『機動戦士ガンダム 水星の魔女』放送中
2022年10月2日(日)より放送を開始した『機動戦士ガンダム 水星の魔女』。第3話「グエルのプライド」では第1話で見事な‟噛ませ犬”を演じたグエル・ジェタークと主人公スレッタ・マーキュリーとの再戦が描かれた。今回もネタバレありで、迫力のMS戦を中心に早速振り返っていこう。
以下の内容は、アニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の内容に関するネタバレを含みます。
子供を道具にする親たち
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』において、アスティカシア高等専門学園の生徒たちは「決闘」によって揉め事を解決する。同時に、決闘の勝者である「ホルダー」にはベネリットグループ総裁デリング・レンブランの娘であるミオリネ・レンブランの「花婿」の地位が授けられる。ミオリネ自身は自らを「トロフィー」として扱う父デリングに対して反抗心を露わにし地球への脱出さえ企てているが、主人公スレッタも含め今のところ劇中の子供たちはミオリネほど倒すべきもの、あるいは守るべきものの為に戦っているという印象はない。
第1話でスレッタに惨敗したグエルは新たな乗機であるダリルバルデを駆り、スレッタのガンダム・エアリアルを追い詰める。だがそれはダリルバルデに積まれた自動操縦のAIシステムや父ヴィム・ジェタークの仕組んだスプリンクラー散布によりガンダム・エアリアルのビーム攻撃を無効化する策略などの結果だった。自分を一人前の人間として認めない父への怒りを爆発させたグエルはAIシステムを切り、自らの操縦でスレッタへと挑んでいく。結果としてグエルは再び乗機のアンテナを折られることによってスレッタへの敗北を喫するが、自らの「強さ」を認めてくれたスレッタに惹かれ求婚を申し込む。
大迫力のMSバトル、また自らの誇りを賭けてスレッタに挑むグエルの姿に胸を熱くさせられた。しかし、仮にグエルがスレッタに勝っていたとして、それによってグエルの誇りは保たれたのだろうか? グエルの戦う理由が父に認められることだとしたら、グエルは何故そうまでして父親に認められたいのだろうか。
ガンダムシリーズの過去作を振り返ってみても、「親」というのは基本的にろくでもない人間として描かれてきた。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』もどうやら例外ではないらしい。今のところデリングにしろヴィムにしろ自らの子供を「道具」としてしか見做さないろくでもない父親として描かれている。もしも今後彼らがそうした抑圧的な父権に対して挑戦していくのだとしたら、これは「父殺しの物語」になるのかも知れない。
一方、前日譚である「PROLOGUE」において、幼きスレッタ(エリクト・サマヤ)と母(エルノラ・サマヤ)を守る為に父であるナディム・サマヤは戦場に散った。生き延びたエルノラはデリングへの復讐を胸に秘め、仮面を被りプロスペラと名乗っている。今のところスレッタとエルノラ(プロスペラ)との確執は描かれていないが、YOASOBIによるOPテーマ「祝福」の原作として書かれた小説「ゆりかごの星」ではエルノラが復讐の為にスレッタをアスティカシア高等専門学園へと送り込む様子が書かれている。
彼女もまた、自らの子供を道具としてしか扱わない「ろくでもない親」なのだろうか? 仮にそうなのだとすれば、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』ではスレッタを軸とした「母殺し」、ミオリネ、グエルを軸とした「父殺し」といった、旧来の「地球人類vs宇宙移民」の戦いというよりは「子供vs大人」の戦いが描かれていくのかも知れない。
グエルは求婚を申し込むべきだったか
さて、子供たちがこれから何の為に誰と戦っていくのかに期待しつつ、気になったのはグエルがスレッタに求婚を申し込んだことだ。第1話の時点でグエルがミオリネの「花婿」として君臨していたのは単に政略結婚であり、そこに個人的な情は感じられなかった。グエルもまた親に認められる為になら好きでもない相手と結婚するように躾けられた被害者なのだろう。しかしそうした軛から脱し、初めて自分を一人の個人と、対等な相手として認めてくれたスレッタに対しては、単に制度上の話でしかない「結婚」よりも具体的で個人的な感情が動いた筈だ。
そうであるならば、まだ「付き合ってくれ!」とでも叫ぶ方が似つかわしく思える。親に押し付けられた結婚ではなく自らの意志で再び選び取る結婚という意味で同じ言葉を選んだのかも知れないが、そこは結婚(制度)と好意(内心)というのを言葉の上でも区別した方が分かり易かったのではないだろうか。あるいはそれも含めて、今まで親の道具として振舞ってきたグエルにとっては自らの内心を表現する為の語彙がそもそも不足しており、「好意=結婚」と短絡してしまっているということの表現なのかも知れないが。
スレッタ自身の課題は未だ描かれていないが、スレッタを通じてそれぞれのキャラクターの抱える葛藤が浮かび上がってきた。果たしてスレッタは何を守る為に戦うのだろうか。タイトルに「水星の魔女」と付いている割にはスレッタは今のところ見た目も中身も魔女らしくない。これから物語が展開/転回していく中でいずれスレッタが「魔女」として覚醒していくという伏線だろうか? 今後の展開も楽しみにしていよう。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は、2022年10月2日(日)より、毎週日曜午後5時~MBS/TBS系全国28局ネットにて放送中。
Amazonプライムビデオ他でも配信中。
第4話のネタバレ感想はこちらから。
第1話のネタバレ感想はこちらから。
第2話のネタバレ感想はこちらから。