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ドラマ『日本沈没―希望のひと―』最終回 第9話はどうなった?
小松左京のSF小説『日本沈没』(1973) を47年ぶりにドラマ化した『日本沈没―希望のひと―』が遂に最終回を迎えた。『日本沈没―希望のひと―』は、大ヒットドラマ「半沢直樹」シリーズが放送された日曜劇場枠で放送され、Netflixで世界に配信されている。
本作では、『官僚たちの夏』(2009) を手掛けた橋本浩志が脚本を手がけるほか、「半沢直樹」シリーズの平野俊一が演出を担当。小栗旬が若手官僚の天海啓示役で主演を務め、いずれの「日本沈没」作品でも存在感を発揮している田所博士役を香川照之が演じた。
第5話までは関東沈没を描く第一章として描かれ、第6話からは第二章「日本沈没編」がスタート。あっという間に最終回第9話を迎えたが、最終回は2時間3分と、映画サイズのスペシャル版に。「さよなら日本」と題された最終話では、どんな展開が待っているのか。ネタバレありで感想をお届けする。
以下の内容は、ドラマ『日本沈没―希望のひと―』最終回第9話の内容に関するネタバレを含みます。
『日本沈没―希望のひと―』最終回 第9話ネタバレあらすじ&感想
テロ発生
『日本沈没―希望のひと―』第8話のラストでは、東山総理と世良教授を狙った爆破テロが発生。椎名記者が不安を取り除くために、海外の人々が移民を歓迎する映像を日本中に流した矢先の出来事だった。「これが本当にこの国で起きたことなのか」と驚く石塚の反応は的外れなように思える。前回の感想記事で触れた通り、日本は繰り返しテロが起きている国である。
今回のテロは、高石一矢という人物によるドローンを使ったテロで、日本沈没のトリガーとなったCOMSを推進した総理に罰を下したと供述しているという。テロリストの登場により、一部の国は日本からの移民受け入れに慎重姿勢を示し始めていた。受け入れ先の市民感情を考えれば、起こり得ることだろう。
テロによって重症を負った東山総理に代わり、副総理の里城が総理代行を務めることに。里城は早速、移民交渉担当の特命大臣に生島自動車の生島会長を登用。現実における民間人の大臣登用の例は数多くある。企業人の起用は、元通産官僚で当時はサントリーの常務を務めていた川口順子を環境大臣や外務大臣に登用した森内閣・小泉内閣が挙げられる。
里城は会見で、総理襲撃を「一部暴徒による犯行。日本人は礼節を弁えた民族」と保守政治家らしいファンタジーをぶち上げて海外諸国へ頭を下げる。その場しのぎの演説で、各国の心を動かすことはできるのだろうか。
生島大臣の指揮のもと、政府は移民先の配分方法を発表。個人単位、家族単位、5名以下のグループ単位で申請を行い、コンピュータ抽選で移民先が決められるという。移民先は14ヶ国の中から第5希望まで選択でき、毎週1000万人ずつの移民先が決定される。なお、常盤の背後のスクリーンには、120Lサイズのスーツケースなど、より詳細な情報も表示されている。
政府としても譲歩した結果なのだろうが、抽選反対のデモも行われる。富裕層は海外に脱出しており、ここにも格差社会の爪痕が深く残っている。また、高齢者の中には最後まで日本にいるという層も。天海は「生きていく希望」があると思ってもらいたいと言う。ドラマ『日本沈没―希望のひと―』の物語はずっと、「生き続けることは良いこと」という思想の上に成り立っている。
全身に火傷を負った様子の東山総理だが、意識が戻り、天海に世良教授が「学問の使い道を間違えていた。経済活動を後押しするための都合の良い道具になっていた」と話していたことを伝える。世良教授は「政府の決定を追認してきただけ」と、いつしか自分が御用学者になっていたことを反省し、そのために地球の環境をないがしろにしていたと自らの学者人生を悔やんでいた。世良教授はCOMSによる環境負荷の責任を全て自分で背負い、天海と家族が見守る中、命を引き取る。
