「人間」は英語で〇〇!? 英語版『DEVILMAN crybaby』の意外なこだわり | VG+ (バゴプラ)

「人間」は英語で〇〇!? 英語版『DEVILMAN crybaby』の意外なこだわり

via: © Go Nagai-Devilman Crybaby Project

世界へ向けて制作された「デビルマンCB」

バイリンガル声優を起用した「クライベイビー」の射程

Netflixで全世界同時に公開された『DEVILMAN crybaby』(2018)。映画『夜は短し歩けよ乙女』(2017)などを手がけた湯浅政明が監督を務めたことでも話題を呼んだ。一般的なアニメ作品とは異なり、Netflixでの配信ということで英語版も同時に公開。日本語版でも飛鳥了が英語で話すシーンがあり、グローバルなマーケットを捉えていることが感じ取れる。飛鳥了の声を担当したのは、アメリカ出身の村瀬歩。もちろん英語は堪能で、二か国語での声優という離れ業をやってのけた。なお、村瀬は映画『屍者の帝国』ではフライデー役を務め、「屍者」を演じている。主役級の飛鳥了役を務めた本作では、村瀬はどのような役を演じたのか、ぜひその目で確認してもらいたい。

世界を捉えるアニメ制作会社 サイエンスSARU

SF大作としての一面も併せ持つ「デビルマン」だが、現代的な若者の青春ドラマも取り入れ、海外のアニメファンからも人気を集めている。YouTubeには海外のファンによるリアクション動画や解説動画が次々とアップされており、海外でも衝撃を受けた視聴者たちの興奮冷めやらない様子がうかがえる。同作のアニメーションを手がけたのは、湯浅監督が代表を務めるサイエンスSARU。国際色豊かな人材を揃え、米カートゥーンネットワーク『アドベンチャー・タイム』で「FOOD CHAIN」の回を制作するなど、ワールドワイドにアニメーション作品を発信している。

「悪魔」は?「人間」は? 英語版の言葉選び

悪魔」はどう訳された?

そこで気になるのが、デビルマンという作品をどのように英語で表現したのかという点である。デビルマンを既にご覧になられた方なら、気になる表現として「悪魔」という言葉が思い浮かぶのではないだろうか。デビルマンでは、「悪魔と人間」という対比の他に、種族を指す言葉として「デーモン」という言い回しが存在する。こちらの対義語は「人類」だろう。英語版では、物語の序盤では「悪魔」に対して順当に「devil」が当てられているが、第3話からは「demon」も当てられるようになる。つまり、日本語で「悪魔」とされている台詞であっても、概念としての悪魔を指しているのか、種族としてのそれを指しているのか、そのニュアンスに応じて「demon」と「devil」を使い分けているようだ。

motal」ってなに? 英語版の意外な訳語

では、同様にデビルマンでは頻繁に登場する「人間」という言葉はどう訳されたのだろう。本作では、「人間」の訳語としては基本的に「human」が用いられている。しかし、第9話「地獄へ堕ちろ、人間ども」の英題は、”GO TO HELL, YOU MORTALS”。「mortal」という言葉は、「死を免れない」という意味から転じて、「人間」という意味を持つ。ここではimmortal(=不死)である「神」への対義語としての意味合いを強めて、「mortal」という言葉を選んでいるのだ。単なる「人類」ではなく、愚かな存在へ投げかける「人間ども」という言葉を表現するための工夫だ。神や悪魔といった概念を身近に扱う英語だからこそ生まれた表現の使い分けだと言える。

英語版で見えてくる海外の視線

サタンを通して見る文化と宗教

小ネタとしては、両性具有者のサタンに対して、サイコジェニーが「Yes, sir」と返答する場面が見られる。「sir」は男性の上官に向かって使用する言葉で、女性に対しては「Ma’am(Madamの略語)」を使用するのが一般的。サイコジェニーは、サタンの「仮の姿」をもって「sir」呼びを継続したのだろうか…。なお、サタンは本来天使であり神に逆らって堕天使となったという設定は、聖書を忠実になぞった物語。キリスト教が多数派の国では親しみやすい設定だろう。一方で、イスラム教のコーランにもサタンに相当する「イブリース」という堕天使が登場する。サタンは「禁断の果実」でイヴを誘惑し人類を堕落させたが、イブリースは人間であるアダムへひれ伏すようにという神からの指示を拒否し、神に背く堕天使となった。デビルマンの設定としては、後者がサタンに近い存在だと言えるだろう。

世界へ解き放たれたデビルマン

少し話が逸れたが、以上のように言語だけではなく、世界に通用する物語で人々を魅了している「クライベイビー」。主人公が悪魔の力を得て戦うという設定が、宗教上タブーとなる国も多いだろう。それでも、Netflixという観たい人だけがアクセスできる環境(そして、それに十分な予算がつく環境)と、ハリウッドを中心に広がる勧善懲悪ではない「正義」の在り方が、今一度「デビルマン」が世界に出ることを後押ししたのかもしれない。もちろん、「デビルマン」というコンテンツが持つ魅力は折り紙つき。英語版を通して、より多くの人がこの作品に触れられることを祝おう。

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