ネタバレ感想 ドラマ『日本沈没―希望のひと―』第3話 経済か、人命か。その答えは… あらすじ・解説 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ感想 ドラマ『日本沈没―希望のひと―』第3話 経済か、人命か。その答えは… あらすじ・解説

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ドラマ『日本沈没―希望のひと―』第3話はどうなった?

日本を代表するSF作家の一人である小松左京が1973年に発表した代表作『日本沈没』を再ドラマ化したTBS『日本沈没―希望のひと―』は、2021年10月10日(日) より「日曜劇場」の枠で放送を開始。Netflixでも世界に向けて配信されている。

『日本沈没―希望のひと―』では、小栗旬を主演に据え、若手官僚の視点から新たな「日本沈没」を描いている。また、同じ「日曜劇場」で放送された「半沢直樹」シリーズの大和田役でお馴染みの香川照之が、重要人物である田所博士を演じる。

第2話では、首相のブレーンであった世良教授によるデータの改竄が明らかになり、自体は大きく動き出した。いよいよ政府として関東沈没の可能性に向き合う必要に迫られるが、その前には大きな壁が立ち塞がる。予告で「経済か、人命か」と問いかけられた第3話では、どのようなストーリーが描かれたのだろうか。今回もネタバレありで感想を記していく。

ネタバレ注意
以下の内容は、ドラマ『日本沈没―希望のひと―』第3話の内容に関するネタバレを含みます。

ドラマ『日本沈没―希望のひと―』第3話ネタバレあらすじ&感想

明日沈む可能性

官邸で東山総理、里城副総理に状況をする田所博士は、関東一帯が沈む確率は50%と予想していた。これが第2話のラストで田所博士が天海に「君には先に伝えたい」と話したことだろう。世良教授が予測していた10%の5倍もの数字になる。

天海は、未来推進会議が概要をまとめると提案するが、里城副総理は札幌への首都機能分散を進めるための口実だと吐き捨てる。「詐欺学者の口車に乗るつもりはない」「茶番」と切り捨てる里城に対し、田所博士は「これは現実です」と言い切り、するべきことは「住民を避難させて命を守ること」と断言する。第3話の天海は、この言葉に突き動かされていくことになる。

官邸からの帰り道、田所博士は、地球物理学の世界的権威であるピーター・ジェンキンス教授であれば田所説を理解できると天海に伝える。「私の次に優秀な研究者」だというが、どうもそりが合わないらしい。一方、田所博士らが官邸で会合を持ったことや、関東沈没説を否定していた世良教授が東京大学を退任したことで、週間毎朝の椎名記者は何かが動いていることを嗅ぎつけていた。

天海は早速ジェンキンス教授とビデオ通話をするが、教授は、田所は私の次に優秀だが貸した金も返さない、車を乗り回してぶつけて謝罪もないと印象は散々。どうやら田所博士は米国で暮らしていたこともあるようだ。ジェンキンス教授は、この場では田所説を検討する協力を固辞する。

そんな状況も意に介さない田所博士は、「一年以内というのは、明日沈む可能性もあるということ」と、天海に助言。この言葉も第3話の天海の行動原理に付き添っていくものとなる。第1話からだが、天海は田所博士の言葉に突き動かされているように見える。

一方の常盤は、大企業の常盤グループの社長である父と会っていた。しかし、そこにいたのは里城副総理だった。常盤の父は副総理と何かを約束したらしく、平身低頭に例を述べて去っていく。不穏な空気が漂う中、常盤は正直に天海の理想と情熱に触発されたと里城に伝える。

官僚の常盤からすれば、財務大臣の里城は省庁が違うといえどボスであることに変わりはない。その里城が、自分は常盤に後継者として期待していると告げる。そして、必要なのは経済を回せる人間であり、(人ではなく)経済の死が国の死だと言い切るのだった。

これは天海に肩入れしている常盤を懐柔するための言葉だ。それでも、財務大臣であり、副総理までのし上がった政治家の支持基盤を引き継げるとすれば、常盤にとっては一気に総理大臣への道まで見えてくる。常盤は第2話でも天海のキャリアを気にしており、揺さぶりをかけるには十分な言葉である。