日本のドラマで御用学者批判、それも学者自らが自己批判をするのは珍しい展開だ。人はみな自戒できるという“希望”を示しているようでもある。その報告を受けた田所博士は「いい迷惑だ」と強がるが、その後に声をあげて涙を流す。最終回の『日本沈没―希望のひと―』のタイトルが登場し、いよいよ決着の時を迎える第9話は田所博士の涙と共に幕を開けるのだった。
進む温暖化
オーストラリアが500万人の移民受け入れを認めたことで、受け入れ数は6,000万人分に。オーストラリアは第6話では対移民感情の悪化を理由に受け入れに難色を示していた。ブラジル、インド、オーストラリアなどはジャパンタウン構想にも乗ってくれるらしい。
一方、移民先決定の抽選では日本に住む人々の未来が決まる。1回目の抽選で移民先が決まる人もいれば、決まらない人もいる。希望先が申請できるとはいえ、“ガチャ”である。天海の娘、茜の一家は第1希望のアメリカは外れ、第2希望のオーストラリアが移民先に。香織が翻訳の仕事をしており、パートナーの野田も翻訳の仕事の関係で知り合ったと言っていたので、英語圏を希望したのだろう。
未来会議では、交渉材料の企業移転は出し尽くし、ジャパンタウンで引き取るはずだった美術品や、特許の譲渡も進めていくことについて話し合われていた。これまで非協力的だった財務省も協力的になり、国交省はインフラ整備の指導者を、農水省では高級和牛の遺伝子を提供すると次々に手があがる状況に。
文科省の財津は日本の財産が失われることを嘆くが、天海は失うのではなく、世界で生きていくのだと説得する。確かに、知的財産や技術を抱えたまま日本が沈んでしまっては、人類にとって大きな損害だ(それは沈むのが日本でなくても)。
ここで、厚労省の石塚が、鳥や魚介類を通して広がるルビー感染症が国内で発生したと報告する(ルビーはドラマ内の架空の感染症)。石塚は中山厚労省大臣と共に里城総理代行にも報告するが、常盤医療が治療薬を3年前に開発しており、飛沫感染はなく、感染爆発はないという。
感染症が広まれば移民の受け入れが止められる可能性があるため、重要な局面だ。だが、恐らくコロナによるパンデミックを経験していない日本沈没―希望のひと―』の世界では、それほど危険視されていない。
生島大臣はロシアが300万人の受け入れを認め、中東産油国でも進展があったと報告する。一方で、海上保安庁の小樽支部に移った田所博士は、北海道にシロイルカが現れ、シベリアでは地下のメタンガスが噴出したと天海に告げる。シロイルカ(ベルーガ)は実際に気候変動によって姿を消した地域もあり、メタンガスの噴出は凍土地帯が溶け出すことで発生する恐れがある。
田所教授は世界各地で起きる異常事態の大きな要因は温暖化であり、日本は世界に訴えていく使命があると天海を説得。環境省の人間である天海は、一生をかけてこれに取り組むと約束するのだった。これは、原爆によって世界で唯一の被曝国になった日本が非核化を世界に訴えかけなければいけないのと同じことだ。
地域社会とどう向き合うか
懸命に移民政策を進める日本政府。移民枠は1億人分を突破し、移民申請の数も8,000万人に到達した。かなり高い数字だが、未来推進会議は満足していない様子。だがここで常盤は、未来推進会議のメンバーで順番に休みを取ることを提案。自分たちの移民申請について知人や家族と話し合う機会を作る。
常盤の父は第8話で中国移転を決めた常盤医療の会長として中国に行くつもりだったが、常盤自身は個人として移民申請を行うという。巨大企業の御曹司である常盤だが、何の後ろ盾もなく新しい人生を生きることに決めていた。ある人々にとっては、日本沈没は自分の人生をリセットする機会にもなるようだ。
