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ドラマ『日本沈没―希望のひと―』放送開始
小松左京の名作SF小説『日本沈没』(1973) を新たな設定で再ドラマ化する『日本沈没―希望のひと―』が2021年10月10日(日)より、TBS系で放送を開始した。本作はドラマ放送の3時間後にはNetflixでも配信されることが発表されており、2020年に配信された『日本沈没2020』に続き、またも全世界が「日本沈没」を目撃することになる。
47年ぶりのドラマ化となった『日本沈没―希望のひと―』では、小栗旬が主演を務め、『日本沈没』には欠かせない存在である田所博士を香川照之が演じる。ドラマ『官僚たちの夏』(2009) などを手がけてきた橋本裕志が脚本を担当し、『半沢直樹』(2013, 2020) を手掛けた福澤克雄が演出を担当する。
これまで民間人を軸に据えてきた『日本沈没』だが、若手官僚を主人公に据えた『日本沈没―希望のひと―』では、どのような物語が描かれるのだろうか。今回は第1話の感想をネタバレありでお届けする。
以下の内容は、ドラマ『日本沈没―希望のひと―』第1話の内容に関するネタバレを含みます。
ドラマ『日本沈没―希望のひと―』第1話ネタバレあらすじ&感想
関東沈没を主張する田所博士
舞台は2023年10月。環境破壊によって地球温暖化の被害が甚大になり、2030年には深刻な災害が起こると予想されていた。東大教授の世良教授と民政党の東山総理は、新たなエネルギー源であるセルスティックを地底から吸い上げることでCo2排出量を飛躍的に抑えるCOMSを提唱する。
環境省の若手官僚・天海はCOMSの実現に尽力し、日本は環境先進国を目指していた。常盤グループの御曹司である経産省の常盤(松山ケンイチ)が天海を経団連会長との会食に誘う中、COMS反対派のデモ隊が歩道を行進している。そのデモ隊が配るビラに映っていたのは、“関東沈没”を警告する田所博士だった。「こんなことでケチつけられてたまるか」と言い放つ天海の姿は、自身を批判する市民を「こんな人たち」と呼んだ安倍元総理の尊大さを想起させる。
だが、首相のブレーンである世良教授の「優秀だった」という田所博士への評価に惹かれたのだろうか、天海は田所博士に会いに来ていた。「君の常識は地球の活動とは何の関係もない」といきなり名言を放つ田所博士だが、香川照之は『半沢直樹』の大和田常務とはまた違った演技で、相当な変わり者としての田所博士を演じている。
田所博士が「日之島が沈没し、それが関東沈没の前兆になる」と予言する中、サンデー毎朝の椎名記者はDプランズ社と博士の癒着を嗅ぎつけて取材に来ていた。環境ビジネス詐欺疑惑について知った天海は、第1話ではこれを切り札にして立ち回る。
原作小説では、政府が支援しない研究者を海外の組織が支援する様子が描かれている。『日本沈没―希望のひと―』第1話では詳細には語られなかったが、周囲に合わせられない田所教授は、怪しい民間の組織からしか支援を受けられない状況に置かれている。昨今の“日本にゆかりがある”海外のアカデミー賞受賞者の姿を見れば、小松左京が描いた時代から、2020年代の日本が今も同じ状況にあることがよく分かる。
天海の騙し討ち
一方、若手官僚を集めた日本未来推進会議では、日本を環境先進国にするために、カーボンニュートラルに向けた議論が進められている。天海と常盤が出席するこの会議は、今後も『日本沈没―希望のひと―』の主戦場になっていきそうだ。
そこでは相変わらず省庁同士の利害がぶつかり合う。女性官僚の姿もあるが、2023年になってもこうした会議のジェンダーバランスは50:50になっていない。日本がそこまで迅速にはジェンダーギャップ解消を進められないということだろうか。
天海は、COMSを目玉政策として推進する東山政権へのダメージになりうる関東沈没説を封じ込めるために、田所博士を招聘しての公聴会を開く。田所博士の主張は、岩盤にストローを突き刺すCOMSが岩盤プレートの沈下を促進するというものだった。
