快進撃続く『ザ・ボーイズ』
Amazonの人気ドラマ『ザ・ボーイズ』は、スピンオフドラマの『ジェン・ブイ』(2023-) が配信され、更なるスピンオフドラマの『ザ・ボーイズ:メキシコ(原題)』の制作も明らかになる中、シーズン4へと突入していく。今最も勢いのあるドラマフランチャイズと言っても過言ではないだろう。
ドラマ『ザ・ボーイズ』では、腐敗したスーパーヒーローへの復讐を誓う非能力者のビリー・ブッチャーを中心とした物語が描かれる。現代アメリカの問題点を扱いながら、力を持つことや正義と復讐といった普遍的なテーマも扱われている。
『ザ・ボーイズ』のショーランナーを務め、同シリーズを人気フランチャイズに育て上げたエリック・クリプキは、『ザ・ボーイズ』シーズン4の配信を前に『ジェン・ブイ』の内容を元に本作に通底するテーゼについて明かしている。
以下の内容は、ドラマ『ジェン・ブイ』シーズン1の結末に関するネタバレを含みます。
『ザ・ボーイズ』と『ジェン・ブイ』のヴィラン観
『ジェン・ブイ』では製作総指揮を務めているエリック・クリプキ。米Men’sHealthのインタビューでエリック・クリプキは『ジェン・ブイ』のヴィランであったインディラ・シェティを例に挙げて、『ザ・ボーイズ』と『ジェン・ブイ』の違いについて語っている。
両作が持つ広い視点について私が気に入っている点は、両作が誰がヒーローで誰がヴィランかということについて、全く正反対の視点を持っているということです。私にとっては、それが非常に魅力的ですね。
ブッチャーとシェティは良い友達になるでしょうね。喪失感で絆を深め、性行為をして、ウイルスの質を向上させようとするでしょう。そして、彼女が『ジェン・ブイ』でやった全ての非道な行いがなければ、あるいはそれを観なければ、彼女は『ザ・ボーイズ』に登場し、あなたは彼女のことを気に入ったことでしょう!(笑)
彼女はヒーローの一人にもなれました。しかし、このドラマ(『ジェン・ブイ』)では彼女は信じられないようなヴィランです。なぜならあなたは学生達の方に共感しているからです。つまり、本当のヒーローも本当のヴィランも存在しないということです。みんなそれぞれ異なる視点を持った滅茶苦茶な人間で、みんなベストを尽くしているんです。そして、それが本当の世界の姿です。
『ジェン・ブイ』に登場したインディラ・シェティ学部長は、ホームランダーが見捨てた飛行機事故で家族を失い、スーパーヒーローたちへの復讐を誓っていた。『ザ・ボーイズ』であればブッチャー側の人間だが、『ジェン・ブイ』では視聴者が主人公であるマリー・モローら学生=能力者側に肩入れするストーリーになっていたためヴィランとして扱われた。そのような矛盾が生まれる理由は、立場の違いでしかないとエリック・クリプキは言うのだ。
それぞれのキャラクターが無茶苦茶な人間であり、それぞれがベストを尽くしている……エリック・クリプキが言うように、それは私たちが生きる世界そのものの。けれど、エリック・クリプキはニヒリズムでそれを「しょうがないもの」と捉えているというより、リアリズムに則った「それでも」という物語を描こうとしているように思える。
もう一つ興味深い点は、エリック・クリプキは『ジェン・ブイ』を「観なければ」、インディラ・シェティに好感を持てると指摘していることだ。中にはスピンオフである『ジェン・ブイ』を観ずに『ザ・ボーイズ』シーズン4を観る人もいることだろう。だが、両方観ている人は、『ジェン・ブイ』を踏まえた時と、なかったことにした時の『ザ・ボーイズ』シーズン4の受け取り方について、制作陣が作り出した振り幅を楽しむことができるはず。
『ジェン・ブイ』シーズン1のラストではブッチャーがウイルスにたどり着いた。『ジェン・ブイ』では“脅威”であったウイルスが『ザ・ボーイズ』シーズン4ではどのような役割を果たすのか、配信開始を楽しみに待とう。
『ザ・ボーイズ』シーズン1からシーズン3までと、『ジェン・ブイ』シーズン1はAmazonプライムで世界独占配信中。
Source
Men’sHealth
『ザ・ボーイズ』原作コミックの日本語版は、G-NOVELSから発売中。
『ジェン・ブイ』のベースになったチャプター〈We Gotta Go Now〉(23話〜30話)は日本語版の第2巻に収録されている。
『ジェン・ブイ』シーズン1ラストの意味についてエリック・クリプキが語った内容はこちらから。
『ジェン・ブイ』シーズン2についての情報はこちらから。
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