母に会いに行った天海は故郷で漁民のために行政と戦っていた父の姿を思い出していた。母はやはり「知らん国の人に迷惑をかけられん」と移民しないつもりだ。父の死んだ場所でもあり、離れたくないと話す母だったが、天海は「やっぱり生きとってほしい」と説得する。「一緒に申請しよう」と対話の姿勢を崩さないが、母は町の皆で決めたことと本音を漏らす。命の選択すら地域共同体に委ねる日本っぽいムラ社会の姿である。
そこで天海は、未来推進会議に町単位での移民申請を提案する。私情が入っているようにも思えるが、実家に帰って現地の声を聞いた他のメンバーもこの案に賛成。東京では見えなかった地方の姿が見えたのだろう。事務手続きが煩雑になるため、会議では反対の声もあがるが、日本の財産を放出することには反対的だった文科省の財津が一人でも多くの人の未来をつなぎ、文化を残したいと熱弁を振るう。
結果、大臣は100名程度を上限とする地域単位の申請を採用すると発表。既に移民先が決まっている人も変更可能とした。これを地域社会は歓迎し、天海の母も移民申請をすることに。天海は椎名に一緒に移民申請をしないかと聞き、椎名はこれを受け入れる。
個人単位、家族単位、グループ単位、地域単位と、それぞれの価値観とよりどころに合わせて選べるオプションを用意したのは、なかなかのファインプレイではないだろうか。現実では、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う現金給付の際には、生活保護等の制度でも採用されている世帯単位の原則が選ばれた。
こうした緊急時の対応は、効率的に運用するために普段ベースになっている社会の仕組みを応用することになる。現実においても多様な生き方と価値観を受け入れる社会であってほしいものだ。
感染症の恐怖
官僚は東京に残って作業を続け、申請者は1億18万人を超える。移民枠も1億人を超えている。しかし、新潟でルビー感染症患者が死去。ルビー菌の変異株が発見される。新型コロナウイルスによるパンデミックを想起させる展開だ。
各県で死亡例が報告され、天海の娘の茜も新型ルビー菌に感染。田所博士は地殻変動がルビー菌感染症の拡大を後押ししている可能性を指摘する。里城が感染症の情報が移民計画に与える影響を心配する中、日本に近いロシアのウラジオストクで感染例が報告される。オーストラリアでも感染症患者が見つかり複数名が死亡。日本からの移民が感染症を拡大しているとして、先んじて移民を受け入れていたオーストラリアは日本人移民を隔離し、入国の一時停止を決定する。
新型コロナ感染症拡大に際しては、中国起源説が唱えられたことで、世界中のアジア系の人々が差別を受けた。ルビー菌感染症では、日本からの移民がそのターゲットになる。
WHOは移民による感染拡大懸念を表明。アメリカ、中国、EUも移民受け入れを停止する。移民計画が行き詰まる中、田所博士はスロースリップの動きが活発化し、日本沈没が早まると宣言。安全を保証できる期間は4ヶ月というが、まだ9,000万人の人々が日本に残っている。移民には最低でも3ヶ月かかるため、1ヶ月で感染症問題を解決に導き、移民を再開しなければならない。
政府が人々を見捨てるわけにはいかなず、国内の製薬会社、大学の研究チームを総動員してワクチンあるいは治療薬を開発することに。この難局に、東山総理は完治前に退院し職務に復帰する。日本の製薬団体に頭を下げて治療薬の開発を呼びかけるのだった。
だが、椎名が調査した結果、海外の感染者の中には移民との接触がない人も含まれることを突き止める。外務省の相原も同様の情報を掴んでいた。日本からの感染ではなく世界共通の問題である可能性が浮上。更に田所博士の知人であるブラントという環境学者は、ルビーが温暖化によって永久凍土から溶け出した病原菌である可能性が高いと話しているという。感染症の起源は日本ではなく、感染拡大は世界中で同時多発的に起こりうることだというのだ。
病原菌が世界に広まるという設定は、もちろん現実のコロナによるパンデミックを反映させたものだが、『日本沈没』の原作者である小松左京が小説『復活の日』(1964) で描いた要素でもある。『復活の日』は、コロナ禍では“予言の書”として再注目された作品である。なお、第7話では小松左京の短編小説「日本売ります」を想起させる演出もあった。