だが、天海は椎名から手に入れた田所博士のステマ広告疑惑を暴露し、田所博士の信頼を失墜させる。「私を騙したな!」と怒鳴る田所教授の姿は、『半沢直樹』の大和田常務の姿を想起させる。
だがその時、強い規模の地震が発生する。『日本沈没―希望のひと―』第1話放送日の3日前には千葉県北西部を震源としたM5.9の地震が起きたばかり。本作は、放送期間中に大地震が起きれば内容に考慮して放送が止まることも考えられる。製作陣にはそうしたリスクも考慮した上で、今、伝えるべき物語を届けるという気概を感じる。
この場面で、『日本沈没―希望のひと―』のタイトルが登場。「希望のひと」とは田所博士のことなのだろうか。それとも……。
現実と重なる物語
別居中の妻・香織と娘・茜と連絡をとる天海。仕事にかまけて家庭を見ることができていない主人公が描かれるが、妻は『半沢直樹』のように寄り添ってはいない。『半沢直樹』ではあからさまな“内助の功”を肯定的に描いたことで批判を浴びたが、ドラマ製作の側も少しずつ変わりつつあるのかもしれない。
一方、里城副総理は「経済が回らなくなる」と環境最優先の政策に異議を唱えていた。財務大臣でもある里城副総理は選挙重視の考え方で、日本民政党の重鎮として首相よりも実力がある。この世界でも派閥政治をやっているようだが、『日本沈没―希望のひと―』第1話の2日前に自民党の副総裁に就任した麻生太郎そっくりなものの言い方である。現実の問題よりも政局が優先される永田町の様子がありありと描かれている。
天海と常盤は、政府にも影響を与える生島自動車の生島会長と会食していた。生島会長が喋っている最中に食事に手をつけているところを見ると、常盤は相当な御曹司のようだ。里城副総理にアプローチしようとする天海の姿を見て、生島会長は天海の強さは危うさと隣り合わせだと危惧するのだった。そんな中、田所博士はネットテレビに出演。ABEMA TVだろうか。関東沈没説を主張し、世間の関心を高めていた。
天海は故郷に住む母・佳恵からの電話を受ける。男性主人公を後方から励ます典型的な“母”の登場だ。今後、『日本沈没―希望のひと―』で女性登場人物の主体的な立ち回りは見られるのだろうか。この電話の直後、天海は海底に巨大な亀裂を発見。海流に飲み込まれた経験が、その後の天海の関東沈没説に対する考えに影響を与え始める。
わだつみ登場
天海は、環境省がDプランズに発注した情報をサンデー毎朝の椎名記者に提供する。連絡が遅い、官僚側の情報は黒塗りにしてあるなど、公務員あるあるを出しつつ、天海は椎名に環境省の汚職スクープをリークする。天海が女性記者にはタメ口で話し、典型的なマンスプレイニングをやっている点は非常に気になった。
天海は環境省を巻き込んで田所博士とDプランズの癒着を暴露し、田所博士を貶めようと画策したかに思われたが、天海の目的は別にあった。スクープによって注目を浴びたことで関東沈没説は盛り上がりを見せ、世間の政権批判が強まっていく。
政権の支持率低下を招く事態に陥るが、天海はこれを機に田所博士同行のもと海底調査を実施する予定を取り付ける。これで原作小説版の冒頭で描かれる共同調査の筋道が出来あがる。天海の狙いは関東沈没説が真実かどうかを明らかにすることだった。
ついに一同は深海調査艇“わだつみ”に乗り込む。原作小説『日本沈没』にもNetflixアニメ『日本沈没 2021』にも登場した潜水艇だ。田所博士と世良教授の直接対決が始まり、緊迫したシーンが続く。
天海が巻き込まれた亀裂の熱水を想起させるように、温水生物の姿が見つかる。田所博士は関東沈没説の根拠であるスロースリップの痕跡を見つけたと主張するが、ここで国交相の安藤が体調不良を起こし、調査は中止となる。
「多くの人命がかかっている」と主張する田所博士を制した天海の目に飛び込んできたのは、モニターに映る薄暗い海底の姿を凝視する世良教授の姿だった。
官僚のキャリアと未来
