントが戦ったのはイギリスとエジプトだった。同作にはダメージ・コントロール局は登場しなかったが、アメリカ国外での出来事とということが理由だったのかもしれない。

このポイントに深く関わりそうなのが、2022年11月11日(金) 公開の映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』でデビューを果たすアイアンハートことリリ・ウィリアムズだ。同作の予告編を見た範囲では、リリはアイアンマンと似た技術を利用するアイアンハートのアーマー開発をワカンダ王国内で進めている様子だった。

ソコヴィア協定が生きているとすれば、リリが署名していない限りこの活動はソコヴィア協定違反となる。だが、『ワカンダ・フォーエバー』の舞台がソコヴィア協定廃止後だとすれば、アイアンハートは協定にもダメージ・コントロール局にも邪魔されることなく活動することができるのだ。

だがそれは良いことばかりではない。ウォーマシンことローディが主人公になる映画『アーマー・ウォーズ(原題)』では、「トニー・スタークの技術が悪の手に渡ったらどうなるか?」という物語が描かれる。原作コミックでは世界中のヴィランにアイアンマンの技術が流出してしまう流れになっており、MCU版でも国外のヴィランにアイアンマンの技術が流出すればダメージ・コントロール局も対応できない事態になる。ソコヴィア協定なき世界は、ヴィランにとってはありがたい世界だろう。

ホワイトヴィジョンとサンダーボルツに注目

もう一つの影響は、ドラマ『ワンダヴィジョン』でS.W.O.R.D.のヘイワード長官がヴィジョンの遺体を不正に利用して兵器化したホワイトヴィジョンが合法化されることだ。『ワンダヴィジョン』のラストではホワイトヴィジョンはどこかに飛んでいってしまったが、存在自体がソコヴィア協定違反だったホワイトヴィジョンが合法的な存在になる可能性は高い。

また、ラストで逮捕されたヘイワード長官は、シャロンとはケースは違うが赦免になる可能性もある。ダメージ・コントロール局最大の弱点は、政府の機関であるが故に政府内部の判断に逆らえないという点だろう。復帰したヘイワード長官による恣意的な判断(ホワイトヴィジョンの活動は合法など)でダメージ・コントロール局の活動が制約を受けるかもしれない。

そして、2024年7月26日(金) に米公開を予定している映画『サンダーボルツ(原題)』では、アベンジャーズ不在の時代でヴィランチームが結成される。そのメンバーはこちらの記事に詳しいが、リクルーターであるヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌがソコヴィア協定廃止をかぎつけてスーパーパワーを持つ人々を組織していたとすれば、かなりのやり手だ。

原作コミックでサンダーボルツを組織するサディアス・“サンダーボルト”・ロス将軍は、MCUでは国務長官の地位にある。『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』では、二代目キャプテン・アメリカのジョン・ウォーカーは国防長官によって罷免されたが、サンダーボルツでは国務省の所属となる可能性もある。

そうなれば、同じ政府の機関であるサンダーボルツとダメージ・コントロール局の間には緊張関係が生まれるか、ロス将軍の権限でサンダーボルツも“特例”で取り締まりの対象外という扱いになるかもしれない。そうなった時には、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』と『ミズ・マーベル』で指揮をとったクレイアリー連邦捜査官の立ち回りにも注目したい。

このように、ソコヴィア協定の廃止は、アメリカ国内におけるダメージ・コントロール局の権限強化と国外におけるリスク増大、これまでなら非合法だった存在(ホワイトヴィジョン、サンダーボルツ)の合法化と、様々な影響をもたらす可能性を秘めている。2023年からフェーズ5に入るMCUはソコヴィア協定なき世界でどのように展開していくのか、引き続き注目しよう。

ドラマ『シー・ハルク:ザ・アトーニー』はDisney+で独占配信中。

『シー・ハルク:ザ・アトーニー』

シー・ハルクのコミック作品は、『シーハルク:シングル・グリーン・フィメール』のケン・U・クニタによる日本語訳が発売中。

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ドラマ『シー・ハルク』第8話のネタバレ解説はこちらから。

『ソー:ラブ&サンダー』『ミズ・マーベル』までのMCUフェーズ4の時系列まとめはこちらの記事で。

ドン・チードル主演の『アーマー・ウォーズ』はドラマから映画への変更が発表された。詳細はこちらから。

7人のサンダーボルツメンバーのこれまでについてのまとめはこちらから。

『ザ・マーベルズ』でのキャプテン・マーベルの変化についてブリー・ラーソンが語った内容はこちらから。

コミコン2022で発表された映画『サンダーボルツ』、ドラマ『デアデビル ボーン・アゲイン』を含むMCUフェーズ5全作品のまとめはこちらから。

シャロン・カーターの謎の考察はこちらの記事で。

11月11日公開の映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』予告編の解説&考察はこちらから。

MCU入りする『デッドプール3(原題)』の情報と復活するヒュー・ジャックマン版ウルヴァリンのこれまでの作品についての解説はこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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