誰のために動くのか

国交相の正岡が新たに未来推進会議に加わる中、田所博士は内閣府が雇用主に。研究所も内閣府がDプランズから借り上げ、機材も最新のものにアップデートされていた。政府の支援を受けたことで、田所博士の研究は更に前進することになる。この辺りもシンプルな描写ではあるが、政府が研究者を支援することの重要性を主張する良い演出である。

常盤は、経済発展を望む里城のに逆行する考えを持つ天海に、里城と関係を修復するよう助言する。里城副総理が頷かなければ物事は動かない、と。だが、天海は政権のためではなく人々のために働いていると、この助言をつっぱねるのだった。

常盤が言おうとした「だが経済が死んだら」という里城の請け売りを遮るようにして、天海は人命の大切さを説く。天海は高校生の時に父・衛を亡くしていた。「役人になって弱いものを助けてくれ」という父の言葉を思い出す天海。天海には譲れない理由があるのだ。

この辺りの描写は、経産省官僚と環境省官僚の二人というよりも、経営者の子どもである常盤と漁師の子どもである天海の対比が描かれている。常盤は政治そのものを語っているが、天海は政治を使って何ができるかを考えているのだ。

天海が帰宅すると、そこには茜と香織の姿が。香織は離婚届を渡しに来ていた。第2話の感想で指摘した通り、やはり香織は翻訳の仕事をしているらしい。仕事を再開して知り合った野田という人物と再婚するという。関東沈没のことが頭をよぎったのだろうか、天海は福岡への引っ越しをあっさりと勧め、離婚届に筆を入れる。情報を漏らしてはいないが、関東が沈むと知っていれば、一つ一つの言動に違いが生まれてくる。

「忖度」

一人になった天海のもとに、ジェンキンス教授からの着信が。「事態はとても深刻」と述べるジェンキンス教授の分析結果を、天海は未来推進会議で発表する。ジェンキンス教授も田所説を支持するというのだ。人間関係を超えた、科学的な見地からの言葉である。お互いを嫌っていても関係はなく、事実は事実。これが、ジェンキンス教授と世良教授の差である。

そして未来推進会議では、危機に備えて具体的な検討を行うことに。首都機能の札幌への分散を提言する天海だったが、他の官僚たちは「1年以内」を「1年後」と解釈したが理、「まだ自衛隊は動かせない」「大袈裟に考えないほうが」と、次々に“やらないための言い訳”を並べ立てる。

天海は、日本が幾度となく対策や対応を後手に回して失敗した例を見てきたと説得するが、一方の常盤は段階的に情報を出していくことを提案する。それでは憶測が広がると批判する天海の言葉を、“情報を隠し通す”という方向で解釈するあたり、日本っぽい。

だがそうではない。憶測や情報格差を避けるために、一気に情報を公表するというのが天海の提案だった。株価の暴落、経済への影響を懸念する常盤に対し、天海は「誰かに忖度してるわけじゃないよな?」と、里城副総理を念頭において常盤を揺さぶるのだった。

官僚による政治家への忖度……かなり攻めたセリフである。忖度は、汚職事件である森友学園問題や加計学園問題をめぐり、当時の安倍総理の関与を否定するために使われた言葉であり、2017年の新語・流行語大賞で年間大賞にも選ばれた。直接の指示はなく官僚が忖度しただけだと答えれば、政治家は汚職の追及を免れるようになってしまった。第3話の常盤も、里城から政治家としてのキャリアをちらつかされ、“自分の意思”で天海に対抗したに過ぎない。そうした背景を踏まえて、天海は「忖度」という言葉を使ったのだろう。

ジェンキンス教授の支持により、信憑性が増した関東沈没説。しかしこの情報は、未来推進会議・総理・副総理しか知らない国家機密に指定される。

動き出す経済界

常盤と意見がぶつかり、一人で飲んでいた天海の前に現れた椎名記者は、臨海都市計画と築地再開発計画が同時に延期されるという情報を共有する。常盤グループを含む旧財閥系の不動産会社が開発から手を引いているらしい。誰かが関東沈没説を経済界に漏らしている