天海は、娘の茜と時間を過ごしている時に地震が起き、東京の巨大なビル群が沈んでいく夢を見る。外は温暖化の進行によって記録的な残暑となっており、原作小説の蒸し暑い空気感が漂っている。
世良教授はスロースリップの調査結果、海保のデータにスロースリップは見られず、海底プレートの断層の痕跡は映像にも写っていなかったと天海に伝える。関東沈没説には何の根拠もないことを主張し、「観測史上、大きな陸地が沈んだことはない」という前例主義を掲げる。しまいには「田所説を信じているかのような発言は将来のためにならない」と天海に圧力をかける始末だ。
これは純粋な疑問だが、官邸に近い学者が官僚に圧力をかける描写には、どれほどリアリティがあるのだろうか。
そして、『日本沈没―希望のひと―』第1話はクライマックスに突入。関東沈没に関する調査会議が開催される。天海は亡き父のことを思い出していたが、父は何かの事故に巻き込まれたのだろうか。
この会議の結果が、政府の見解として発表されることが確認され、世良教授は関東沈没説の根拠となるデータは見つからなかった主張する。わだつみ号が収録した映像が上映されるが、海底には断層は映っていない。
田所博士の見間違いだという結論が下されそうになる中、「ここは真実をねじ曲げる場なのか?」「真実にたどり着くことを避けているのは君たちだ」と主張する田所博士に対し、物凄い同調圧力で会議を終わらせようとする官僚たち。
ここで天海は、結論ありきで進む会議への違和感を表明する。「田所博士は納得していない」と声を上げるのだった。問題をなかったことにしても、問題自体はなくならない。世良教授が天海を恫喝するが、天海は官僚としてのキャリアよりも日本の未来を優先するとを主張する。『官僚たちの夏』を想起させる展開だ。
そしてここで速報が入る。田所博士が予言した通り、日之島が水没し始めたのだ。島が沈んでいるのに、予言が当たったことで笑顔になっている田所博士の反応は気になるが、それは日之島が無人島で人命に影響がないからだろう。
政府見解を発表する会見は中止。天海は世良教授に田所博士の予言と、これが関東沈没の前兆になるということを伝え、第1話は幕を閉じる。
そして、「次回予告」ではなく、「今後の展開」として海外へ退避する市民の様子が映し出される。頭を下げる政治家たち。沈みゆく日本。かなり先の方まで映し出しているが、これは『日本沈没』というクラシックコンテンツならではの手法だろう。「スパイダーマン」で“ベンおじさんの死”が前提のストーリーになっているように、誰もが“日本が沈没する物語”と知っている本作ならではの予告である。
ドラマ『日本沈没―希望のひと―』第1話 感想まとめ
これまで制作人が手掛けてきた『半沢直樹』や『官僚たちの夏』といった同系統のドラマに対して、『日本沈没―希望のひと―』の特徴は自然現象が登場人物の正しさを証明していくという展開だ。人の都合で真実をねじ曲げようとしても、自然は圧倒的な力でそれを阻止する。
それは度重なる大災害の中で日本が学んできたことであり、原作者・小松左京が壮大な物語を描き出せるSFというジャンルを通して描いてきたことでもあった。ドラマ『日本沈没―希望のひと―』でも、同様の教訓がベースにあるように思われる。
一方で、主人公・天海啓示の心情描写は最低限に抑えられており、行動の目的をギリギリまで伏せる演出になっている。小説『日本沈没』は群像劇でもあったが、『日本沈没―希望のひと―』でも個々のキャラクターを主体的に活かすような展開が見られるのだろうか。
第2話以降も目が離せない。
ドラマ『日本沈没―希望のひと―』は、TBS系の日曜劇場枠で2021年10月10日(日)より毎週日曜日21時から放送(初回は25分拡大)。
小松左京『日本沈没』は新装版がハルキ文庫から発売中。
『日本沈没―希望のひと―』第2話のネタバレ感想はこちらから。
『日本沈没―希望のひと―』の出演者はこちらの記事で。
10月20日(水) には小松左京が製作・原作・脚本・総監督を務めた映画『さよならジュピター』(1984) が初めてBlu-rayで発売される。