『機動戦士ガンダム 水星の魔女』放送中
2022年10月2日(日)より放送を開始した『機動戦士ガンダム 水星の魔女』。第9話「あと一歩、キミに踏み出せたなら」では、これまで話の表舞台には出てこなかったシャディクが乗機であるミカエリスと共に遂に決闘の舞台に立った。しかしその登場はどうやら遅過ぎたようで……
それでは、今週もネタバレありで早速第9話を振り返っていこう。
シャディク、遂に参戦
校則を変更し「株式会社ガンダム」の起業を阻んだシャディクに対して、ミオリネは規則の撤回を求めて決闘を申し込む。これまで決闘の立ち合い人に徹してきたシャディクが遂に戦場に立つ時が来た。
決闘は6:6の集団戦ということだが、これはエアリアルとチュチュのデミトレーナーしかないミオリネら株式会社ガンダムチームにとっては不利な条件だ。ミオリネから決闘を申し込んだので、決闘の条件はシャディクが決められるということだろうか?
ペイル社に掛け合うもののファラクトは貸与されず、代わりに4機のザウォートが贈られる。パイロットの腕でもMSの性能でもグラスレー寮の5機のペギルペンデには敵わなそうな付け焼刃で決闘に臨むこととなったスレッタたち。予想通り次々にザウォートは撃破されていき、あっという間に追い詰められてしまうスレッタ。21年前のヴァナディース事変で「ガンダム」を封じたベギルベウに搭載されていた「アンチドート」システムを備えるペギルペンデらによって動きを封じられてしまうエアリアル。だが、窮地に陥りシェルユニットが青く発光したエアリアルはアンチドートを破り次々にペギルペンデを撃破していく。
そしてシャディクの駆るミカエリスと文字通り一対一の決闘に臨むかと思われたその時、ミカエリスの頭部はアンテナもろとも撃破された筈のチュチュらが応急処置を施したデミトレーナーのライフルによって撃ち抜かれるのだった。
遅過ぎた決闘
今週も細かな心理描写や機体について深まる謎など盛り沢山の内容だった『機動戦士ガンダム 水星の魔女』。ここでは改めて「決闘」というシステムについて考えてみたい。
アスティカシア高等専門学園における「決闘」は、表向きは生徒同士の私闘ということだが、実際にはそこではミオリネが「花嫁」として賭けられることで大企業の実権を巡る大人の政治的駆け引きとして用いられている。
つまり、そこでは子供たちが自らの誇りや欲望を賭けてどれだけ真摯に戦ったところで、その勝利がそのまま大人の都合へと回収されてしまうという歪な構造がある。シャディクはどうやらミオリネに対して本気の恋をしているようだが、ミオリネが花嫁として賭けられてしまった決闘に勝つことでミオリネと結婚できたとしても、それは自分の恋の成就を意味しない。
それどころかミオリネ自身からも自分を景品としてしか見ない大人たちのルールに従って得た勝利は、「真摯に自らを欲した証」ではなく「大人の顔色を窺う政治的判断」としてしか見做されず余計に距離を取られてしまったことだろう。シャディクが自ら決闘に踏み出せなかったのは、むしろミオリネに対して本気だった為だからと思われる。
そう考えれば自らは決闘に踏み出さずに裏方に徹し、ミオリネの聖域である果樹園にも足を踏み入れないシャディクの弁えた態度も理解できる。しかしそのような「弁え」はしばしば臆病の裏返しでもある。決闘に生徒同士の「個人的な戦い」と大人たちの「公的な権力闘争」という二重性があるように、シャディクの真摯さもその裏に臆病という二重性がある。
ミオリネはそこを見逃さなかったのだろう。「裏工作」によって公的にはガンダムを、私的にはミオリネをと「二つ」手に入れようと進んだシャディクに対して、ミオリネは決闘を突き付ける。あろうことかミオリネの側から踏み込まれて初めてシャディクは決闘の場に立つ。
この時点で「進む」ことで手に入れようとするミオリネやスレッタに較べてどうしても及び腰で受動的な態度だったのだ。シャディクにとっては遅過ぎた決闘だ。メタ的には第9話でようやく話の表舞台に出てきたシャディクの「遅さ」が、劇中の作劇にも重ね合わされて説得力を補強するもので演出が利いている。
シャディクは結局、決闘に臨んでも臨まなくても、勝利しても敗北しても望むものは何一つ得られなかったのかも知れない。しかし、シャディクをそのように縛り付けたのは大人たちの用意した「決闘」というシステムそのものだ。もしもそれが生徒同士が自らの誇りを賭けてのみ戦う純粋に私的なものだとしたら、そこに花嫁としてミオリネが賭けられてさえいなければ、シャディクは恐らく実力で自らを上回るグエルにさえ挑み、決闘の勝者として正面からミオリネに想いを告げたかも知れない。
そうすることができなかったのは、決闘というシステムそのものが大人たちの政治的取引の道具である為だ。そうだとするならば、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』という作品で描かれる「戦い」とは、単に決闘に勝利するということではなく「決闘というシステムそのもの」を破壊するような、大人たちに子供たちが挑む「革命」ということになるのかも知れない。
当初は決闘というのは単に学園生活を描く為の道具立てに過ぎず、ゆくゆくはいつも通りの「戦争」が描かれるのだろうと思っていたが、どうやらその予想は覆されるのかも知れない。今までのガンダムが描くことのなかった「戦い」の姿を是非とも見させて欲しい。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は、2022年10月2日(日)より、毎週日曜午後5時~MBS/TBS系全国28局ネットにて放送中。
Amazonプライムビデオ他でも配信中。
第10話のネタバレ感想はこちらから。
第1話のネタバレ感想はこちらから。
第2話のネタバレ感想はこちらから。
第3話のネタバレ感想はこちらから。
第4話のネタバレ感想はこちらから。
第5話のネタバレ感想はこちらから。
第6話のネタバレ感想はこちらから。
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第7話のネタバレ感想はこちらから。
第8話のネタバレ感想はこちらから。