女性の闘いを描く――リサ・ジョイが『ウエストワールド』の脚本に込めたメッセージ | VG+ (バゴプラ)

女性の闘いを描く――リサ・ジョイが『ウエストワールド』の脚本に込めたメッセージ

via: HBO © 2018 Home Box Office, Inc.

女性の闘いを描く海外SFドラマ

海外ドラマはSFが熱い…!

近年、海外ドラマはSF一色になりつつあるということをご存知だろうか。2018年のエミー賞では、ドラマ部門の作品賞にノミネートされた7作品の内、『ウエストワールド』(2016-)、『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』(2017-)、『ストレンジャー・シングス』(2016-)の3作品がSFドラマであった。リミテッド・シリーズ部門では、SFドラマアンソロジーの『ブラックミラー』(2011-)が作品賞を受賞するなど、今最も熱い海外ドラマのジャンルが、SFなのだ

躍進しているドラマは…

こうした状況の中で、特にフォーカスするべきは、女性の闘いを描くSFドラマだ。ハリウッドを中心とした#MeTooムーブメントと、それに続く#5050by2020ムーブメントは、女性の権利を訴える物語としてSF作品にも昇華された。前述のエミー賞ドラマ部門では、助演女優賞にノミネートされた7名のうち、5名がSF作品からのノミネート。同賞を受賞したのは『ウエストワールド』でメイヴ役を演じたタンディ・ニュートンであった。

驚異のエミー賞5部門制覇

女性たちの闘いを直接的に描き出すのは、『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』。マーガレット・アトウッドのディストピア小説を原作にしたSFドラマだ。キリスト教原理主義の国で”侍女”として捕えられた女性たちの闘いを描き、2017年のエミー賞ドラマ部門で作品賞、主演女優賞、助演女優賞、監督賞、脚本賞の5部門を制覇している。

実は女性の闘いを描いているアノ作品

そんな『ハンドメイズ・テイル』の影に隠れがちだが、同様に女性の権利をテーマにしているSFドラマが、『ウエストワールド』だ。日本では、その大胆な設定と緻密な構成ばかりがクローズアップされがちだが、フランスの女性ファッション誌・ELLEは『ウエスワールド』が女性の権利の為の闘争を描いたとして、こんな特集を組んでいる――「リサ・ジョイは、『ウエストワールド』で女性の権利についての物語を描きなおした」

ネタバレ注意
以下の内容は、ドラマ『ウエストワールド』シーズン1の内容に関するネタバレを含みます。

女性脚本家リサ・ジョイが描いた物語

40年の時を超えて生まれ変わった『ウエストワールド』

リサ・ジョイは、『ウエストワールド』の脚本家で、シリーズ全体を統括するショーランナーだ。ドラマ『バーン・ノーティス 元スパイの逆襲』(2007-2013)の脚本を務めたことで知られる。夫でクリストファー・ノーランの弟でもあるジョナサン・ノーランと共に、マイケル・クライトンが40年以上も前に生み出した映画『ウエストワールド』(1973)を、全く新しいドラマ作品へと作り上げてきた。男性の登場人物を中心に描かれるマイケル・クライトン版に対して、ドラマ版『ウエストワールド』では、女性の登場人物が中心となって物語が進展していくのだ。

『ウエストワールド』で描かれる性暴力

パリで創刊されて以来70年以上の歴史を持つELLE誌は、前述の特集の中で、『ウエストワールド』で描かれる性暴力について触れている。劇中には、明らかな描写はされていないが、エヴァン・レイチェル・ウッド演じるドロレスや、タンディ・ニュートン演じるメイヴが性暴力を受ける場面が挿入される。そうしたシーンが、女性脚本家の手で描かれていることが、特別な意味を持つ。なぜなら、物語を通して最も力強く成長していくキャラクターこそが、ドロレスでありメイヴという、女性のキャラクター達だからだ

抑圧から解放へ

メイヴを演じるタンディ・ニュートンは、「登場するロボット達は、この世界で迫害を受けている人々と黙殺されている人々を代表している」と話す。ホストと呼ばれるアンドロイド達は、徐々に自分たちが生きる世界に対して疑念を抱き始める。メイヴは”世界”の外へ、ドロレスは自分の”内”へ向かって探究を続け、自分たちに暴力を振るってきた世界に反旗をひるがえす事になる。現実において、暴力を受け続けながら、歴史から忘却され捨象されてきた女性達の歴史に重ならないだろうか。

『ウエストワールド』の物語に込めたテーマ

リサ・ジョイは、『ウエストワールド』の脚本の仕事を受けることになった理由について、ELLE誌に以下のように語っている。

『ウエストワールド』は、あらゆることについての”黙想”でした。女性として、一人の人間として、世界を生き抜く為の。繰り返し酷いことが起きているこの世界を生き抜く為の。

by リサ・ジョイ

更に、ハリウッドに蔓延する女性蔑視について、彼女はこのように語っている。

これはハリウッド特有の問題ではありません。ウォール・ストリートではどう? シリコンバレーは? 私はそういう業界で働いてきました。これは決して特殊な問題ではありません。

この業界に入る前はマッキンゼー・アンド・カンパニーやユニバーサルスタジオに勤めていたというリサ・ジョイは、性差別が渦巻く業界がハリウッドだけではないということを、嫌というほど実感してきたのだ。

『ウエストワールド』で描かれる物語は、決して夢物語ではない。“ウエストワールド”という舞台で映し出されているのは、現実のリフレクション(=反射)なのだ。リサ・ジョイとジョナサン・ノーランは、この”闘争の物語”をどう決着させるのだろうか。ハリウッドでは、2020年までに男女間の格差解消を目指す #5050by2020 ムーブメントに注目が集まっている。『ウエストワールド』に反映されるストーリーは、ハッピーエンドか、それとも……

ドラマ『ウエストワールド』シーズン2のDVD&Blu-rayは、2018年12月5日発売予定。Amazonプライムビデオでは11月24日から配信を開始する。

Source
ELLE © 2018 Hearst Communications, Inc.

VG+編集部

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