『機動戦士ガンダム 水星の魔女』放送中
2022年10月2日(日)より放送を開始した『機動戦士ガンダム 水星の魔女』。「ガンダム」TVアニメシリーズ初となる女性主人公作品も早くも第2話。主役機ガンダムエアリアルは冒頭の第1話振り返りシーンのみの登場となったが、MSの戦闘描写に頼らずともドラマの牽引力で引っ張っていく構成は見事だ。それでは、早速第2話「呪いのモビルスーツ」を振り返っていこう。
現れた仮面の女性
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第2話「呪いのモビルスーツ」には、ガンダムシリーズお約束の‟仮面キャラ”が早速現れた。しかも、今回は仮面キャラであるプロスペラもガンダムシリーズ初の女性である。古くは初代『機動戦士ガンダム』の言わずと知れたシャア・アズナブルから、伝統的に殆どの仮面を被ったキャラクターは主人公のライバルないし因縁を持つ者として描かれてきた。
ここで、ざっとこれまでのガンダムの映像作品に出てきた仮面キャラをおさらいしておこう。
・ シャア・アズナブル(『機動戦士ガンダム』1979~1980)
・ 鉄仮面(『機動戦士ガンダムF91』1991)
・ クロノクル・アシャー(『機動戦士Vガンダム』1993~1994)
・ シュバルツ・ブルーダー(『機動武闘伝Gガンダム』1994~1995)
・ ゼクス・マーキス(『新機動戦記ガンダムW』1995~1996)
・ ハリー・オード(『∀ガンダム』1999~2000)
・ ラウ・ル・クルーゼ(『機動戦士ガンダムSEED』2002~2003)
・ ネオ・ロアノーク(『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』2004~2005)
・ ミスター・ブシドー(『機動戦士ガンダム00』2nd season 2008~2009)
・ ゼハート・ガレット(『機動戦士ガンダムAGE』2011~2012)
・ 三代目メイジン・カワグチ(『ガンダムビルドファイターズ』2013~2014)
・ マスク(『ガンダム Gのレコンギスタ』2014~2015)
・ モンターク(『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』第1期 2015~2016)
・ ヴィダール(『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』第2期 2016~2017)
・ 仮面の男(『ガンダムビルドダイバーズRe:RISE』2019~2020)
さて、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』にはTV放送前にネット上で公開された「PROLOGUE」という前日譚が存在する。
こちらでは幼き日のスレッタ(エリクト・サマヤ)が初めてガンダム・ルブリスに乗り敵MSを撃墜する様子が描かれたが、そこにはスレッタの母でありガンダム・ルブリスのパイロットでもあるエルノラ・サマヤが義手を外して内臓電池を交換するシーンがあった。
これが伏線だったということだろうか、未だ明言はされていないものの第2話ではプロスペラがエルノラと同じく右手の義手を取り外すシーンが描かれた。かつ、YOASOBIによるOPテーマ「祝福」の原作小説である「ゆりかごの星」では、エルノラが「アスティカシア高等専門学園でモビルスーツの決闘が行われるわ。それに勝った人間が、デリングの一人娘と結婚するの」とガンダム・エアリアルに語るシーンが描かれ、スレッタとエアリアルを‟復讐”の為にアスティカシア高等専門学園へと送り込んだのはエルノラであることが明かされる。
以上のことから、ガンダム・エアリアルの開発責任者でもあるプロスペラの正体は、やはりスレッタの母であるエルノラと見て間違いないだろう。
「決闘委員会」の謎
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』には、オマージュ元の『少女革命ウテナ』における「生徒会」に相当する「決闘委員会」という組織が存在する。スレッタたちが通う「アスティカシア高等専門学園」はMS産業最大手「ベネリットグループ」が運営する私立学園という位置付けらしい。
通常、学校組織のトップと言えば校長を筆頭とする教職員組織だが、この場合は教職員の頭越しにベネリットグループが、もっと言えばその総裁であるデリングがトップダウンで支配しているのだろうか。そうだとしたら、「決闘委員会」の位置付けは何なのかが気になる。2話現在の話の流れでは、「決闘」はデリングの娘であるミオリネとの「結婚」を巡って行われている。ということは、決闘委員会とは事実上ベネリットグループの跡取りを確保する為に設立された組織ということだろうか?
『少女革命ウテナ』における生徒会は、実際にはメンバー同士が目的を共有しその実現の為に協働するという意味での組織ではなかった。それは飽くまでも各メンバー個人が己の目的を遂行する(=決闘に勝利し「薔薇の花嫁」を手に入れる)為に便宜的に集合していたに過ぎない。果たして、「ウテナ」同様「決闘委員会」のメンバーがそれぞれの欲望や目的の実現の為にベネリットグループの手を離れることはあるのだろうか。あるいはメンバー同士で「決闘」する流れとなるのだろうか。
「争い」のゆくえ
今のところ、物語の主題はミオリネと父デリングあるいはグエルの象徴する父権/男権との対決に見える。主人公スレッタが何故アスティカシア高等専門学園にやって来たのかは、小説「ゆりかごの星」で軽く触れられている程度で主体的な目的というのは本編劇中では未だ描かれていない。
しかし、「偶然戦い(決闘)に巻き込まれた」という描かれ方はむしろこれまでのガンダムシリーズの主人公たちを踏襲するもので、実はスレッタは王道のガンダム主人公とも言える。スレッタが決闘を通じて自らの主体性を獲得し、あるいは自らの主体的な欲望の為に決闘に赴く様がこれから如何なるシチュエーションの下に描かれるのかを期待したい。
仮面キャラがライバルだというガンダムの公式に当て嵌めれば、ミオリネは父デリングと、そしてスレッタは母エルノラと対決するという方向に話が進むことも考えられる。それは広く見れば「子供と大人」の対決とも言えるだろう。今までのガンダムシリーズでは基本的に「地球生まれ」の人類と「宇宙生まれ」の人類との間の戦争が描かれてきた。その中で子供と大人が戦うことは勿論あったが、それよりはどちらかと言えば‟民族”間の闘争が主題であったと言える。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』でも地球生まれの「アーシアン」と宇宙生まれの「スペーシアン」という人種の違いおよび対立は匂わせられているが、基本的な舞台として地球から宇宙へと巨大企業が経済圏を拡大した時代が設定されているので、今のところ「戦争」規模の争いはスペーシアンとアーシアンとの間で起こるというよりはベネリットグループ内の企業同士が覇権を巡って争う「内戦」のようなものとして起こりそうな予感がある。
これまでのガンダムシリーズがその都度問い掛けてきた「戦うことの意味」という難問に対して、果たして『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は如何なる答えを出すのだろうか。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は、2022年10月2日(日)より、毎週日曜午後5時~MBS/TBS系全国28局ネットにて放送開始。
Amazonプライムビデオ他でも配信中。
第3話のネタバレ感想はこちらから。
第1話のネタバレ感想はこちらから。