各国が移民受け入れを停止する中、京都大学の研究チームが常盤医療の治療薬ホシクスを摂取した患者が重症化せずに完治した例を報告。いずれもハタ製薬のペミビルという薬を摂取した患者であり、ホシクスとペミビルの組み合わせがルビー変異株に有効である可能性が発覚する。
一方、ブラント博士はルビー感染症が4年前のカナダで発見されたものと同じであると発表。だが、国家首脳がそれを理解したとしても、市民の中で陰謀論が広まれば、移民受け入れは引き続き困難になるはずだ。各国政府も次の選挙を戦うためには、市民感情を無視できないからだ。
なお、このシーンで田所博士は天海の連絡先をスマホに「あまみ」とひらがなで登録していることが分かる。
石塚はペミビルとホシクスの組み合わせが効果を発揮したことを報告。常盤医療とハタ製薬は協力して治療薬の増産体制を整えることに。ここで天海は治療薬の製造方法を世界に公開できないかと提案する。常盤は薬の特許を公開することは製薬会社にとって自殺行為だと反対するが、2日間で世界の感染者数は100万人を突破しており、世界的パンデミックの恐れも出てきた。世界中の人々を救う薬を使い、「閉ざされた世界の門をこじ開けたい」と天海は迫るのだった。
人命第一
世界の感染者数は1,000万人を突破。驚異の感染力である。ブラント博士の力添えにより、日本は世界環境会議で発言する機会を得ることができた。現時点でブラント博士は、このパンデミックが日本の責任ではないということを一番理解している人物だ。天海はスピーチの原稿を用意し、東山総理はその原稿をそのまま読み上げることに。世界環境会議は、第1話で東山総理と世良教授がCOMSについて演説した場所であり、かつて世界を牽引しようとしていた日本が全く立場で各国に語りかけることに。
東山総理は、まず感染症拡大は地球温暖化が招いた全世界の問題であることを指摘。その上でルビー菌感染症の治療薬が完成したことを発表し、常盤医療とハタ製薬が製造特許を放棄して製造方法を公開することを申し出たと全世界に発信する。日本沈没の中で、命の大切さを改めて認識したと世界の人々に伝えるのだった。『日本沈没―希望のひと―』第一部で問われた「経済か、人命か」の問いに、答えは「人命」であると改めて示す形になっている。
次いで、東山総理は国土が沈没するこの国に救いの手を差し伸べることを懇願。まずは自分たちが治療薬の製造方法を公開し、世界に開いていく姿を見せることで誠意を見せてから、お願いをするという方法をとったのだ。テロ発生後に里城が「日本人は礼節がある」と抽象的な言葉でおさめようとしたのは真逆のやり方である。
この作戦が功を奏し、常盤会長は日本を離れても命に寄り添った企業であり続けることを宣言。日本には労働者や消費者の命を顧みない企業もある。『日本沈没―希望のひと―』はずっと、日本の理想的な在り方を提示しているのだろう。
移民受け入れは再開するが、香織のパートナーの野田は感染症で亡くなっていた。香織は野田の遺志を継いで、移民先の日本人に英語を教えることを決意していた。天海は最愛の娘との涙の別れを経て、母も村単位での移民に旅立つ。天海はこれで母と娘と違う国で暮らすことになる。このような別れが日本中で繰り広げられているのだろう。
移民は一挙に進み、原作小説と同じく国連も支援を約束する。生島自動車のアメリカへの移転とともに会長も特命大臣の任を解かれて脱出。閣僚や政府関係者の一部も移民先の各国での支援に重心を移す。椎名はラストメディアジャパンで、日本からの移民に関する情報を発信することに。天海と椎名の移民先は抽選で中国に決まったらしい。二人とも英語が話せる描写があったが、英語圏よりも中国を希望上位に入れていたようだ。
