ドラマ『ロキ』で重要な展開
Disnety+で独占配信されているMCUドラマ最新作『ロキ』より、第3話の内容が世界中で大きな話題になっている。以下の内容は、『ロキ』第3話の核心に触れる内容を含んでいるため、注意していただきたい。
以下の内容は、ドラマ『ロキ』第3話の内容に関するネタバレを含みます。
ドラマ『ロキ』第3話では、主人公のロキがバイセクシャルであることが明らかになった。ロキの変異体とされているシルヴィと対話するシーンで、シルヴィはロキの恋愛事情について尋ねる。「あなたはプリンス。プリンセス候補はいる?それともプリンス候補?」と聞いたシルヴィに対して、ロキは「その両方だ。君もだろ?」と答える。
『ロキ』第1話では、TVA職員がメビウスに提出したロキのプロファイルで「SEX(性別)」の欄が「FLUID(流動的)」となっていた。だが、これはあくまでTVAが分類したものであり、ロキ自身のセクシャルアイデンティティについては不明なままだった。『ロキ』にはレディロキこと女性版ロキの登場も噂されていることから、TVAの視点で、ロキは性別が変わり得ると判断されただけという可能性も残されていたのだ。
MCUで初めてクィアネスに言及
しかし、第3話では初めてロキの性愛の対象が一つの性に限定されたものではないことが明言された。MCUの劇中で登場人物のクィアネスについて言及されたのはこれが初めて。『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017) から登場しているヴァルキリーはバイセクシャルという公式設定があり、俳優もバイセクシャルのテッサ・トンプソンが演じているが、劇中でヴァルキリーのクィアネスに言及されることはなかった。
ディズニー傘下にある「スター・ウォーズ」シリーズやピクサー作品においても、セクシャルマイノリティの登場人物が描写されるまで非常に長い時間を要してきた。MCUでは『ノマドランド』(2021) を手がけたクロエ・ジャオ監督による『エターナルズ』(2021年11月5日(金)公開) で11人の主人公の内の一人がゲイであることが明かされていた。
だが、今回の『ロキ』では、主人公のロキがバイセクシャルであることが明かされた。MCUで初めてバイセクシャルの主人公が誕生したことになる。そして、今回の配信を受けて、ドラマ『ロキ』の監督を務めるケイト・ヘロンは自身のTwitterに以下のように投稿している。
From the moment I joined @LokiOfficial it was very important to me, and my goal, to acknowledge Loki was bisexual. It is a part of who he is and who I am too. I know this is a small step but I’m happy, and heart is so full, to say that this is now Canon in #mcu #Loki 💗💜💙 pic.twitter.com/lz3KJbewx8
— Kate Herron (@iamkateherron) June 23, 2021
ロキがバイセクシャルであると認めることは、『ロキ』に参加した瞬間から、私にとっては非常に重要なことであり、私のゴールでもありました。それは彼の一部であり、私が誰かということでもあります。これは小さな一歩でしかありませんが、MCUにおいてこれが正史だと言えるのは嬉しいことですし、胸がいっぱいです。
なお、『ロキ』第3話の冒頭では、マーベルのタイトルロゴが流れる場面で、いつものMCUのテーマ曲ではなくヘイリー・キヨコの「Demons」(2019) が流れている。ヘイリー・キヨコは「ガールズ・ライク・ガールズ」(2015) などで知られる、カリスマ的存在のレズビアンのアーティストだ。冒頭からマーベルの曲を塗り替えてしまうあたり、ケイト・ヘロン監督の強い想いが伝わってくる。
偏りを是正する長い道のり
MCUは当初、白人の男性にしか主人公と監督の枠が用意されておらず、それを10年以上かけて是正してきた歴史がある。2018年にMCU初の黒人主人公と監督を据えた『ブラックパンサー』が公開され、2019年には初の女性単独主人公作品『キャプテン・マーベル』が公開された。2021年7月8日(木)から劇場公開を開始する『ブラック・ウィドウ』は、MCU映画では初めて女性監督が単独で指揮を執る。
バイセクシャルのヴァルキリーを登場させながらも、保守層への“配慮”からか、そのクィアネスには言及されず、セクシャルマイノリティのキャラクターのアイデンティティが十分に描写されて来なかったMCU。また、近年のハリウッドでは、クィアのキャラクターが登場することを匂わせながら劇中では直接的にクィアネスを描かない「クィア・ベイティング」というマーケティングの手法が批判されている。「スター・ウォーズ」続三部作や映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』(2020) でも批判を受けた手法だ。
今回、自身もバイセクシャルであるケイト・ヘロン監督が主人公にクィアネスを付与するという形で、この壁を一気に飛び越えて見せた。MCU映画では、ゲイのファストスが主人公になる『エターナルズ』やバイセクシャルのヴァルキリーの恋愛が描かれる『ソー: ラブ・アンド・サンダー(原題)』(2023) の公開が控える。こうした話題がニュースにはならず、MCUにとって当たり前になるための最初の一歩が、ドラマ『ロキ』で示された。
ドラマ『ロキ』はDisney+で独占配信中。
このシーンの後に語られた「愛とは」の議論について、トム・ヒドルストン自らがロキの心情と過去について解説している。詳しくはこちらの記事で。
第3話のあらすじと解説はこちらの記事で。
第3話を受けての徹底考察はこちらから。
ドラマ『ロキ』のキャストの情報はこちらに詳しい。
変異体の正体に関する考察はこちらの記事で。