天海からそれを聞いた常盤は、父に臨海都市計画を見送るよう指示したことを問い詰める。常盤の父がそれを否定する一方で、東山総理は、里城副総理が重大な国家機密を経済界に流したことを非難していた。不動産グループが首都圏の不動産を売って、地方中核都市の不動産を買いに動いているというのだ。

箝口令を敷いていると開き直り、できるものなら首を切れと迫る東山に迫る里城。相当な力があるようだ。『半沢直樹』的な流れで、世良教授の次の敵は里城副総理になることは間違いなさそうだが、相当な大物である。

なお、この場面で里城副総理の部屋には「天長地久」という字が飾られていることが分かる。「天地が永久に変わらないように、これからもずっと続いてく」という意味の言葉であり、保守的な里城の思想と、今まさに大地が沈没しようとしている状況との対比が示されている。

目の前の誰かのために

常盤はラフに資料をやり取りしていたいつもの居酒屋ではなく、高級クラブの個室に天海を呼び出していた。里城副総理が財界の要人に国家機密を流し、財界は東京を売りに出したという。そして、天海は海保のデータを分析した田所博士新たな見解を伝える。それは、スロースリップが急激に増え、遅くとも半年以内に関東は沈没する、確率は70%に上昇したという内容だった。

そこに盗聴器を仕掛けていた椎名記者は、衝撃の事実を知る。里城副総理の国家機密漏洩と田所説の両方を知ったことになる。椎名記者は実家暮らしだが、それほど裕福ではなさそうだ。母の和子に長崎に引っ越すよう勧める椎名。そして、茜の映像を見る天海。

命を守ること——田所博士の言葉がフラッシュバックする。それぞれにそれぞれの大切な人がいる。“経済”という曖昧で大きな言葉よりも圧倒的に説得力を持つのは、目の前の大切な人だ。

動かない政治

未来推進会議では、天海が「70%で半年以内」の田所説をジェンキンス教授も支持したと発表していた。補正予算を組み、交通網の整備を進めるなど、対策を固めるには時間がかかると主張する官僚たち。だが、そうこうしている間に情報が漏れ、情報公開に優先順位がついていると人々が知れば政治不信を生むと、天海は正論を主張する。

それでもぐずる官僚たちに、天海は遂に里城が財界の要人に情報を漏らしていることを暴露する。情報は統制できないと身をもって示したのだ。それでも、段階的な情報開示を要求する常盤。混乱しようと避難さえできれば人命は守られると主張する天海。

天海は、混乱が生まれる前に香織や茜に情報を伝え、大切な人を先に逃すこともできるはずだ。それをしないのは、官僚が命に順位をつけるべきではないという考えからだろうか。しかし、会議で一斉情報開示に賛成するものはいなかった。天海は、人々の命を左右する情報だと食い下がるが、一人の力は無力だ。

一方の椎名は盗聴で得た情報を出す前に、天海に原稿の確認を求める。盗聴はしたが、ことの重大性を鑑みたのか、良心のある記者だと言える。記者としてスクープをおさえたというよりも、多くの人の命に関わる重大な情報をつかんだのだ。

天海は、どう伝えるかで全てが変わると、総理の口から世間に発表することが望ましいと話すが、一方で「発表の予定はない」という、悲しい現実を口にする。天海が会議でそうしたのと同じように、椎名記者もまた命に関わることだと主張し、何も動かないんですかと天海に問い詰める。

「政治が動かないならば私が書く」とまで言われた天海は、会議を飛び越えて総理へ直接情報の発表を進言する。だが、情報は金だ。里城副総理はこれを否定し、週刊誌をつぶすという発想でいる。発表があっても情報を否定すればいいという。命に関わる問題で、政治家が市民に嘘をつくというのだ。

総理は二ヶ月で情報を開示するというが、その二ヶ月で沈没が起きたらどうするのか。災害に兆候はない。この中でまともなのは天海だけだ。総理は最後まで中途半端な決断しかできなかった。