1ヶ月で抽選結果の権利失効という条件があるようだが、政府関係者とラストメディアジャパン記者はそれを免れることに。日本にはほとんど人がいなくなり、天海は北海道に残っている300万人の説得にあたることになる。
ほとんどの移民が終わったことで、未来推進会議は解散。メンバーは各国のジャパンタウン建設に尽力することになる。1億1,714万人が出国というのだから、大したものである。自殺者数の多い日本だが、このドラマの世界では、「生きたい」という人々が多いようだ。
日本沈没
電磁気異常が起きるなどし、田所博士は大きな地震を予感する。ニュースではスウェーデンで移民専用の老人センターが開かれ、要介護者80名を受け入れるとの報道が流れている。さすがは福祉国家だ。
政府関係者も北海道へ向かおうとする中、スロースリップが異常な動きを見せる。天海と常盤をのせた自衛隊の輸送機が北海道へ飛び立つその時、日本沈没が始まる。富士山は噴火し、東京が海に沈んでいく。あまりCGの予算がなかったのか、多くのシーンは上空から見た日本列島が沈んでいくカットで対応している。
天海と常盤を乗せた輸送機はギリギリでで飛び立つことに成功。田所博士は関東平野が予想以上のスピードで沈んでいると分析する。日本沈没の開始から北海道沈没までは1ヶ月以上のタイムラグがあると言っていたが、北海道ももってせいぜい1週間という予測に変更に。
北海道庁に作られた対策本部では、里城が一週間の安全が保証されたわけではない、今この瞬間も沈没は続いていると主張する。なるべく多くの人を逃したい天海は、第一部とは全く逆の立場に立たされることに。避難を拒否する人々のために、避難に携わる人々の命を危険に晒すことはできないという主張に、東山総理も同意。3日間で全力を尽くすよう指示するのだった。
日本政府は残された時間で、北海道に残った人々に避難を呼びかけることに。天海以外の政府の人々は当然、自分も逃げたいだろう。逃げたくない人の意思も尊重すべきだが、天海は“生存第一”の思想を持っているため、諦めることができない。とはいえ、ギリギリまで“棄民”しない姿勢は、“棄民政策”をとる現実の日本政府と比べれば遥かにマシである。
北海道の人口が残り230万人となったところで、田所博士から、フォッサマグナが崩れ落ちるとの連絡が。フォッサマグナとは日本列島を東西に分けるようにして関東から中部にかけて縦断している地溝帯だ。フォッサマグナの部分が先に沈むと、当初のシミュレーション通り、関東を起点に日本列島が沈んでいく。ついに本格的な日本沈没が始まったのだ。
東山総理は政府関係者の脱出を指示。ドラマ最終話の残り15分というところでシリーズで最も緊迫した場面が描かれる。「地球は我々の想像を遥かに超えてくる」とは田所博士の言葉だが、普通に予測が外れている。日本列島は次々と沈み、政府関係者は大きな揺れの前に全く避難できないでいた。
最後まで残った政府関係者が全員犠牲になるまさかの展開……と思いきや、沈没は青森と九州でストップ。沈没の衝撃が強すぎたことで、プレートが切れる断層遮断が起きたいう。これで関東海底からの影響も遮断される。地殻変動は止まり、北海道にも九州にも関東のような不安定なプレートはないという。田所博士は日本沈没は止まったと力強く宣言。天海は、北海道と九州に残った“日本”の姿を見て、涙を流すのだった。
ドラマ『日本沈没―希望のひと―』は、日本が完全に沈まないという結末に。何度も映像化されている「日本沈没」は、作品によってその終わり方が異なるため、今回のドラマ版も日本が沈むかどうかが注目されていた。その結果は意外にも、北海道と九州だけが残るというものだった。
“日本沈没”のその後
天海は日本に残らず、椎名と共に中国に行き、自分が提案したジャパンタウン構想に尽力することに。常盤と東山総理が今後の日本を担うという。東山総理は時の総理大臣というだけで大変な役割を担うことになった。