この東山総理の動き方は、政権のためではなく人々のために働いているという天海との対比になっている。この国の総理は身内の利害を調整し、党内の派閥の間をとる判断しかできない。惨たらしい現実の政治力学をまざまざと見せつけられている。

ダークヒーロー誕生

常人ならやる気をなくしてしまいそうな現実を前に、天海は「弱いものを守ってくれ」という父の言葉をまた思い出していた。一方の椎名記者は、「誤報だったら廃刊に追い込まれかねない」と編集長の鍋島から記事を却下される。組版までして却下されるのはなかなかしんどいぞ。そんんことは編集長もわかっているはず。編集長は政府から圧力を受けていたのだ。

命の危険を知らせる記事も封じ込められ、真実が握り潰されていく。椎名は天海に、編集長が政府の報復を恐れて記事が出ないことを告げる。情報を出せないまま沈没を迎えたら、悔やんでも悔やみきれないという椎名に、天海は共闘を持ちかける。週刊誌ではなく毎朝新聞に情報をリークしたのだ。

朝刊に田所博士の新説が出ると、Twitterでも情報が拡散され、テレビでも詳しく報じられることに。詳しい情報源がない限り出せない記事だとして、未来推進会議では「国家機密を漏らしたものはいないよな」と確認されるが、もちろん名乗り出る者はいない。人々の命を守るためなら国家機密もリークする、ダークヒーローの誕生だ。

最後に、次週の『日本沈没―希望のひと―』は選挙でおやすみとアナウンスが入り、同時に投票を呼びかけてもいる。このドラマを見れば、投票権がある人は確実に投票するべきだと思うだろう。第4話で待ち受ける「国民を襲う大混乱と家族との別れ」が予告され、第3話は幕を閉じている。

ドラマ『日本沈没―希望のひと―』第3話 感想まとめ

『日本沈没―希望のひと―』第3話は、1時間弱のスピード感が非常に心地よい回だった。刻一刻と沈没の時が迫る中、にえきらない政府の態度と迅速に根回しが進む経済界の対比も優れていた。明日にも沈没が起きるかも知れないと視聴者に繰り返し印象付ける演出も効果的だった。

物語のメッセージとしては、明確に「経済よりも人命」の態度を打ち出したことは高く評価するべきだろう。危機が目の前に迫る中で、保守的な人々に“忖度”して中途半端に「どちらも大事」と説くのではリアリティがない。第3話は、東山総理のような“にえきらない態度”を避けた勇気ある脚本だった。

一方で気になるのが、第3話になっても“関東沈没”の話が進んでおり、“日本沈没”の話にはなっていないという点だ。ジェンキンス教授でさえ“日本沈没”を予期できてない。2006年の映画『日本沈没』では、アメリカのコックス博士が日本沈没の可能性を40年以内と見積もり、田所博士が一年未満と修正する展開が描かれた。

『日本沈没―希望のひと―』第3話では、ジェンキンス教授と田所博士の予想は一致しており、日本全体が沈没するという予想はまだ出ていない。考えられるのは、日本政府の失政が関東沈没を日本沈没に拡大するという可能性だ。また、関東沈没に起因する予期せぬ自然現象で被害が拡大することも考えられる。もしくは、続編(シーズン2)を想定するならば、本作で描かれるのは関東沈没までなのかも知れない。

いずれにせよ、回を重ねるごとに目が離せなくなる『日本沈没―希望のひと―』。選挙を最良の結果で終えて、二週間後の第4話に臨もう。

ドラマ『日本沈没―希望のひと―』は、TBS系の日曜劇場枠で2021年10月10日(日)より毎週日曜日21時から放送中(10月31日は選挙でおやすみ)。Netflixでも配信されている。

『日本沈没―希望のひと―』公式サイト

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『日本沈没―希望のひと―』第4話のネタバレ感想はこちらから。

第1話のネタバレ感想はこちらから。

第2話のネタバレ感想はこちらから。

『日本沈没―希望のひと―』の出演者まとめはこちらの記事で。

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齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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