これまで鰻重や寿司ばかり食べていた田所博士はおにぎりを頬張り、「私はコメを食べたかっただけかもしれない」と呟く。天海が多くの命を救った田所博士への感謝を口にする一方、田所博士は自説を暴論と切り捨てずに向き合った天海に感謝していた。
「恐かった」とその理由を話す天海に、「もっと、もーっと、恐れた方がいい」と言う田所博士。地球があるからこそ生きていられるということを忘れている、カウントダウンは始まっていると視聴者にも気候変動に対する警鐘を鳴らすのだった。
最後に、『日本沈没―希望のひと―』のノベライズ版が告知されている。『サマーウォーズ』(2009) や『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(2008-) のノベライズも手掛けた蒔田陽平が担当しており、上巻は発売中。下巻は2021年12月22日(水)発売となっている。
ドラマ『日本沈没―希望のひと―』最終回 第9話 感想まとめ
『日本沈没―希望のひと―』は、官僚を中心に据えたSFとして描きなおされたことで、『シンゴジラ』のように、リアルな対応策を提示する作りを目指してたように思える。現実を反映した政府の失策やデータ改ざんなども描かれたが、原発や天皇に触れられないのは、テレビドラマの限界だろう。
また、日本が沈む映像としては海外ドラマのようなレベルのCG描写を入れられなかったことも残念な点だ。この点は、世界中の人々の共通体験であるパンデミックの描写でカバーすることにしたのだろう。現実においてもコロナ禍であまり予算が確保できなかったのかもしれない。
また、『日本沈没―希望のひと―』の日本政府は失策を経て、なおも持ち直し、多くの人々の避難を実現している。この点については、本作は“未来予想”のSF作品として、「こうあってほしい」という日本の姿を描写したように思われる。
気になるのは、結果的に画面に映る人物が男性ばかりになっていたことだ。椎名や香織は当初、主体的な女性として描かれていたが、最終的には男性官僚と男性政治家が涙を流し、抱き合う場面ばかりになっていた。これが現実の日本政府の姿といえばそうなのだが、ジェンダーバランスについても“理想”を描いてほしかった。
田所博士から視聴者へのメッセージについてはその通りで、未来は私たち一人一人の手にかかっている。それは、核廃絶や原発廃止についても同じことだ。このドラマをエンタメとして消費するのではなく、自ら発信し、行動し、備えることが求められている。
『日本沈没―希望のひと―』は、全9話で完結させながらも、北海道と九州を残したことで、シーズン2制作の可能性も閉ざさなかった。原作小説は小松左京と谷甲州の共著という扱いで2006年に『第二部』も刊行されている。小栗旬の代表作の一つにもなったであろう『日本沈没―希望のひと―』が、シーズン2も製作されるのかどうかにも注目しよう。
こちらの記事では、原作の続編も踏まえ、シーズン2の展開予想をしている。常盤が総理になるかも?
ドラマ『日本沈没―希望のひと―』はBlu-ray BOXセットの予約を受付中。
TBS系の日曜劇場枠で放送されたドラマ『日本沈没―希望のひと―』は、Netflixでも配信されている。
小松左京『日本沈没』は新装版がハルキ文庫から発売中。
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そこは龍神の加護を受ける島。龍神様から狩人になる信託を受け日々修行に励む14歳のチャコは、大人になるための「洗礼の儀」に失敗して15歳で島を出たゼーシャのことを忘れられずにいた。そんなある日、平和に見えていた島に思いもよらない事態が降りかかる。
『日本沈没―希望のひと―』第8話のネタバレ感想はこちらから。
第1話のネタバレ感想はこちらから。
第2話のネタバレ感想はこちらから。
第3話のネタバレ感想はこちらから。
第4話のネタバレ感想はこちらから。
第5話のネタバレ感想はこちらから。
第6話のネタバレ感想はこちらから。
第7話のネタバレ感想はこちらから。